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桜庭 梓沙
Public
原初👑🌸
障壁の外へ出よう、と提案したのはサクヤの方からだった。
タイラントは少し考えた。なぜなら彼は障壁の外へ出たことがないからだ。
だが、愛しい恋人である生身の挑戦者──否、アルカディアを救った英雄であり名誉統一王者である彼女の誘いを断る理由など無かった。
障壁の外へ出ることに不安がない訳ではない。未知の世界へ旅に出ることは誰しも恐ろしいと思うものだ。
それでも彼女が見てきた世界を知りたいという興味の方が勝った。
「大丈夫です、何があってもあなたを守ります」
いつもは自分が言うセリフだったが、今回は逆転した。大丈夫、と微笑み差し出すサクヤの手を取りタイラントはそのまま引き寄せ口付けた。
***
今や隣国となったトライヨラ連王国。不夜城のソリューション9とは違った賑やかさがある。
ネオンスタイルの明るさとは違い、初めて見る海というもの、空というもの、異国の服装、全てが新鮮なものだった。
サクヤに手を握られ引連れられているタイラントにとって情報が追いつかず彼女に着いていくのが精一杯だった。
「もしかしてお疲れ
……
ですよね、すみません」
「
……
少し、な」
謝る必要は無いと一言添えて休憩を申し出た。先程まで周りに光が見えるほど明るかった彼女の表情は一気にヘリテージファウンドの雷雲のようにどんよりと暗くなる。
「私とした事が
……
」
きっと彼女は外の世界の素晴らしさを伝えたかったのだろう。その気持ちは嬉しかった為、頭を撫でる。
「気にするな」
そういえば顔を上げて眉を下げながら頷いた。
屋根のある店先でドリンクを頼もうとした際、サクヤは「アイスコーヒーとかどうでしょうか」と提案する。
普段温かいコーヒーばかり飲んでいた為、アイスコーヒーというものに興味を示した。
「
……
苦いのか」
「えっ、あ、ブラックだと苦いですよ」
「
……
甘くするのは」
その言葉にサクヤは目を丸くした。と同時にタイラントの眉間にシワがよる。サクヤはニコッと笑うと「もちろんありますよ」と店員にシュガーシロップとミルクを追加でお願いする。もちろんサクヤも同じものを頼んだ。ソリューション9内では基本タイラントが奢っているが、外の国の金など持ち合わせている訳もなく、今回はサクヤの奢りだった。
些細なことだが、彼女に金を出させるのはタイラントととしては不服だったが、いたし方ない。サクヤは「いつものお礼です」と言った。
2人は席につき、コーヒーにシュガーシロップとミルクを足す。そしてかき混ぜれば黒色は明るい色に変化していく。
ストローで一口吸いあげれば美味しいコーヒーの香りと甘さが口に広がった。
「甘いのがお好きなんですね」
「悪いか
……
」
「いえ、そんなつもりはないです。ただ好みが一緒だなって思っただけです」
強面の統一王者が甘党など聞かれたら引かれるだろう。だがサクヤはそれを笑うことなく、受け入れてくれた。
彼女はいつもそうだ。
自分の話を真剣に聞いてくれる。こちらが一方的に喋っていても、相槌を忘れず、目を真っ直ぐ見つめて。だからこそ心地よかった。
聞くばかりも疲れるのではないかと一度だけ聞いたことがある。その時彼女は、
「楽しそうに話してるのを聞くのが好きなんです。それにタイラントさんあまりお話されないので、楽しそうなのと、声が
……
心地よくて
……
」
そう言って彼女は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。
彼女に何度胸を掴まれただろうか。
彼女の優しさと献身的な心に惹かれ、笑顔に声に、自分の髪の色と同じ瞳に見つめられ、小さなその手で触れられた所が熱く感じる。全てが愛おしい。
「タイラントさんと出会えてよかった」
それは激しく同意した。サクヤと出会えていなければ、もしかしたら自分は命を落としていたかもしれない。そんなもしもを考える度に恐ろしくなり、だがそれ以上に出会えた奇跡に感謝してもしきれないのだ。
アイスコーヒーがぬるくなる前に飲み干した。そしてそのまま目の前に広がる本物の海を見渡した。
「
……
これが
……
」
自然再現環境区と、同じくヘビー級の闘士であるエクストリームズの試合の中でしか見たことがない海というものを初めて目にした。
本当に青かった。それにハウリングブレードが望んだ広がる青空もここには嘘偽りなく広がっている。
呆然と立ち尽くすタイラントの様子に、サクヤは彼の手を握った。その感触に我に返ると、下を向いてサクヤを見つめる。
「すごく、感動しますよね!」
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