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asahito
2026-06-22 13:56:14
4324文字
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XYZ⑦
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/14625442
一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
推しのカクテルを作ってくれるバー行ってみたい。
石や岩は古来信仰の対象となっていた、なんて話は。学芸員なら常識だろう。石という資料は紙よりも残りやすく。消失の危険性も低い。
勿論刻み文字を残すのは苦労するにしても。津波の水位を残した石碑や、伝説を語る石碑。悪霊を閉じ込めたという岩。注連縄の巻かれた近寄りがたい石。
歴史上の有名人物が通るのを躊躇したという伝説が残る、岩が重なった上を通る奇跡のような道。神社にあるお百度石。他所の国にある石仏。
恐竜がいたことを証明する化石。木々や虫や貝も石となって、そこにいたことを雄弁に無言で語る。
自分の名前らしく石の展示物に強く惹かれるのは仕事仲間からも揶揄われるが。それでも石や岩はずっと、人間なんかよりもよほど。恒久の流れを眺めて来たということは伝えなけばいけないと思って今の職に就いた。
図鑑や本を読み過ぎるあまり奇妙な石の夢も幼いころから何回も見ているが。それが研究の役に立ったことはない。ただの妄想の産物だろうと片付けた。
石は魅力的だ。石があるからこそ生きられる存在だって沢山ある。武器にも使われ、住居にも使われ、芸術にも使われ。そこに畏怖を持って信仰を宿らせるのは当然の流れであろう。
権力の象徴として石を求め。滅んだ王がいて。富のために輝く石を求め、血を流し合う戦いが何度も起き。自身の為に偽りの石を歴史の証明にし、それが嘘と明らかになり。
石を巡って狂わされた人間が数多存在するという負の歴史を眺めても。石は、畏怖の対象なのだ。不変を残すが故に、変化を常に脅かす。
研究に置いて誤った判断をしてしまうことはよくあるが。
もしかしたら、私もその石一つでとんだ嘘の研究結果の発表をしかけたと思うと。上司や仲間のフォローはあっても、心は非常に複雑である。
研究の愚痴はあまりユイマンには語らないし。仲間にも言わないようにしている。自分が耐えればいいのだろうという諦観が身についているせいか、語らないことが常であった。
だが、この店主の距離感というのは不思議なもので。他人ではないが不必要な部分では私に踏み込まないというスタンスが心地よかった。
家族と距離を置いているとはいっても、国で有数の大企業の娘となれば。纏わりつく煩わしさは不愉快でしかない。ユイマンを巻き込んでしまったことへの悔恨は、どんなに悔やんでも悔やみきれない。
「石が本当に力を失うかは分かりませんが。パワーストーンの専門店なんかもありますから、不思議な力はあるかもしれませんね」
店主は笑いながら私の嘆きに似た言葉を拾ってくれた。首には相変わらず見覚えのあるネックレスを光らせて。その光は、前見た時よりも光の反射の違いなのか強く輝いているように見えた。
「宝石店を眺めるのも楽しいですし。怖い話なら何か粗相すれば祟られる曰く付きの塚なんかも聞いた事ありますよ」
「
……
すいません、熱くなってしまって。研究をしていれば不思議なことも珍しくはないんですけどね」
博物館の倉庫は歴史的価値があるものを収納しているとは言っても。お札や盛り塩は事欠かないし、お守りを首に下げて常備している人もいる。
人形が喋った、着物の女が倉庫の奥に佇んでいたなんて定番の現象の他に。発掘調査の筈が殺人で埋められた死体を発見してしまい、警察を呼んだなんていう事例もある。
私の専門である石も。あまりむやみやたらに持ち帰るものではないと、よく言われた。その石は人を殺めた石かもしれないからと。
「駒草さんもお店をやっていて、不思議な現象に出会ったりしますか」
心を落ち着けるため、濃いウイスキーを飲む。強烈なアルコールはちょっと含めばすぐに燃え上がりそうだ。
「
……
生きた人間の方が不思議なことは沢山見てますからねえ。たまに、珍しいものを持って来たりするお客さんもいますし」
ほら、あそこに。と店主が指さした窓際の枠には。小さな埴輪が並んでいた。
「埴輪?」
「ええ。うちの客で陶芸を専門としてる方がいましてプレゼントしてくれたんです。以前ユイマンさんがお見えになった時に可愛いと仰ってましたよ」
「
……
」
埴輪といえば叔母さんのことがすぐに思い浮かぶんだけど。あの人と叔母さんは仲がいいから、有り得ると言えばあり得るのだろうか。
ユイマンが可愛いと言うあの間抜けな顔は。小さい頃から見覚えがある。まさかね、と思っても。この店主は聞いたところではぐらかすだろう。
「他にも、各地の珍しいお酒を持って来てくれる方もいますし。お客さんたちから聞く不思議な話というのは割とあります」
「山の御出身であればそちらの方の話は?」
世間話的な予防線を張るのであればこの話題は意味がないだろう。店主自身の話題に切り替えよう。私達も山の出身ではあるがこの店主は別地域の山の生まれだと聞く以上。何か研究の役に立つ話題を知っているかもしれない。
「ああ、山ですか。年寄りからは色々やってはいけないタブーは沢山聞かされてましたよ」
「忌言葉や山に入ってはいけない日」
「流石学芸員の方ですね。今の時代でも山に入ってはいけない日や、猟師だけが使ってた言葉はありましたし
……
あとは、山で美人の女に会ったらすぐ逃げろ!とか煙草を吸えとか」
可笑しそうに笑いながら店主は話を続ける。山の怪異は分野からは外れるがある程度の文献は読んでいるしフィールドワークにも参加したことはあるが。
こんな都会の真ん中で若い女性から話を聞くのはあまりない分、研究者の血が沸き立つ。
「妖怪の類の話に近い気がしますが。確か、山女郎と呼ばれる妖怪も元は歩き巫女の系統で
……
」
「そうそう。そいつは山女郎と呼ばれてました。微笑まれたら死ぬとか煙草が好きだから投げつければ追って来ないとか、そんな話をね」
このご時世に着物を着た女が山奥にいるはずがないだろうと、店主は笑いながら語った。大方獣を見間違えたか山に迷った幻覚を大げさに語ったのだと。
「煙草を吸うのは山の習慣からですか」
「まあ、そうですね
……
なんせ田舎は娯楽が少ないもんで」
おそらく店主は未成年の時期から煙草を吸っていたのであろう。言葉をごにょごにょと濁して水をコップに注いでくれた。
妖怪や民俗学が好きで学芸員を目指す人間もいる。それは時代から取り残された者達に愛情と都合の良い不変を祈るとも、言える。
自分は最先端の機器や道具を使って研究しているのに、向こう側には昔の儘にあってくれと言うのだから。
だが、私も敢えて言うならば。山女郎という妖怪が身分や正体を隠してこの世にまだいるのであれば。この店主のような風貌と仕事が似合う気がした。
「申し訳ありませんがあまり私の話はできません故。次のお酒の用意でもさせてくれませんかね」
困ったような笑顔で遠回しに、詮索をやめるように言われ。なんとなくばつが悪くなり私もグラスに残っている僅かなウイスキーを一気に呷った。
もっと山の話を聞かせて欲しいとは思ったが。あまりに語ると出身地の細やかな部分まで特定される時代だ。どこで漏洩するか分からない情報を、そういった情報のデータベースである私に語るのは都合が悪いのだろう。
あの人とも、叔母さんともつながりがあり得るこの人なら。そういう部分は慎重になる。私が家柄故に自由が利かなかったように。
次の酒、と言われても。あの人に辿り着けなかった腹いせ紛れにこの酒を飲んでしまったがため、全然二杯目なんて考えてなかった。
「そうですね
……
」
どういうお酒がいいのかと、思案するも。前に飲んだカクテルはどちらも苦い思い出がつき纏うため注文しにくい。
それに肌寒い季節に冷たいものを飲む気になれず。もし、温かいカクテルというものがあればいいと店主に尋ねてみた。
「温かいカクテルというのはありますか?」
「ホットカクテルですか?勿論ありますけど
……
どういった系統がよろしいですかね。グリューワインとかはこれからの季節でよく頼まれる方もいますけど」
店主が提案した温めた赤ワインに、砂糖と香辛料を入れるらしい。海外のクリスマスマーケットなどで定番だそうだ。
ただ私はあまりワインを飲んだことがなく、馴染みのある飲み物の方が良かった。
「あとはホットカルーアミルク。これも甘くて女性の方は好まれます。磐永さんは家で普段どんなもの飲まれます?」
生憎自宅での飲酒の習慣はあまりないため、気の利いた回答はできず。苦し紛れに普段よく飲む普通の飲み物を答える。
「研究に煮詰まるとコーヒーをよく飲んでいるのですが」
「コーヒーですか
……
なら」
私の言葉に店主は何かを得たように棚の瓶を取って流しや調理器具のある方へ向かって行く。
そして下から何かを取り出すと、それは喫茶店でよく見るコーヒーを淹れる為の器具だった。
「少々お待ちください」
そしてゴリゴリと何かを削り始めると嗅ぎ慣れた香ばしい匂いが漂い、私の精神を落ち着ける。
コーヒーとバーの酒。どちらも飲み物を提供されるという意味では一緒だが、酔い覚ましであるコーヒーをお酒と混ぜるなんてことがあるのか。
スマートフォンで調べればすぐに分かるが、敢えて調べることはしない。この店主がどう動くかの方に心が揺れたからである。
これから冬が来るなら温かい飲み物がこれから必要になってくる。そんなときに躰に熱を与えてくれる飲み物があるなら、それをユイマンにも教えてあげたい。
毛布を掛けても着込んでも寒がりの彼女は。私の熱を求めて寝室に入って来ては、抱き着いて満足そうに眠るのだ。そんなに毎晩寝るならもうダブルベッドも買いましょうよ、と彼女は言うけど。
私の本の散らかし癖が直らない限りは中々踏み出せないにしても。言うべきなのかな。家具屋さんに今度行こうって。
たった一杯のお酒から出会いが生まれ。今店主から提供される一杯も、何か私達に変化をもたらすのだろうか。
少し焦げたコーヒーの香りに何か白いものが添えらえる物珍しさ。店主の横に置いてある瓶はウイスキーだが、先ほど私が飲んだものとは違っていた。
やがてウイスキーが注がれたグラスにコーヒーが混ざり。その上に白いクリームが乗せられる。焦げた茶色のカクテルは、一見ウインナーコーヒーのようにも見えるが。
「アイリッシュコーヒー。寒い国で飲まれるカクテルです」
漂う香りは間違いなくアルコールの香りを含んでいた。初めて見る、カクテル。
「うちのは生クリームですが、アイスクリームで出す店もありますよ」
続く
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