山茶花
2026-06-20 21:00:59
6955文字
Public [シルデュ]サイト限定(健全)
 

言いたいコトバ、言えないキモチ【268SK068】

じたばたするだけの話/可愛い/6600字程度


 最近ちょっと、シルバー先輩は、ヘンだった。
 やけに、他のやつよりも僕のことをかまってくれたり。僕に、よく手を振ってくれたり。ほほ笑んでくれたり。
 食堂で、他にも空いてる席あるのに、相席いいかって尋ねてきて、お礼にこれを、って僕の好きなブランドのプリンをくれたり。
 部活終わりに、厩舎の傍を通りすがったら。
「今日も頑張ったんだな。……お疲れ様」って、頭を撫でてくれたり。
 なんか、なんていうか。シルバー先輩、僕のこともしかして、ひょっとして?
 そんな期待のような困惑のような何かを抱く羽目になったから。
 だから。今日、敢えて、シルバー先輩を、僕から待ち伏せしてみて。
 それで、聞いてみようとしたんだ。
「シルバー先輩って、もしかして、その、僕のこと……
 そしたらさ。先輩、慌てて僕の言葉を止めて。
「ま、待て! ……その。その、先は。俺に、言わせて、くれ。……この、顔が、落ち着いたら……っ」
 って、真っ赤な顔になってるもんだから。僕、ああやっぱり、って思うのと同時に。
「ふ、あ、え、へ?」
 マジかよ、マジでそうなのかよ、って混乱が、押し寄せてきてさ。
 僕が、いやまだだ、まだシルバー先輩の言葉がちゃんと続くまでは分からないぞって一縷の希望(そうなのか?)に縋ってたらさ。
 シルバー先輩、上向いて、眉間を押さえて。下向いて、ふぅー、と大きく息を吐いて。それでも、なんか。駄目だったみたいで。
「すまない、デュース。やっぱり、その。……この頬が、落ち着いてくれないから、……俺の勇気が出るまで、少し……二、三日の間……待って、もらえないだろうか? 返事は、それまでに考えてくれていたら、それで、いいから……
 って、言われて。僕は、それもうほぼ告白なんじゃないのかなとか、僕は何の返事を考えておけって言うんですかとか、いろいろ言いたいことはあったけど。でも。そんなこと、言えるわけなくって。
 だって僕の顔もたぶん、シルバー先輩のと同じくらい、真っ赤になっていて。それで。心臓の音もきっと、同じくらいに落ち着いてくれてなかったから、ふたりともそこから逃げ出したいくらい気恥ずかしくなって。
 それで、ふたりして、その場を誤魔化して逃げ出しちまったんだ。
 それが、昨日のことだ。



 ……俺は、何をやっているのだろうか。
 デュースに日頃秘めてきた想いを伝えられる、絶好の機会だったというのに。その、デュースが、「もしかしたら」という期待のような、「いやでもやっぱり」という不安のような目を俺に向けているのを見たら。
 胸が、きゅんと鳴って。いっぱいいっぱいになって。何も、言葉に出来なくなってしまった。
 恋愛事に不慣れだとはいえ、あまりに奥手な自分に少々の嫌気が差すが。
 それでも、二~三日の間のことだと、デュースに言ってしまったからには。それまでに、癒えるようになっておかなければならない。
 だから。湖面に向けて、練習をしてみる。
……デュー、ス。その、俺、は……
 だけどこれは、失敗に終わった。
 何故って。湖面で練習しようとしたのが、間違いだった。
 デュースへの想いを言葉にしようとする度、真っ赤になって、泣きそうなばかりに情けない俺の表情が、ばっちりと湖に映ってしまって。
 精神力の鍛錬が足りないのだろうかと思うくらいには、俺の心は簡単にぽっきりと折れてしまいそうになった。
 だから、鏡を相手に練習するのも、同じ理由で良くないなと。
 それじゃあ何を相手に、と思って、そういえば、と。
 スマートフォンに。以前、デュースの故郷の街へ遊びに行かせてもらったとき、デュースを含んだみんなで撮った写真があったはずだ。
 そのデータを開き、デュースの顔をアップにする。
 そして、練習しようとする、も。
……デュース、その……俺は、あの、ええと……
 やっぱり、何も言えなくて。というか……
……写真の中でも、お前の笑顔は、とても可愛らしいのだな……
 なんて、画面の中に映るデュースの笑顔に見惚れ始めてしまって。
 これでは練習にならない、と。机に伏せっていると。
「おいシルバー、邪魔だぞ。寝ているのか?」
……ジャミル!」
 カリムの世話を焼きにだろうか、2-Aの教室へとやってきたジャミルに。
 俺は飛びついた。
「友人の誼(よしみ)だと思い、ここはひとつ……助けて、くれないか!」
 俺がそう頼み込むと。君が頼みごとなんて珍しいな、とジャミルは言い。
 場所を移そう、その方が都合が良さそうだ、と。
 すぐに俺の意図を汲み、人気のない場所へと移動してくれた。
 そこで俺は、彼の時間を奪いすぎるのもなんだと、すぐに話し出す。
「実は、デュースに、……日頃の想いを、伝える機会があったのだが。いきなりのことで、うまく言葉にできなかった。だから、ひとり、どうにか練習を重ねていたのだが……
 言葉で説明するより、見せた方が早いだろう、と。
 俺は、スマートフォンの画面にデュースの写真を取り出して、それに何も言えない様子を実演してみせた。
 するとジャミルは、微妙な顔をしつつも、俺の相談には乗ってくれるようだった。
……うん、まあ、意外なことだったが。シルバー、お前が困っているのは分かった。そうだな……と言っても、俺が代わりの練習台になるのも、意味はないだろうし。それに、余計な勘違いをも招きかねない。だから……
 こうしよう、とジャミルは言った。
 俺はお前が練習している姿を、できるだけ記録してやる。
 お前が無事にデュースへの気持ちを言えた瞬間を記録できたら、それをデュースに見せれば万事解決じゃないか、と。
 俺は、ジャミルの言葉に膝を打った。なるほど、それならデュースを目の前に、再度失敗してしまっても。記録の中の俺は失敗しないで、デュースへの想いを伝えられる!
「と言っても、俺も常にいつでも張り付いて記録ができるわけじゃあない。だから、今から君に、スマートフォンの機能を使った記録の仕方を教える」
 なので、できるだけ自分でも成功するまで記録してみるように、とジャミルは言った。
「分かった。それなら、なんとかなりそうだ。ありがとう、ジャミル!」
「ふっ。……まあ、君とは従者同士、なんらかのシンパシーも感じるからな」
 特別だぞ、とジャミルは言って。そうして、俺にスマートフォンを使った音声の記録方法を教えてくれた。

 俺はさっそく、その日の次の休み時間から。デュースへの想いを形に出来るように、時間の空いた隙間を狙って、音声を記録し始めた。
 ……だが。
「デュース、………………駄目だ、次の言葉が、どうしても出てこない……。胸の奥から、喉まで心臓が出てくるんじゃないかと思うくらい、鼓動が高まってしまって……
 なかなか、上手くはいかない。だが。二度や三度……いや、もう既に三十回以上は挑戦しているが。だが、その程度の回数がうまくいかなったからといって、諦めるわけにはいかない。
 剣で言うなら、まだ初めて握ってから、素振りを30回やり始めただけの段階だ。なんだ、そう考えてみれば……まだ準備運動さえ終わっていないじゃないか! ならば、これがいっぱしの剣術の形になるまで、何度でも挑戦するまでだ!!
 そう思って、放課後まで、ひたすらスマートフォンのデュースに向けて、告白練習をしていたら。
 厩舎にやってきたセベクとリドルに、不審がられた。
「何やってるの、キミ……
……今度は何の遊びだ、シルバー。妙な真似をして若様の品位を落とすのはやめないか!」
「違うんだ!! ふたりとも、これは……俺の、大事な……大事な練習なんだ!!」
「なんのだい!!」
「それは、その……っ、デュース、の……
「デュース……? ウチの子が、キミに何か?」
 そう告げるリドルに、確かにデュースはお前のところの子だが、お前のものというわけじゃないだろうとむっとして言えば。ああそういうこと、とリドルとセベクは頷いた。
「まあ、なんでもいいけれど……。時間を忘れるのも、程々にね。部活始まるよ、シルバー。遅刻は厳禁だ、お分かりだね?」
「リドル先輩の言う通りだ! いつまでも色恋沙汰にぼさっとしていないで、早く着替えろシルバー!!」
「うっ……、わ、分かった。すぐに準備する」
 そうして。これはまたあとでにしよう、と。切り替えて、馬術部の部活を終え。ディアソムニア寮の自室へと戻る。
 自室にて。ルームメイトへと、少しうるさくするが、すまないと断って。
 再びデュースへの告白練習をしていると。後ろからからかわれた。
「いや、何を面白いことしてるんだよ、シルバー」
「面白くはない。俺は真剣だ」
「傍から見てると、めちゃくちゃ面白いけどな……。何? 告るの? この子? この青いウサギの……
「そ、そうだ。……可愛いだろう」
「あー、まあうん? お前が言うならそうなんじゃないか?」
……可愛いだろう!」
「はいはい可愛い可愛い!」
 そんなやり取りをしつつ。俺は、ルームメイトにも相談してみる。
「実は、昼間。ジャミルにも相談して、練習の度に、その言葉を録音して。うまく行ったら、それを見せればいい、と助言をもらいはしたのだが……
「言えてない、と」
……そうだ。くっ、情けない……!! 夢幻の騎士たる者がこの体たらくですいません、マレウス様……!!」
「お前、地味にその二つ名めちゃくちゃ気に入ってるよな」
 あ、いいこと思いついた、とルームメイトは言う。
 スマホ貸してみ、というから。大人しく渡すと。
 ルームメイトは、何やらスマートフォンを操作して。
 そして。画面を俺に向けて、自分の顔の前に、画面をかざした。
「シルバー、そのまま俺のこと好きだって言ってみろよ」
……? 好きだ」
「この画面の子は?」
「デュ、デュースはっ、その……っ、す、……や、無理だ、言え、ない……
「これ成功扱いになんないか?」
「ならないだろう、対象が違うのだから」
 もういいだろう返してくれ、と。ルームメイトからスマートフォンを取り返そうとする。すると、揉み合ったその拍子に。どこかへ、そのデータが送信されてしまったようで。
『シェアしました』
 というメッセージだけが、画面に映っていた。
「だ、誰に送られたっ!?」
 慌てて俺がチャットルームなどの履歴を確認すると。
 当の、デュースに。その音声データは、送信されてしまっていて。
「け、消さなくては! ええと、消し方は、どうするの、だったか……!」
 と、慌てている内に。付くのは『既読』の文字で。
……ち、違う。ええと。送らな、ければ。今のは、違って。失敗で。成功したのを、改めて見せるから、と……
「シルバー? おい、大丈夫か?」
 そんな風に、混乱したまま返事をしようとしていると。
 デュースから先に、返事が来て。俺はスマートフォンを手からすり落としそうになってしまい、慌ただしくキャッチする。
 それで、ルームメイトと共に画面を覗き込むと。
『先輩、もしかして、ルームメイトの人と練習してます……?』
 というメッセージが、送られてきていて。
……なんと返せば、いいと思う?」
……『してる』って正直に答えればいいんじゃないか? ていうかもういっそ、文章で打ったらどうだ? 言葉で言えないならさ」
「そ、それもそうだ! なら……!!」
 勇んで。その言葉を打ち込もうとしてみるが。
「シルバー、お前な……
「代わりに、代わりに打ってくれないか……!! 送信ボタンは押すから……!!」
……
 お前ほんとうに世話が焼けるな、飽きないルームメイトで何よりだと溜息を吐いたルームメイトは、スマートフォンに文章を打って、俺へ端末を返す。
「ほらよ」
「ああ、ありがとう……これであとは、送信ボタンを押す、だけ……!?」
 その端末を見た瞬間、見えたのは。
『している。お前に「好きだ」と、言おうとしたが、言えなくて、付き合ってもらっていた。文字でなら、伝えられるだろうか。デュース、好きだ』
 という、まるで俺の喋る言葉のようなメッセージが。
 もう、送信されている画面で。
「そ、送信されている……!?」
「もうすぐ消灯だからな、お前一生送信できなさそうだから、送るまでやっといた」
 その、ルームメイトの言葉に。俺は、感謝と。同時に、不安を覚えた。
……その、ありがとう。だが、頼んでおいて、なん、なのだが」
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「普段の、俺のメッセージとの、文体が、違いすぎる、から。……俺でない人が書いたと、バレてしまわないだろうか……?」
 俺とルームメイトの間を、沈黙が包む。やがて、ルームメイトがその沈黙を破った。
「そうなったらお前が自分の言葉で言い直せ! な!!」
「投げるにも程があるだろう!!」
「うるせえ!! 俺はもうベッド入って寝るからな!! 誰かさんの目覚ましで毎日寝不足だからな!!」
「うっ……それは、その、すまない……!!」
 それで、結局。俺は。向こうも消灯時間になってしまったのか、デュースからの返信がない、スマートフォンの端末を伏せて。その日、眠ることになってしまったのだった。

 そして、翌日。やはり練習しておくべきだろうか、そもそも、元の目標は達成できていないからな、と。
 朝から、スマートフォンに入ったデュースの写真に向けて、告白の練習を試みる。だが、その前に。どうしても、言いたいことがあった。
 だから、それも併せて、言葉に出来るように。練習することにした。
……デュース。昨日は、その、妙なメッセージを送ってしまい、すまなかった。あれは、ルームメイトが勇気を出せない俺を気遣って送ってくれたもので……、だが、やはり俺自身の言葉で、伝えなくては意味がないと、そう思う、から。だから、……聞いて、ほしい」
 好き、だ。デュース。
 そう、呟いたとき。俺は、驚いた。……言えた!? 昨日、どれだけ頑張っても、言えなかったその言葉が。言えたんだ!!
 俺は。慌てて、今の言葉がすべて、録音できていたかを確認しようとする。
 だけど。……そもそも、始める前に、録音ボタンを押すのを忘れていて。
「そ、そんな……。せっかく、言葉に出来たのに……!」
 と。落ち込んでいたら。不意に、後ろからぎゅっと、誰かが俺のことを抱きしめてきていて。それは、きっと、そのシトラスの香りは、太陽のような体温は。きっと、俺の想う人で。
……デュー、ス……?」
「先輩……、何を慌ててるんですか」
「い、いやその。録音、できなくて。お前に、ちゃんと言葉にしたものを、聞かせるつもりだったのだが、その、それが……失敗、して」
 だから、もう一度、言えるかは分からなくて、と。俺が言うと。
 デュースは、大丈夫ですよ、と言った。
「先輩、こっち向いてください」
……?」
 一度抱きつく腕をほどかれ、デュースの方を振り向く。
 そうすると。デュースは、今度は正面から、俺の胸の中へと、抱きついてきて。
「デュ、デュース!?」
 俺は、嬉しくも恥ずかしくて、抱き留めはするが。触れていいのか、分からなくて。手をどこにやっていいか迷子になっていると。デュースは言った。
「先輩。録音できてなくても、大丈夫です。さっきの『練習』……、僕、ぜんぶ聞いてました、から。ってか、昨日も散々練習してたって、バイパー先輩が教えてくれました」
「そっ……
 そう、だったのか。俺が、知られていたことを恥ずかしく思い、赤く染めた顔を俯かせていると。デュースは、そんな俺の頭を撫でるようにして、言った。
「シルバー先輩……、なんか、すごい大ごとにしてたみたいですけど。僕、そうやって、先輩が、ずっとずっと頑張って。僕なんかに、たったひとこと言うためだけに……それが、すっげえ嬉しくて」
 だから、応えたくなりました、とデュースは言う。
「シルバー先輩。僕、まだ、先輩と同じくらいの気持ち、とは言い切れないかもしれないんですけど、でも」
 僕も先輩のこと、好きになりたいと思ったんで。僕も先輩と同じくらい、先輩のこと好きになれたとき。そのときは今度こそ僕の目を見て、まっすぐ言ってくれないですか、と。そんな、信じられない言葉を羅列して。
「い、いいのか? ……夢、じゃないのか? こんな……
「ふはっ。アンタ、どんだけ僕のこと好きなんだよ……
 夢じゃないですよ! と。デュースは俺の頬をつねる。
 その頬が、痛くて。熱くて。俺は。
……デュース、……その……っ、~~……っ、デュース……っ!!」
「はい、先輩……、そんなぎゅーってしなくても、分かってますよ!」
 まだ言葉に出来ない想いの代わりに。この気持ちが伝われ、と。
 デュースの身体を。ぎゅうと強く、抱き締めるのだった。

*おしまい