yoAi_mochii
3757文字
Public R18
 

悪天狛日總之來一發試試

沒時間再看一遍了請見諒

「あはは、裏だ。やっぱりボクの勝ちだね。本当に申し訳ないよ。こんなゴミクズの幸運に付き合わせてしまって」

 差し出されたコインの表面には、嘲笑うような悪魔の紋章が刻まれていた。
 日向は息を詰まらせ、己の迂闊さを呪った。
 二分の一の確率を、これで連続して外し続けている。仕組まれたイカサマを疑う余地すら、目の前の悪魔は与えてくれなかった。

「さあ、約束通り――日向クンの綺麗な指先を、ボクにちょうだい?」

 狛枝は跪いたまま、這い寄るようにして日向の手首を掴んだ。拒絶しようにも、これまでの敗北で「光」を削られ続けた日向の身体は重く、空を掴むように虚しく指を曲げることしかできないまま、狛枝のほうへと引き寄せられてしまう。
 細く冷たい指先が、日向の人差し指に触れた。
 息が触れるほどの至近距離。狛枝は愛おしげに目を細めると、その指先へそっと唇を寄せた。
 聖なるものに祈りを捧げる信徒のような、敬虔ですらあるキス――

 (……これだけで、終わるはずがない)

 日向が本能的な恐怖から身を硬くした、その瞬間だった。

――あ」

 鋭い痛みが、指先から脳へと突き抜けた。
 キスをしていたはずの狛枝の口元が、ゆっくりと笑みの形に歪む。次の瞬間、覗いた犬歯が、容赦なく日向の皮膚へと突き立てられた。
 信じられないほどの力で固定された手首は、びくともしない。傷口から溢れ出した鮮血が、狛枝の唇を濡らし、その喉の奥へと吸い込まれていく。

 日向は勿論、警戒していた。
 狛枝がただ恭しく指先へ口づけるだけで終わるはずがないと、本能の奥底では理解していた。皮膚に触れられる直前、対処用の魔法も発動するよう仕込んでいたはずだった。
 悪魔の牙が天使の身体に触れた瞬間、その術式は狛枝の動きを縛り、強制的に引き剥がすはずだった。
 それなのに、何も起きなかった。
 術式は不発に終わったのではない。発動する寸前、まるで世界のルールが狛枝に都合よく身を引いたかのように、条件だけがわずかにずらされていた。

「な、んで……っ」

 鋭い痛みに息を詰まらせながら、日向は愕然と目を見開く。
 対策はしていた。警戒もしていた。偶然に頼った隙など、与えていなかったはずだ。
 ――これも、この悪魔の能力なのか。

 手首はびくともせず、傷口から溢れ出た鮮血が、狛枝の唇を濡らし、その喉の奥へと容赦なく吸い込まれていく。

「ん、ふ……あぁ、極上だ……。天使の血って、どうしてこんなに甘いんだろうね……っ」

 血に濡れた唇を歪め、狛枝が恍惚とした声を漏らす。その瞬間、日向の脳内に、正体不明の「熱」が流れ込んできた。
 心臓が早鐘を打ち、視界が白く明滅する。天界のいかなる法にも存在しない、どす黒い他者の意志が、脊髄を伝い、神経の隅々まで侵食していく。
 抗おうとする意識の奥で、何かが、かちりと噛み合う音がした。
 それは、完了の合図だった。

 (身体が……動か、ない……?)

 逃げようと、足に力を込めた。だが、床を蹴るはずだった脚は動かない。狛枝を引き剥がそうとした右手もまた、日向の意思を裏切るように、だらりと力なく垂れ下がった。

 呼吸だけが荒くなる。
 意識はある。恐怖もある。拒絶も、屈辱も、確かに胸の内で叫んでいる。それなのに、身体だけが、もう日向創のものではなかった。

「ねえ、日向クン。そこに立って、僕を見下ろしてみてよ」
 狛枝が血に濡れた唇のまま、甘く囁く。

 抗おうと喉の奥で悲鳴を上げようとした。日向の足は、まるで最初からそうする予定だったかのように、一歩、前へ出る。そして狛枝の正面に立ち、跪いたままの彼を見下ろす形で、ぴたりと動きを止めた。
 意識は、恐ろしいほどはっきりしていた。
 自分が天使であることも、目の前の悪魔に騙されたことも、そして今この瞬間、肉体の主導権を完全に奪われていることも――日向の理性は、嫌になるほど明確に理解していた。
 自分の身体でありながら、自分のものではない。その絶対的な絶望に、日向の心が恐怖で凍りついた。

「素晴らしいよ。キミの魂は、まだそんなにも気高く輝いているのに、身体はボクの言葉ひとつで形を変える人形だ。……ねえ、どんな気分?」

 狛枝がゆっくりと立ち上がり、日向の頬を撫でた。日向の意思とは無関係に、その愛撫を受け入れるように、彼の首がわずかに傾く。

「っ……、やめ、ろ……!」
「あはは、口だけはまだ反抗するんだね」
 狛枝は楽しげに目を細めると、日向の胸元へそっと手を当てた。
「でも、心臓はこんなにトクトクと可愛い音を立てている。ボクの魔力を歓迎しているみたいじゃないか」

 悪魔は嘲笑しながら天使の衣服の裾へと指先を伸ばす。
 日向が身に纏っているのは、天界の戦士としての機能美を備えた、身体に沿うよう仕立てられたクロップドベストだった。引き締まった胸元を覆いながらも、身じろぎのたびに、衣装の下でしなやかに締まった身体の稜線が、悪魔の放つ暗がりの中へ無防備に浮かび上がる。
 日向の身体が描く、強靭でありながらしなやかな、芸術品めいた輪郭を、自分の言葉ひとつで支配し、その気高さごと手の内に収めようと言わんばっかりの手付き。

「っ、な、にを……見て……!」

  肉体に流し込まれた熱に浮かされながらも、日向は必死に声を絞り出した。衣服の隙間、普段なら誰の目にも触れることのない、天使としての無防備な肌が、狛枝の貪欲な視線にじりじりと晒されていく。

「何って……見れば見るほど、溜息が出るよ。ねえ、知ってる? 世界中の誰も、君のこんなに扇情的な姿を知らないんだ」

 狛枝の瞳に、歪んだ底なしの高揚が灯る。ぞくぞくとするような優越感が、悪魔の髄まで甘く染み渡っていく。
 真面目で、不器用で、いつも真っ直ぐに前だけを見据えている天使――日向創。
 その戦士服の下に隠されていた、これほどまでに生々しく、けれど芸術品めいて整った肉体の輪郭。戦うために鍛え上げられた強靭さ。清廉な顔立ちからは想像もつかない、血と熱を宿したしなやかな身体の起伏。
 そのすべてを、こうして目で暴き、言葉で縛り、指先でなぞる権利を持っているのは――
 こんなゴミクズみたいな幸運を持った、世界でたった一人の悪魔だけ。

 クロップドベストが容赦なく押し上げられ、剥ぎ取られるように、その下に隠されていたしなやかな上半身が、空気の中へ晒された。
 半裸となった日向の白い肌は、屈辱と恐怖、そして内側からせり上がる未知の熱に、かすかに震え、次に来るであろう上半身への愛撫を本能的に身構えていた。

 しかし、悪魔の這わせる手は、日向の予想をあまりにも無残に裏切る。狛枝の手は、躊躇いなくズボンの内側へとすり抜け、衣服の奥に秘められた最も熱い中心へと、一気に滑り込んだ。

「っ、あ……――!?」

 あまりにも唐突で、生々しい直接の接触。
 電流が走ったような衝撃に、日向の腰は一瞬で砕けそうになる。今すぐその場にへたり込んで逃げ出したいのに、脳を支配する洗脳の呪縛がそれを許さない。
 膝はガクガクと無様に震えているにもかかわらず、肉体は悪魔の命令に縛られ、足の裏だけは床を拒絶できずに、ギリギリのところで直立を維持させられている。
 逃げることも崩れることも許されず、ただその刺激を受け止めるためだけに固定された姿勢。
 無防備に突っ張った身体を愉しむように、狛枝の片手は、激しい呼吸で激しく上下する日向の腹筋の溝を丁寧になぞり、その硬質なしなやかさを堪能するように這い回る。そしてもう片方の手は、掌に閉じ込めた日向の熱へと、直接、容赦なく力を込めて刺激を与えた。

「あ……っ、は、やめ…………!」

 衣服越しではない、肌と肌が直接触れ合う生々しい愛撫。狛枝の冷たい指先が日向の熱に触れ、容赦なくそこへ力を入れた瞬間、脳裏を貫いたのは、天界のいかなる精神的悦楽とも異なる、悍ましくも圧倒的な衝撃。
 今、全身の神経を焼き尽くさんばかりに暴れているのは、重く、貪欲で、地を這う生き物だけが知る――人間的な、泥臭くも甘美な快楽。そんなものを、天使である日向は知るはずもなかった。
 清廉な光を象徴する存在の天使が、悪魔の手によって、これほどまで浅ましく生々しい肉の悦びに震わされている。汚されている。背いている。自分が信じてきた全ての光を泥に塗っている。
 凄まじい背徳感が皮肉にも、日向の脳を強烈に痺れさせていく。理性が絶望を叫べば叫ぶほど、その反動として、肉体は初めて知る官能の頂へと、加速度的に引きずり込まれていった。

「あ……、は、ぅ……っ」

 どれほど心が拒絶しようとも、自身の熱を直接的に支配する狛枝の指先と、そのすべてを独占する狂った視線に、裏腹な肉体は甘い痺れを散らし、ただただ昂ぶっていく。
 狂った悪魔が笑っているようだ。
 日向は、己の意思とは無関係に震え、快感に溺れていく神の器を容赦なく晒されながら、ただ涙を流し、その涙の理由もよくわからずに、深い快楽の泥濘の中で理性を失いかけていた。