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MOMIG
2026-06-22 22:05:16
2724文字
Public
極寒地域を生き延びるコツ
えちえちな📱🚂を書きたかった。
えちえちパート皆無の導入のみですが、ずっと書きかけのままなので一旦放流します。
二人が生き延びるには〝熱〟が必要だった。
機械に熱は御法度。それは常識だ。オーバーヒートすれば機構は歪み、最悪、ナマの脳みそを後生大事に抱えている脳殻ごと焼き切れる。上手くいけば、蛋白質が凝固して、見事な固茹でたまごの出来上がりだ。
「俺、茹でたまごは半熟派だなァ」
「うるせえぞ、アタリ」
だが低温もまた、同じくらい機械にとって厄介だという事実は、サイボーグ以外にはあまり知られていない。
ただいまのバッカス・未開拓エリア██の天気は晴天無風、空気汚染度はレベルⅢ、気温は氷点下三桁度を今し方突破した。
この数値は、警告というより死刑宣告に近い。外気に晒されたままなら、あらゆる可動部は鈍り、内部循環は遅延し、やがて機能停止へと至る。凍結という生易しい現象ではない。〝機能の眠り〟だ。それも永遠の。
サイボーグにとってそれは、回復を前提とした休眠ではない。復帰保証のない完全停止だ。
生き延びるには〝熱〟が必要だった。
荒野を横断するための社用車は、本来どんな悪環境にも耐えうる設計がされている。外殻には耐低温処理が施され、エンジンは極寒環境用に最適化された特殊燃料で稼働する。
だが、それでも限界はある。長時間の連続運転、予期せぬ地形変化、そして些細な誤差がひとつふたつ、みっつ
……
とにかく数え切れないほど積み重なれば、どんな機械も止まる。
実際に、止まった。止まってしまった。
「
……
あー
……
クソ、暖房が逝った。整備拠点までどんくらいだっけ」
運転席でトーマスが低く吐き捨てる。吐息は白くならない。そもそも彼の呼気は蒸気として可視化されるほどの水分を含んでいない。それでも彼の声には、わずかなノイズが混じっていた。低温環境による共振誤差だ。
助手席に座るアタリは、窓の外をぼんやりと眺めながら答える。
「一〇〇キロは余裕で離れてる」
「は?」
「余裕で一〇〇キロ」
「余裕ってなんだよ」
「絶望の言い換え」
淡々とした返答だった。軽口のようでいて、内容は重い。一〇〇キロメートル。この環境で、車両なしで移動する距離ではない。ましてや現在、暖房系統は完全に沈黙している。車内温度はじわじわと外気に引きずられていた。
パネルに表示される内部温度が、じりじりと下がっていく。まだ動ける。だが、その〝まだ〟がどれくらい続くかは分からない。
トーマスは舌打ちし、ハンドルから手を離した。エンジンは辛うじて生きているが、出力は安定していない。燃焼効率が落ちているのが分かる。アイドリングの振動が、いつもより鈍い。
「
……
外出るのはナシだな」
「死ぬよ」
「分かってる」
短い会話。判断は速い。だが打開策は出ない。絶望に近い沈黙が落ちた。
その沈黙の中で、アタリは自分の内部ログを確認していた。体内温度、エネルギー残量、可動域の低下率。どれもまだ致命的ではない。だがこのまま推移すれば、確実に臨界点へ向かう。
じわじわと冷えていく感覚は、不快というより奇妙だった。熱が奪われると、感覚の輪郭がぼやけていく。思考は鈍り、感情は平坦になる。まるで世界から色が抜け落ちるような感覚。
その中で、アタリはふと口を開いた。
「俺、閃いたんだけど」
「なに」
反応は早いが、期待はしていない声だった。アタリの〝閃き〟が、まともな解決策であった試しは少ない。
それでも、アタリは続ける。
「意図的にオーバーヒート起こして、体内温度確保するのってアリじゃね?」
トーマスの眉がわずかに動く。理屈としては間違っていない。熱源がないなら、自分で作るしかない。
「
……
だから?」
「セックスしようぜ」
間があった。ほんの一瞬、エンジンの振動音だけが車内に残る。トーマスはゆっくりと顔を向けた。
「却下」
即答だった。
「え、マジ?」
「マジ。予備電源見てくる」
シートベルトを外し、後部へと手を伸ばす。その動きに迷いはない。アタリの提案は、検討する価値すらないという扱いだった。
「いやいやいや待てって、合理的じゃん? 熱発生するし、運動エネルギーも──」
「うるせえ」
低く遮られる。
「この状況でよくそんな発想できるな」
「極限状態に強いタイプだから俺」
「違うね。頭が悪いだけだ」
「ひど」
軽口は続くが、空気はわずかに張り詰めている。冗談で誤魔化しているだけで、状況は何一つ好転していない。
トーマスは後部コンソールを開き、内部を確認する。予備電源、簡易ヒーター、緊急用パック。どれもある。だが決定打にはならない。稼働時間を数時間延ばすのが限界だ。
その背中を見ながら、アタリはシートに深くもたれた。極寒の静寂が、車体を包んでいる。
外の世界は完全に凍りついていた。風もない。ただ、動かない空気と、無限に続く白と灰色の地平。生命の気配はない。音もない。この星の中でも、特に〝終わっている〟場所だとアタリは思う。
「おい、アタリ。寝るなよ」
「ンぇ?」
「先輩の言うこと、ちゃんと聞いとけ」
「え、なに。先輩? 社歴一緒じゃん」
「俺のほうが歳上だろ。サイボーグ歴含めて」
「
……
アー?」
「オイ阿呆になるなバカタリ」
いつもの調子だった。だがそのやり取りの裏で、トーマスの視線はずっと計器に向けられている。温度、出力、残量。すべてを把握しながら、最悪のケースを計算している。
アタリもまた、それを分かっていた。ふざけているのは、自分も同じだ。本気で死ぬとは思っていない。だが、本気で危険であることは理解している。その曖昧な境界の上で、彼らは軽口を叩く。
それが、この星で生き延びるための癖だった。
車内の温度が、また一段階下がった。金属が軋むような、微かな音がする。どこかの部品が収縮しているのだろう。時間は、確実に削られている。
アタリは窓の外に視線を戻す。
真っ白な地平の向こうに、かすかな陽光が反射していた。暖かさとは無縁の光。それでも、視界のどこかに〝明るさ〟があるだけで、ほんの少しだけ安心する自分がいるのが、可笑しかった。
「なあトーマス」
「あ?」
「これ、さ」
「なんだよ」
「帰れたらさ、あったかいとこ行こうぜ」
トーマスは一瞬だけ手を止めた。それから、何事もなかったように作業を続けながら言う。
「帰るんだよ、バカァタリ」
短い返答だった。だが、その一言に、現実がすべて詰まっていた。帰れる保証はない。それでも、帰る前提で話す。それが彼らのやり方だった。
エンジンが、低く唸る。まだ、止まってはいない。
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