三毛田
2026-06-17 22:11:31
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91 【91/本当の声を聴かせて】

91日目
今の本音を

 不機嫌であることを隠しもせず、腰に手を当てて俺を見る。
「穹?」
「丹恒、約束破った」
「どれだ」
「っ。一緒に寝てくれるって言ったのにっ」
 今にも泣き出しそうな表情。子供じゃないのだから。と口にしようとして、これはよくないと言葉を飲み込む。
「今から寝るか?」
「眠くないっ」
 子供のような返答に笑いそうになり、それを我慢。
「丹恒!」
 我慢したのが伝わったのだろう。ちょっとだけ真っ赤にした頬で俺を責めるように名前を呼んで。
「すまない」
 穹は俺たちと出会ってから、感情を手にしたようなものだ。だから、喜怒哀楽の出し方は子供のようであるというのは間違っていないはず。
「お前が読めないと泣きついてきたアーカイブの書物でも、読み聞かせしようか」
「じゃあ、おやつ用意する!」
 さっきまでの不機嫌さというか、不安であることを隠さなかった表情から一転。
 嬉しそうに目をキラキラさせて、資料室を飛び出していく。
 アーカイブから書物をいくつかスマホに転送し、穹を追いかける。
「丹恒。列車内は走るなと穹を叱っておいてくれるか?」
 パーティー車両へ足を踏み入れると、パムが困ったような表情で俺を見上げてきて。
「ああ。これから共に過ごすから、注意しておこう」
「うむ。ああ、これは、さっき渡し忘れたおやつじゃ。ついでに持っていってくれ」
「ありがとう」
 パムから皿を受け取り、階段を上っていく。
「丹恒、いらっしゃい!」
 一緒に寝なかった俺に対して、怒っていたとは思えないほどご機嫌で。
 彼の笑顔を見ていると、俺も嬉しくなる。
「丹恒」
「どうした」
「お前の、本当の声を……聴かせて」
 俺の手を取り、じっと目を見つめながら。
「本当の、声……か」
「うん」
「それは、お前の方じゃないか? 寂しいのであれば、もっと声を大にして伝えろ。腹が減ったのであれば、何かを食べたいと」
 穹の手を握り返し、今度はこちらから見つめれば。
……さみしかった」
「そうか」
「丹恒が約束を守ってくれなくて、悲しかったし、苦しかった。後、イラっとした」
「すまない」
「ううん。お前が忙しいと、色々忘れるってことを、俺も忘れてたから」
 だから、おあいこ。って苦笑。
「今夜からしばらくは忙しくないから、なるべく一緒に眠れるはずだ」
「うん。アーカイブだけじゃなくて、普通の子守歌もお願いしたいです」
 なーんて。少々誤魔化すように告げるから。
「俺の拙い歌でよければ、お前のために、紡ぐが」
「うん……お願い、します」