こちらは鴨ネギさんの人魚パロの兄弟(の子供の頃)SSです。
モブ漁師視点。
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その日の網はやたらと重かった。
海底の岩にでも引っ掛かったかなと少し苛立ちながら力任せに引っ張ると、
銀色の大きな魚と真っ白な子供が網に絡まっていた。
ああ、仏さんだ。
咄嗟にそう思ったものの、今水に飛び込んだばかりのような
張りのある子供の肌と銀色の鱗の境目が思考を乱した。
繋がっている。人魚だった。
そいつは死んだ様にぐったりしていたから、網から外してやろうと絡まった網へ
慌てて手をかけた時、鈍い衝撃と共に舟がぐらりと揺れた。
大きな何かが小舟に体当りしてる感覚。
えらいことになった。
俺は人魚の子供を網にかけちまったんだ。
この後俺は無事に家に帰れるのだろうか。
村で耳にした数々の人魚の伝説が脳裏を過る。
人魚に出くわした人間が助かった話は思い当たらなかった。
震えながら網を解いていると、今度は体当りの隙間に大きな水の塊を舟へ投げ込まれはじめた。
舟をひっくり返すか、沈めるか。
舟の下にいるであろう何かの意図は、重みを増す服と共に俺の身にのしかかってきた。
すまねえ、そんなつもりじゃなかった。
この子は返してやるから助けてくれ。命だけは。
泣きながら命乞いしていたらふと網が解けた。
ぶるぶる震えながら海に向かって人魚の子供を差し出すと、水面から勢いよく
人間の腕が伸びてきて人魚の子供を引ったくっていった。
恐る恐る海を覗き込むと、潜るよりも遠ざかる事を優先するかのように
水面に白い波を立たせながら、一回り大きな真っ黒い影が銀色の人魚を抱えて
一目散に逃げていくのが見えた。
さっきの腕の主か。
兄弟か、親子だろうか。
銀色の方を助けようときっとあの腕で網を引っ張っていたんだ。
一瞬で静かになった海を呆然と眺めていたら、舟の腹に当たる波音が俺を正気に戻した。
このままじっとしてたら、あの黒いのは舟を沈めに戻ってくるかもしれん。
そう思いはじめたら漁どころではなくなり、網を巻くのもそこそこに
全てを引きずりながら命からがら家に帰った。
次の日網を調べたら銀色の魚の鱗が引っ掛かっていた。
あの人魚の鱗である事は確かな、親指の爪程もある鱗だった。
こんなものを持っている事を知られでもしたら、またあの黒い人魚の恨みを買いそうだ。
そう思ったが、眺めているうちにその美しい鱗をただ捨てるのも惜しくなった。
鱗をつまみながら家中うろうろした挙句、神棚の奥の隙間ににそっと差し込んだ。
あれからもたまに漁には出るが、それ以降人魚に出くわす事は無かった。
漁師仲間には話した所でどうせ信じないし、何故捕まえてこなかったとか
言われるに決まっているので誰にも話さなかった。
ただ一度、風のない沖合いで不自然に背中へ水をぶっかけられた事があった。
怖くて振り返る事はできなかった。