Piyomi8
2026-06-15 03:39:19
2423文字
Public
 

無題

デート中に街中で見掛けたカプセルトイでモルガナに似た猫のフィギュアを見付けて欲しくて躍起になる二人の話。
※ぺご番です

あっ、と声を上げた隣を歩いていた彼に視線を向けると徐にしゃがみ込んで何かを見ている姿だった。何事だろうか、と頭越しに覗き込むと数多のカプセルトイが並んだひとつに熱い視線を向けていて、何にそんなに目を奪われているのだろうかと、一緒にしゃがんでみるとポップで可愛らしい商品説明が書かれていて、なるほど、これは彼が食いつきそうな物だと納得した。
それはそれぞれ丸まったり寝転がっていたり、おもちゃで遊んでいたりと自由気ままな性格が見事に表されている猫のフィギュアで、大変愛らしかった。自分も丸まりながらつぶらな瞳で見上げてくる猫の姿に、可愛いなと思ったくらいだ。猫好きな彼には殊更堪らないだろうな、と考えたら自然と顔が緩む。
「蓮見てくれ。この猫、モルガナに似てないか?」
確かに似てるかも」
指を指したのは先に可愛いと思っていた見上げてくる猫で、良くよく見てみると黒猫だが口元やシッポが白色の毛並みなのも、瞳の色が鮮やかな青色なのも、靴下を履いたような手足なのも一緒で、類似する点が多く点在していて段々とモルガナにしか見えなくなってきた。彼の目を釘付けにしたのも恐らくモルガナに似た猫だろうか。彼はルブランに来る度に構い倒すほどモルガナが大好きだから。
しかし、そうなってくると段々とこのモルガナに似た猫のフィギュアが欲しくなってくる。百円玉はどのくらい入っていたかな、と財布を取り出すと同時に隣の彼も鞄から徐に財布を出していて、思わず笑ってしまった。
「蓮もこのガチャを回すのか?」
「あまりにモルガナに似てるから、欲しくなっちゃって。悠さんも狙いはこの猫?」
「あぁ、凄く可愛いから」
そういう彼こそ、普段揃えられた前髪の影響で鋭く見えてしまう瞳と精悍な顔立ちで誤解されがちな顔を緩め、花がほころぶように笑うその表情こそが可愛いんだけどな、と心の中でそっと思う。それを口に出して言っても、「蓮の方が可愛いよ」としか言われないので彼の天然っぷりも困ったものだ。
そのように年下の恋人から思われていると露知らずに意気揚々とガチャを回す彼はやはり可愛い。出てきたカプセルを開けて目的の猫のフィギュアじゃないことを知って少ししゅん、と落ち込む姿に思わず笑ってしまった。
次は自分が回してみよう、とお金を入れてからハンドルを回すとガラガラと音を立てて落ちてきたカプセルを取り出して開けてみる。
「蓮の方はどうだ?」
……残念、違いますね」
「うーん、他のも可愛いんだけどこの子、欲しいよな」
そう言って彼が再度回して出てきたのはやはり違う種類の猫で、恐らく世間一般にいう物欲センサーなるものが発動してるのかもしれない。
ただそうなってくると、元来自分たち、特に自身は欲しいものは必ず手にするまで諦められない質だ。意地でも手に入れたくて、二人揃って夢中になってガチャを回す。
被りも出てどんどんと猫が積み上がっていく中、チラリとカプセルトイの箱の横から中身を覗き込むと数も少なくなってきて、いよいよ本当に目的の猫が入っているのか訝しむ気持ちが芽生えた時、隣から思わずといった弾んだ声が上がった。
「これ、黒い猫じゃないか?」
嬉しそうに瞳を緩めて笑う彼の手元のカプセルの中を見てみると確かに黒い物が見えた。
パカりとカプセルを開くと確かに目的の猫で、手のひらからつぶらな瞳で二人を見上げていた。実物を実際に目にすると本当にモルガナに似ていて、可笑しくて思わず指でツンとつついた。
「壮絶な戦いでしたね」
「本当、中々出ないものなんだな
しみじみと呟きながら今まで出したカプセルからフィギュアを取り出してから纏めて回収ボックスに入れていく。
最後の一個をボックスに入れてから振り向くと黒猫を手にして眺めていた彼が唐突に手を出して、と言った。何だろう、と手のひらを向けると、猫のフィギュアを乗せられたので瞠目した。
「その黒猫、蓮が貰ってくれないか」
「え、でもこれは悠さんが当てたもので、悠さんも欲しがっていたのに
あんなに熱い視線を向けていたのだから欲しくない訳がない。その言葉にしかし彼は首を横に振った。
「最初に見た時にモルガナに似てると思って目を奪われてしまって。それで蓮にあげたくて欲しかったんだ」
恥ずかしげに視線を逸らして隠してたことがバレてしまった子供のように笑う彼はやはり誰よりも可愛くて。
彼の手を取り、ぎゅっと指を絡めるように握ってから逸らしている彼の目を合わせて笑う。
「ありがとう。悠さんのそういうところ本当に好き」
「えっと、蓮、俺も好きだけど、その手、恥ずかしいんだが……
人が賑わう昼の街中だから勿論人の視線がある。誰に見られるともしれないところで男二人が至近距離で見つめて手を握っていたら確かに不審かもしれない。証拠にちらりとこちらに視線を向ける気配もしていた。
自分は全くといってそんな他人からの視線は気にもしないけれど、普段顔色があまり変わらない彼の目元が少し赤くなっていて、本来自分だけが見れるその顔を他の人に見られるのは癪で、しょうがない、と渋々手を離す。
「ねぇ、悠さんルブランに来ない?」
「ルブラン?」
「これ、モルガナに見せに行こう。それにもうすぐお昼だからそれも兼ねて」
そう言うと赤みの引いた顔に笑みを浮かべて頷いた。モルガナに会えるのが嬉しいようで、魅入られる綺麗なその灰色の目を細めて笑う。それにはほんの少しだけ嫉妬してしまうけれど、そんな笑顔を見れただけでお釣りがくるので今日のところは良しとしとこう、と思った。
「この黒猫見せたらどんな反応するだろうか」
「沢山回して苦労の末手に入れたって話したら呆れそうかも」
その呆れた顔が容易に想像が付いたのだろう。笑う彼の隣を彼から貰った黒猫を手に他愛もない話をしながらカプセルトイを背にしてルブランへと向かうべく駅に向かって歩いた。