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ポほ
2026-06-17 22:57:29
6589文字
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オトメビギナー
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本当、なの?
第7話。
長町に映画を観に行くくだりはそのうち書いてもよいかも。
今でこそ仙台駅にTOHOシネマズがありますが(といってもできたのは10年前ぐらいですが)、割と話題作に絞って上映しがちで長町や名取や利府まで足を伸ばさないといけないことも度々あった印象。長町にはトランスフォーマー最後の騎士王を見に行った記憶があります。
コナンだったら駅前のTOHOシネマズでもやってそうだけど、買い物の用事でもあったのか、はたまた樹が学校の人と会うかもしれないのを気にしたとかか?そもそもどっちが誘ったのかとか掘り下げられそうですね。…と、こんな感じで話を考えてます。
五月。 ゴールデンウィークが明けたばかりということもあり、樹は朝から少しだけ憂鬱だった。
連休中は、宗真の剣道の他流試合を見に行ったり。 昨日は、長町まで出て二人でコナンの映画を観たりしていた。
休みの間は楽しかった。 だからこそ、また学校が始まると思うと少し気が重い。
月城家の前まで来ると、いつものように宗真が待っていた。
「おはよ!」
元気いっぱいの声が飛んでくる。
「
……
おはよ」
樹は少しだけ気だるそうに返した。
すると宗真が首を傾げる。
「なんか元気ないじゃん」
「うん、ちょっとダルくて。休み明けだからかな
……
」
「なんだ、大丈夫か?」
「まあ
……
五月病ってやつかも」
そう言うと、宗真は腕を組んで考え込む。
「映画館でポップコーン食べすぎたとか?」
「そ、そんなに食べてないもん
……
」
むっと頬を膨らませる。
そんな樹を見ながら、宗真はふと違和感を覚えた。
(樹のやつ
……
)
最近、度々思っていたことだが。
(なんか話し方もちょっと女の子っぽくなってないか
……
?)
もちろん、今でも宗真の前ではたまに「俺」と言うし、中身が変わったわけではない。 それでも、仕草や言葉遣いの端々が少しずつ柔らかくなっているような気がした。
本人に言ったら気にしそうなので黙っていたが。
そんなことを考えているうちに、二人は学校へと向かった。
そして樹が一組の教室に着いてしばらくした頃。
(
……
ん?)
樹は妙な違和感を覚えた。
椅子に座っているだけなのに、下着が湿っているような感覚がある。
(何だろ
……
)
嫌な予感がした。
じわり、と背筋に冷たいものが走る。
樹はそっと席を立ち、早足で教室を出た。
そして女子トイレの個室に駆け込み、慌ててスカートをたくし上げる。
下着を下ろした瞬間
――
。
「
…………
え」
声が漏れた。
白い布地に、赤い染みが広がっていた。
樹の思考が、一瞬で止まった。
樹は慌てて教室へ戻った。
(名取さんいるかな
……
)
また名取に頼ってしまうのか
――
。そんな後ろめたさはあったけれど今の樹は、それどころではない。
頭の中は真っ白だった。
「な、名取さんっ!」
「樹ちゃん
……
?」
勢いよく駆け寄ってきた樹に、名取は目を丸くする。樹は周囲を気にしながら、小声で言った。
「今トイレで、その
……
血が、いきなり出て
……
! こういうの何て言うんだっけ、えっと
……
」
「あ
……
」
名取はすぐに察した。
「もしかして、急に来ちゃった?」
「う、うん、そう
……
!」
(通じた
……
?)
樹はほっと胸を撫で下ろした。名取は慣れた手つきでポーチを開く。
「はい、これ」
取り出したのはナプキンだった。周りから見えないように、そっと樹へ渡してくれる。
しかし。
樹は受け取ったまま固まった。
「えっと
……
」
「?」
「これ、どうやって使うの
……
?」
名取が瞬きをする。
「樹ちゃん、もしかして
……
初めて?」
「う、うん
……
」
樹はこくりと頷いた。
名取は少し考えてから、小さく笑う。
「そっか」
そして立ち上がった。
「じゃあ、着けてから一応保健室行こっか」
「え
……
?」
樹は目をぱちぱちさせる。
「初めてなら色々説明も聞いた方がいいし。それに、具合悪くなったりする人もいるから」
「そ、そうなんだ
……
」
樹はますます不安になった。
だが名取は落ち着いた声で続ける。
「大丈夫だよ。私も最初はすごくびっくりしたし」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
名取は優しく笑った。その笑顔に少しだけ安心して、樹はナプキンを握りしめる。
――
けれど。
(その体型で、まだ来てなかったんだ
……
)
名取はふと首を傾げた。
もちろん、生理が来る時期なんて人それぞれだ。体格だけで決まるものでもない。
(それにしても
……
)
樹の慌て方は少し異常だった。
まるで、生理というもの自体を知らなかったみたいに。
(学校でも習うよね
……
?)
そこで、不意に以前の会話が蘇る。
『本当は、俺
……
男なんだ』
以前樹から呼び出された時に聞いた言葉。あの時は冗談だと思った。
というより、そう思うことにした。
けれど
――
。
(もしかして)
名取はちらりと樹を見る。
不安そうな顔でナプキンを見つめている。
(樹ちゃんが前に言ってたことって
……
)
胸の奥が、少しだけざわついた。
(あれ、本当に冗談じゃなかったの
……
?)
保健室。
「初めてだったの? びっくりしたでしょう」
養護教諭が優しい声で尋ねる。
「はい
……
」
樹は小さく頷いた。
「でも、お友達が助けてくれたのね。明日からはナプキンを持ち歩かないとね」
そう言われて、樹は隣にいる名取を見た。
「樹ちゃん」
名取は柔らかく微笑む。
「ナプキン、返さなくていいからね。こういうのは助け合いだから」
「そんな
……
悪いって」
「いいからいいから」
名取は軽く手を振った。
「樹ちゃんは休んでた方がいいよ?」
「そうね」
養護教諭も頷く。
「顔色もあんまり良くないし、次の授業まで少し寝ていく?」
「え、えと
……
じゃあ、そうします
……
」
正直、少し助かった。
お腹は重いし、頭もぼんやりする。
「じゃあ私は教室戻るね」
名取は立ち上がった。
「ノートは後で見せるから、ゆっくり寝てて」
「ありがと
……
ごめんね」
「謝ることなんてないよ」
名取は少しだけ困ったように笑った。
「樹ちゃんが困ってたから助けただけ。
……
じゃあ、またね」
「うん
……
」
そうして名取は保健室を後にした。
静かになった室内で、樹はベッドへ横になる。
保健室へ来てから、養護教諭には生理の仕組みや、必要なものについてひと通り説明してもらっていた。
(なんだか頭もお腹も痛い気がするし
……
)
天井を見上げながら考える。
(これが毎月かぁ
……
女の子も楽じゃないな)
「
――
あれ、樹。授業サボり?」
聞き慣れた呑気な声がした。
いつの間に現れたのか、コン太郎がベッドの横に浮かんでいる。
(
……
また出た)
樹は無視した。
養護教諭や他の生徒がいるかもしれないと思ったからだ。
「ちょっとー」
コン太郎が頬を膨らませる。
「今ここ誰もいないんだからムシしないでよー」
言われて周囲を見る。
確かに、いつの間にか保健室には誰もいなくなっていた。
養護教諭も席を外しているらしい。
樹は小さくため息をつく。
「
……
何しに来たの」
「樹が学校行っててヒマだから見に来ただけだよ」
コン太郎はけろりとしていた。
「それより、なんで寝てるの?」
「生理で体調悪いの」
「セイリってなに?」
「
……
簡単に言うとね、女の人は体調が悪くなる時期が毎月あって、それを生理っていうの」
「ふーん」
コン太郎は感心したように頷いた。
「人間って大変だね」
(誰のせいだと
……
)
樹は半目になった。
しかしコン太郎は全く悪びれない。
樹は毛布を頭まで引き上げた。
「
……
もう寝るから、ほっといて」
「えー」
コン太郎は肩をすくめた。
「じゃ、おやすみー」
そう言って、ふわりと天井の方へ消えていく。
残された樹は、小さく息を吐いた。
お腹はまだ重い。頭も少し痛い。
けれど。
(名取さんのお陰で、本当に助かったな
……
)
もし一人だったら、どうなっていたか分からない。
宗真だってさすがに生理には対応できないだろう。
そんなことを考えながら、樹はゆっくりと目を閉じた。
一方その頃。
名取は授業中、いつもより丁寧にノートを取っていた。もちろん、保健室で休んでいる樹に後で見せるためだ。
黒板を写しながらも、頭の中には先ほどの出来事が何度も浮かんでいた。
(初めて生理が来て、びっくりするのはわかるけど
……
)
そこまでは普通だ。
けれど。
(ナプキンの使い方も知らないなんてこと、ある?)
名取は小さく眉をひそめた。
保健の授業で習う内容だし、周囲の友達から聞く機会だってある。
(保健の授業の時に休んでたとか
……
?)
あるいは家庭環境の差か。
(うちみたいに、お母さんがいないとか
……
)
そこまで考えて、ふと別の可能性が頭をよぎった。
そして、その考えを振り払えなくなる。
(
……
本当に)
先日の放課後、樹から呼び出された時に聞いたあの言葉。
『本当は、先月色々あってこの身体になっただけで、俺
……
男なんだ』
思い出した瞬間、胸がざわついた。
(まさか
……
樹ちゃん、本当に『元男』なの
……
?)
自分でも馬鹿げた発想だと思う。
あんな突拍子もない話を信じろと言われても、普通なら無理だ。
それでも。
(でも
……
)
樹の慌て方は、どう考えても普通ではなかった。生理そのものを知らなかった人の反応に近かった。
それに
――
(月城くんとの距離も
……
)
思い返してみれば、不思議なほど近い。
幼馴染の男子と女子というより、長年一緒にいる男友達同士のような空気。
樹のような引っ込み思案な女子が、あれほど自然に距離を詰められる理由も、樹が元々男だったのだとしたら説明がつく。
(神社がどうとか、コン太郎?がどうとかは正直よく分からなかったけど
……
)
けれど。
(もし、樹ちゃんが言ってたことが本当だったら)
胸が少し痛んだ。
(私
……
信じてあげられなかったんだ)
あの時。
樹は冗談を言っているようには見えなかった。
必死だった。
本当に、助けを求めているような顔だった。
それなのに自分は。
勝手に告白だと勘違いして。
勝手に期待して。
勝手に笑い飛ばしてしまった。
(私って
……
最低だ)
ノートを取る手が少し止まる。
もちろん、名取だけが悪いわけではない。
学校の人間が樹の性別を深く気にしなくなるよう、コン太郎がかけた力も影響していた。
だからこそ、あの話を聞いても「変な冗談」としか認識できなかったのだ。
だが
――
。
今回の出来事は、その曖昧な認識に少しずつひびを入れ始めていた。
樹の言葉を、ただの冗談では済ませられなくなっている。
知らず知らずのうちに。
名取にかかっていた暗示は、少しずつ解け始めていたのだった。
その時だった。
教室の窓際。
誰にも気づかれない場所で、ふわりとコン太郎が姿を現した。もちろん、誰にも見えていない。
本人だけは気楽な顔で窓枠に腰掛け、教室の様子を眺めている。
なぜ一年一組にいるのかというと、樹が寝ていて手持ち無沙汰だったからである。
……
というか、樹が構えない間は基本的に暇を持て余しているのだが。
(あーあ)
コン太郎は頬杖をついた。
(なんかナトリサン、気づきそうだなぁ)
名取が何を考えているのかまでは分からない。
だが、自分がかけた暗示に綻びが生まれていることは分かった。それを施した本人なのだから当然だ。
(せっかく結構頑張ったのになー)
学校関係者が樹の性別について深く疑問を持たないようにした暗示。入学式の日から維持してきたそれが、今まさに揺らぎ始めている。
決定的な原因はおそらく今日の出来事だ。
樹自身が本当のことを話そうとして。 そして、生理という決定的な違和感が積み重なった。
(でも樹の方からナトリサンに性別のこと伝えようとしてたし)
コン太郎は足をぶらぶらさせる。
(結果的には樹の思い通りになったのかな?)
けれど、そこで一つだけ引っかかった。
(んー?)
狐耳をぴくりと動かす。
(でもそれだと、学校では宗真だけが特別だったのに)
宗真だけは最初から事情を知っている。だから暗示の影響を受けない。
それが今までは唯一の例外だった。
(ナトリサンも特別になっちゃうのかー)
なんだか少し不思議な気分だった。
けれど。樹が言っていたことも思い出す。
『友達にずっと隠し事するのって、結構苦しいんだよ』
(まあ、いっか)
コン太郎はあっさり結論を出した。
(樹がそれでいいって言ってたもんね)
ふわりと立ち上がる。
(かーえろっ)
次の瞬間。
窓から吹き込んだ風に溶けるように、その姿は消えていた。いや、実際には最初から誰にも見えていなかったのだが。
ただ一人。
名取だけが、なぜだか胸の奥に引っかかる違和感を抱えたまま、窓の外へ視線を向けていた。
まるで今、そこに誰かがいたような気がして。
「
……
あ、名取さん。迎えに来てくれたの? ありがとう」
次の休み時間。 保健室を訪れた名取は、ちょうど目を覚ました樹と鉢合わせた。
「
……
うん」
どこか歯切れの悪い返事だった。
樹は首を傾げたが、ひとまず二人で教室へ戻ることにした。
保健室を出ると、昼前の柔らかな日差しが廊下に差し込んでいる。 しばらく並んで歩いていた名取が、不意に口を開いた。
「
……
あのね」
「?」
「前に樹ちゃんが言ってた、『元々男だった』って話」
樹の足がぴたりと止まりそうになる。
「え
……
?」
名取は前を向いたまま続けた。
「あの時の私、冗談だとか言って笑ってたでしょ」
一瞬だけ言葉を切る。
「
……
ごめんね」
「い、いいよ、今さら!」
樹は慌てて首を振った。
「だって非現実的すぎるし。私だって逆の立場だったら
――
」
(結局コン太郎のせいで伝わらなかったし、名取さんが悪いわけじゃないし)
そう思いながら笑おうとしたが、名取は真剣な表情のままだった。
「
……
よくないよ」
「え?」
「それって結局、私は友達の言葉を
……
樹ちゃんのことを信じられなかったってことでしょ」
名取は少し俯く。
「それなのに友達面してたなんて
……
本当にごめん」
樹は思わず言葉を失った。
(あれ
……
?)
胸の奥がざわつく。
(コン太郎
……
?)
名取の様子は冗談ではない。
(名取さん、本気で俺のこと
……
?)
そんな樹を見て、名取は小さく微笑んだ。
「私、信じるよ」
「
……
っ」
樹の胸が熱くなる。
でも同時に、不安も湧き上がった。
「で、でも
……
嫌じゃない?」
「嫌?」
「名取さんって、男子のことあんまり
……
」
言いかけたところで、名取は苦笑した。
「樹ちゃんは違うよ」
「え?」
「それに月城くんも」
さらりと言う。
「くだらないことで盛り上がってるバカ男子たちとは違うし」
そして少しだけ照れたように視線を逸らした。
「あと、樹ちゃんは
……
今は女の子だし」
「
……
」
樹は何も言えなかった。
名取は立ち止まり、優しく続ける。
「今日みたいな時とか、女の子の身体で困ったことがあったら頼ってね」
「
……
」
「そういうの、月城くんには言いにくいでしょ?」
その言葉に、樹は思わず笑ってしまった。
「う
……
うん!」
大きく頷く。
「名取さん、本当にありがとう
……
!」
「いいの」
名取も笑った。
「樹ちゃんは大事な友達だから」
その一言が、樹には何より嬉しかった。
――
そして。
二人が一年三組の前を通りかかった時だった。
「お、樹に名取さんじゃん」
教室から出てきた宗真が手を振る。
「あ、月城くん、おはよ」
短いやり取りの後。
名取はふと宗真の近くへ歩み寄った。
「?」
宗真が首を傾げる。
すると名取は、樹に聞こえないよう少し身を寄せて
――
耳打ちした。
「月城くん」
「ん?」
「樹ちゃんって、本当は男の子なんだってね」
「
――
えっ!?」
宗真の目が見開かれる。
「な、名取さんがなんでそれを
……
!?」
名取は少しだけ得意げに微笑んだ。
「月城くんはやっぱり知ってたんだ
……
これで私と月城くんは対等だね?」
「いや、なんの話!?」
宗真は本気で意味が分からなかった。
そんな二人のやり取りを見ながら、樹はぽかんと首を傾げる。
(なんか、よく分かんないけど
……
よかった)
さっきまで抱えていた不安は、少しだけ軽くなっていた。
少なくとも
――
。
自分の話を信じてくれる友達が、もう一人増えたのだから。
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