昨今は完全に嫌われ者になっている「職場の飲み会」というやつが、一之倉は嫌いではない。昭和生まれの男だから、というのもあるけれど、なにより社長の金払いがいいからである。歓送迎会や忘年会なんかの節目の飲み会代は全額社長のポケットマネーから出してくれる。なんと帰りの足代付きである。地方都市の零細企業でまあまあ繁盛しているのは、この社長の人徳と言っても過言ではない。
まあ、時には会場が商店街のスナックだったりするのは御愛嬌だ。
そんなわけで一之倉はスナックの煙草臭いソファーに身を沈め、店の女の子が歌うカラオケに適当に拍手しながら日本酒を舐めていた。スナックと言えば水割り、という常識を打ち破り、このスナックは日本酒が充実している。ママの趣味らしい。
「イチノくん、これ、うちの女の子たちが飲みたいっていうから仕入れてみたんだけど、どう?」
ど迫力の和服にしっかりセットした夜会巻き姿のママにすすめられるまま、一之倉は新しい盃を手に取った。発泡酒のような爽やかな口当たりで、すいすいと喉を滑っていく。なるほど最近の若い人はこういうのが好みなのか。
「軽くて飲みやすいですね。どこのですか?」
「秋田の新政ってとこ」
「へえ」
ママが差し出したボトルもシャンパンみたいに洒落ている。しかも。
「NO.6」
「そうそう、六号酵母使ってるからだって」
一之倉にとって6番は特別な数字だ。思わず頬が緩んだのを見逃さず、ママがもう一杯汲んでくれる。
「イチノくんが好きならアタリね」
「そうですかね」
「前に気に入ってた一白水成もお客さんに評判良かったもの」
ママは上機嫌で他の卓へ回っていった。あの四合瓶一本でいくらするのかはわからないが、社長の懐が寒くなるのは間違いなさそうだ。
一之倉は改めて盃に口をつけた。この軽さだったら、普段はあまり日本酒を飲まない松本の口にも合うだろう。
不思議な偶然にもう一度頬を緩ませて、一之倉は盃を干した。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.