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ながみね
2026-06-17 23:18:27
5196文字
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シミュレーター・ルームの幽霊 おまけ
fgo。レフ関係者たちのお喋り
「君は反対してくれるかと思っていたよ」
隣に立つ男がぽつりと呟いた。
旧知の魔術師の遺品のような、この男を活かすための議論が今まさに眼前で繰り広げられている。生産的なのか時間の無駄なのかは微妙なラインだ。半分聞き流しながら、偽典ソロモンはため息をついた。
「反対だとも。役目を終えた道具を後生大事に保存してなんになる?
だが貴様、この件に関してオレが何か言える立場だと思うか」
「君もレフではあるんだろう」
「貴様を害した張本人でもある。正直なところさっさと帰りたいね」
ふふ、と何がおかしいのかレフの姿をした道具は笑う。じろりと睨め上げても動じる相手ではない。
「魔術式のくせにずいぶんと人間らしい。あの子達との暮らしはどうだい?」
「やめろ。貴様と世間話をするつもりはない」
「気まずいかな」
「必要がないからだ」
ここははっきりと強調しておく。人間は放っておけば勝手にこちらの内心とやらを推し量り、分かったつもりになってくる。度し難い愚かさだ。
拒絶の一線を引いたつもりだったが、レフは白熱する議論の様子を眺めながら淡々と指摘した。
「必要がないなら、さっさと処分しておけばよかったんだよ」
身も蓋もないコメントだった。
これが自虐であればまだ可愛げがあるかもしれない。だが、こいつの場合は"後片付けぐらいきちんとしておけ"程度の意味だろう。その推測を裏付けるように、どこか楽しげな響きが混ざる。
「困ったな。きみが彼らを連れてきたおかげで、私まで残業決定じゃないか」
「仕事は好きだろう? まだ使い途があったようでなによりだ」
世間話などしないというのに、いつの間にかまんまと乗せられている。それでも言い返さずにはいられなかった。
「──だいたい、なぜ貴様は無関係の人間まで巻き込む仕様になっている。困るというなら最初から入れないよう設定しておけばいいだろう。人類最後のマスターがここで死んだらどうする」
「うん?」
意外そうな顔でレフがこちらを向いた。
「もしかして君、どういうものか解析もせずにこの部屋の仕掛けを破壊したのかい?
純粋に力任せで? それはすごいな」
「
……
なにが言いたい」
「いや、魔神の強度と出力の強さに素直に驚いているんだ。
思いつきで追加したギミックではあったし、精度を上げる時間も余裕もなかったけれど、もう少し改良した方が良かったな」
まじまじとこちらの顔を見ながら暗殺計画の反省会などしないでほしい。よそでやれ。どうせ返事は求めていないだろうと、無遠慮な視線は無視を決め込む。
実際は惜しいところまでいったのだ、と教えてやる義理はない。
あの日。管轄外ではあったもののシミュレーターの不調の確認を頼まれて、一人で調整を行なうことにした。
予定外の割込み作業に、予想外のシステムの挙動。気づけばかつての見慣れた自室にいて、鏡写しのような自分の姿があった。
「やあ、調子はどうだい」
親しげに話しかけてくる顔は、間違いなくあの『レフ』だった。嵌められた。そう悟った瞬間の恐怖から、とっさに男の身体を薙ぎ払う。
『レフ』は物のように転がって動かなくなり、しかし次の瞬間、自分もまったく同じ傷を受けて床へと崩れ落ちていた。
一体何が起こった?
混乱の中でかろうじて理解したのは、生身の身体に相手のダメージがフィードバックされたということ。仮に手加減なしで『レフ』を両断していればどうなっていたことか。
──そうだ、あの場で死ななかったのはただの結果にすぎない。
「貴様、まさかとは思うが、他にも似たような罠が残ってはいないだろうな?」
ここは再現された南極のカルデア基地。まだ見つけていない罠まで再現されている可能性がある。
しかしレフはきょとんとして答えた。
「私が知るわけないだろう。他の仕掛けの情報を持たせていたら、君に解析されて事前に対策されてしまうじゃないか」
「くそっ、役に立たん
……
」
「わるいね。うっかり起動させないよう気をつけて」
困ったようにそう言って微笑む。悪気がないだけに、たちの悪い男だ。
「気休めになるか分からないけれど、まだ残っているとしても無意味に他人を巻き込むようなものではないよ。
私の設計思想もそうだったし」
「つい先ほどオレは藤丸ごと巻き込まれたばかりだが」
「チャンスを逃さないよう部屋に招くまでは条件が緩いんだ。その先は大丈夫さ。
『レフ』に見立てた人形を傷つけると『レフ』本体にダメージがいく、作りとしてはシンプルなものだから」
「
…………
」
言うまでもなく人形がこいつで本体がオレだ。
たしかにシンプルで分かりやすい。こいつがレフの姿形をとっている理由も納得した。だがなにより、
「趣味が悪い
……
」
これまでの自分の所業をすべて棚上げして、偽典ソロモンはうめいた。レフは「そうかな?」と首を傾げている。
魔術師の思考としては理解できる。デコイと呪いの両方を兼ねた、無駄のない設計だ。だが手の込んだ自殺のために自分自身の偽型を用意するというのはどういう心持ちだったのか。
「補足しておくが、べつに積極的な自傷願望があったわけじゃない。
おそらく私(レフ)のことだから、思いついてやってみたらできた、くらいじゃないかな。たまたま手元に都合のいい礼装があって、素材もシバの観測データを流用すればよかったからね」
のんびりした口調に頭が痛くなってきて、偽典ソロモンは瞑目した。
かつてのレフ・ライノールはここまでゆるい奴だったか? 分からない。再現性が低いと言い切るにはそれなりの年月が過ぎてしまっていた。
「ちょっとそこのオブザーバー二人! ちゃんと話を聞いているの?!」
オルガマリーから叱責が飛んでくるが、もう相手をする気にもなれない。代わりにレフもどきが「聞いてるよ」と答える。
「色々と案が出ているけれど、まずは現在の機能をベースに利用条件緩和と調整で対応できるものから、だろうね。
それ以上は追々でいいんじゃないか。焦ることはないだろう」
「そう? たしかにやりたいことを並べ過ぎて、とっちらかってきてるわね
……
」
そう言ってオルガマリーはホワイトボードの表面を覆い尽くしそうな書き込みを振り返る。
この委員会メンバーに問題があるとすれば、ストッパーがいないことだ。アクセルベタ踏みの藤丸とキリエライト、面白そうなことには乗っかる技術顧問、本来止めるべき立場の所長も結局全ての案を通してしまっている。やはり新経営顧問を呼ぶべきだったのではないか。
オルガマリーはわざとらしく咳払いすると、出ている案を短期目標と中・長期目標に仕分けすることを提案した。はっきりボツにした方がよさそうな案もあるが、これで少しは現実的な話し合いになるだろう。
「
……
呑気な連中だ。一年限定の残業期間に何をしているのだか」
「いいじゃないか。たまには気分転換や息抜きも必要さ」
偽典は視線だけ動かして隣の男をじとりと睨む。
「貴様も貴様だぞ。なにが"追々"、"焦る必要はない"、だ。面倒な案を後回しにして有耶無耶にするつもりだろう」
「そんなことはないよ。基本的には彼女たちに任せるさ」
「本音は」
「うん、私のゆるキャラを模ったカフェメニュー考案のあたりから理解を諦めた」
はあ、と偽典ソロモンはため息をつく。
「嫌なら嫌だと言えばいい。よりにもよって貴様が、一体なにを遠慮しているんだ」
減らず口のお喋り人形は、しかし答えるまでに一呼吸分ほどの間を挟んだ。
「私には指示を拒否する自我も権限もないが、あるように振る舞った方がいいだろうか」
不意打ちのような言葉だった。
皮肉や悲嘆といった調子ではない。彼はいつものように後ろ手を組み、すんなりと背筋の伸びた自然体で佇んでいる。
だからフラウロスも、人のように扱われる道具の先達として答えることにした。
「──可能な限りは。ままごとでしかないのは奴らも理解しているさ」
すでに失われたものの再演だとしても、それを喜ぶ彼ら彼女らの心の動きは本物なのだから。
「なるほど、私に期待されているロールプレイの一環か」
レフの姿をした偽物はあっさりと納得した。その通りだ。その通りだが、そうではないだろうと苛立たしさも感じる。
こいつ自身のせいではないが、誰が悪いかとなるとやはりこいつではないか? 外見が似ているせいで余計に違和感がひどい。
「
……
レフ・ライノールは秘密主義の男だった」
「ん?」
話の展開が読めず、レフまがいの顔に疑問符が浮かぶ。
「友好的で面倒見がいい割に、肝心なことは何ひとつ漏らさなかった。
己の限界が近いことも」
それは自分にとっては都合が良かったが、今は関係ない。
だまって言葉の続きを待つ男に、八つ当たりじみたダメ出しをぶつける。
「あの男を模倣するのであればもう少し上手くやれ。
貴様の限界はオレが把握しておく。だからあいつらの前ではもっとレフらしく振る舞ってみせろ」
「
……
それもロールプレイの一環かな?」
「なんでもいい。分からないか? 貴様が己を道具とみなす言葉や性能限界を口にするたびに、キリエライトやオルガマリーの顔が曇るのを」
何故オレがこんなことを言わなければいけないんだと途中で冷静になりかけたが、ここまできたら腹を括るしかない。この分からず屋には最初にしっかり理解させておく必要がある。
「いいか、あいつらにとっては貴様が偽物かどうかなど関係ない。レフの姿をした者が己を軽んじる、その言動自体に傷つくような連中だ。
貴様が標的以外を傷つけない仕様だというなら
……
、ああクソッ、つまり何が言いたいかというとだな、少しはデリカシーを持てということだ!!」
「デリカシー
……
」
感情が読みづらい凪いだ目のまま、それでもどこか呆然としてレフは言われた言葉を繰り返す。
こいつも人外の魔神から人間の心の機微など諭されたくないだろうが、それ程ひどい有り様ということだ。
彼はやがてため息をつき、「分かったよ」と了承した。
「レフらしく振る舞うのは私の本分だ。
むやみに彼女たちを傷つけることはしない。不用意な言動は慎もう」
ぜひそうしてくれ。裏切り者の身で恥知らずにも説教をかました甲斐がある。
「
……
ところで、先ほどの話だと私のメンテナンスは君が担当することになるのかい」
「なにか文句でも?」
当然そのつもりでいたので、ムッとして言い返す。レフ・ライノールが厄介な遺物を残したのを、他人に尻拭いさせる訳にいくまい。
しかしその遺物は意外そうに目を見開いた。
「まさか、むしろ助かる。君なら上手くやってくれるだろう。
さすがに私の製造目的が目的だけに、断られるだろうと予想していたんだが」
「
……
べつに。もう今更だ」
こいつに限った話ではない。この会合の参加者だけみても、殺し、殺され、かつて敵対した者たちばかりだ。その上で協力すると決めてここに集っている。
「神話で語り継がれる天敵同士が普通に顔を突き合わせて生活している環境だぞ。貴様もさっさと慣れることだな」
「なるほど。なかなか刺激的で愉快な職場のようだ」
こちらの忠告を軽く受け流し、いまだ熱い議論が交わされる様子に目を向ける。
「大したものだね。皆まだ若いのに、そんな英霊たちが喧嘩しないように上手くまとめてきたんだろう」
「べつに最初からそうだったわけではない。
藤丸なぞ魔術師見習いどころか本物の一般人だったんだぞ?
失敗すれば全てが終わる状況で、できることを積み重ね、泥臭く戦い、信頼を培ってきた結果だよ」
「そうか
……
」
不要不急極まりない話題にまで全力なのはどうかと思うが、だからこそ手を貸してやろうという物好きまで集まったとも言える。様々な英霊たちで溢れる現在のカルデアの状況は、ここまで折れずに戦ってきた証だ。
彼らを見守るレフの横顔に、穏やかな笑みが広がる。
「──そうか、うん。頑張ったんだね」
誰に見せるためでもない、ただ教え子や若者たちの成長を喜ぶ表情だった。
(そういえば、こいつはこういう奴だったな)
ふとそんなことを思う。
かつては身の内から知覚するだけだったとはいえ、その心の動きには覚えがある。
今より遥かにどうしようもない組織だったカルデアにおいても、腐らず地道に努力する者を認め、その成長を善しとした。失われて久しいかつての横顔だ。
懐かしい、という感傷めいた何かが生まれかけたが、彼は即座に握りつぶし目を逸らして無かったことにした。
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