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たくとろ
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#rylkweek2606 Day7「キス」
完走!!
好きな人との初めてのキス。緊張して、不安で、けれど、触れ合った瞬間に幸せに満ちる、そんな素敵なものだと思っていた。
「リコ
……
?」
唇を離したら、前に立つロイの瞳は揺らいでいて、私を受け止めようと上げていた腕がそのままだ。
ああ、間違えたんだ。困らせたんだ。
「ごめん
……
」
「! 待って、リコ
——
」
こんなはずじゃなかった。どうしてこんなことをしてしまったんだろう。
降りしきる雨の中、重たい後悔を抱えて走った。
数日前。ミーティングルームでライジングボルテッカーズの大人メンバーが人気アイドルグループ解散のニュースを見ながら話していた。
「へー、意外。このグループ仲良さそうだったのに」
「元からメンバーどうしの目標がズレてたって聞いたよ」
「そこに極め付けの熱愛報道か
……
」
「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず。団結が大事じゃからのう」
「ま、足並み揃ってないチームは上手くいかねえよな」
そんな会話を聴きながら、リコはコップに口をつけてジュースを飲み込んだ。
その日の午後、リコとロイはある幼稚園で子どもたちと遊ぶボランティア活動に参加していた。ポケモンと遊べる工作教室というイベントで、まだポケモントレーナーになっていない子どもたちにポケモンと楽しめる色々な工作を学んでもらう。
「こっちはでんきタイプのポケモンと一緒に遊べるよ〜!」
「こっちはポケモンの手形で色んなもの作れるよ〜!」
他にもいくつかの工作コーナーがあり、子どもたちは興味のあるところにわいわいとはしゃぎながら走っていく。どこに行こうか迷う子たちにも声をかけ、全員がそれぞれのコーナーに集まったところで説明を始めた。
「今日作るのはモーターカーだよ! ここにパーツがあるから組み合わせて車にするんだ。できあがったらここにいるでんきタイプのポケモンたちに乗ってもらって、あっちでレースをするよ〜!」
「オレ絶対勝つ!」
「ぼくが一番だ!」
「よーし! じゃあ早速作っていこう! おー!」
ロイのでんきタイプ工作コーナーは早くも大盛り上がりだ。微笑みながらリコも子どもたちに説明を始めた。
「この紙に、ポケモンやみんなの手形をスタンプして、ハサミで切り抜いたら、繋ぎ合わせて絵を作るの! こんな風に!」
リコはマスカーニャの肉球スタンプを繋ぎ合わせて作ったマスカーニャの似顔絵を見せた。子どもたちは目をキラキラと輝かせる。
「さ! ここにいるポケモンたちと協力して作ってみよう!」
「はーい!」
子どもたちは思い思いに工作に励む。ロイのところでは、まずパートナーのでんきポケモンを決めて、そのポケモンに合わせた回路を組んでいく。
「ポケモンによって電気を作るところとか、出すところが違うから、その特徴に合わせて作ってみよう!」
「おにいちゃん! パチリスはどこからでんきを出すの?」
「パチリスはね、尻尾から出すんだ! だからこれを使ってみるといいよ!」
「コリンクは?」
「エリキテルは〜?」
「えっとね〜
……
そうだ! みんなに一度見せてもらおう!」
ポケモンたちの電気の出し方を知りながら、子どもたちはモーターカーを作る。難しいところはロイや他のスタッフが優しくサポートだ。
リコのところでも、子どもたちからの疑問が飛び交っていた。
「マスカーニャはなんでこんなに肉球ぷにぷになの?」
「シキジカはなんでこんなに固いの?」
「コロボーシはまんまるだよ?」
「ふふふ、じゃあみんなで図鑑を読んでみよう!」
工作をしながら、子どもたちは楽しくポケモンの特徴を学ぶ。工作は順調に進み、イベントは大成功で終わった。
夕方、後片付けを終えてリコとロイは先生たちやイベントのスタッフからお礼を言われていた。
「今日はほんとうにありがとうございました。おかげで子どもたちもとても楽しそうでした」
「いえ! こちらこそありがとうございました! 僕らも楽しかったです!」
「子どもたちもポケモンのことが大好きなんだって伝わってきて、ほんとに楽しかったです!」
「そう言ってもらえてよかった。お二人、もしかしたら幼稚園の先生に向いているかもしれませんね」
しばらく話して、リコとロイは幼稚園を去った。帰り道、ロイはさっき言われたことを思い出していた。
「先生かあ。そういうのも楽しそうだね」
「ふふ。ロイ、みんなに大人気だったもんね」
「それを言うならリコだって。みんな笑顔だったよ」
互いに褒め合い笑い合いながらリコとロイは歩く。途中、リコはふと呟いた。
「もし先生になるとしたら
……
ライジングボルテッカーズで冒険はできないのかな」
「そうだね。きっとその時はおしまいだ。また、離れ離れになるけど
……
自分の道を進めるのはいいかも」
自分の道。確かに、前よりずっと明るい考え方だ。でも、それでいいのかな。リコは心に少し不安を抱えていた。
そして、その次の日。リコとロイはまた一緒に出かけていた。お昼ご飯をお店で食べて、リコがお金を預かって支払いを済ませ、ロイはリコに言われて先に店を出た。そしてリコが出ていくと、ロイが女の子に肩を掴まれ迫られていた。
「お願いします! 助けてください!」
「落ち着いて! まずは事情を
……
!」
「ロイ? どうしたの?」
「ああリコ
……
この子が助けてって
……
」
「お願いします! どうか!」
「だから事情を教えて
……
!」
リコが間に入って、ロイに助けを求める女の子を落ち着かせた。女の子曰く、パートナーのスナヘビと森ではぐれてしまったらしい。早速その森に行き、スナヘビを探す。しばらく歩いていると、ロイが不自然に盛り上がった砂の山が続いていることに気づいた。それを辿っていくと、地面に横になっているスナヘビがいた。
「スナヘビ! 大丈夫? ごめんね、ごめんね」
「弱ってる
……
早くポケモンセンターに連れていかないと
……
」
街に戻ってポケモンセンターにスナヘビを預けると、命に別条はなく、元気になって帰ってきた。
「スナヘビ
……
! よかった
……
!」
「これで安心だな」
女の子はスナヘビを肩に乗せると、ロイの両手を握って笑顔を向けた。
「ほんとうに
……
ありがとう! スナヘビを見つけられたのはあなたのおかげ
……
よかったら今度お礼を
……
」
「いいよお礼なんて。僕たち冒険してるからこの街ももうすぐ離れるし」
「それなら、連絡先を
……
どこかでお礼をするから
……
!」
女の子の瞳は潤んで、頬は紅潮していた。彼女の意図をリコは理解した。
「まあ連絡先くらいなら
……
」
ロイはスマホロトムを取り出した。その指がトークアプリのアイコンに触れようとしたその瞬間、リコは大きな声で叫んだ。
「ロイ!!」
「わ!? どうしたのリコ」
「えっと
……
そろそろ必要なもの買って帰らないと。今日出発でしょ? 遅くなっちゃうよ」
「あ、ほんとだ! 急いで買い出し行こう!」
「あの
……
」
「ごめんね! それじゃ、もうスナヘビとはぐれないようにね!」
リコとロイは走ってポケモンセンターを出て、頼まれていたものを買いに行った。なんとか買い終えて、飛行船までは歩くことにした。
「あの子には悪いことしちゃったな」
「
……
ロイ、あの子多分ロイのこと好きになったんだと思うよ」
「え?」
「連絡先
……
お礼したいのは本当だと思うけど、ロイと近づきたいから
……
」
私は何を言っているんだろう。ロイにこんなこと言って、別にあの子がロイに近づくのは悪いことじゃないのに。さっきも、なんで邪魔して
……
リコは自分自身の不自然さに気づいた。そして、自分がわからなくなって怯える。
「ごめんロイ
……
今のは忘れて」
「
……
分かった。あ、飛行船見えてきたよ」
「うん
……
」
それからリコは考えていた。どうしてあんなことをしてしまったのか。どうしてロイにあの子の考えたことを言おうとしてしまったのか。言って、どうする気だったのか。
結局、答えは出ないまま二日が経過して、今朝のこと。ロイは笑顔でリコに話しかけた。
「リコ、今日ちょっと出かけない?」
「どこに行くの?」
「近くの森にアジサイがいっぱい咲いてるんだって! 見に行こうよ」
「うん。いいよ」
アジサイと言われると、なんだか青い花を想像しがちだ。しかし二人が訪れた森に咲いているのは白や赤の花ばかりだ。こんな色もあるんだと二人は新たな発見に喜んで笑った。すると、突然雨が降り始めた。雨宿りができる場所を探して二人は走り回り、小さな洞穴の中に入った。
「ふう
……
ここなら大丈夫だね」
「うん。でも、雨強くなってきたね
……
」
「ごめん。ちゃんと天気見てなかったよ」
「ううん。ロイは悪くないよ。
……
私のこと、励まそうとしてくれたんだよね」
リコは俯いて微笑んだ。
「
……
なんか、悩んでそうだったから。理由は分かんないけど、元気出してほしくて。リコにはいつだって笑っててほしいから」
ロイは優しく笑った。その笑顔を見た瞬間、リコの中で何かが弾けた。自分自身でも意識せぬ間に、ロイの両肩を掴んで、彼の唇を奪っていた。
森の中、雨の中を走り続けたリコは、木陰にしゃがみこんで泣いていた。
しばらく泣いて、ずっと泣いて、ようやく全部分かった。きっと、怖かった。ロイがどこかに行ってしまうのが。もしかしたら将来先生になるかもしれない。そうでなくても、新しい道を見つけて、一緒に冒険ができなくなる日が来るのかもしれない。
ロイに彼女ができるかもしれない。そうしたら、もうロイの隣にいつだっていられるとは限らない。それが怖いくらい、ロイのことが好きだ。
だから、ロイが向けてくれる笑顔を自分だけのものにしたくて、ロイの気持ちも考えずに唇を奪ってしまったんだ。
これからどうしよう。ロイに謝って、それから、それから。何も、思い浮かばない。もう、ロイにあんな風に笑ってもらえるか分からない。もう、一緒にいてはいけないのかもしれない。不安が、どんどんと募っていく。
「リコ!!」
その声は、森にこだました。リコを呼ぶ必死な叫びは、確かに彼女の耳に届いた。
「ロイ
……
探してる
……
」
「リコ!! 返事して!! ちゃんと話そう!! 大丈夫だ!!」
そしてその声は、段々、段々と近くで響いてきて、リコは立ち上がって一歩を踏み出した。足元の枝に気づかず躓く。前に倒れたその時、ついたのは地面ではなくびしょ濡れになった彼の体だった。
「ロイ
……
」
「リコ、よかった
……
もし会えなかったらどうしようって
……
」
「ごめんなさい
……
私、ロイのこと困らせてばっかり
……
私
……
」
「じっとしてて」
「え?」
ロイはリコの顎を持ち上げて唇を重ねた。リコが止める隙も与えず、もう片方の手で体をしっかり押さえてキスをした。
「え
……
ロイ
……
?」
「これでおあいこだよ。僕がびっくりしてたから、困らせたと思って逃げたんでしょ?」
「あ、あ
……
うん
……
」
「リコ、好きだよ」
「え
……
?」
「ずっと一緒にいたい。今のは
……
そういうキス。だから、もう離れないでほしい」
ロイは真剣な眼差しでリコを見つめた。震えながら、リコはロイの胸に顔を寄せた。ロイはリコの頭を撫でながら言った。
「ねえリコ、もう一回
……
今度はお互いにさ
……
いい?」
「
……
うん。好きだよ、ロイ。後で、ちゃんと思ってたこと
……
全部伝えるね」
「ああ」
二人は目を合わせて笑い合い、唇を交わした。きっともう大丈夫だと信じあって。
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