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花月ゆき
Public
ゆる赤安ドロライ
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第39回お題「ポアロ」
同棲を始めたばかりの赤安。沖安要素少し。
あかいさんと喧嘩して家出をしたれいくんのお話です。
いったいここに、何の用があるのか。
ここ最近、沖矢昴が喫茶ポアロによく来ている。どうやら自分が店にいる時間を狙って来ているようだ。
心当たりはひとつだけ。今、降谷は同棲を始めたばかりの赤井と、絶賛喧嘩中だった。
正確にいえば、自分が赤井に対して一方的に怒り、家を出た。
今はホテルや警察庁の仮眠室で寝泊まりしているので、赤井とはもう二週間ほど顔を合わせていない。
その代わり、この男がポアロに顔を出すのだ。
ホットコーヒーと軽食を頼み、一時間ほど滞在すると店を出てゆく。
その間、必要最低限の会話しかしない。沖矢は席で静かに本を読んでいるので、こちらを見ることもない。どちらかといえば、自分が沖矢を見ている時間の方が長い気がするくらいだ。
そんなことを考えていると、店のドアが開き、降谷はびくりとした。店の中に入って来たのは、ポアロによく来る女子大生三人組だ。
沖矢ではなかったことに少し安堵しながら、「いらっしゃいませ」と声をかけて、テーブル席へと通す。各々飲み物と季節限定のスイーツを頼んだ。
降谷がカウンター内で準備している間、彼女たちの話し声が聞こえてくる。
「この前、木村君と喧嘩しちゃって
……
」「一緒に住んでたら色々あるよね」「うん。ちょっと頭冷やそうかなって思って、今は実家に戻ってるんだけど、これからどうしよう
……
」「そう心配しなくても、木村君からそろそろ連絡があるんじゃないの?」「そうかなぁ
……
」「木村君は、まなみに胃袋を掴まれちゃってるからね」
彼女たちは、まなみの作る料理を褒め、大丈夫だよと励ましている。
降谷は頃合いを見計らって、飲み物とスイーツを彼女たちのテーブルに運んだ。
「お待たせしました」
テーブルの上に、飲み物の入ったグラスやカップ、スイーツの乗った皿を並べていると、今度は自分に話題が向けられる。
「安室さんも料理上手だから、色んな人の胃袋掴んでそうだよね」
「そうかな」
褒められるのは、素直に嬉しい。
「最近また新しい常連さん増えたでしょ? 今日は来てないみたいだけど」
「新しい常連さん?」
降谷が問いかけると、彼女たちは“新しい常連客”の特徴を話し始めた。
「眼鏡かけてて、すっごく身長が高い人!」「あー目が細くて、いつも本を読んでる人?」「そうそう。ああいう人、私すっごく好み!」
彼女たちの言う男に、降谷はすぐ思い至る。
「
……
アイツは、やめておいた方がいい」
冗談で返せば良いものを、つい本音を言ってしまった。
「もしかして、安室さんの知り合い?」
「あ、いや
……
」
どうこたえるべきか思案していると、すぐそばで稲光が走り、轟音が鳴り響いた。雷が落ちたのだろう。
それを合図にしたかのように、外からは激しい雨の音が聞こえ始めた。ゲリラ豪雨だろう。
「うわぁ
……
」「すごい雨だね」「あともう少し遅かったら、びしょ濡れになってたかも」
彼女たちの関心は、この激しい雨へと移った。
彼女たちの質問をうまく躱すことができて、降谷は心の中で安堵する。降谷はスマホで雨雲レーダーを見て、彼女たちに助言した。
「一時間後くらいには雨脚が弱まるみたいだから、そのタイミングで家に帰るといいよ」
「「「はーい!」」」彼女たちは元気よく返事をして、今度は別の話を始めた。
雨の音がやわらかくなり始めた頃。彼女たちの席でスマホが鳴り、「木村君からメールが来た!」とまなみが声を上げた。
「木村君は何て?」「まなみちゃんの作った生姜焼きが食べたい、だって!」「ほら、やっぱり言った通りじゃない!」
まなみは不安だったのだろう。ほっとしたのか、今にも泣きそうな顔をしている。他の二人は、良かったね! と声をかけ合った。
彼女たちの姿をどこか羨ましい気持ちでそっと眺めながら、降谷は窓の外へと視線をやった。
――
あの男は、今日はもう来ないのだろうか。
彼女たちが店を出たあと、入れ替わりで客が数人入ってきた。この天気のせいか、いつもより客の入りは少ない。それから再び雨脚が強まり、客足は増えることもなく、ポアロは閉店時間を迎えようとしていた。
誰もいない店内で、洗い終えた皿やグラスを片付けていると、店のドアが開く。
「すみません。今日はもう閉
――
」
反射的にそう言いながら顔を上げると、そこにはびしょ濡れの沖矢昴がいた。変装した状態でびしょ濡れになるなど、危険極まりない。
「
……
間に合わなかったか」
声は沖矢だが、口調は赤井である。
「そんなに濡れて
……
いったい何をやっているんですか」
いつもの声音で言ったつもりが、声が震えてしまった。
「少々仕事が長引いてね」
沖矢の息が、少し上がっている。
「それで、傘も持たずに、ここまで走って来たんですか」
「ああ」
ぽた、ぽた、と、水滴が床に落ちる音が聞こえる。
「
……
そのままじゃ、風邪、引きますよ」
店の奥にタオルがあったはずだ。タオルを取りに行こうと歩き出したところで、それを引き留めるように沖矢が声を上げる。
「そろそろ、帰ってきてくれないか」
降谷はその場に立ち止まった。
まさかこのタイミングで言われるとは、まったく思いもしなかった。降谷は振り返り、沖矢をまっすぐ見つめた。
トン、トン、と降谷は自分の首を指で叩く。沖矢はひとつ苦笑して、チョーカーのスイッチを押す。そして沖矢に扮するための変装マスクを脱ぎ捨てた。
降谷は赤井に問いかけた。
まなみたちの会話を聞いていて、ひとつ気がついたことがあったのだ。
「僕のいる時間を狙ってここに来るほど、僕の作るご飯が恋しいんですか」
赤井が驚いたように目を見開く。
小さな静寂が降りた。床に落ちる水滴の音が、やけに大きく聞こえる。
赤井は小さく咳払いをした。
聞き慣れた低い声が、静かな店内に広がってゆく。
「それもあるが
……
君のいない家は、どうも落ち着かん」
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