ローエンが謎の場所から助けてくれる話

某ホラゲ舞台のパロです。

——どうして、なんでこんなことに!

 軽い気持ちでアルバイトに応募したのがダメだった。深夜の誰も居ないフロアを監視するだけ、部屋から出て見回りする必要はない。それだけで大量の賃金が手に入るという旨い話に飛びついてしまった。
 しかしどうだ。実際には、いくつか配置されている監視カメラに……映るはずがないものが、見えているのだ。

「なに……あれ、だって……誰も居ないって…………

 警備室のモニターには、そこにあるはずない動物の着ぐるみが……しかも複数映るのだ。カメラを切り替える度に場所が変わるそれらは、自ら動いているとしか言いようがない。
 部屋の電子錠は電源が有限だという。ずっと施錠していることができない、そんなことしたら電源がなくなった途端に、あの着ぐるみ達が——
 想像してしまったこと自体に後悔した。前任者が残したメモは「警備室に奴らを入れてはならない」とか書かれていたが、大して役に立たない。なんとかして、今晩を何事もなく過ごさなければ……


 ……作戦を立てよう。
 あの着ぐるみ達は自主的に動いてはいるが、瞬間移動ができる訳ではなさそう。なので、監視カメラで位置を把握して、奴らが警備室に近くなったら扉を閉じるのだ。モニターにも電源は必要なので、節約していかないと……あぁもう!手が震える‼︎

 ——カツン、カツン
 来た。近くに何かいる。近場の監視カメラを確認すると、着ぐるみの一体が警備室方面に体を向けている。近づいているのは、この着ぐるみのようだ。……怖い。
 カメラを切り替えて場所を把握する。そして、一番近くのカメラの死角に入ったタイミングで、電子錠をオンにした。
 ——カツン、カツン……
 扉の外に、いる。今ドアを開けたら、私はどうなるのか……。息を顰めて、音が遠ざかるのを待った。一番近くの監視カメラに再度映ったことを確認し、電子錠を解除する。……うぅ、電源の残りがもう少ない。
 自然と浅くなった呼吸を落ち着かせつつ、もう一度監視カメラのモニターを確認する。

……えっ?」
 なんだ、いま映った影は……

 着ぐるみではない……人影のような、何かが動いた。
 そのまま食い入るようにモニターを見ていると、画像が荒くてよく見えないが、少し小柄な男性のように見えた。こんな化け物が闊歩するフロアを一人で……、そんなこと私には絶対無理むり!
 その人影が進んだ先にカメラを切り替えると、先ほど警備室近くにいた着ぐるみが映る。そして、先ほどの人影が着ぐるみへと接近したのだ。
「あ、危ない……!」
 モニター越しなので聞こえるはずはないのに、思わず叫んでしまう。

 ……ザザッ
 一瞬、モニター画像が乱れた。そしてもう一度モニターが映像を映し出した……のだが、そこには先ほどの人影と、切り刻まれた着ぐるみが床に伏した状態が映っていた。数瞬間で何が起こったのか。訳も分からずにモニターを眺めつつ少しズームすると……その人影はニコリと笑いながら、口を大きく動かした。
 ——つぎは、おまえか?
 
 監視カメラ越しに目が合った——合ってしまったような気がした私は、急いで別のカメラに切り替えた。
 しかし、どうしたことか……他のカメラの映像にも、切り刻まれた別の着ぐるみが映るのだ。あんなに脅威だったというのに、今は動く着ぐるみが居ないことが逆に不安になってしまい、必死に探す……いない。どれも倒れている。

 ——カツン、カツン
 あ。……あの彼が、すぐそこにいる。

 慌てた私は扉の電子錠をオンにした——はずだった。しかし何度もボタンを押しても、扉が閉じてくれない。なんで⁈
 理由は簡単だった。無情にもいつのまにか電源が底をついており、扉が閉めることができなかったのだ。
 あぁ、終わった……どうして、なんでこんなことに……


 もう何度スイッチを押しても鍵のかからない、開きっぱなしの扉からは……あの人影の正体が警備室へと侵入してきた。

「いやぁ、こりゃ散々なところだな」
…………えっ」
「お前は生きてる人間、だよな? 俺はローエンだ。俺と一緒にここから脱出するか?」

 端正な顔立ちで少し小柄な、ライムグリーンの髪色をした青年——ローエンさんは、ぺたりと座り込んでしまった私へと手を差し伸べてくる。
 スッと背後に隠したナイフを持つ左手も気になったが、彼の頬と服に血ではない……正体不明の紫色の液体が付着していることに気がついた。やはり着ぐるみを倒したのは彼なのだろうか。差し伸べられた右手にも付いていたその液体を、私が眉を顰めて見つめていると「——あ、」と彼は小さな声を出した。彼は身につけていた手袋を器用に外して床に投げ捨て、もう一度手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとう……ございます、ローエンさん。今夜は変なことばかり起きるから、私はもうダメかと……
 一人きりではなくなった安堵からか、涙が溢れそうになるのを必死に堪えつつも、差し出された彼の方へと手を伸ばす。私の伸ばした手が、彼の手に触れる直前に「——へぇ?」と彼が声を漏らす。

——どっちが良かったんだ? 俺もあいつらの仲間だったら……お前はどうするんだ?」

 言われた言葉に思わずビクッとして手を引っ込めようとしたが、遅かった。更に伸びてきた彼の手によって私は捕まり、ローエンさんは私を引っ張り上げて立ち上がらせた。
 混乱していたとはいえ、大事な事を考えそびれていた。この目の前の彼は、誰なのだろうか。信じて良い人なのだろうか。
 ……一体、どこから現れたのだろうか。

「ハッ、冗談だよ。出口まで案内してやるから、行こうぜ」
「え……あ、はい。ありがとう……

 ローエンさんに手を引かれて向かった先には、扉が一つ。
 ……あれ?こんな扉、どこかにあったのだろうか?
 
 その疑問が浮かんだ時にはもう手遅れだった。私の手を引きながら振り向いた彼が妖しく笑い、その顔を見ながら扉をくぐり外へ出た瞬間——私は突然、意識を失った。



『さて次は、どんな世界に繋がってやがるんだ?』