普段はそんなこともないのに何故だがこの人の前だと顔に熱が溜まる。彼の前だと言いたいことも言えなくなり喉が震えるだけ。動けなくなる身体は何を意味しているのか。
これを恋以外になんて表現すればいいんだ。
「単純に畏怖では」
「無きにしも非ず」
酷い言われようだ。
まぁ彼らの言いたいことはわからんでもない。普段片割れとともに悪ガキの如く行動していること、思いつきで始めて失敗して、驚かせては怒られている。
「というかこれが仮に恋だとしたら治はどうしたいの」
弄っていたスマホから少しだけ視線を浮かせた同級生は射抜くように俺を見た。その視線にギクリと身体を硬くさせて彼の視線を逃れるように俯く。
「べ、べつに……」
「へんなとこで思春期出さんでええやろ」
「絶対エロいこと考えとる」
「酷ない?」
「お前の兄弟とあんまり変わんないでしょ」
「飛び火させんなや。考えてまうけど」
「というか先輩で下品な話広げんなや」
まぁ実際は考えないこともないのだがそんな余裕がない。なにせ本人を目の前にすると頭が真っ白になってしまうから。そんなことを零すと同級生どもは呆れたような、化物を見るような目を向けられた。なんやねんその目。
「……お前が無垢とかありえないんだけど」
「はぁ~? 俺はいつでも純粋無垢やろ」
「片割れ見て言えよ」
「そこは鏡やろ」
「それは俺にも酷いやろッ!」
ムキーッと怒る片割れを放置しつつ、思い浮かべるのはかの人のこと。本人が目の前にいなければあがってしまうこともないのに。……ちょっと嘘。
ああ、今日の放課後も彼を意識しないようにしないと。
そう思っていたというのに。
「お前らな……」
今日の俺は恐怖に震えている。もちろん、発端の片割れもだ。
休憩中に片割れの飛ばしたボールがいくつかのドリンクボトルをなぎ倒し、近くに居た俺と……北さんに中身が降り注いでしまった。コントか。
「とりあえず信介も治も着替えてき。侑の説教はやっとく」
頼もしい先輩のその言葉に片割れが飛び上がり俺は心臓が震えあがった。
もしかしなくとも、二人きりになってしまう?
流れるように北さんが呆然とする俺を誘導して部室へ。その間雑巾とバケツを持ち出していく同級生たちと片割れを正座させる先輩たちが見えた。もうどうにでもなれ。
「治、風邪引くからはよ着替ぇ。着替えはあるやんな?」
「う、あ、はい……」
「お前には怒ってへんから構えんな」
ギィ、バタン。彼のロッカーが音を立てる。その音だけで俺の身体はガチガチになってしまう。ロッカーの中で鞄を漁り、布が擦れる音が聞こえてくる。あれもしかして、これエロい話っすか。
思わず視線を彼に向けて、固まってしまった。
ドリンクで濡れてしまったシャツを脱ぐためにめくり上げられたシャツ、そして見える北さんの腹。
時間が文字通り止まったように思えた。
「…………さすがに、そんなに見られとったら着替えにくいわ」
そんな邪な俺の視線に気づいたらしい彼がこちらに言葉を向ける。
彼の顔をちらりと見ればなんだか少々赤らんでいて、ぎこちない彼の視線が絡んで――爆発。
「あ、あの! 俺っ!」
震え上擦る声、ひりつく喉に乾く口内。それでも止まらない。
「き、北さんのことが、すっ、好きです!」
俺の声がその場に轟いた。これだけ間近で大きな声、彼に届いていないはずがない。ぎゅっと顔が力んで思わず目を閉じてしまった。
「だから! そんな無防備にせんといてくださいッ!」
こんな間抜けな告白、将来きっと酒のつまみにされてしまうだろう。
ドッドッドッと暴れる心臓をそのままに彼の反応を待った。
するとどうだろう。小さく呆けたような「は?」という声が俺の耳に届き、そっと瞼を開けると――先ほどよりも顔を赤くする彼の姿がそこにあったのだった。
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