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Public まほやく
 

《ワンライ》カ「俺で童貞捨てたくせに」(オーカイ)

元ネタ:ロボさん(@Lobo230907)

 北の国と中央の国の合同訓練の帰りだった。双子の「そもそも訓練になるかどうか……」という心配は杞憂に終わり、オズによる圧、近ごろ教える喜びに目覚めたミスラ、対抗してボスの面目躍如と張り切るブラッドリー、それに煽られたオーエンなどなどの諸条件が重なり、合同訓練自体は成功した。
 しかしカインは不貞腐れていた。魔力のコントロールについて、中央の魔法使いたちの前でオーエンにネチネチとやられて不貞腐れていた。
 いや、普段ならこんな気持ちはおくびにもださない。けれど今、アーサーとリケとオズは集団の先頭を並んで飛んでいる。最後尾のカインの近くを飛んでいるのは、オーエンとブラッドリーだけだ。
 それゆえに、カインは年齢相応に不貞腐れていた。

「おまえ、言い方ってものがあるだろ」
「誰に言ってるの?」

 文句をぶつけたオーエンは鼻で笑った。たしかにオーエンに口が悪いだの言葉を選べだの言うのは今さらすぎる。
 オーエンは静かに付け加える。

「王子様も、今さらおまえの魔法が下手だからって、おまえを見損なったりしない」

 それもわかっているし、褒めたりおだてたりして欲しいわけじゃない。ただ、効率が悪いと思うだけだ。騎士団長時代の経験からしても……

「だから、赤ん坊みたいにピーピー泣くな」
「泣いてない」

 いや、俺はもしかして褒めてほしかったのか? 毎日の鍛錬を。オーエンに殺し合いという名目で何度も訓練をつけてもらったことを。その成果を?
 オーエンはこちらの気も知らずに、「あ、そう」と浅く笑った。
 ――腹立ちまぎれだった。すっと自分の箒をオーエンの箒の横につける。内緒話をするように、形のよい耳殻に手をあてて囁く。

「俺で童貞を捨てたくせに」

 ガクッとオーエンの箒が揺れた。わずかに見開かれる色違いの瞳。めずらしい一瞬の沈黙。

……は? それとこれとは関係ないだろ」
「おまえの口の悪さを見習ってみた」
「だいたい、おまえなんていまだに童貞――
「あー、俺はなんも聞いてねえぞ」

 ブラッドリーが、はるか前方のリケのそばへ飛んで行く。オーエンはその背を睨み、ますます苛立ったように舌打ちをする。どうせブラッドリーにはバレてるだろうに。

「俺のことこそ関係ない。おまえだって、俺に卒業してほしくないだろ?」

 一矢報いたと笑いかけたけれど、オーエンから返事はない。あれ? といぶかっていると、オーエンが小さな声で呪文を唱える。
 カチャリ、と頭の奥で目に見えぬ錠前が閉まったような音。

「えっ、なんだ!?」
「ふふ。おまえが一生誰とも寝られない魔法をかけてやった。生意気ばかり言うからだよ」

 愉快そうにオーエンが笑う。カインは小さく首をかしげた。

……えーっと。つまり、今夜の『晩酌』は無しってことで……?」

 沈黙が落ちる。今日の空はやけに青いな。
 しばらくオーエンは黙っていたが、やがてもう一度静かに呪文を唱えた。

……やっぱり俺に卒業してほしくない?」
「うるさい」
……俺と『晩酌』するの好き?」
「黙れよ」

 これ以上話しても、悪罵しか返ってこなさそうだ。ふたたび、彼の耳に唇を寄せる。

「じゃあ、また今晩に」

 オーエンは仏頂面のままだった。けれどカインは笑って、中央の魔法使いたちの元へ飛んでいった。浮かれる気持ちに舵を取られないよう、箒の柄を握りしめて。