ヒノチャン
2026-06-20 23:18:59
2524文字
Public ヒノチャン創作
 

ぐだひのバレンタイン

夢小説だ!逃げろ!待てぇ逃がすかー!追えー!

■佐々木小次郎

「今年も行くか?」
佐々木小次郎は座って書類を読むヒノチャンの頭の上から、ぬっと顔を出した。
長い前髪がわざとらしく顔にかかる。
「行くって、どこに」
見上げれば、いつも通りの涼しげな微笑がある。
「茶会だ、毎年誘って行くだろうに」
「ああ!え、ちょっとまってまだチョコ渡してないんだけど
「良い良い、他に回すでござるよ」
小次郎が手を引いてさっさと歩き出してしまう。
机の上に置いた書類が散らばったが、それを気にする隙もくれない。
もう、恒例行事になっちゃったね」
「そうさな、四年?五年になるかいやはや、こうも長く付き従えていられるとは。これほどまでの僥倖はなかろうて
「僥倖?ほーん、言ってくれるねえ小次郎、嬉しいよ?」
「言葉に嘘はないでござるよ」
すでに管制室のスタッフには手続きを終えていたようで、軽く挨拶をしただけでシュミレーション室に通してもらえた。
用意周到な男だ、こういうところはしっかりしている。
すでに準備されていた席に、毎年座るそこに正座して男を見上げた。
相変わらず美しい所作で、音も立てず向かいに座る。前髪を耳にかけると、慣れた手つきで茶を準備し始めた。
すでに湯が沸いており、寒空へと湯気が登っていく。
月が、満月がとても綺麗だ。寒さの中にきわたつ光、白く目に刺さるそれが眩しくて目を細める。
「来年は道満も連れてきたいな」
………ははは!お主という女は、全く」
「ん?何さ」
「相引きに他の男を連れ込もうなどと、よくも提案できたものだ」
茶が差し出される。やはり慣れた手つきでそれを受けた。
「アイビキィ?お前こそ、よくもそんなことを言えたなあ!」
ニヤニヤしながら言うと、男は眉を下げて困った顔をした。わざとらしい。
「では、今宵はそうしようか。主」
膝立ちだけで隣に進み寄り、小次郎は低く言った。
茶を一口飲んだままの状態で、ヒノチャンは固まる。
…………青姦、なるほど寒いから嫌だ」
「向こうに拙者が休息所にしている簡素な小屋があるでござる」
にっこり、と小次郎が笑った。え゛と引き攣って笑えば止める間も無く体が抱き上げられた。2メートル近くの細長い巨躯には、実は体重はほとんどない。
小娘のことなど、軽々と抱えられてしまうのだ。
「ななななな何!?休息所!?どゆこと!?はあ!?そうしようって、何を!?」
「実はここは、拙者個人が修行をする時に使っている場所でな。勝手知ったるところなのでござる」
「アンサーになってねえんだが!」
「何を困ることがある、今更バレンタインデーの今宵くらいは元の仲睦まじい関係に戻ってもよかろう」
「なんて野郎だ!そういうの、最低って言
………ほう?口付けすれば黙る風情はあるか」
馬鹿野郎、と小さく言えば男特有のしたり顔で応えられた。


■蘆屋道満
「ンますたぁ♡昨年に引き続き、バレンタインデーのお返しでございますぞ♡」
「いやだからチョコまだ渡してねえって言ってんのにうちの正妻側室どもは……
ベッドで寝転んでいると、スキップしながら蘆屋道満がやってきた。
そのままどしん、と思いっきりベッドに座る。
体がバイーンと飛び跳ねる。だが慣れたものだ。
「ほれ、受け取りなされ受け取りなされ。ンンンン今年こそは、拙僧頑張って"愛"を込めさせていただきましたので
「ふむふむ」
起き上がって例の品を受け取る。昨年も貰った呪符。今も大事に飾り棚に置いている。当時は、ズモモモとなんだか怪しいオーラを放っていたのだが、痺れを切らした道満本人が何かしら術を施しているのを確認している。夜中に何かしているな、と思ったがまさか解呪しているとは思わなかった。
「今年こそ、これで呪い殺してくれるのかい」
………………いいえ、いいえ?昨年はそれで耳を齧られましたゆえに。なぜか!な、ぜ、か!耳を齧られましたので!!今年は本当に愛を込めました。ンンンンンンン。まぁ……?拙僧なぞに?愛、などと。ンンン、ふふふふふふふ。フフフ!!愛、など……
ベラベラと捲し立てたあと、急に語尾が弱まっていった。勝手に落ち込んでいる。
心なしか、しょんぼりと髪の三房が下がった。わかりやすい。
「耳食ったことそんなに根に持たれるとは思わなかったな
「今やカルデア、バレンタイン怪談のひとつでありまする」
「まぁ、前のも貰ってきちんと愛を感じたので今年のも大丈夫よ、愛感じてるぜ!」
グッとサムズアップすると、今度は怒り出す。
「愛など!!!!込めておらんわ!!!」
その場に呪符を叩きつけた。呪符は床を呪い始める。すぐさま道満は禹歩で解呪した。
ベッドに座ったまま、男を見上げる。とても高いところに顔がある。
「道満、屈んでくれる?」
……ン?なんです?」
耳を齧られたのを散々警戒していたくせに、この男はなんだかんだと気を許している。
「むちゅ」
「ンム」
……………耳、齧った方がよかったか」
……こ、こ、こ
屈んだまま、道満はワナワナと震え出す。
「こンンンンンの!!!すべたがあ!!!!!!!」
頭のてっぺんに自分の手を置いて、そうしてそこをバチーンと叩いた。ヒノチャンには衝撃しか来ない。痛くはない。
「すべたとは失礼な!決まった相手にしかしないんですけど!?一途なんですけど!?」
「ばか!阿呆!こういうものは!もっと!なんと言いますか……!ああいや違う!そのようなことではない!そうではない!あああああああこの女!!!小娘!!!儂の計画を狂わせる!!!ゆるさじ!ンンンンンン!」
「まぁまぁ、ほら渡す予定だったチョコ一緒に食べようや」
「こちら女性用のロックオンチョコですが!?」
「お前性別不明なんだから女性でもいいだろ」
ラッピングをベリベリに剥がすと、道満がそれをひったくった。代わりに綺麗に剥いでくれる。
…………改めてお返しを用意いたします」
「道満って本当にマメな男だよねぇ」
……ン!」
もう一度、頭に例のウソ叩きをされた。間違いなく、愛がこもってるんだよなぁ。