こゆ
2026-06-14 00:30:04
850文字
Public
 

プレッシャー

ロペン未満(ロー+ペンギン)
めちゃくちゃ短い雰囲気SS ベッター保存用

プレッシャー



ティーカップに注がれた紅茶をひと口飲んだ時、何だかほぅっと息が出た。
 淡くブラウンに色付いた茶と、ほのかに香るハーブ。よくある茶葉で淹れた紅茶だと分かるのに、この紅茶だけは格別なような気がしてしまう。いつもの濃いめのブラックコーヒーや蜂蜜の香りのするホットミルクのようなメッセージ性は低く、もしかしたら気のせいかもしれない。
 自室に、おやつのドーナツをにこにこ顔で持ってきたベポに手渡された紅茶を飲みながら、ローはゆらゆらと香る飴色の液体を見つめた。
もう一度ほぅっと息を吐く。
 休憩のために淹れてくれたもので、持ってきたのはベポだ。
「ペンギンに持たされたのか?」
 数時間前に自分で淹れて、すっかり飲み干していたコーヒーのマグカップを片付けようとしていたベポに問う。
「うん。ペンギンはおれが行ったらローさんの邪魔したくなっちゃうからって」
……そうか」
 ローは持ちあげていたカップをソーサーの上に戻し、机上に放っていた書類を手に取った。仕事に戻るという合図と取ったベポは、そのまま『ほどほどにね、って言ってたよ』と、部屋を後にする。
 室内が静かになると、部屋の外から自然と感じる音がよく聞こえるようになったような気がした。空調の音、動力の音、伝声管を走る風の音。クルー同士の交わす言葉や、金具が擦れる微かな音と、聞き慣れたブーツが床を踏む靴音。

 おやつの時間、きっと例に漏れず皆ドーナツを頬張って休憩しているだろう。であれば、その足音の主はきっと。ついさっき話題に出た〝邪魔をしたくない男〟なのだろう。
 書類から紅茶が入ったティーカップに視線を移して、ローは僅かに目を細める。

(顔を見るつもりはなくても、気に掛けるつもりはある、か……

 クソ、と一言呟いてローは目を閉じる。
 結局のところ、邪魔しにきた男の真意に従ってしまったことに思うところがないわけではない。しかし、耳に意識を集中させた。まだ遠くで聞こえる音が聞こえなくなるまで。