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みずあめ
2026-06-16 00:04:38
3367文字
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brmy
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神麗
「麗みーつけた」
甘やかしたい、と直接言われてるくらいの甘ったるい声がバスタオルを被った頭の上から降ってきて、それにオレが反応するより早く神家はソファーベッドに上がった。普通のソファーと違う広いマットレスの上で、隣に座るよりうんと近く、後ろから足の間にオレを挟んで抱きしめてくる。いつもは烏の行水のくせにオレが先に出てから二十分近く風呂場に篭っていたのは、オレに一人の時間を作るためだろう。しっかり湯船に浸かっていたのか普段より高い神家の体温に、また心臓がバクバクと脈打つ。せっかくのインターバルは一瞬で無駄になった。
「髪ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよ?」
「
……
うっせ」
「俺がやっていいならドライヤー持ってくる。どうしたい?」
バスタオル越しに優しく頭を撫でられてじわりと涙が浮かんだ。触られたくないわけでも、触りたくないわけでもない。だけど全てが初めてで、心が追いつかない。許容量を超えた感情はさっきも今も涙になって溢れた。嫌なわけじゃない、と伝えた言葉はそのまま曲解せずに受け取ってくれただろうか。
いつもならムカつくニヤケ面でオレの顔を覗き込んでくるくせに、今は後ろから抱きしめるだけだ。どんな状況でもふざけたポジティブ思考で強引に良い方向へ転がしていくくせに、そんな神家でも、困るなんてことがあるのだろうか。オレの髪を乾かしたいらしくバスタオルをわしゃわしゃと動かし続けるからぐらぐらと頭が揺れて、思考も一緒に揺れていく。ぼろっと溢れた涙が頬を伝い、バスタオルに吸われる。
「
……
もう、やだ」
「え? なんか言った?」
「いちいち止めて、おまえのこと付き合わせて、自分のことどんどんキライになる」
「
……
麗」
「オレのことなんか放って、どっか行けよ」
「行かないよ。麗、聞いて」
ふるふると首を振って言葉を拒絶しベッドから下りようとしたけれど力強い手がオレの体をぐっと引き寄せて離さない。本当にここから逃げたかったのに、力強く抱きしめられて心の奥がバカみたいに震えた。離せ、と怒鳴るつもりだった声は囁くように小さかった。
「お願い、置いてかないで。ちゃんと麗と話したいよ」
「っ、
……
なんでだよ、おまえももう、イヤになっただろ」
「なってない。全然一ミリもイヤになんかなってないよ。ずっと、今も、麗のこと大好きだよ。信じて」
「
……
なんで」
「えっちできないくらいでキライになるわけないよ。俺の方が強引にして嫌われたかもって思ったのに、どうして麗のことを責めるの。麗に付き合わされてるなんて思ったことない。何があっても絶対麗のこと大好きだから、
……
俺の大好きな子のこと麗も好きになってよ」
バスタオルが頭からずり落ちて、視界が明るくなった。思わず顔を上げて振り向いた先で神家は涙目になっている。なんで、おまえが泣くんだよ。眉間に皺を寄せたオレに、ふわりと嬉しそうな笑みが向けられた。
「ずっと一緒にいて。怒っても泣いてもいいから、俺といて。そしたら俺が絶対笑わせるから」
「
……
泣いてねー」
「それなら良かった。ちなみに俺も泣いてないからね」
「あほ、顔濡れてんぞ」
「お風呂上がりだからだって。麗もほっぺた濡れてる」
「髪が濡れてるからだろ」
くだらないことを言い合いながらお互いの頬をてのひらで撫でて、涙を拭い去る。へらっといつも通りの顔で笑う神家を見つめて、心臓はまたドキドキとテンポを上げた。
「
……
髪、おまえも乾かしてないのかよ」
「え? ああ、うん。でも俺は短いしすぐ乾くよ。ドライヤー持ってくる?」
「じゃあいい、今日はもう」
「わっ」
神家の肩を押して、ベッドに転がす。オレを見上げる丸い目にふんっと鼻を鳴らし、その体の上に跨った。
「ま、まってまって、無理はしないでいいから」
「無理じゃねえ」
「でもさっきは、いや、無理じゃないならいいんだけど、俺は全然、このまま一緒に寝るだけでも」
「ヤりたくねえのかよ」
「やっ、
……
やりたい、けど」
「
……
さっきは、ちょっとビビっただけだ。あとおまえは勝手に動くな」
「え?!」
「オレだってできる」
神家のパジャマをめくって腹を晒せば、神家は「わあ!」と声を上げてオレの手を掴んだ。ぎゅっと手を繋がれて悪い気はしないが、今したいことはそれではない。無言のままジッと睨めば神家はじわじわと顔を赤くしてゆっくり手を解き、両腕を上に上げバンザイのポーズになった。
「無理だって
……
」
「無理じゃねえつってんだろ」
「麗じゃなくて俺がだよ
……
」
「はあ?」
うだうだと文句を言っている神家を無視して、オレは神家のパジャマを捲り上げた。鍛えられた体を見下ろすとじわりと体の中を興奮が走る。
ヤりたくないわけじゃないんだと、自分の感情を知ってホッとした。涙はすっかり渇いている。手を伸ばして神家の腹を撫でれば神家が「んっ」と声を漏らした。しっかり湯船に浸かる余裕もなく風呂を出てきたから冷えていた体が、神家に抱きしめられた時よりもハッキリと熱を上げる。
「うらら、おれも触りたい」
「
……
だめだ。じっとしてろ」
「いじわる」
おまえに触られたら、きっとまたオレは訳がわかんなくなっておまえのことを拒絶してしまう。もう、そんなことはしたくなかった。自分が触る分には問題ないみたいだから、さっきの分もまだ神家に触れていたい。
麗、と熱っぽい声で名前を呼ばれるたびに心臓が跳ねて、オレがてのひらを滑らせるたびに神家の体もかすかに震えた。上体を倒して顔を寄せ、期待した顔になる神家の鼻にかぷりと噛み付く。あぇ、と情けない声に笑い声を溢し今度はきちんと唇を重ねた。シャワーで濡れることのない乾いた唇は、だけどすぐにバカ犬に舐められて濡れていく。
動くなって言ったのに神家はオレの頬と後頭部に手を当ててキスに夢中になっていた。ガッツリ固定されて息ができないくらいのキスが好きだとコイツに言ったことはない。
「っは、あ、ごめん
……
やりすぎた
……
?」
唇が離れた途端オレは神家の上にくたっと倒れ込んだ。呼吸に合わせて上下する胸に耳を当てれば心臓の音がよく聞こえる。息を整えながらその音を聞いて、オレはふっと笑った。
「おまえも、ドキドキしてんだ」
「え? うん、そりゃもちろん、
……
え? おまえも、って言った? 麗も?」
「
……
ヤりたくないわけじゃねえ」
「う、ん。
……
わかってるよ」
「触りたいし、おまえに触られるのも、いやじゃない」
「
……
うん」
「でも、ちょっと、
……
こわい」
「
……
うん」
神家は俺の背中を優しく撫でて、ぎゅうっと抱きしめてくれた。心臓の音が混ざって重なり心地いい。
「教えてくれてありがと。怖い思いさせてごめんな?」
「んん」
「いいんだよ、実際俺怖かっただろうし。だめなんだ、麗のこと何よりも一番大切にしたいって思ってるのに、可愛すぎてめちゃくちゃにしたいとも思っちゃう。麗とは違う意味かもだけど、俺もちょっと怖いんだよ、自分のこと。だから麗が止めてくれてよかった」
「
……
ばか。全部自分のせいにしようとすんな」
「そうじゃないけど、今日のは俺が悪いでしょ。せっかく麗が一緒にお風呂入ってくれたのに、待てができなくてごめんなさい」
「
……
もう、いいから」
のろのろと体を起こし、神家を見下ろす。まっすぐにオレを見つめる瞳が、なんでも言葉にする唇が、オレにだけ向けられる感情が、好きだと思った。
ちゅ、と触れるだけのキスをして自分の寝巻きに手をかける。バッと脱いで床に落とすと、目を離した一瞬で神家は目を見開いて、オレの視線に気がつくと慌てて顔を逸らした。顔の代わりに、赤い耳と首筋が丸見えだった。
「今日はしないって話じゃなかった
……
?」
「ンなこと言ってねえ」
「俺は、まだ動いちゃだめ
……
?」
「
……
」
「動かない、動きません、待てできるよ、わんっ」
「ふ、ばか。
……
どこまでできるか、分かんねえけど、
……
付き合えよ。練習相手なんておまえしかいねえんだから」
「っ、なまごろしだぁ
……
」
「おまえもやめたくなったら言え」
「なるわけないよ」
「
……
下、さわって、いいか」
「
……
ん、さわって」
どろっと熱い視線と声が、オレの心臓を撃ち抜いた。
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