shiroyakei
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ファストフード

※学パロ

オロイフ旧ワンドロワンライ
(現ツーウィークドロライ)
第3回『ファストフード』より

「オロルン、お待たせ。帰ろうぜ」
「ずいぶん遅かったじゃないか、イファ。図書室に本を返しに行っただけだろう?」
 オロルンは持っていた花や植物の本を閉じると、己のスクールバッグに本を入れて、肩にかけた。そしてイファの席に置かれたスクールバッグも手に取ると、教室の扉の前で待つイファへ差し出した。ありがとな、とイファはそれを手に取ったあと、オロルンが肩に掛けるのとは対照的に、イファはリュックのように背負った。
 ほとんどの生徒はとっくに下校している時間で、教室にはオロルンとイファ以外の姿はなかった。

「ああ、本を返すのはすぐ終わったんだけどさ図書室を出たとこでマーヴィカ先生にばったり会って」
「うん」
「かなり急いでいたみたいだったから、どうしたんですかって聞いたらさ、クラス全員分の提出ノートを職員室へ運びたいのに、クラブの練習試合に立ち会わなきゃいけないらしくてさ」
「それでノートを代わりに職員室までもっていったのか? 週直じゃないのに」
「そんなに手間じゃなかったさ」
「お人よしだな、君は」
 下駄箱で靴を履き替えながら、オロルンが呆れたように小さくため息をつく。イファは苦笑して頬をかいた。
「待たせたのは悪かったって。なにかおごるからさ」
「待つのは別に構わないし、たいして待ってないから大丈夫だ。それよりその提案をするってことは、」
「ああ。あそこ行こうぜ。腹減った」


高校2年生のオロルンとイファが友人になったのは、中学2年生の時だ。
同じクラスだったものの、特に接点もなく、ふたりきりで話したこともなかった。とりわけイファは友人が多く、彼の周りには男女問わず自然に人が集まっていた。成績も優秀で品行方正な彼は教師からの信頼も厚い。休み時間にはクラスメイトに囲まれ、時には教師に呼び止められていることさえあった。スポーツも得意で、楽器まで演奏できる彼は、放課後には様々な部活動へ助っ人として顔を出すことも珍しくなかった。

季節が雨季から乾季に移り変わるころ。オロルンが花壇に熱心に水をやる姿がなんとなく気になって、イファは手伝いがてら彼に声をかけた。当時のイファはただなんとなく声をかけただけだったが、今思えばそれも彼らしいおせっかいだったのかもしれない。
イファは不思議で独特な世界観を持つオロルンに振り回されながらも、ともに過ごす時間が心地よくて─ただのクラスメイトから、打ち解けた友人になるまでそう時間はかからなかった。

 ふたりきりで登下校することが多くなっていったある日、帰り道。学び舎の廊下に驚いたイファの声が響いた。
『え、お前ってワック行ったこと、ないのか?』
『うん。というか、その……ハンバーガーもあまり食べたことがない』
……そうなのか』
『そんなに驚くことなのか?』
『ああ、俺はその……家族とそろって夕飯とかあまり食べないから、食いに行く頻度が高いんだ。家の近所にもあるし』
……そうか』
オロルンは何かを考えるように黙り込み、イファを見つめた。イファはなんとなくその視線を逸らすことが出来ず、夕暮れの橙色を浴びたオロルンの白い頬を見つめる。
食べてみたい、そのワックってやつ。君と一緒に行きたい』
『うぇ!? ……今からか?』
『ダメだろうか……
『別に俺は構いはしないが……その、お前のおばさんは大丈夫なのか? その、隣町の高校の養護教諭だって言ってただろ。食生活とか、厳しいんじゃないのか? 買い食いとかしていいのかよ』
『ばあちゃんか? 確かにいつも僕には手作りの料理を出してくれるが、当の本人の食生活は“おしまい”に近い時もあるぞ。……小説を読みふけっている時なんかは本当にひどいんだ。それに今の時間なら多少食べても問題ない。夕ご飯も問題なく入る』
……じゃあ、行くか! 俺はどうせ今日も夕飯はひとりで食べる予定だったんだ。お前がいいってんなら一緒にいこうぜ』
『うん。楽しみだ』




「お、期間限定。今日からか」
「僕はいつものやつにする」
「お前いつもそれだよな」
 イファは期間限定のサルサソースが入ったバーガー、オロルンはグランドメニューのバーガー。それぞれセットのポテトとドリンクをトレーに乗せ、混雑する店内をかき分けふたりは開いている席に座った。
「最初に来た時からずっとそればかり食べてるよな、飽きないのか?」
「飽きない。野菜はずっとそのままの味だし、僕らは同じ空の下にいるだろう。イファ、君は空を見上げるたびに、飽きたりするのか?」
「いや……飽きは、しないが」
「そういうことだよ」
「いやどういうことだよ。空とワックを同列に語るなよ」
「イファ」
「なんだよ」
「ポテトが冷めてしまう。早く食べよう」
「ああ、……うん。お前って、ほんと

 イファは探求心があったから、オロルンの難解な言い回しを理解しようと当初は思った。しかし、どうせ理解できないものは理解できないと諦めた頃には、もう彼の言動が面白くて仕方がなかった。こいつは言い回しが独特なだけで悪いやつじゃない。

 そう思いながらイファはサルサソース入りのバーガーを一口かじったのだが。
「わ、ちょっと待て……、これ結構辛いな」
 サルサソースは香辛料がたっぷり入っており、トウガラシがぴり、とイファの舌を刺激した。食えなくもないが、と二口目を含んだ時に、オロルンが口を開いた。
「イファ。辛くて食べられそうにないのなら、僕のやつと交換しよう」
「え、いいのか? って、食っちまったけど大丈夫か?」
「ああ、僕はまだこれを食べてないから気にしているのか」
 そういうとオロルンはぱく、と己のバーガーを即座に二口ほどかじって、イファに手渡した。あまりにも素早い動作に、「別にそこは気にしていないんだが」という反論を挟む隙もない。勢いに流されて、自分の持っていた期間限定のバーガーを手渡すしかない。
「君のこのバーガーのほうが値段が高いものだろう。今日の“おごり”でいいよ」
そういってオロルンはイファの歯形が残るバーガーにかじりついた。出会った頃にはなかった喉仏が、白い喉元でごくん、と上下する。その動きから、イファはなぜか目が離せなくなってしまった。
……イファ? 食べないのか?」
「たべる」
 そういってイファは、この謎の胸のざわつきとともに、オロルンの歯形が残るバーガーに食らいついた。