六花
2026-06-20 16:25:15
4881文字
Public アークナイツ:エンドフィールド
 

かわいいわるだくみ

ウル管♂。彼シャツ管理人くん。

「キャトロ、いるかい?」
管理人の権限で、ウルフガードの部屋に入った管理人はきょろきょろとウルフガードの姿を探す。どうやら、シャワーを浴びているらしい。
管理人は思わず、わるだくみを考える。
ウルフガードがいつも着ている服を自分が着たら、キャトロはどんな顔をするだろうか?そんな些細なわるだくみである。
そんな訳でウルフガードの服を管理人は勝手に拝借し、着る。案の定、背格好がウルフガードの方ががっしりしていて、身長もあるのでぶかぶかである。
「へぇ……キャトロ、もっといい服買えばいいのになぁ……」などと、ひとりごちてしまう、管理人であった。
さて、脱がないとな、と思った管理人であるが、ウルフガードの香りに包まれていると安心する。なんだか、しばらく着ていたい気分だ。
管理人は自分の姿を鏡に映し、妙なポーズをとったりして、楽しんでいた。
「何をしているんだ」
「えっ!?あ、キャトロ……いや、これは違うんだよ」
ウルフガードの髪からは、雫が落ち、これから寝るのか、寝間着を着ている。まさか、シャワーから出れば、管理人が勝手に自分の服を着ているとは……。それ自体に怒っている訳ではない。
だが、管理人が自分の服を着ているという優越感のようなものに、気づいてしまい、ウルフガードは慌てて、自身の表情筋を確認する。
「ご、ごめんね。すぐ脱ぐよ」
「いや、ここで脱がれたら逆に……洗濯するから、ランドリーにでも押し込んでおいてくれ」
「うん。嫌だよね……?」
管理人が恐る恐るウルフガードに上目遣いに聞けば、ウルフガードはしばらく答えに窮す。嫌か、嫌じゃないか、と言われれば、むしろ、自分の服を着てはしゃいでいた管理人に対して、嬉しいくらいだ。だが、それを口にしたら、逆に管理人に気持ち悪がられるのではないか、という気持ちがある。
そもそも、ウルフガードは不器用であまり多弁な方ではない。
「嫌じゃないが、その、困る」
「何に?」
ランドリーの方から、管理人の返事が聞こえる。ウルフガードは髪も乾かさず、ランドリーに行き、管理人を抱きしめる。
「こんな事をしたくなってしまうからな」
「キャトロ、それって……
「全部言わせるな」
「聞かせて欲しいけどな。僕は聞きたいよ?キャトロの口から全部聞きたいんだけど……でも、別にいいよ。全部、今ので分かったから」
聡い管理人は全てお見通しという訳だ。ウルフガードは、とんでもない相手を恋人にしてしまったと思う。
そもそもが、管理人には敵いそうにないのだ。
「それはいいだろう……しかし、お前、身体が細いな。ちゃんと食べているのか?」
「これでもメディカルチェックではいつも良好だよ。心配?」
「ああ、お前の細さは心配になる」
「そうかなぁ……。標準体型だと思うけれど」
「でも、お前の体重が増えたら、お前が少し増えるという事だ」
「キャトロの理屈、少しおかしくない!?」
「おかしくない」
だが、管理人は、いつもの仏頂面のウルフガードに対し、管理人は笑ってしまう。こういう時、彼はすごく可愛くなるのだ。たまらなく可愛い。もっと揶揄いたい、という管理人のわるだくみが発動してしまう。彼は本当に悪い男なのだ。少なくとも、ウルフガードにとっては。
「じゃあ、太ってもいい?そうしたら、キャトロは僕が増えるのが嬉しいんだよね?」
……減量してこい」
「なんでそうなるの?」
「冗談だ。体重に関しては、お前に任せる」
ウルフガードは、ひょいっと管理人を姫抱きし、ベッドまで連れていく。
「わぁっ、キャトロ?どこに連れていかれるの……?」
「この状態でお前を離す事はしない」
「僕、自分で歩けるよ」
「俺がしたいからしているだけだ。……だが、重くなったな。もう少し軽い方が良いだろう?」
「うーん……キャトロは僕を太らせたいの?痩せさせたいの?どっち?」
「分からない。だが、今のままのお前を……
「何?」
「なんでもない」
「何?聞きたい!」
「何でもない、と言っただろう……
ウルフガードの腕の中でじたばたと暴れる管理人を、ウルフガードはきゅっと強く抱く。
「重い?」
「いや、丁度いい」
「キャトロ、そろそろ降ろして欲しいなぁ」
「降ろすのに、抵抗があったから、ついこうしたくなってしまった」
ウルフガードはゆっくりと管理人をベッドにおろす。自分よりもずっと細くて小さい。だからこそ、守らなければ、という思いが募る。
「キャトロ。あの、僕、疲れてるから眠くなってきた」
「なら、今日のところは俺の部屋に泊まっていけ。ここは俺しかいないから大丈夫だ」
「うん、ありがとう。キャトロ、大好き」
ウルフガードの首に腕を回し、キスをしながら、ウルフガードに寄りかかる。ふにゃりとした笑みで言われては、ウルフガードは耐えられず、管理人を再びぎゅっと抱き締める。
「あの、キャトロ。重いかもだけど、僕も抱っこしてみていい?」
「構わない」
「ふふっ、キャトロを抱っこできるかなぁ」
管理人は興味津々といった顔でウルフガードを見上げた。明らかに期待と不安が入り混じった表情だ。
「無理だろう」ウルフガードは冷静に答えた。「俺より軽いはずだが?」
「わかってるけど……試してみたいの!」管理人は両手を広げてウルフガードを招いた。「ほら、来て?」
ウルフガードは苦笑しながらも膝を折り、管理人に合わせて腰を落とした。それでもまだ背丈の差がありすぎる。
「よいしょっ……!」管理人は全力でウルフガードの肩に手をかけた。顔を真っ赤にして力を込めるものの——
「うーん……
ウルフガードは微動だにせず立っていた。まるで壁のように動かない。
「ちょ、ちょっと待って! 足が震えてる……!」管理人は必死にウルフガードの肩につかまろうとするが、腕力では到底支えきれない。
「おい、危ないぞ。無茶をするな」ウルフガードは心配そうに声をかけたが、内心では微笑まずにはいられなかった。管理人が自分のためにここまで一生懸命になっている姿が新鮮だったのだ。
「だって……キャトロが僕を抱っこしてくれたから、次は僕の番だと思ったのに……」管理人は残念そうに唇を尖らせた。
「強がりを言うな。お前にはまだ早い」ウルフガードは優しく肩を叩いた。
「じゃあ筋トレする!」突然管理人が宣言した。「毎日腹筋百回と腕立て伏せ五十回やる! 食事もタンパク質多めにする!」
「そこまでしなくても……
「絶対する! キャトロが僕のことを重いとかいうから……!」
「言ってないだろう」
「言ったようなものだよ!」管理人は憤慨した様子でベッドに座り込んだ。「来週までに絶対にキャトロを持ち上げてみせるから!」
ウルフガードはため息をついたが、その瞳には確かな温かみが宿っていた。管理人の単純ながらも一生懸命な性格が愛おしいのだろう。
「わかった。待っててやる」
「本当に?」管理人は目を輝かせた。「約束だよ? 筋トレメニュー考えてくれる?」
「勝手に考えろ……と言いたいところだが」ウルフガードは珍しく柔らかな表情を見せた。「明日から一緒に基礎的なトレーニングをする。だが無理は禁物だ。怪我をしては元も子もないからな」
「やった! キャトロと一緒だと効果ありそうだね!」管理人は嬉しそうに足をバタつかせた。
「それより今日はもう休め。夜更かしすると筋肉も育たないぞ」
「はーい……
「それにしても」ウルフガードは不意に真剣な眼差しになった。「なぜ急にそんな事を?」
管理人は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「だって……」小さく呟く。「僕ばかりが抱っこされてたら……なんだか不公平だと思ったから」
ウルフガードは静かに管理人の隣に腰掛けた。
「お前が何をしても、俺はいつも以上に満足している」
「え?」
「抱っこされたことなど、それほど重要ではない」
ウルフガードはそっと管理人の頭を撫でた。その手つきがあまりにも優しくて、管理人は驚いて固まってしまった。
「お前が側にいてくれればそれで十分だ」
普段滅多に感情を表に出さないウルフガードからの告白に、管理人の頬が一気に赤くなった。
「それ……ずるい……
「何がだ?」
「そういう台詞をさらっと言うところだよ……!」
「事実を述べただけだ」
管理人は恥ずかしさをごまかすように布団に潜り込んだ。
「おやすみ!」
「ああ。おやすみ」
翌朝から、管理人の挑戦が始まった。毎日の筋トレメニューを継続するべく、朝早く起きてストレッチからスタートする。最初は腹筋二回ですら苦労していたが、「キャトロを持ち上げる」という目標が管理人を奮い立たせた。
三日目になると腕が筋肉痛で震え、五日目には背中も痛くなった。それでも管理人は諦めず、日に日に成長していく自分の身体を感じていた。

一週間後——……
「キャトロ!」
管理人は意気揚々とウルフガードの部屋を訪れた。薄い運動ウェアを着たまま汗を拭っている。
「成果を見せる時が来たよ!」
ウルフガードは書類から顔を上げた。目の下に僅かな隈が見える。
「無理はしていないだろうな?」
「もちろんだよ! ちゃんと休息も取ってるし、栄養バランスも考えてる!」管理人は胸を張った。「さあ! そこに座って!」
ウルフガードは大人しく指示に従い、床に腰を下ろした。管理人は慎重に膝立ちになり、ウルフガードの脇の下に手を入れようとする。
「よいしょ……っと!」
全身の力を振り絞りながら管理人はゆっくりと膝を伸ばした。最初は全く動かなかったが——
「うおおおっ……!!」
徐々に、本当に微かだが、ウルフガードの体重が浮いていくのを感じた。
「できた……!」管理人は歓喜の声を上げた。
確かに数センチ程度かもしれない。短い時間だったかもしれない。だが、管理人にとってそれは大きな一歩だった。
「やった! キャトロを持ち上げたよ!」
ウルフガードは驚きながらも、すぐに管理人の表情に微笑みが浮かぶのを見逃さなかった。
「よくやった」彼は素直に称賛した。「短期間でこれだけ進歩するのは大したものだ」
「本当? じゃあ……」管理人は挑戦的な笑みを浮かべた。「もう一度やってみる?」
「いや」
「えっ?」
「今は疲れているだろう」ウルフガードは立ち上がりながら言った。「毎日続けることが大切だ。焦る必要はない」
管理人は少し残念そうな顔をしたが、すぐに納得した表情に戻った。
「わかった。じゃあ、これからもよろしくお願いします!」
「ああ」ウルフガードは小さく頷き、不意に真面目な口調で続けた。「お前が頑張るのは結構だが……俺を抱き上げることよりも重要なことがある」
「なに?」
「俺をお前でいっぱいにすることだ」
管理人の顔が再び真っ赤になったのは言うまでもない。
「キャトロ……そんな言い方、ずるいよ」管理人は顔を赤らめながら視線を泳がせた。
「事実を言ったまでだ」ウルフガードは淡々と言い放ち、腕を組んだ。「抱き上げる行為よりも、お前が俺にどれだけ心を傾けてくれるかの方が遥かに重要だ」
「でも僕は……」管理人は自信なさげに俯いた。「君みたいに強くないし……何も持ってない」
「お前はすでに持っている」ウルフガードは静かに歩み寄り、管理人の肩に手を置いた。「この一週間で見せてくれた努力と情熱が、お前を何よりも特別にしている」
管理人の目が潤んだ。自分なりに頑張ってきたつもりだったが、ここまで直接的に評価されるとは思わなかった。
「それに」ウルフガードはさらに続けた。「俺はお前を信じている。それが何よりの宝だ」
「信じてる?」管理人は小さく呟いた。「僕を?」
「ああ。お前が俺を選んでくれたこと、そして今日までの日々すべてが証明だ」ウルフガードは珍しく穏やかな笑みを浮かべた。「だからこそ俺も誓う。お前を決して失わない」
管理人は溢れる涙を抑えきれず、思わずウルフガードに飛びついた。

了。
畳む