キスの途中、薄く目を開いた。逢さんは俺の影の中で目を瞑ってキスに夢中になっている。唇を食んで、舌を吸って、耳たぶを指先で引っ掻けばソファーに沈む体がビクッと震えた。
かわいい、しか考えられなくなる。俺の下で、俺のことで頭をいっぱいにしている恋人なんて、かわいいに決まってる。溢れる吐息の甘さに思考を溶かされているせいかもしれない。それか、触れ合った粘膜の熱のせいかも。
鼻先がぶつかって、俺は心の中で「逢さん」と名前を呼んだ。まだ唇を離したくなかったから声は出せない。逢さん、さっきお風呂に入るって言ってたのに、このままじゃ入れないですよ。逢さんの手はすでに俺のシャツの中に入り込んでいて、時折背中に爪を立てる。ピリッとした痛みは気持ち良くてそのたびに俺の下半身は重くなった。
逢さん、ともう一度心の中で名前を呼んだ時、まるでそれが聞こえたかのように逢さんがゆっくり瞼を上げた。視線が重なった瞬間、パッと目が見開かれる。思わず笑ってしまうと逢さんは眉間に皺を寄せた。
由鶴、と、名前を呼ばれた気がした。もちろんいまだ深く絡んだままで唇からは喘ぐような声しか漏れないのだけれど、たぶん、逢さんの心の中の声が聞こえた。はい、と返事をするように、俺はまばたきを返した。
笑ったままだったのが気に食わなかったのか、逢さんは上顎を舐めた俺の舌にかぷっと優しく歯を立てた。そんなことをしてもかわいいだけなのに。怒った顔も好きだけれど今は気持ちいいことだけをしたかったから、驚いたフリをして舌を引っ込め、唇の表面は離さないまま額をぐりっと重ねる。言葉にしなくてもごめんなさいという意思は伝わったのか、逢さんはゆっくりまばたきをして、それから俺の唇の合間に舌を滑らせた。
ふ、と笑ってしまったのが、これだけ触れ合っていて分からないはずがない。逢さんの視線が鋭くなったことに気がついて、俺はすぐに目を閉じた。絡んだ舌を離さないように引き寄せてキスを深くする。しばらくは瞼の向こうに視線を感じていたけれど、後頭部を抱き寄せてキスだけに集中していれば応えるだけだった逢さんもまた自分から舌を動かしてくれた。かわいいな、とまた思う。
目を開けると逢さんと目が合い、今度は逢さんがふっとやらしく笑った。どうやったらこんなに、かわいい人になるんだろう。堪らなくなって目を合わせたままキスを激しくすれば、逢さんは気持ちよさそうに目を細めた。背中に爪を立てられて俺も思わず目を細める。途端にその瞳に得意げな色が滲んだ。
ぱっと、唐突に唇を離す。舌を吸った拍子に逢さんが声を漏らした。「おい」と咎める声に、俺は笑みを浮かべた。
「逢さんがかわいいから、いじわるしたくなっちゃった」
「……どこがだ。お前の方が」
「まだキスしたいですよね?」
「……」
「かわいい。俺も逢さんとキスするの大好きです」
「何も言ってない」
「そうですか? じゃあもう終わりにしますか?」
「……べつに」
「まだするなら、舌、出して?」
「っ」
かわいらしく色付いていた肌が、カッと赤く染まる。逢さんは絶句して俺を見つめ、俺が本気で言っているのだと気づくとその目にじわりと涙を浮かべた。それが羞恥心によるものだと分かるから助け舟は出さずに小さく首を傾げるだけで逢さんを促す。
迷うように視線を彷徨わせた後、逢さんは上目遣いで俺を見つめ、唇の隙間からそっと舌を覗かせた。自分でそうさせたのにあまりにかわいくて、俺は一瞬でその舌に飛びついてしまう。もう、いじわるなんてしてる余裕はなかった。
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