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はりぼて
2026-06-17 02:02:02
2078文字
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くっついたあとの銀妙の小話
「片手で足りなくなった」の冒頭を書きたかっただけで全体的にあんまり意味はない、くっついたあとの銀妙。当社比糖度高め。もうちょいギャグ調にしたかったけど上手く転がらなかった。
お互いそのくらい関係重ねないと甘えられなさそうだよね。
ついに片手を超えてしまった。一体全体何の話か、ちょめちょめ、とか言って濁すのが直球になる話だ。つまりは寝た回数だ。
……
今正に枕を共にしている銀さんと。
今日は本当にそのつもりはなかったのだ。ただ予定が空いたから手土産を持って万事屋に寄って、そしたら居たのはたまたま銀さんだけで、それならと手土産だけ預けて帰るだけはずだったのに。帰り際、じいとこちらを見つめてくる銀さんにその意図があったかはわからないが、首に腕を絡ませてキスをしたのは間違いなく自分からで、そうしたら何故かあれよあれよと
……
これ以上は自主規制で。
「何百面相してんの?」
「してません!」
「お妙」
「何ですか」
「今日泊まってく?」
「泊まりませんっ!」
布団の外に投げ捨てていた自らの着物を手繰り寄せていく。万事屋に銀さんしか居ないということは恐らく新ちゃんはもう家に帰っているはずで、仕事柄帰らなくても誤魔化せると思うが、それでもずるずると続きに耽ることになるのは避けたかった。避けたかったというか、慣れてきたとはいえ恥ずかしいことに変わりはないのだ。片手では足りない経験数だが、まだ両手では足りている。こんな予感も何もなく突発的なやり取りにはまだ途方に暮れてしまうのだ。
「
……
泊まんねえの?」
「泊まらないったら泊まりません!」
銀さんの方を向かないようにしながら、脱ぎ捨てていた服を身につけていく。服が肌に擦れる度に反応しそうになるくらいにはまだ少し前までの甘やかな余韻がありありと身体に刻まれている。
「
……
ふーん」
面白くなさそうにも興味なさそうにも聞こえる声には気付かないふりをして、流石に立ち上がらないと綺麗には着れなさそうだと布団から抜け出そうとする直前、後ろから抱きしめられた。
「マジでもう帰んの?」
拗ねたような、甘えたような声音。背中に触れている胸板は、少し前まで自分の胸を押しつぶさんとするくらいに密着していた。伝わる熱はまだ色香を含んだまま、名残惜しさを伝えてくる。
このまま流されるのは簡単だ。正直流されたい。身体を重ねるようになる前にはこんな風に自分に甘えてくるなんて想像だに出来なかった男の人の、熱と欲とその奥で曝け出される情に触れて、甘く蕩けあってしまいたい。つい先ほどそうしていた時間が物足りないわけではないが、人間はどこまでも欲深くなれるものだ。片手で足りなくなった回数分でいやというほど思い知ってしまっている。
それはそれとして。
「
……
神楽ちゃんは?」
「
……
あ〜〜
……
」
手放したかった理性を残していた理由を尋ねれば、明らか落胆した声が返ってくる。今夜は帰ってこないかもしれないが、まだ確定できる時間でもないし、この様子だと恐らく寝に帰ってくる可能性の方が高いのだろう。彼女にはすでに諸々バレているとはいえ、流石にそういうシーンを見られたいわけではない。普通に恥ずかしいのだ。両手には満たない回数程度の経験とか関係なしに、見せつけたい趣味はない。
「
……
しゃーねーな」
ため息混じりに言いながら、ゆるゆると背中から熱が離れてごそごそと銀さんも服を手繰り寄せはじめたようだ。ほっとはしているけれども残念だと思う自分も誤魔化せない。素直に思えるようになるくらいには、銀さんに抱かれてしまっているのだ。
何となく無言でお互い着替えて、
——
シャワーくらい浴びさせてもらえばよかったかなと思うけどそれはそれで危険だとわかってもいる
——
、玄関まで向かうのはすぐだったけれど、やっぱり名残惜しくて外に踏み出すには躊躇してしまう。
「お妙」
名前を呼ばれて、柔らかく後ろから抱きつかれる。
「
……
銀さん」
「
……
わかってっけどよ」
素直に甘えられて、嫌なわけがない。自分に抱きついてくる腕にそっと手を添える。振り返ってキスをしても次はそれで終わらなければならない。それが辛いことだとわかっているけれど、やっぱり抱きついてきた腕を添えた手でゆるめ、振り返ってキスをしてしまった。
「その
……
また近いうちに」
「
……
ん」
お互いに名残惜しさを伝えながら離れる。こういうやりとりを、銀さんと両手で足りなくなるくらいすることになるのだろうか。気恥ずかしいけれど、同時にたまらない気持ちにもなる。
「銀さん」
「何」
「愛してます」
「
……
おー」
同意なのか相槌なのかそのどちらでもないのか判然としない呟きしか返ってこなかったが、表情を見れば不安は浮かびようがない。少なくとも一方通行ではないと思えるのは、少なくとも片手では足りない情を交わしたからこそだろう。
「銀さん」
名前を呼んで、今日の最後に触れるだけの口付けを。名残は惜しいけど、今日はここまでとけじめをつけて。
「おやすみなさい」
「
……
おー、オヤスミ」
挨拶を交わして万事屋の玄関の扉を開けた。夜はまだこれから更けていく時間の夜空と往来の人通りが広がっている。
こんな甘くも名残惜しい夜も、両手から溢れるほどに重ねていくことになるのだろう。
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