ぽふむん
2026-06-13 22:30:19
1240文字
Public ワンドロ
 

梔子の女

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負

「梔子」
無限城戦戦死者の五回忌後の出来事妄想。

このモブ下女は、片目を失明して視野の狭くなったカナヲの為に、きりやくんが手配したと言う設定です。
最初後藤さんにしようとしたんですが失明した女の子に男……「なんかヤラシイ」と思いましてモブ女にしました。
カナヲでえろを書きたい訳では無いので💦

梔子と「死人に口なし」余計なことは言わないという意味の「口なし」をかけてます。

霊視体質というのは、その昔失明した目で霊視しているという霊媒師がいたなと思いまして……

時の経つのは早いものだ。
眼前の墓石を磨くのを、女主人は決して誰にも手伝わせない。
一心不乱に墓石を磨く女主人を見つめながら、下女は五周忌を迎えた、この墓石の主のことを思い起こした。

墓石の主

墓石を建てられ、拝まれるのだからそうなのだろう。
でも、この墓石の中に墓石の主の遺骨は納骨されていない。
遺骨だけではない。
髪一筋残さず、彼女はこの世から消え失せたのだから。
目的の男とひとつになった。
目的の鬼に食われてしまったのだから。

納骨すら出来なかった、女主人の血の繋がらぬ姉のことを想った。
(あなたは凄い人です。心からそう思います……でも、なんででしょうね。少しもあなたのことを褒める気になれないのは)
この想いは、決して口にする気はない。
墓の下に持っていくつもりだ。

そんなことを口にしたら、きっと女主人は怒りで目を血走らせることだろう。
法事の度に少しずつ心の平穏を取り戻していった女主人。
法事は、故人の為ではなく、生きている者の為の物だと聞くが、本当にその通りかもしれない。


下女は、女主人の膨らみ始めたお腹に目をやる。

(きっとかわいく、元気なお子でしょう。この子を見ずに、男の鬼と心中し逝ってしまうなんて……あなた、とんでもない女ですね)
下女は、やはり女主人の亡き姉を尊敬する気にはなれなかった。
(私より、一廻りも年下のこの子が、あの戦いの後、どんな表情をしていたかご存知?もう死んでしまっていたから分からないんでしょうね)

そう心の中で悪態をつきながら、下女は女主人の肩越しに、花差しに一輪の艶やかな花を差した。
その花は、艶やかに線香の煙の香りを打ち消した。

梔子だ

本来、墓前に供えたり、仏事につかうには適さないと言う。

香りが強すぎ、線香の香りに勝ってしまうだけではない。
その日のうちに見るも無惨に汚く崩れ落ちてしまう一日花だから。

でも

「このお方の墓前にはお似合いだと思います。梔子は難儀な花でして、寒くてもダメ。陽の光に当てすぎてもダメ。気難しい花なんです。それと……
「それと?」
女主人が小さな声で続きを促した


「カナヲ様。花言葉と言うものをご存知ですか?この花の花言葉は」

────私は幸せです────

「カナヲ様は今とても幸せです。優しいご亭主に、お友達、お子まで授かって……
下女の言葉に、カナヲはにこりと微笑んだ。


カナヲの失明した目には見えない。
かつて、失明する前のカナヲの目には、通常の人には見えない物も見えていた。

墓石の背後に一人の少女が立っていた。

苦笑していた。
『嫌味のつもりでしょうか……私も一応幸せなんですよ 』

次の刹那、何も持っていなかったはずの少女の手に男の生首が捧げられた。

『この首が手に入ったんですもの。

欲しかったのはこの首だけ』

少女の背後に、首のない体が佇んでいた。
背後から優しく少女の肩を抱いた。
生首が優しく微笑んだ。