Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
山茶花
2026-06-15 22:09:02
8855文字
Public
[シルデュ]シリアス・ダーク系
Clear cache
Remember【265SR023】
記憶喪失シルバー×嘘つきデュース/8400字程度
目が、覚めたら。俺は、真っ白な部屋にいて。
それで。
……
? 駄目だな。何も、思い出すことができない。
身体を起こしたら、隣に、鏡があった。それを見ると、銀髪の男が映っている。
……
ああ。この髪から取られた『シルバー』とは、俺の名前だったか。
そんなことを思い出して。どうやらここは病室のようだ、と。辺りをきょろきょろと見回していると。
「目が覚めましたか」と、白衣の男性がやってきて。俺は、あなたが俺を助けてくれたのですか、と尋ねた。
「眠る前のことは覚えている?」と、そう聞かれたので。俺は、どうにも今、自分のことが思い出せないことを伝えた。
すると。白衣の男性は、自分のことを医者だと名乗り。身の回りのことや生活の仕方などは分かるみたいだね、と確かめた。
しばらく俺は面会が制限されるそうで。義理の父以外とはほとんどしばらく会えないと言われた。
俺は、養子だったのだろうか? それすらもよく思い出せなかったが。実際、父と名乗る男性と面会をしてみれば。
「親父殿」
あっさりと、俺の記憶は戻った。この方は大切な、俺の育て親のリリア・ヴァンルージュ。俺は、その名字を頂いた。
それを頂くことが出来たのは、俺や、俺たちの主君にとって、大きな事件があったからで。
幼馴染であり弟弟子であるセベクと共に、その事件を解決した勲章として、俺はその名を戴いた。
そういうことや、学園に通っていた間の人間関係など。だいたいは、うっすらと思い出すことができた。
それで。家族の見舞いも落ち着いた頃。ある青年が、俺の病室を訪れた。
「あの、シルバー先輩。記憶、なくしたって聞いて
……
、僕
……
、なんて言ったらいいか
……
」
「
……
君は
……
?」
俺が尋ねると。目の前の青年は、群青色の短い髪を揺らして。それで、俺に頭を下げた。
「
……
すいませんしたっ!! シルバー先輩は、僕を庇って、こんな大怪我して、記憶までなくしちまうことになって
……
っ」
「か、顔を上げてくれ。記憶は問題なく、少しずつ戻っているし
……
、君も、その。気に病まなくて大丈夫なはず、だ」
「
……
でも
……
」
泣きそうな顔をする目の前の青年が、誰なのか分からないながらに。俺は、そっとその泣きそうな目元を拭う。
なんだかとても、そうしなければならない、そうするのが自然なような気がしていたから。
「
……
泣かないでくれ。君にそんな顔をされると、なんだか落ち着かないんだ、不思議だな」
ひょっとして俺は君と恋人同士だったりしたろうか、と俺が尋ねると。
目の前に立つ青年は、いえ、と首を振った。
「僕は
……
、前、シルバー先輩に、告白したきり、他に好きな人がいる、って。フラれちまって。だから、今は別に恋人がいるんです、僕にも」
はは、と頬をかく青年の言葉に。俺は、なんだか胸がちくり、と痛んだ気がした。
「そうか。
……
それは
……
なんとも、辛い話を、無神経に聞いてしまって。申し訳がなかったな」
「いえ、過ぎたことですから。それに、もう、踏ん切りはついてますし」
だからただの先輩後輩として一緒に出かけたりもしててこうなっちまったんで、と告げる青年に。俺は尋ねる。
「ええと。
……
そういえば、君の、名前は?」
「デュースです。デュース・スペード」
「そうか、デュース。
……
また、近いうちに来てくれ。まだ、君のことを、ちゃんとは思い出せていないみたいだから」
何度も会っているうちに、みんなのことを思い出すことができるんだ。だから、と俺が言うと。
分かりました、また近いうちに、とデュースは頷いて。そして、病室を後にした。
それから。しばらくの間、家族や友人たちの訪問が立て続いたあと。ある日の俺は、眠っていた。
眠っているとき。何か、懐かしい感触がした。暖かな手の感触が懐かしくて、ぎゅっと握った。
ぎゅっと握ったその手の向こうにぼやけるシルエットの頭を、そっと撫でた。
なんだか、そうしてやらないといけないくらい、その影が淋しそうに見えたから。
「
……
ん
……
?」
ぱちぱちと、瞬きをすると。目の前には、俺に手を握られ、頭を抱き込まれたデュースがいた。
「あ、あの、シルバー先輩
……
」
「
……
すまない。どうやら、寝ぼけてしまっていたようだな
……
」
「い、いえ。寝ぼけてたなら、仕方ないですよね」
そう言って、デュースは。花瓶の水、換えてきますね。お見舞の花持ってきたんで、僕、と、病室を後にした。
俺はそんなデュースを、行ってらっしゃいと見送って。
そして、自分の手をじっと見た。
「
……
?」
不思議だ。握られていたのは、デュースの手であり、撫でていたのは、彼の頭なのに。
……
なんだかそれがとても、俺の手の中に、しっくり来て。とても、落ち着いていた。
そのことをデュースに話すと。デュースは、なんでもなさそうに言った。
「ああ、えっと。僕、先輩の恋人と、背格好が似てるんですよ。だからじゃないですか」
と。俺は、そういうものだろうか、と。何か違和感の残る心の中へと、言葉にならないモヤつきを溜めこんでいた。
それから。家族や友人のほか、たまにデュースは俺を見舞いに来てくれた。
間で見舞いに来た家族に、そういえば俺の恋人は見舞いに来ていないのでしょうかと尋ねると、もう来てるじゃろ、本人は名乗らんかったんか? と言われてしまった。誰か教えてやろうかと言われたが、俺はそれを断った。これは俺が自力で思い出すべきことだと思ったから。
それにしても。もう来ている、という口ぶりからすると。今までやってきた友人や家族、後輩たちの中の誰かが。
俺の恋人だったのだろうか、と。そうならば、なぜ、俺にそのことを伝えてはくれないのだろう。
もしかして、俺のことが嫌になっていて。これを機会に、関係をなかったことにしてしまおうとしているのではないか、と。
嫌な想像が、脳裏をよぎっていた。
——
もし。もしもそれが、真実ならば。俺はこのまま、恋人のことを思い出してやらない方が誠実なのではないだろうか、と。
しかし、相手が誰だか分からないことには、その真意さえ分からない。もし相手方がそのように俺のことを嫌になっていたのだとしても、せめて俺自身は思い出してから、思い出していないフリをしてあげよう。俺は演技が上手くないが、きっとなんとかなる。
ちょうど、そんなことを考えているときだった。また、デュースが見舞いに来たのは。
俺は、これをちょうどいい機会だと思った。彼が言うには、彼は俺と若干の色恋沙汰があった関係のようだった。
ならば、と。それをきっかけに、俺が好いていた人物、彼を取り巻く人物からある程度の事情が推察できるのではないかと思ったまでだ。だから、彼に聞いてみた。
「デュース。お前には、恋人がいると言っていたな。いったい、どんな奴なんだ? 聞かせてほしい」
するとデュースは、一瞬、躊躇ったように口を結んで。それから、また口を開いた。
「そう、ですね。優しくて、真面目で、誠実で。
……
僕を守るためなら、なんでもしちまう、ような。ちょっと危なっかしいところもある、だけど、
……
大好きな、人でした」
「『でした』?
……
上手くいっていないのか? それとも、恋人さんの身に、何か?」
「あっ、いえ。ただの言い間違いです、気にしないでください」
それより体調とか、記憶の回復の方は順調ですか、とデュースが問う。俺は、ああ、だいたいの記憶は取り戻せてきているし、鈍った身体のリハビリも順調だと答えると、良かったです、とデュースは笑った。
……
それにしても、不思議なものだな。何故か、俺の心は。先ほどの言葉を聞いたときから、チクチクと、痛んで止まない。
「デュース。ひょっとしたら、以前の俺は。
……
何か、別の理由で、お前のことを振っていたのかもしれないな」
「え?」
驚くデュースに、俺は言う。
「お前が、恋人の話をする度
……
、チクチクと、胸が痛む心地がする。以前の俺は、馬鹿だったな。こんな気持ちになると分かっていながら、お前を恋人に選ばなかった、なんて」
お前が俺を好きでいてくれた間に、俺が、お前を好きになれれば良かったんだろうに、と。そんなことを呟くと。
デュースは、そうですね、と俯いて。
「
……
気持ち、すごく嬉しいです。でも
……
、もう、遅い、んですよね」
「ああ。分かってる。
……
困らせてすまない、な」
こんなことを言ってしまって、厚かましい願いなのは分かっているが。また、ここへ来てくれるか、と俺はデュースに尋ねた。
デュースは、先輩が満足するまでは通いますよ、申し訳ないですし、と。笑って頷いた。
その、泣きそうな笑顔を見て。
……
ふと、思った。デュースの恋人は。俺のような男のところへ通い詰めでいるのを、よく許してくれているな、と。
そのことを。次にデュースが俺を訪ねてきてくれたとき、尋ねてみた。
「あー
……
。僕を庇っての事故だったから、申し訳ないんだって事情を説明したら。ちゃんと分かってくれてます。むしろ、先輩にはお礼とお詫びを言っといてくれって言ってました。『デュースを庇ってくれてありがとう』『迷惑をかけてすいません』って」
「気にすることはない、と伝えておいてくれ」
「はい、そうします」
俺の病状は、だいぶ回復して。身体の怪我も、脳波などの検査も異常が認められることが少なくなってきた。
あとは。学園生活の記憶を完全に思い出せてしまえば。未だ影も形もない恋人の記憶など、ちゃんと思い出せてしまえば。
……
言うことはない、らしいのだが。思い出せないのがその程度で済むのなら、一度家というか、学園の寮のような、いろいろな思い出と刺激のある場所に帰ってみるのもいいかもしれないと。試験外泊、いわゆるお試し退院のような計画が進んでいた。
「今度、学園の寮に一日ほど帰って、普通に過ごせるか、様子を見ることになったんだ」
「そうなんですね! おめでとうございます」
「ああ」
俺が、膝を立てて。ぼうっと焦点の定まらない場所を見ていると。デュースが心配そうにのぞき込んだ。
「シルバー先輩?
……
大丈夫ですか?」
「ああ、いや。
……
大丈夫だ。ただ、やはり、心残りでな」
お前は、俺には恋人がいるのだと言っていたろう。何故、今日まで俺の前に名乗り出てくれないのかは分からないが。
だが、誰だかは分からなくとも、もう既に会っているとは伝え聞いているから、と。
「
……
もし、その『恋人』が。俺のことを嫌になっていて。これを機会に関係を清算しようとしているなら、俺は知らないフリをしてやるつもりなんだ。だけど
……
」
もしも、そうでない場合。俺が自分からその子のことを思い出すのを、心待ちにしている場合、だ。
「その子は、今も。淋しがって、不安で仕方ないのではないかと、思ってしまって。だから
――
……
」
出来たら、その試験外泊までに、その子のことを少しでもいい。残り香でも、顔だけでも。名前だけでも。
その子を一目見れば分かるほど好きだったという気持ちだけでも。何か、ひとつでもいい。思い出してから、会いたくて。
と、俺が言葉にすると。デュースはなぜか、つう、と。片目から、一筋。静かな涙をこぼした。
「ど、どうしたんだ? デュース?」
「あ、すいません
……
。僕が、その。今、恋人と、上手くいってないのも、あって。先輩の、気持ちってか、愛情みたいなのが、すごい優しいなって
……
当てられちゃった、みたいです」
「そうか
……
、泣かせてしまって、すまない」
俺は、デュースの背中をそっとさする。そうしたら。何か、記憶が、少し、戻って来るような気がした。
「
……
?」
記憶の糸を、手繰り寄せる。ノイズのかかった写真のような記憶のフィルムが流れる。
『泣かないで、くれ。大丈夫だ。俺は、大丈夫だから
――
……
』
目の前で泣きじゃくる誰かを、俺は、慰めている。血にまみれた姿で。
これは
……
デュース?
「先輩? シルバー先輩、大丈夫ですか
……
?」
「
……
ああ、大丈夫、だ。少し
……
、事故に遭った時のことを、思い出したみたいだ」
「えっ? 頭痛とか、大丈夫でした?」
「平気だ。それより、」
あのときも今も、泣かせてしまったんだな。すまない、と。俺はデュースの頭をぽん、と撫でた。
そうすると。デュースは、俯いて。あの、僕、と。何かを言いたげにする。
だけど、デュースはそれを、言葉にしない。俺は、どうしたらいいか、分からなくなって。
目の前に立つデュースのことを。ぎゅっと、抱きしめた。
「先輩
……
?」
「
……
ああ
……
不思議だな。デュース」
やっぱりこれが、心地いい。しっくり来る。落ち着く。
これは俺の勘違いなのかもしれないが、でも、だけど。
「お前のことを、こうしていたくて仕方ないんだ。何故か、初めて見たときから、ずっと」
なぜかずっと、お前のことだけが、思い出せないのに。なのに、お前には、こうしていたいんだ。
そう、俺が告げると。デュースは。
「
……
だめだ
……
」
「デュース?」
「だめ、です。僕のこと、思い、ださないで
……
」
せっかく止まった涙を、また滲ませながら。病室を、出て行ってしまった。
「デュース!」
俺は、彼を追いかけようとしたが。
「シルバーさん、採血の時間ですよ! ほら、座って!」
「い、いや、あの
……
っ! 今はその
……
っ!!」
「面会ならきっとまた来てくれますから、急がずに! もうすぐ学校にも帰れるんですから、ね!」
そのときお話してください、と看護師さんに押し切られ。
とうとう、デュースを追いかけられはしなかった。
その夜。俺は、考えていた。なぜ、デュースは。自分のことを、思い出さないで、などと言っていたのだろう。
……
デュースには恋人がいて。俺はデュースのことを、既にもう、振っていて。
その記憶を、思い出されたくないのだろうか? それも何か、違うような気がしていた。
何故ならデュースは、それを自分はもう吹っ切ってしまっていると言っていたからだ。
考えれば考えるほど、分からなくなる。俺の恋人とは、誰なんだ? いっそ親父殿にでも、聞いてしまおうか。
デュースにだけ抱えている、この想いは、いったいなんなんだ?
そう思って。俺は、意を決して。親父殿にメッセージを送ってみた。
『親父殿。ああは言いましたが、やはり、俺の恋人のこと。名前だけでも、教えていただけますか』
そうすると、親父殿からはシンプルな返信が返ってきた。
『デュース・スペード』
ああやはり、と。俺の心には、納得のような気持ちの方が落ちた。
親父殿に、『遅くに吸いませんでした、ありがとうございます』とだけ返信して。そして、また考えた。
……
彼が恋人だと言うのならば、俺の想いには辻褄が合う。だけど。デュースの言動に、辻褄が合わない。
やっぱり、俺の考えていた通り、俺のことが嫌になってしまっていて。
これを機会に、俺との関係を清算しようとしているのではないだろうか。
それなら、そう言ってくれたら。俺は、素直にそれを受けたのに。
大事な人の存在を忘れてしまうような恋人なんて、振られても当然だよなと言い訳をして、受け止めて。
これから歩んでいく道を、祝福して送り出してやれたのに。
だけど、そういえば。デュースは、泣いていた。俺が、そのことを告げたとき。
『優しさに当てられた』と、泣いていた。
……
じゃあ。デュースの気持ちは、まだ、俺にある、のか?
そう、思った瞬間。カチリと、パズルのピースがハマっていくかのように。
俺の中に、ひとつの答えが導き出された。
……
ああ、なんだ。
馬鹿だな、デュース。俺も、お前も。
なんて遠回りをしたんだろう。そう思って。
俺は、一度病室から、正面玄関へと出て。迷惑にならないように、外で電話をかけた。
『RRR
…
』
スマートフォンから、無機質な発信音が響いて。そして、やがて、ピッと着信を取る音が聞こえる。
『シルバー先輩!? こんな夜中にどうしたんですか!? 急変とか
……
!?』
「ああ、違う。大丈夫だ、落ち着いてくれ」
『そ、そうだったんですね、良かった
……
。夜中に先輩から電話かかってくるから、緊急かなって思っちゃいました』
「ふっ。驚かせてしまって、すまなかったな。だが
……
ある意味でそれは、正しいのかもしれない。だから、一刻も早く。
……
お前に、伝えたくて」
『え
……
』
デュースは、電話の向こうで、驚いた声をあげている。それでも俺は、言うべきだと思った。
「すべて、思い出した。
……
お前がどうして、あんな嘘をついたのかもだ、デュース」
酷いじゃないか、恋人を前にして、振られた、他に恋人がいるなんて嘘をつくなんて、と。俺が茶化すように言うと。
デュースは、思い出しちゃったんですね、と残念そうに言った。
「どうして残念そうなんだ?
……
喜んでくれよ」
『だって、だって僕
……
っ、僕のせいで、先輩
……
』
「ああ。
……
それが、気になっていたんだろう?」
俺は、指摘した。デュースは、俺に自分を庇わせ、記憶喪失になるほどの大怪我をさせてしまったことに責任を感じて。
それで。もう恋人ではいられないと、自分からその立場を降りようと、あんな嘘をついてしまったのだろうこと。
「デュース。お前の気持ちは、分かっている。その上で、言わせてもらう。そんなことは、償いにもならない。やめてくれ」
『
……
でも、だけど、僕
……
』
先輩が、僕のために無茶しちまうのが、もう嫌で、僕の傍にいると、こんなことまたあるのかもって思って、と。
電話先でぐすりと鼻を鳴らしているのだろうデュースに。
そよぐ夜風を感じながら、俺は言う。
「デュース。
……
今日はもう遅いから、明日、また病室に来てくれるか?」
それでまた、話し合おう。これからのこと。俺のことを想う気持ちがあるのなら、そうしてほしい。
寝る前に泣かせてしまってすまなかったな、おやすみ、と。最後に電話口へキスをして、通話を終了する。
明日、デュースは来てくれるだろうかと思いながら。俺は、病室へと戻った。
そして、翌日。デュースは、少し申し訳なさげに、おずおずと病室を覗いていたから。
「そんなところにいないで。こっちへおいで、デュース」
病室の中へと招き入れると。所在なさげに、ベッド脇の椅子へと座った。
「もう、お前のことを含め、ほとんどの記憶を思い出すことができた。試験外泊で問題がなければ、一度検査をしてから、退院になる」
「そう、ですか」
先輩が良くなったのは良かったです、と言うデュースの身体を、俺は。ベッドから腕を伸ばして、抱き締めた。
「デュース。
……
俺が、ずるいのは分かっている。でも、どうか。また、俺の恋人に、俺の腕の中に。
……
戻ってきては、くれないか?」
お前に、本当に他に好きな人があって、俺とはもうやめにしたいと言うのなら、送り出すことも考えたが。
どうにもそうでないような気がしてしまっているからな、と俺が言うと。
デュースは、僕もあれから、たくさん考えました、と告げる。
「僕、先輩と一緒にいたい、です。でも、先輩が、こんな風に、僕庇って無茶して、大変なことになっちまうの、嫌で
……
っ」
「
……
」
俺は。デュースの唇に、ちゅ、とキスをした。
「ふっ。
……
久々だな」
「ふぁ
……
」
「あのな、デュース。俺は、きっとこれからも無茶をする。大切なものを守るためなら、なんでもする。でもそれは、お前が傍にいても、いなくても。同じなんだ。きっと俺は、他の大事なもののために、他の無茶をする」
そういうときに、傍で泣いてしまうお前がいてくれたら。俺にも少しはストッパーがかかるかもしれないのだが、と。
俺が、デュースの顔を、下から覗き込むと。
「せんぱい、ほんとにずるいです
……
っ」
僕いっぱいいっぱい考えて、先輩とお別れしなきゃいけないんだってずっと思ってたのに、なのに、と。
デュースは、目に涙をいっぱいに溜めているから。
「不安にさせて、長い間忘れていて、すまなかったな、デュース。
……
愛している。俺の傍に、またいてくれ」
そう言って、もう一度デュースの身体をぎゅっと抱きしめた。
デュースは。もう二度といなくならないで、と。俺の背中に、腕を回して。もうどこにも行かないようにと、ぎゅっと俺の身体を、必死に抱きしめ返していた。
それで。俺は、親父殿やマレウス様、セベク。そしてデュースに迎えられ、試験外泊を行った。
久々に会ったルームメイトには、元気そうじゃねえかと悪態を吐かれ。見舞いに来られなかった友人たちからは、俺のこと覚えてる? と矢継ぎ早に質問をされ。ああ、みんな覚えている、あるいは今思い出した、と。俺は答え。
少しだけ離れることになっていた賑やかな寮生活を、懐かしく思い。
そうして。中庭で意図しない昼寝をしていると。愛おしい気配が、傍に来たのを感じて。
「デュース。
……
おいで」
「
……
」
手を広げて、迎え入れる。ぎゅっとその身体を抱き締めると。
デュースは、大人しくそこにいてくれて。
「改めて
……
たくさん心配をかけて、すまなかったな。これからも、よろしく頼む」
「
……
今度は、無茶しないでくださいよ。絶対、約束ですからね
……
っ」
緑に芽吹く木の葉の舞う木漏れ日の下で。俺は、この手から離れていきかけた恋人を。
もう二度と逃がすまいと、強く強く抱きしめるのであった。
*おしまい
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内