meru2408
2026-06-17 01:48:27
15220文字
Public モンギル
 

クラベル(クラウド×ベルナ)

その秘薬は君だけに



ーーーーーーーー
side:クラウド



「~~♪」

気分良さげな鼻歌が聞こえる。

ん、あ!あったあった……ふふ」

嬉しそうに草むらをかき分け、お目当ての物を探すベルナ。

「あまり奥に入るなよ?」
「分かってるわよ。ふふふっ」

本当に分かってるのか?薬草取りに夢中で返事もおざなりになってるけど。

「あなたこそちゃんと探してよ?」
「分かってるよ」

そう思う俺も大概だな。同じ返事を返した。今日は半日、午前中ずっと近くの森で薬草取りに出かけている。
しゃがんで探すベルナの手にはたくさん葉っぱが摘まれていて、俺の鞄の中にも入りきらないほど採ったものが詰め込んである。
そうこうしてるうちにすぐに時間が過ぎていき、30分近く経ったころ時刻は正午になろうとしていた。

「ふう……もうそろそろいいかな」
「えー?まだあるじゃない」

不服そうな声だけど、そろそろ昼ご飯も食べないと。

「もう鞄に入らないだろ。っていうかなに搔いてんの」
「痒いのよ。虫にでも刺されたんだわ」

なんてことない顔で腕を掻きむしっているが、ベルナの肌が掻き傷だらけになるのは少々いただけない。

そんな顔しないで。一過性のものでしょ、すぐに良くなるんだから」

肌の痒みが生じるものに一過性とかすぐ良くなるとかそんなこと聞いたことがない。

「もう!ほらちゃっちゃと帰るわよ!ふふっ、これで何して食べようかしらー」
あんまり掻き過ぎるなよ」

ルンルン気分のベルナはさっさと歩いてしまう。その間も腕を掻き続けていた。



ーーーーーーーー
side:ベルナ


「うぅ……痒い……、」

夕食の後、私はベッドに腰かけてむずむずしている体を掻いていた。日中というか午前中からなんとなく腕が痒くなり始め、午後には腕に湿疹みたいなものがぽつぽつと出来ていた。
最初は掻き過ぎによる荒れかと思ってそのままにしていたが、夕方には足も痒くなり、今現在午後9時過ぎ、足にも湿疹が出来始めていた。ちなみに腕の湿疹は酷くなりかけている。
クラウドは先にお風呂に入っている。たまにお風呂の時間が男女逆になることもあり、今日は男が入った後に女が入ることになっていた。

「こんなところ見られたらうぅ

体の痒みをなんとか必死に抑え、クラウドに見つからないようにしていた。時折急にハグしたりキスしたりするのをかわしつつ、自然に、そう自然に距離を取っていたのである。なのでギリギリクラウドにはまだ気づかれてはいない……けれど、もうこんな状態ではいつ気づかれるか……

「明日ちゃんと診療所に行くんだから

そう自分に言い訳をする。行くつもりではある。さすがにこんなに痒みと湿疹が酷いと、クラウドに見つかる以前に体が急変してしまいかねない。また迷惑をかけてしまうのは御免こうむりたい。

「はぁ……痒み止め貰ってくれば良かったわ……

宿に帰る前にフランシスの所に寄っておけば良かった。たくさんの薬草を取り気分が良すぎてそのまま帰り、食事の時に薬草も入れて食べていた。その時は美味しさに夢中で痒みも我慢できたんだけど。
ご飯を食べることに意識が向いてしまっていたためすっかり忘れていたのである。

……着替え用意しなきゃ」

もうそろそろクラウドがお風呂から上がってくる頃合いである。さっさと着替えを準備して、さっさと入れ替わろう。クラウドが私を注視してくる前に。
お風呂はさすがに湯船に浸かるのはやめよう。掛け湯で我慢だ。まあこの季節なら掛け湯だけでもそんな寒くないからね。

「ベルナ、お風呂上がったよ」

パタンと扉の音がしてクラウドが帰ってきた。

「はーい、じゃあもう行くわね」

準備した着替えを手にクラウドの横を通り過ぎようとした、が。

「わっ、」
「待って。まだ男が入ってるよ」

クラウドに腕を掴まれてしまい体をびくりと反応させてしまった。……これはやばい。
さっさと行こうと思っていたのを読み取られてしまったらしい。
ほんとにやばい。

「あー、分かったわ。もうちょっと待つから、」
「ん……?ベルナ、腕がなんか、………え?!??何これ!??!」

待つから手を離してって言おうとしてバレてしまった。あーあ

………ちょっと掻き過ぎただけよ
………

目を逸らす。射るような視線が刺さる。

「ベルナ。これは本当に掻き過ぎなのか?」
………ぅ、」
「こんなに湿疹が出来てるじゃないか。なんで何も言わないの?」
……いや、明日フランシスに見てもらおうかと思って……
「それは理由になってない。ベルナ、お前は隠し事が多すぎ」

クラウドに叱られる。最近は本当にこうやって叱られることが多くなった。

なんか一日経ったら……治るかと思って……
「思い込みも多すぎ。なんだよ一日経ったらって。こんなの一日経ったら逆に酷くなるだろ?」
「うぅ……
他にも痒いところはない?」

少しだけ声色が優しくなる。こうやって私を叱っていても身を案じてくれていることに変わりはないのだ。

……足も、ちょっと……痒い
「見せて。………うわ……

しゃがんだクラウドがのけぞったような声を出す。うわって何ようわって。

「これちょっとどころじゃないだろ……足もほとんど湿疹が出来てる。掻き傷もあるし……これ膿んだらもっと大変な目に遭うぞ?」
………
……いつから我慢してたの?」
………
「痒いんだろ?」

そう言ってそっとふくらはぎに触れてくる。くすぐったさと痒みが襲ってきて思わず手を伸ばすとがしっと捕まえられた。

「う……午前中から……
……はぁ……だから掻き過ぎるなって言ったのに……

捕まえられた手をぎゅっと握られ、指を絡ませられる。

今から行くぞ。着替えは置いて」
「えっどこに?」
「フランシスの所に決まってるだろ」

えっ今から?もう診療所は閉まってるはずだけど。

「さっき急患が一人入っていったらしい。だからまだ開いてるって。ほら行くよ」
「えぁ、ちょ、」

為すすべもなく手を引っ張られ、診療所に連行された。


ーーーーーーーー


「あらぁこんばんは~。ちょっと待っててね~?すぐ終わるから~」
「悪いな急に」
「大丈夫よ。そこに一旦座っててちょうだい~」

クラウドに付き添われ、診療所に入るとフランシスが声を掛けてくれる。本当に急患が入っていたようで、明かりが煌々と付いておりぱたぱたと忙しなく動いていた。
10分程待つと、一段落したのかフランシスが私たちの元へやってきた。

「あのごめんなさいフランシス?ちょっとのっぴきならない事情があって
「いいのよ~今回は何が、あらまぁこれは……
今からでも診れそうか?」
「うふふ、そんなに心配しないで?大丈夫、ちゃんと診察するわ」

私の腕を見るなり、ふんふんと匂いを嗅ぎながら観察するフランシス。にこにことクラウドに話しかけていたが、

「うーん、とりあえずこっちに来れるかしら?ベルナ、動けそう?」
「大丈夫よ、さっきも歩けてたから」
「そう、良かった。じゃあこっちにいらっしゃいな~」

そう言って奥の小部屋を案内される。

「痒……

無意識に腕を掻いてしまう。爪はこの前クラウドに切ってもらったが、ちょっとだけ伸びている。
寝台に座るとフランシスが顔を覗いてきた。

「あらぁダメよそんなに掻いちゃ、ほらもうこんなに傷が出来てるじゃないの~」
「うぅ……すごく痒いの……
……血も出てるわよ?これ、雑草にやられちゃったわね?」
「雑草……

そうか、やっぱり今日午前中に薬草取りに出かけた先が悪かったのか。

「クラウドは?体の痒みはない?」
「俺は今はまだなんともないよ」

壁に寄りかかりながら私をじっと見ているクラウド。

「ふんふん、なるほどねぇ……
今日の午前中に森に出かけたんだ。薬草取りに。多分それでベルナが湿疹起こしたんだと思う。俺はそんな草むらに入ってないけど、」
悪かったわね」

まるで私が故意にこの状態にしたみたいに言われてぶすっとなる。そんな、私だってこんな湿疹が出るとは思わなかったんだもの。

「悪いと思ってるならなんで隠すんだよ」
「まあまあ二人とも落ち着いて~?とりあえず原因は分かったから薬を処方するわね?」

てきぱきと隣で薬を調合するフランシス。

あ、今から塗り薬塗るのだけど、………カーテン閉める?」
「閉めなくていいよ」
「いやちょっと」

フランシスの気遣いに即断りを入れるクラウドに焦る私。

「別にいつも見てるんだからいいだろ」
「いや……
「そうねぇ♡一緒に過ごしてるんだものね~♡」

フランシスもフランシスで私とクラウドの様子を見て楽しんでいるようである。

カーテンは閉めてちょうだい」
「ダメ」
「いやあんたが言うな」

有無を言わさないその物言いに少々たじろいでしまった。もうこれは諦めるしかないのか。

「うふふ、まあここは患者さんを診るところだから安心なさいな♡」
「はぁ……

だめだ。どっちも隠す気がない。

「はぁい、準備出来たわよ~。じゃあ服を脱いでくれるかしら?」
「うぅ……

診療所なのにカーテン開けっ放しはどうも落ち着かない。部屋の扉は閉めてあるけど。
渋々服を脱いでいく。

「あらぁ……ここまで湿疹が出来てるのねぇ
「ちょっとお腹の方も痒くなってきた
「お前……もうちょっと早くここに来てれば……

下着姿になると、二人からの心配そうな声がかかる。そう、足の湿疹がお腹の方まで上がってきていたのだ。

肩の方も出てるわねぇ

そう言われ、肩、腕、お腹、太もも、ふくらはぎと順に薬を塗られる。

「うぅ
これは相当痒いでしょう?よく我慢してたわねぇ~」
「見せて」
見ないでよ」

クラウドが私に近づき、体を観察する。なんか別の意味で顔が火照ってくる。

「これは酷いな
「でしょう?しばらくは安静ねぇ~」

出た。悪魔の言葉。

安静は嫌」
「嫌じゃない。こんなに酷いんだぞ?お前自分の状態分かってるか?」

湿疹が酷くなった腕を掲げられ、思わず呻く。

「痒いんだから手離しなさいよ
「はぁ全く……

渋々腕を離される。はぁ……こっちもため息が出る。

「うーん……動いてもいいけれど、その分服が擦れて痒みが増すわよ?」

医者からのお許しにばっと顔を上げた。

「ほら!動いていいんだって!ちょっとは動かないと!」
「ダメだって言ってるだろ。今日もたくさん動いたじゃないか」
「もうダメダメばっかりじゃない!クラウドのけち!」
「ダメなものはダメです。俺が許しません」
「うぅー!」

私とクラウドの間にばちばちと火花が飛び散る。結構クラウドが優勢。

「うふふ、クラウド?心配性が暴走してるわよ~?」
「う……

暗にここが病室だと窘められクラウドが押し黙る。

「ふふん、私は動くからね?」
「ベルナもちょっとは落ち着きなさいな~?ほら、塗り終わったから服を着てね?」
「んぐ……

医者の前では誰しもが抵抗できないのである。

「はぁ……余計に痒くなった……クラウドのせいで……
「なんで俺のせいなんだよ」
「はいはい、薬多めにしておきますからね~?」

服を着ると本当にちくちくと痒みが増す。

「あ、あと飲み薬も処方しておくわね~。これぐらいの酷さだと塗り薬だけじゃ効果が薄いから~」
「あ、ありがと

こんな夜更けにわざわざ丁寧に診てくれるフランシスには頭が上がらない。

「じゃあそれを確実に飲ませれば治りは早くなるんだな?」
「ええ、ちゃんと朝昼晩、食後に飲めばしっかり治るはずよ~。塗り薬も同じくね」

ぼーっと二人の会話を聞いていたが、ふとクラウドの言葉が気になった。

……え?飲ませるってもしかして……
「どうしたんだ?そんな顔して」

にっこりと暗い笑顔で私に話しかけるクラウド。
こいつ、口移しする気満々だ。

「じゃあ診察はこれでおしまいね。もし酷くなるようだったらまた来てちょうだいね~」
「ありがとうなフランシス、助かった。またお礼するよ」
「いいわよ~二人の可愛い愛情が見れたんだもの♡お礼ならもう貰ったわ♡」


そうして私はまたクラウドにずるずると引っ張られ、宿に連れて帰られた。



ーーーーーーーー
side:クラウド


「あっ!そういえば
「なんだ?」

部屋に着くなりベルナが声を上げる。

「お風呂入ってない
お前はバカじゃないのか?普通にダメだろ」

思いっきり罵倒してしまったのは許してほしい。まだ自分の状況を分かっていないらしい。

「バカって何よ!別に掛け湯くらいさせてよ!汗もかいたんだし」
「いや今薬塗っただろ
……あっ

あまりの痒さに思考が飛んでいるらしいベルナは気まずそうに目を逸らす。

お風呂入れないならこのまま寝るわけ?」
……はぁ。ちゃんと体拭くから安心しろって」
……え、」

そう言って俺はタオルとお湯の準備をする。あ、あと着替えも。

い、いやいいって!自分でやるから!」

慌てて俺が持っているタオルをひったくろうとするがそうはいかない。すんでのところで躱し、ベルナを睨む。

「背中とか自分で拭けないだろ。俺がやる」
「うぐぅ……
「あと薬塗ったところも普通に拭いちゃうかもしれないから」
…………分かった」

観念したらしい。すごすごとベッドに赴くベルナ。その後ろ姿の哀愁が凄まじい。そんなに嫌か?

「えーっと

ベルナの私物置き場から着替えを探す。

「ベルナ、これでいい?」
……それでいい」

ぶすっとしたままベッド端に座っている。俺がベッドまで来るとぷいっと顔を背けられる。……顔はまだ湿疹が出ていない、良かった。

「ほら服脱いで」
………
「ベルナー?」
……脱がせて」
「えぇ……

さっき診療所では渋々脱いでたのに今度は斜め方向からデレがやってきた。ベルナの気持ちが未だによく分からない。

「じゃあ脱がすよ?」
………

何も言わないのでそのまま服を脱がす。白い肌に赤い点々がびっしりと付いていてとても痛々しい。すごく痒いんだろうな
そっと濡れたタオルを首から押しあてる。極力薬塗った箇所は触らないように。……でも湿疹が広範囲すぎて拭くところが少ない。

……っ、」
「痒い?」
………、うん……
「そうか……辛いよな」
……うん」

痒みを我慢しているのか返事が端的になっている。薬塗った箇所も擦らないようにタオルを軽く当てよう。

えっ、そこ
「薬が取れないようにするから」
………

無言を肯定と受け取り、体を拭いていく。改めて見るが、たった一日でこれだけ酷くなるものだろうか。
さっき叱ってしまったことをちょっと悔やんだ。ベルナもこうなることは予想してなかっただろう。

「あ……後は自分で、」
「ダメ。はい下着も脱いで」
「うぅ……

さすがにこれだけ酷いと体を動かすのも一苦労だろう。ベルナは体動かしたいと言ってたけどこれじゃあ一日では無理だ。
するりと下着が落ちる。無言で股下を拭いていく。

「あ、ありがと……
「ん、どういたしまして。じゃあ着替えるよ」

新しい替えの下着と服をベルナに着せる。ちょっとすっきりしたのか、ふぅ、と息を吐いた。

あ、飲み薬今日からだったな」
「うぐ……

ベルナが逃げるようにベッドをずりずりと這いまわる。まあ無理だけど。
キッチンに行ってカップに水を入れベッドに戻ると、タオルケットを引っ張って縮こまり、顔を赤くしながら震えている。

「なんで今更恥ずかしがるんだよ」
「だってぇ……
「はい飲むよー」
「あゎ、」

問答無用でベルナを抱き寄せながら、小瓶に入っている錠剤を二つまみと水を自分の口に入れる。

「ん、」
「んぅっ、………んぐ、」

ぐっと唇を押し付け、水と薬を押し込む。ごくりと音がしたため、口を離す。

「ぷぁ……、ぁう……
「ん、飲めた?」
「うぅ……
「飲めたのか?」
飲めたってば!」

半ばキレられながら返事をされる。まあそれだけ元気があればちゃんと治るよな。

「じゃあもう歯磨いて寝ようか」
………ん」

そうして早めの就寝準備をした。



ーーーーーーーー
side:ベルナ


「うぅ……

眠れない。痒さのせいでなかなか寝付けなかった。時刻を見ると午後11時半。
隣のクラウドは少し離れて横になっている。……いつもなら私の制止も聞かずに私を抱きしめて眠るんだけど。
さっきフランシスから、診療所を出る前に言われてしまったな。
「もしかしたら移っちゃうかもしれないからあんまりくっつき過ぎない方がいいかもねぇ」なんて。
一番ショックを受けたのはクラウドだった。衝撃が凄まじかったらしく、その言葉を聞いてからしばらく突っ立ったまま動こうとしなかったのはちょっと面白かった。

「痒い……、」

薬が遅効性なのか痒みが治まらない。まあ言ってまだ1回しか塗っていないので効果も出にくいのだろう。こんなに全身に湿疹が出てきているんだから。
痒みを極力我慢して、頑張って目を閉じてはいるがちくちくとつつかれるような痒みがいつまでも襲ってくるため一向に眠気が来ない。

………眠れないのか?」
クラウド」

まだ起きていたらしい。暗目ではぼんやりとしか見えないが、クラウドが身じろぎをするのが見えた。

「痒すぎて寝れないのよ

痒みもあるにはあるが、もう一つ、別の意味でも眠れない理由があった。

「眠剤も貰ってくれば良かったな」
「そんなに薬飲んだら中毒になる」

心配性が過剰になってきているその言葉を一蹴する。こんなことで眠剤まで飲んでたらキリがない。

……ん、」

ごそごそとタオルケットが動き、手を掴まれる。そのままぎゅっと握られた。

………
「これなら眠れそう?」

私の心を読んだらしい。そう、もう一つ眠れない理由は。

眠れない。ぎゅってして」
「フランシスが言ってただろ。移るかもって。我儘言わないの」
あんたが一番抱きしめたそうにしてるくせに」

全身で感じる体温が無いことだった。すなわち、抱きしめられて眠りたかった。

「俺は別に」
分かりやすいわね」

向こうも同じように思っていたらしく、握られた手に力がこもる。

じゃあ抱きしめようか?」
「手のひら返し早」

前言撤回が早すぎる展開に思わず笑ってしまった。くっくと笑い転げる。クラウドは微妙そうな顔をしているだろうな。

「しょうがないじゃないか。ベルナが足りない」
「あのねえいつもくっついてるじゃないの」
「ちょっとでも離れたら不安になる」
「子供かあんたは」

そう言いあってると、どんどんクラウドが近づいてきた。

移るわよ」
「いい。移ったら今度はベルナに薬塗ってもらう」
「だからなんで私が看病する前提なのよ」

前に風邪引いた時を思い出した。また同じことを言う恋人に呆れてしまう。
腰に腕が回ってきた。いつものように強引に抱き寄せられるかと思ったけど、私の体を案じてか優しめに腕を巻き付けられる。

「ふふ。これなら痒みも我慢できそうね」
………

その優しい腕に包まれるとひどく安心する。

「何か言いなさいよ」
ベルナ、自分が可愛いこと言ってる自覚ある?」
「は?」

黙ったと思ったら次は変なことを言い出すから思わず聞き返してしまった。

「自覚?可愛い容姿って自覚ならあるけど」
「自分で言うんだ?」
「今ここで炎出してもいい?」
「勘弁して

腰をゆるゆると撫でられる。背中や腰はまだ湿疹が出来ていないため、触るのに躊躇はしないようだった。……診療所で全身をジロジロ見てたからね。

「ん………
「眠たくなってきた?」
……うん……

しばらくしていると頭がぼーっとしてくる。やっぱりクラウドの腕の中にいると寝つきがよくなる。

……おやすみ」
……うん………おやす、み……

痒みはあったが居心地が良くなり、昼間の疲れもあったからなのかようやっと眠りにつくことが出来た。



ーーーーーーーー
side:クラウド


「よっ、フランシス、はいこれ」
「あらクラウド?あらまあこれは?」
「昨夜のお礼とお金。世話になったし」
「もう……いいって言ったのに~。でもありがたく頂くわね♡」

翌日の午前中、俺はフランシスの診療所に出かけていた。朝っぱらから逃げ回るベルナを捕まえては着替えさせ、朝ごはんを食べさせ、薬も塗って、飲ませ、今に至る。結構大変だった。
その後フランシスのお礼にとスイーツを買って診療所に寄ったのである。

「フランシスの好きな物知らないからこれしか思い浮かばなかったんだけど
「いいのよそんな~。うふふ♡美味しそうねぇ」

よかった、お気に召してくれて。ベルナ以外の贈り物はほとんどしたことがないから未だによく分かんないんだよな。

「それで?ベルナの調子はどうかしら~?痒みは引いてる?」
「そうだな、痒みは引いてるらしいけど、まだ湿疹は昨日見たまんまだな」
「そうよねぇあれだけのものがたった一日で治るわけないもの~。ちゃんとベッドに縛り付けておくのよ~?」
はは、そうするつもりだよ」

フランシスも結構手厳しいところがあるからたまに引いてしまう。

「ベルナも退屈でしょうからなんか美味しいものでも買って食べさせてあげたらどうかしら~?」

急な思わぬ発言に体が飛び跳ねるところだった。

「おおそれいいな。確かにベルナ食べるの大好きだもんな」
「肌にいい果物なんかどうかしらねぇ?柑橘系とか、キウイフルーツとか?」
「なるほどそうか、そういう食べ物のほうがいいかもな」
「そう。やっぱり食べる時は体のことを考えて食べないとね~」

そんな話をしばらくして、俺とフランシスは挨拶して別れた。ちょっと離れたところにある食材屋に出向く。

「あらいらっしゃい!今日は何が欲しい?」
「柑橘と、キウイフルーツってありますか?」
「柑橘ねぇ今の時期はあまりないけどオレンジならあるよ。キウイもここにあるからね!」
「良かった、じゃあそれらを二つずつください」

丁度よくフランシスが言っていた果物が売ってあったので、ほくほくしながら食材屋を後にする。
ベルナはちゃんと大人しくしてるかなあいつのことだからまた懲りずに素振りとかしてるんじゃないだろうな。
宿屋へ帰る道中そんな不穏なことを考えながら歩いていく。
ちなみに今日と明日と明後日もうしばらくは依頼などの予定はキャンセル。
それを伝えるとベルナは世界の終わりかのような顔をしてしばらく床に突っ伏していた。
宿に着き、廊下を歩き部屋の前にたどり着く。

「ただいま。いい子にして………あ?」
……おかえり」

扉を開けると、ベッドの上でちゃんと座ってはいた。ぶすっとした顔で。

なんでそんな髪がぼさぼさなの」
………

いろいろなところにハネまくった髪の毛がぴんぴんと立っていて、ついでにベッドのシーツもよれよれになっている。
あと何故か俺があげたブランケットにくるまっていた。

「寒いの?こんな季節なのに?」
「ちょっとだけ寒いの」

窓を見ると半分くらい開いていた。そういえば起きた時に開けたな。閉めればいいのに。

というか何してたの?」
…………うぅううぅーーー………!!!」

急に奇声を発して座りながらベッドに突っ伏したベルナにぎょっとする。

「えっ何、どうしたの?」
「動きたいいぃぃぃーー……!!」
「えぇぇ……

突っ伏した状態からそのままごろごろとベッドを転がりだすベルナ。あーなるほど、ベルナの髪がぼさぼさになってたりシーツがよれよれになっていたのは動きたい衝動を抑えられないベルナが暴れまわってた証拠だったんだな。
俺は一旦買ってきた荷物をキッチンに置き、暴れまわっている幼馴染のところまで赴く。

「はいはい落ち着いて。食べ物買ってきたんだけど食べる?」

その体を起こし、ブランケットごとぎゅっと抱きしめる。そうするとちょっと落ち着いたのか「はふ」と息を整えていた。

たべる」
「ん、よし。オレンジとキウイフルーツ買ってきたよ。苦手じゃなかったよね?」
「好きよ。思いっきり食べたい」
二個ずつしか買ってないよ」

ベルナから体を離し、キッチンに戻る。大人しく待っててくれるかなと思ってちら、と目をやるとまたベッドでゴロゴロしていた。無言で。どんだけ動きたいんだ。

「体の痒みは?そんなことしてると余計痒くなるよ」
「こうしながら掻いてるの。爪だと余計酷くなるでしょ?だから体をベッドに擦りつけてるの」
「体の痒みはないかって聞いてるんだけど」

果物の準備をしながらベルナと喋る。が、昨日からベルナはなんか頭のネジが一個飛んでいるようでまともな返答が出来ない時がある。

「痒みはだいぶ引いたわ。あーよかった薬が効いて」
「まあフランシスの薬だからな」
「そうね……ちゃんとお礼しとかなきゃ」
「お礼はもうしたよ?」
「はぇ?!したの?いつ?」

ベルナから素っ頓狂な声が上がる。あれ、さっきフランシスのところに出かけるって言わなかったっけ。

「ついさっき。診療所行ったよ」
「なによもぉー私も着いていきたかった!」
「もう遅いですー。というか安静だろ?寝とけって」
「嫌。もう何が何でも動く」

意気地になったらとことん意気地になるもんなベルナは。

「そんなこと言ってたら果物あげませんよー?」
「えっやだ!欲しいの!」
「だったらちゃんと大人しくしてて」
「うぅ……

ベッドから降りようとしたベルナに牽制をかけつつ、食べやすく切ったオレンジとキウイを小皿に入れベルナの所に向かう。

「ほら持ってきたからちゃんと座って」
「あー美味しそう!」

キラキラと目を輝かせて座り直すベルナに苦笑する。ほんと食べるの大好きだな。さっきもご飯食べたのに。
小皿とスプーンを渡すと早速食べ始める。まずはキウイから。

「いただきまーす!………んー!おいしーい!」
「そりゃよかった」

嬉しそうに体を揺らしている。夢中で食べるその姿はなんとも可愛くて思わず唇を舐めた。ベルナと果物、どっちも美味しそうだな。

「あ、俺の分も残して……えっ」
「は?これ全部私の分じゃないの?」
……全部食べる気?」
……ダメなの?」

もう既にキウイ二個目に突入しているところだった。食べるの早すぎないか?
オレンジは大ぶりなため、結構量があるけど。

……オレンジは残しておいて」
「えー
「太るぞ」
「果物は太らないわよ!」

さすがに全部は食べすぎだろ。ダメだ、ベルナに食べつくされてしまう前にもう取ってしまわないと。
ベッドの端に腰かけて小皿に手を伸ばす。

「あっ、なんでぇ!」
「なんでじゃない。俺も食べたい」

切ったオレンジを一つ手に取り、齧りつく。ちなみに小皿に残っているオレンジはあと七つ。

「むー

恨めしそうに俺を見ながらキウイを食べているが無視。

「ん……これ酸っぱいな」
「そうなの?」
「うん……ベルナにはあげられないかも」
「えっやだ!食べるわよ何が何でも!」
「冗談だって」

オレンジは結構酸味があってちょっと食べづらかったが、普通に美味しかったので二個目を取る。

「私の分も残しておいてよ?!」
「元々ベルナの分なんだから大丈夫だってば。というかまだたくさんあるじゃん」
「私にとっては少ない方なの!」
もっと買えばいいってこと?」
「そう!」
「そう!じゃないよ」

ベルナの食費はバカにならないし何より食べすぎるきらいがある。まああれだけ食べてあまり太らないっていうのも不思議なことなんだけど。

「んふふ、オレンジ~♪」

キウイを食べ終わり、ご機嫌にオレンジを一つ掴んでかぶりついた。

「んーすっぱ!ほんとに酸っぱいのね?」
「でも美味しいだろ?」
「うん!なんだかお肌が潤うって感じ!」
「そんなすぐにはならないだろ
「なんて?」
「何でもありません」

聞こえたはずなのに聞こえなかったふりしてじとりと俺を見やる。が、すぐにまたオレンジを食べるのに夢中になっていた。
そんな感じでベルナは残りのオレンジ5つを全て平らげ、満足そうに俺にすり寄り、「ありがと」と言ってくれた。
それだけで果物を買ったかいがあるってものだ。ありがとう、フランシス。


ーーーーーーーー


三日後。

「だいぶ湿疹が引いてきたな」
「うん、痒みもほとんどないわ。ふふ、これで動ける……!」
「こら、まだ薬塗ってる途中なんだから動かないで」

昼食後、ベルナの体に塗り薬を塗る。肩、腕、お腹、太もも、ふくらはぎと順に。ぬりぬり。

「んふふ
「どうしたんだよ」
「なんだか手つきが優しくて」
「いつも優しいだろ?」
……いつもはいやらしいのよ」

ベルナの手が薬を塗っている俺の手に触れる。……そうか?俺ってそんなにいやらしいのかな。

「自覚がないのも頷けるわ。だっていつもキスしてきたり触ってきたりするんだもの」
「そりゃあベルナが可愛いからだし」
………

自覚がない、というより可愛い恋人の体に触れて愛したい、ということしか考えてない。

ありがと、もういいわ」
「ダメ。しっかり塗らないと治らないだろ」
もう」

湿疹がかなり引いてきたベルナの肌を見る。フランシスの薬効は本当にすごい。一週間くらいかかるかと思っていたけどこんなに効力が凄まじいなんて。

あんまりジロジロ見ないで」
「それは無理があるだろ

うん、とりあえずこれで塗れたかな。

「ん、じゃあ服着て」
「終わり?」
「終わったよ?」
「ああそう」

なんだか名残惜しそうな感じがしたけど気のせいかな。

「ふふーん♪やっと安静から解放される~!」

服を着ながら上機嫌になるベルナ。弱っているベルナもそれはそれで可愛いと思うけど、可哀想が上回るしな。やっぱりいつもの元気なベルナでいてほしい。
俺は薬をサイドチェストに置き、ベルナの着替えを眺める。なんていうかいつも思うけどなんでこんなに可愛いんだろう。

またジロジロ見てる。落ち着かないのよ、あっち向いててちょうだい」
「それも無理があるな」
「なんでよ!」
「だって見たいんだもん」
私の着替えを?」
「それもあるけどベルナが見たいからかな」

着替え終わったベルナの頭を撫でる。むすっとしてはいるが満更でもなさそうにされるがままになっている。

「あ、」
「何よ」
「飲み薬忘れてたな」
……あ」

またずりずりとベッドの端に後ずさるベルナ。だからなんでそんなに逃げるんだよ。
キッチンに行きまたカップと水を準備し、ベルナの所に戻る。

「うぅ……
「いつもやってるだろ。もう慣れてくれよ
「慣れるわけないじゃない!だって……だって、く、口付けなんだから……
「口付けじゃなくて口移しな?」
「どっちも同じことよ!」
「ベルナからもキスしてくれることもあるじゃないか。ほらこっちきて」
「あぅ、」

駄々をこねるその体を強引に抱き寄せ、薬と水を口に含む。

「んぅ、ん、」

しっかり唇を塞ぎ、口内に流し込み、嚥下させる。

「んぐ……、ぷは、」
「はい、飲めたね」
「うぅぅーいつも余裕綽々でムカつく!」
「はいはい」

別に余裕なわけじゃないけど。ベルナにキスしたり触れたりするのも結構勇気がいるんだけどな。
そうベルナに言っても信じてもらえなさそうだから言わないけどね。

「というか薬貰ってからずっと口移ししてるじゃないか。なんでそんなに嫌がるんだよ」
「べ、つに嫌ってわけじゃ
「じゃあなんで逃げるんだ?」
だからまだ慣れないの!あんたと違って!」

だから俺も慣れてるわけじゃないって。俺もちょっとムカついてきたのでその体をがっしりと抱き込んでやる。

「んぅっ、ちょっと何よ!」
「ベルナが俺のこと勘違いしてるからムカついた」
何よ、別に勘違いなんて…………勘違い?」
「そう。俺だって慣れてるわけじゃないんだから。そこんとこ勘違いしないでね」
………

黙ってしまった。俺の言葉をどう受け取ったのだろうか。

……あなたも慣れてるわけじゃないの?」
「だからそう言ってるだろ。お前とこうする時も結構緊張してるんだから」

そう言って更にその体を抱き込む腕に力を込める。びくりと体が動いたが特に抵抗もなかった。
言ってベルナも結構慣れてるじゃないか。

……ふふ」
なんだよ」
「やっぱり可愛いわね、あなたも」
「俺はかっこいいって言われた方が嬉しいんだけど」
「あらそう?じゃあ私からの言葉はダメなわけね?」

ついにベルナが優勢になってしまった。いつもなにかしら勝負みたいなことになってはベルナが勝ち、俺が負け、逆にベルナが負けて俺が勝つ。勝敗はどっこいどっこいだ。

「そんなこと言ってないだろ。お前からの言葉はなんでも嬉しい」
……へぇ?じゃあ私が別れる、とか嫌い、とか言っても嬉しいってこと?」

がばりとその体を離す。結構睨んだつもりだったけど愉快そうに笑うベルナは悪戯っぽく俺を見ている。……俺は不愉快だ。

「これ、治ったらお仕置きしようか?それとも今からする?最後まで」
……な、そ、そんな怒らなくてもいいじゃない冗談に決まってるでしょ」
「言っていい冗談とそうでない冗談があるけど?」
「うぐ……

形勢逆転。しどろもどろになったベルナは俺と距離を取ろうとするがいかんせんまだ腰に手をがっちり回しているので逃げられない。というか逃がさない。

「ご、ごめんってば……もう言わないから……
「やっぱりまだまだ足りないんだなぁ……?俺の愛情が」
「足りてる!足りてるか、んむっ、」

焦りだしたその唇に噛みつき、有無を言わせないようにしてやる。

「んっ……ふ、」

腰と背中にしっかり腕を回し、口から口へと愛情を注ぎ込む。こうやって濃厚に触れ合っている間も俺だって心臓バクバクなんだ。ベルナにも分かってほしい。

……ん、ぷは………
……まだ足りないね?」
「ぁ……、たりてる、からぁ……

恍惚とした表情で俺を見る。ふとベルナの手が俺の服を掴んだ。

「何?どうしたの?」
……なんでもない」

まだぼーっとしている。でもその顔がなんだか何か言いたそうな感じになっていることに気づいた。

「なんでもないじゃなくて?」
……うぅ……

ベルナがなんでもない、とか大丈夫、とか言う時は大抵何でもなくない時である。

……手、繋ぎたい……
「手?いいけど」

何でもないを貫き通されるのかと思いきや意外とすんなり答えてくれたので良かった。でも手を繋ぐって。嬉しいからするけど。

ん、そうじゃなくて
「え、何」

普通に手を握りたいのかと思ってそのまま手のひらを重ねてぎゅっとしてみたけどお気に召さなかったようだ。

……こう、したいの」
………

やっぱり、積極的なベルナが出てくるとこっちもドキドキする。可愛いし愛おしいし何より好きが暴発する。
指を絡め合ってぎゅっと握られた。

「こうしたら、……この湿疹も早く治るんじゃないかなって……この前思ったの」
……ベルナ、」

今は片手だけ恋人繋ぎしてるけど俺はたまらずもう片方の手も掴み、指を絡めた。

「こんな風にしていたら早く治るって?」
……うん」

所詮おまじないや祈りと一緒だと思っていた。でもベルナがこうしてそんなことを言っているから本当にそうなるんだと錯覚するまでに陶酔しているのが自分でも分かる。

「じゃあ治るまでこうしていよっか」
これじゃあ何も出来ないじゃないの」

むすっとした顔ですぐ手を離そうとするがぎっちり俺が握っているので離れない。

「こうしてたら治るって思ってるんだろ?可愛いなぁ」
「もう!からかうのはよして!」

心底恥ずかしそうに握った手を振りほどこうとするベルナ。こうやって恋人繋ぎするの、あんまりしてないからしばらくこうしていたい。

「からかってないよ。可愛いって思ってるだけ」
「そういうところよ!」

しばらく手をふりふりさせながら格闘していたが、疲れたのか諦めてぽすりと俺の胸に顔を埋めた。

「はぁ……あんたといると気が狂っちゃう」
「狂っちゃってもいいよ?」
「バカじゃないの」



そう言いあいながらもくすくすと笑いながら甘い時間を過ごした。