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MOMIG
2026-06-19 14:32:28
1299文字
Public
Layer after Layer
一生終わらん書きかけの📱🚂供養
換気扇の低い唸りが、天井付近で途切れなく回っている。ガレージには金属がぶつかる音と、機械の駆動音が絶え間なく反響していた。
吊るされたフルフェイスのヘルメットを前に、トーマスはスプレーガンを置く。乾燥待ちの艶消し黒が、照明を吸って鈍く反射していた。
作業机には古紙とマスキングテープ、切り落とした耐水ペーパー。塗料の匂いが薄く滞留し、机の隅では古い塗膜が何層にも固まっていた。塗膜の塊を切り分けるように、トーマスはスクレーパーを差し込み、机に癒着したそれを力任せに剥がす。
べき、と硬い音。
厚く積もった塗膜の断面が覗く。黒、灰、暗緑、鈍い赤。何度も吹き重ねられた色が、地層のように圧縮されていた。
「何コレ?」
背後から覗き込んできたアタリが、その塊をひょいと摘み上げる。
「捨てるやつ」
「へえ」
返事をしながら、アタリはその塊を作業台のライトへ透かした。ただのゴミにしか見えない。吹きすぎた塗料が垂れ、乾き、積もっただけの汚れの塊。
だがアタリは面白そうに、その塊を見ている。表情は変わらないが、目線の動かし方が〝興味津々です〟と物語っている。
「これ、アレだ。ミルフィーユみたいだな」
「色からしてゲテモノじゃん。食うなよ」
「食わねえって」
アタリはそのまま工具箱を漁り、小型ナイフを取り出す。勝手にヒトの作業台へ腰掛け、塗料の塊を削り始めた。
何か遊びを思い付いたらしい。
「散らかすなよ」
「さっきからなに。ガキじゃねえって」
薄く削れた表面から、艶のある色層が覗く。黒の下から出てきたのは、鮮やかなオレンジ。アタリが「へえ」と音を漏らした。
「黒ばっかかと思ってた。オレンジとか使うんだ」
「昔の仕事の名残」
「ふうん?」
さらに削る。今度は深い青。
「いーじゃん、青。似合そ」
「誰に」
「トムに」
トーマスは鼻で笑い、剥がした塗膜をダストパンへ落とす。
「趣味悪ィな」
「そお? 瞳の色と合ってると思うケド」
トーマスは片眉を上げるだけで、何も言わなかった。
青は、ゲリラ部隊を象徴する色だった。そんなこと、アタリは知る由もない。ただ勝手にトーマスがそう意味付けしているだけだ。
アタリは気にした様子もなく、黙々と塗料塊を磨いている。削るたび、別の色が出る。境目は歪で、均一な層は一つもない。
塗り直し、補修、上塗り、失敗。そういうものが押し固められて、偶然こんな断面になっている。
トーマスは乾燥中のヘルメットへ視線を戻した。艶消し黒の下にも、もう消したはずの色が残っている。古い部隊識別の白線。駆け出しの民兵時代の粗い迷彩。企業警備の灰青色。削ればまだ出てくるだろう。
どれが元の色だったのか、もう自分でも覚えていない。
「お。見てみ、トム」
差し出された塗料の塊は、角を落として磨かれ、小さな鉱石のように艶を帯びていた。黒の中に、赤や橙、青、その他様々な色が複雑に走っている。
「これはこれで、なんかいーね」
「
……
かもな」
アタリのモニターの光が、塗料の塊を淡く照らしていた。
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