紫輝
2026-06-21 10:56:35
1898文字
Public リオヌヴィ
 

迎え水龍ティーパーティー

魔任空月9幕2章、棘だらけのお茶会(お茶と茶菓子抜き)後の空君とヌ様の話です。該当任務のネタバレを含みます。弊ワットの空君は龍関係の出来事で胃痛を覚えるとヌ様のお(惚気)話を聞きに行きます。可愛いものを見聞きするとね。癒されるのでね。

「時間とってくれてありがとう、ヌヴィレット」
「日々他国を忙しく飛び回っている友人からの茶席の誘いだ。喜んで応じるとも。私こそ君の数いる友人の中から選んでもらえて光栄だ」
 忙しいのにごめんね、と下げた眉に否を返してくれながら息災だっただろうか、とこちらの身を案じてくれるヌヴィレットの穏やかな微笑を見ながら心中で拳を握る。ああ、やっぱりここに来てよかった。
「ただ茶席の話題は、本当に変えずで良いのだろうか。その、私にしか益がないと思えてならないのだが」
 戸惑ったような声音と、滲むそわつき。最近色々ダダ漏れていて可愛いなぁ、なんて兄心を満面の笑みの下に隠して、大きくうなずく。
「変更なしでよろしく。この前、結構気難しい人と話さなきゃならなくてさ。ちょっと疲れちゃったから、今すごーく、友達の幸せな話が聞きたくて」
 心からのため息が漏れた。草龍王アペプ。かの女王陛下ときたら本当にとりつく島もない、としか表現できないほどの魔神・人間嫌いだった。プライドも大変高くていらしたので心からの気遣いすら真正面から受け取って貰えなかったのだ。上位存在としてその程度のことで、取るに足らない存在から案じられるのは我慢ならなかったのだろうとうっすら理解はできるけれども、それはそれとしてこう、せめて突っぱねずに、雑にでも受け取ってくれれば自分の胃はキリキリしないで済んだのに。
「そうかそのような相手との会話は、さぞ心労も深かったことだろう。私にも経験がある。良き結果にはなったのだろうか」
「うん、そこはばっちり。心配してくれてありがとう、ヌヴィレット」
 神妙に同意してくれるヌヴィレットの眩しさに目を細める。もちろん心の中で。優しい。本当に優しい。気分は源水の雫で回復した時のようだ。それはよかった、と肩の力を抜いたヌヴィレットは、戸惑いを少し濃くしてこちらを伺ってくる。
「繰り返すが、そのような困難な交渉ごとに伴って発生した――なんと言えばよいのか、心労軽減のための対応策が、私の話で本当にいいのか?」
「うん。ヌヴィレットの話聞いてると俺まで嬉しくなるからさ。めちゃくちゃ回復できると思うんだ。俺に協力すると思って聞かせてよ」
 最近公爵とはどう? 変わらず仲良くしてる?
 今回はあえて砂糖を入れた紅茶をかき回し首を傾げると、そうか、と呟いたヌヴィレットの気配が目に見えて華やぐ。ついでにその唇から「リオセスリ殿」の七文字が発された瞬間ほろりとほころんだ表情に、思いきりガッツポーズをキメた。重ねるがもちろん心の中でだ。
 そう、これだ。これが見たかった。
 最愛の公爵閣下について語る時のヌヴィレットはとびきり可愛い。恋する乙女(便宜上だ)全振りで、全身から「幸せだ」というオーラを放って、市井の人から見たら当然なのだろう日々の細やかな幸いをそれはそれは愛おしげに語ってくれる。例えば一緒に食べたあれが美味しかったとか、一緒に見たそれが心に残ったとか。先日初めて共にキッチンに立った、なんて話を聞いた時は本気でご祝儀が如何程必要か考えてしまった。
 一言で言うと癒されるのだ。公爵閣下の話をしているヌヴィレットを見ていると。
 女王陛下との謁見中、「貴女の言う『水の龍王』は神から権能を返還され、人間を庇護するべきものと定め、この人と決めた人間と結ばれて睦まじく日々を過ごしながら眷属の娘たちから贈られた軽装に「これならば裾を踏むことはない」ってふわふわ喜んでるんですよ」なんてとても言えなかった。「人間と親しすぎる」レベルではないので。
 キリキリ鳴く胃をこっそりと押さえながら、これが終わったら絶対にヌヴィレットに会いに行こうと固く決意したのだ。悪人には悪人を、魔物には魔物を、龍には龍を。ナタの竜たちと戯れることも考えたが、それでは癒しが足りないと判断した。大正解だった。
 先日初めて作った肉料理をリオセスリ殿がとても喜んでくれて、なる水龍様ほのぼのエピソードにうんうんと相槌を打ちながら迎え酒ならぬ迎え水龍を堪能していれば、擦り減ったメンタルがぐんぐん回復していくのを感じる。草龍は生命力の象徴と聞いたが、水龍も同じような肩書きを掲げてもいいのではないだろうか。
 大いに癒され揚々と後にしたパレ・メルモニアの入り口で公爵閣下その人に捕まり、水の下のお茶会に招待され、「君との惚気話を聞いて癒されにきました」と白状させられ、水龍王のつがい様に困惑と気恥ずかしさを絶妙な塩梅で混ぜ合わせた説明の難しい顔をさせることになるなんて、この瞬間の自分が勿論知るはずもなかった。