ヒノチャン
2026-06-20 23:45:19
5715文字
Public ヒノチャン創作
 

凍結、白紙、落涙、絶望、狂気。

時系列は第二部が始まるくらい。過去作品を混ぜて新しく執筆。当たり前に夢小説要素あります。


「先輩、また夕日を見てるんですか」
冷えますよ、と健気で可愛い後輩は、■■の隣に並んだ。
「なんで寒いところのおひさまって、こんなにきれいに見えるんだろうねえ」
喋りだすと、口から出された吐息でメガネが曇る。少しだけ、向かい風が吹いていた。
「気温が低いと、空気中のチリや埃が舞いにくくてそれできれいに見えるそうですよ」
「そうなのぉ?マシュは博識だねえ!」
■■は、やんわりと微笑んでいる。
だが、その目元は赤い。また泣いていたのだろう。マシュは、少しだけ申し訳無さそうに眉を下げた。でも、慰めるのは違うと思う。元気に振る舞っているのだから、合わせないと。
マシュに無理させてるなぁ。■■は申し訳なく思った。


ドクター達やマシュと一緒に、今後の動きについて話し合っていた。
だいぶ長引いてしまい、すっかり夜が更けていた。
夕飯は食べたものの、お夜食が欲しいお年頃なので自室に戻ってカップ麺でも啜ろうかと考えていた。
早くお風呂に入りたがっていたマシュを先に行かせて、自分は朝入ればいいやと怠惰な気持ちでいた。
常に怠惰だ。
のんびりやりたい。マイペースにゆっくり。
本当は急がなければいけないと思う。だが、正直ついていけていない。
性格のせいにして、仕事も少しずつしか進めていないが、実際は怖いだけだ。
世界の命運が自分に掛かっている、とかじゃなくて。
そういう責任じゃなくて。
どちらかというと、自分にはマシュや他のサーヴァントの命の責任を感じている。
マシュは違うが、自分のために召喚されたサーヴァントは、無条件で自分に連れ従い、その力を振るう。
マスターである私に好意的で協力的。
そのような仕組みになっている。

世界を救うことよりも、サーヴァントの命を預かる方の責任やプレッシャーが、しんどい。

考察厨なので、そんな風に答えの出ない考察をぐるぐると考えるのが好きだ。
好きだ、というかそういうことをやっていると色々と気が紛れる。
ぼうっと遠くを見ながら自室を目指していると、そのまた遠くで見覚えのある着物姿の男が、ふらっと外に出るのを目撃した。
あ、と小さく声に出すと、その男は逃さずそれを捉えたようでチラリとこちらを見た。
そのままこちらに歩み寄って来るのを期待したが、男は涼しげに笑うだけで、行ってしまった。
思わず後を追ってしまう。

物凄く寒い風がびゅうと吹いた。
体温と外気の差で、眼鏡が曇ってしまう。
ジャージの裾で、曇りを拭うと影がかかった。
男が私と向かい合って立っている。

「小次郎」
「寒いだろうに、何故追ってきた?」

自然な動作で、その男は私を右脇に添えるように引き寄せる。
着物のゆったりとした袖が、私の背中に被さる。
肩の上には、きちんと男の左手が置かれていた。

「風邪を召されては困る、中に入ろうか」

いつもは敬語か、それを少し崩したように話すのに、二人きりになるところっと変わって年上のお兄さんぶるようになる。
自分はそれが心地好いので、小次郎とは意図して二人きりになることが多かった。
小次郎は、サーヴァントだから、それに対して拒絶は無い。

最初こそ、その感覚は気持ち悪かったが「これぞまさに逆ハーレムか」とポジティブに考えることが出来たので良しとする。
悪いことはしていない。相手も嫌がっていない。

だからこそ、私は彼らの命を重んじる重んじ過ぎるのだろう。

「いや、いいよ。頭を使ってぽっぽしてたから冷やしたい」
「ぽっぽ?」
「ああー、えっと、熱を持って?」
「なるほど、知恵熱気味か。マスターは勉学が苦手そうだものな」

小次郎の前では、子供みたいな言葉で喋ってしまう。
意味合いは伝わるだろうに、この男はわざと分からない振りをしてこうやって笑っている。

子供扱いも甚だしい。

「そりゃそうだよ、あたしは一般枠なんだから。奇跡の適応者よ?」
「そうとも、私の誇りだ」

そういう風に言われると、馬鹿にされた気がするが、男の横顔を見てみるとそれは真剣そのもので圧倒される。

雪の降り積もる山肌に、まるで何か悪いものが居るみたいにそこを睨み付けていて、一本の刀のような鋭さで立っていた。
覚悟、とかそういう大きな、そして強いものを感じた。

「なんか、気圧される」
「ん?」

俯いて呟くと、雰囲気を一変させて子守りモードだ。声が優しすぎる。

「君達の、命を懸けた戦いだからしっかりしなくちゃと思う。ほらあの、車の運転手みたいな。ハンドルを握るのはあたし。助手席にはそうだな、マシュ。後ろの席にその他もろもろ」
「ふふ、それは車は車でも大型バスであろう」

都合の良いもので、サーヴァント達はある程度現代の知識を持っている。

「飛行機かな、ジャンボジェット機だね。もはや」
「マシュ殿は然らばキャビンアテンダントだな。マスターは機長か。ふむ、いささか服装が残念だ」
「ほぉー?コスプレイがお望みですか?」

ふざけてニヤニヤと笑うと、男も同じように笑っていた。

「いや、マスター。私はライダーではなくアサシンだが」

男は、顔を綻ばせたまま言う。

「拙者達は、マスターの馬なのだ。マスターの手綱で向かう方向が決まる。もしくは武器だ。マスターの意思でその価値は、性能は変わってくる。しかしマスターは我々を客のように思っている。車に乗せるにしろ飛行機に乗せるにしろ、なんにせよマスターの思う我々は客だ。もしくは守らなくてはならない者だ」

「その、つもりだよ」

それではいけないのだろうか。

「喜ぶものもいるだろう、自分ごときの存在が主殿に認めてもらえて、守って貰えて。天にも昇る気持ちだ。しかし、そうは思わないものもいる。己を武器だと、主殿の振るう武器、または盾だと思うものはどうだ?使って貰えぬ武器など、ただの飾りだ」

男は、私の肩を抱いたまま、外のフェンスに近づいた。
下から吹き込む冷気に、体が震える。

「飾りだなんて思っていないよ」

自身のことを、一振りの刀だとでも思ってくれと言った男が、すぐ隣にいる。
怒らせてしまったのだろうか。
傷つけてしまったのだろうか。
それでも、私は彼らを大切にしたい。

「大事にされることはとても嬉しく思う。それは誰だってそうだろう。しかし、その身を持って自身の武器を守り命を落とす王は居まい?」
「そうだけど

男の言うことは正論だ。

「責めたてるつもりはない、すまなかったマスター。拙者はその、アドバイスをだな」

私の声のトーンで察したのか、男は空いている右手をわたわたと振った。
「そうだな、某だけにはそのような一面を見せてもいいと思う。だが、他の者にはあまり自己犠牲な面を見せるのは止した方がいいだろう。堂々と、私はお前たちを使う主であると、胸を張った方がいいな」

「至極もっとも、だわ。流石世界の小次郎」

なんだそれは。男は楽しそうに笑った。

私は、男の先の発言に冷やしていたはずの体の熱を高めながら、星空を眺めて心情を反らしていた。
男は私を励ますと同時に、特別な一面は自分の前だけにしろと言った。

その目の奥は、明らかな独占欲が煌々と燃えている。

私は、性を知らないお子様ではない。

「小次郎って、束縛するタイプ?」

それでも目の前の男には、怯える。
その怯えを隠しながら、騙しながら挑発的な態度で言う。

「まあ、そうだな。一介の男児は皆そうだろう?自分の女は自分だけの物にしておきたいし、それが叶わないのなら体はともかく心は縛っておきたいな」

肩に置かれていた手が自然な流れでするりと腰に行って、しかもジャージの中に入ってズボンに入れていたシャツの裾まで引っ張られて地肌に直接その手が当たった。
手慣れた痴漢のような手つきに、ドン引きしながらもその手の冷たさにびっくりして叫び声を上げた。

「はっはっは、何と色気の無い声だろう」
「ちょ!あ、つめ!つめたい!ひど、ひどい!あっ、と眼鏡曇った

声も上げてテンションも上げて、体温が一気に上がったので眼鏡がぶわっと白く染まった。
腰の手は最早どうしようとすることもなく、とりあえず優先順位は眼鏡だ。
眼鏡が曇ったままではみっともない。

両手でぱっと眼鏡を外すと、腰に回されていた手がぐいっと動いて、男と体が不自然に密着した。
向かい合うように抱かれて、男の胸の前に眼鏡を持った両手がぎゅうと当たった。動かせない。
いつの間にか、首元もホールドされていてあっという間に唇を奪われた。
流石武人。隙を見つけるのはお手の物。

男は、小次郎はこうやって不意を打つのが好きだ。
アサシンたる所以なのか、元からの性質なのか。

軽めの口付けかと思えば、深く深く口内をまさぐられて思わず吐息が漏れる。
ぼんやりと熱に浮かれながら、男の口付けを受け入れる。
口角が少し上がっているのが分かる。
男から漏れる声も、嬉しそうに笑っている気配がする。

大人しく好きにされているのが面白いのか、まんまと自分の策略に嵌まり堕ちていく女が滑稽なのか。
それとも、もしかしたら愛しさゆえに慈しんで笑っているのかもしれない。

それでも、この男からは大人の狡さがありありと溢れているので、どうしても信じがたい。
愛は感じる、情も感じる。
だが、男は自分の手中にある私が面白いだけなのかもしれない。

腰に回っていた手は、するすると上を目指して下着のホックを外した。

「!?さすがに、外では!」

甘美な口付けから逃れてやっと言うと、子供のような笑顔で男は答える。
「マスター、子供は風の子だろう?」
ぺろん、とジャージとシャツが捲られる。
肌が一気に冷えて体が縮み上がった。
「うわあああああお願いだから部屋で!部屋でお願いしますううううう!」
「まったく仕方がないな。冷えてしまったマスターを暖めることにするか。やれやれ、仕方ない仕方ない」

男は私をそのまま抱き上げた。
小娘の体など、屁でもない。

「意地悪だー、意地悪な大人だわー」

男の長い前髪を掻き分けて耳に掛けてやると、くすぐったそうに目を細める。
ああ、こんな人を死なすわけにはいかない。
絶対に死なすわけには、いかないのだ。

「意地悪にしないと、主殿は恥ずかしがって先に進まないからな。流石の某でも我慢が効かん」
「うっ、厳しい事をおっしゃるすいません

本当に、愛していたし私は幸せだったんだ。
世界を救えて、やっと終わったと。どっしりと背中に乗っていたものがどろりと溶けた。脱力。涙は流さない。お別れだとしても。でも、でもさ。
実はもう、限界はとっくの昔に来ていた。来ていたんだよ、ヒノチャンがいなかったら私は立っていない。立てていなかった。


もう限界かな?■■ちゃん?
ヒノチャンが変わったげる。大丈夫、ヒノチャンは案外強い女なので、結構耐えきれると思うよ。
■■ちゃんの体、魂の残滓。経験。思想。ぜーんぶ大事にするからね。
ヒノチャンに溶けていたらいいよ。
幸せを感じれる。しあわせだけ見ていてね。
不幸は感じなくていいよ。
ヒノチャンが不幸から、嫌な思いから守ってあげる。
いいんだよ、これは恩返しだ。
義をもってあなたに尽くす、これは恩返し。
もう頑張ったよ、十分に。休んでいいさ。
でも消えないでね!?消えてもらうと困るからね!?
ちゃんと見てて!?見ててよ!!?急にひとりきりは無理だよ!
いつも一緒だったのが、急にひとりは無理だからね。
全部ヒノチャンがやってたことにするから、大丈夫だよ。
自信を持って、観客として、そこで寝てていいんだよ。任せてよ。
ヒノチャンってば、おもしれー女だからさ。
■■ちゃんがいっぱい隠してたもの、ぜーんぶ表に出してやるってんだよ。
怒りに憎しみ、ぜんぶ全部ね。

「先輩、また夕日を見てるんですか」
冷えますよ、と健気で可愛い後輩は、ヒノチャンの隣に並んだ。
「なんで寒いところのおひさまって、こんなにきれいに見えるんだろうねえ」
喋りだすと、口から出された吐息でメガネが曇る。少しだけ、向かい風が吹いていた。
「気温が低いと、空気中のチリや埃が舞いにくくてそれできれいに見えるそうですよ」
「そうなのぉ?マシュは博識だねえ!」
ヒノチャンは、やんわりと微笑んでいる。
だが、その目元は赤い。また泣いていたのだろう。マシュは、少しだけ申し訳無さそうに眉を下げた。でも、慰めるのは違うと思う。元気に振る舞っているのだから、合わせないと。
マシュに無理させてるなぁ。ヒノチャンは申し訳なく思った。
「ねえマシュ?マシュってさ、絶対にヒノチャンのこと助けてくれるじゃん?」
?もちろんです先輩、あなたは私の先輩であってそして大切なマスターです」
助けますよ!と、マシュは力強く言った。
「でしょ?だから何もさ、気負うことはなくていいよね」
マシュは小首をかしげる。誰かに言い聞かすみたいに聞こえたからだ。
「はぁ~ロリンチちゃんの三回目の身体検査という名の尋問に行ってくるねぇ。ちょっと休憩してたんだわ」
「なるほど、だから善属性のサーヴァントたちが慌てふためいてノウムカルデア内を走り回っていたのですね
「うん、あの人たちヒノチャンの気配わかんないみたいよ。マシュが一番乗り!」
ヒノチャンはスキップで甲板から管制室に戻るところだった。重力も風力も何もかも無視だ。
マシュは、どっと汗をかいた。
デミサーヴァントだから、飛行中の甲板でも立っていられる。
あの人は、マシュのマスター先輩だったあの人は、もう何者なのかわからない。
でも、あの日の先輩と、同じ眼同じ口調だった。それは、化物がマシュを安心させるための猿真似かもしれない。
可能性はいくらでもある。
それでも、マシュはヒノチャンを信じていた。この人は、私の手を取って、そして戦ってくれた人なのだ、と。