yoAi_mochii
5705文字
Public R18
 

【狛日】キミとの友情の証 06

愛島狛日
才能ゆえに友情の証と呼ばれるものへの違和感に気付き始めた狛枝くんのお話

何度も、何度も。
噛み付く角度を変えて、浅く重ねて、深く沈める。
そのたびに日向クンの呼吸が乱れていく。
ボクの呼吸もまた、彼の息に引きずられるみたいに熱を帯びて、どこからが自分のものなのか分からなくなっていく。

露わになった引き締まった胸元、微かに脈打つ脇腹を容赦なく撫で上げると、日向クンはひゃうと、身を震わせてボクに爪を立てた。
その熱さに脳が灼けそうになりながら、もう片方の手はさらに深く、ズボンの緩んだファスナーの隙間へと容赦なく割り込んでいく。
布地を押し下げ、下着の境界線を越えて直接その腰回りの生肌に触れた瞬間、日向クンは逃げるように腰を跳ね上げたけれど、ボクはそれを許さずに組み敷いた。

ようやく唇を離した時、ボクの腕の中に組み伏せられた日向クンは、息も絶え絶えにひどく乱れていた 。
ボクの唾液と、彼の目元から滲んだ涙が混ざり合って、さっきまで端正だった顔は、ないほどぐしゃぐしゃに濡れている。

いつの間にか、さっきまで半ば開いていただけのシャツはすっかりはだけてしまっていた。
片肩から滑り落ちた布地が、肘のあたりにかろうじて引っかかっているせいで、熱を持った上半身がほとんど剥き出しになっている。
衣服の隙間から覗いていたはずの首筋や鎖骨は、もう隠れる場所を失い。気づけば、日向クンはもう、半裸以上の痛々しいほど無防備な姿にされてしまっていた。
荒い呼吸に合わせて震える睫毛も、赤く濡れた唇も、薄く汗ばんだ肌も、どこもかしこもボクの痕跡が生々しく残っている。

目に見える独占の証拠が、ボクの脳髄をどこまでも甘く痺れさせた。

……お前、それは……犬以上に、しつこいぞ……
ハァハァと、鼓動の音さえ聞こえそうな距離で、日向クンは乱れた呼吸を必死に整えようと、苦しそうに胸を上下させている。
なぜかその顔は、ひどく不満そうなのに、どうしようもなく色っぽかった。
斜め下からじっと睨みつけてくるその表情は、怒っているようにも見える。
泣きそうにも見える。

「何、その顔?」
ボクは堪えられず、その濡れた唇の端を指先でそっとなぞった。
すると日向クンの唇が、まるで勝手に反応してしまったみたいに、わずかに開く。
それだけで、自分の喉の奥まで勝手に熱を持つ。

……日向クン、もしかしてまだ口が寂しかったの?」
「んな……!そんな、わけ、ないだろ……っ」
「嘘つき」
ボクは、わざと残念そうに目を細める。
本当は愛おしくてたまらないくせに、それを悟られたくなくて、わざと意地悪な顔を作った。

「わかった、日向クンはボクとキスしたくないんだね……いいよ。じゃあ、もうやめとくよ」
そう言って、わざとらしく身体を離そうとすると、日向クンの手が焦ったようにボクの服の裾をぎゅっと力任せに掴んできた。
「っ……ぅうう、狛枝……
恥ずかしさに消え入りそうな声で、ボクの名前を呼ぶ。
その言動は、また言葉では説明のつかない奇妙な感覚となって、胸の奥を妙に深くかすめていった。
昔からそういうふうに呼ばれたかのような、ひどく懐かしくて切ない錯覚に陥りそうだ。

「なに?ちゃんと言葉にして言ってくれないと、ボクみたいなゴミクズには、キミの意図がこれっぽっちも分からないよ」
……俺が、どれだけ……こうならないように、してたと思ってるんだよ……
日向クンは、もぞもぞと独り言みたいにそう零した。
「せっかく、我慢して……距離、取ってたのに……お前が、あんなふざけたを……
なんだか、ボクへの恨み言の形をしているくせに、その声には本気で怒っている人間の鋭さがない。
むしろ、長いこと抱え込んでいた何かが、今さら隠しきれなくなって滲み出てしまったみたいな、そんな弱さがあった。

「へえ……距離、ね」
何気なく拾ったその言葉に、気づけば思考が勝手に胸の奥の違和感をなぞっていた。
まるで日向クンは、最初からこうなることを恐れていたみたいな言い方をする。
……っ、なんでもない」
日向クンはますます気まずそうに視線を逸らした。

ここで問い詰めれば、きっと日向クンはまた誤魔化すのだろう。
そう考えると、今度こそ、ボクのほうが何も気づいていない鈍い役回りを演じる番なのかもしれない。
本当はもう気づきかけていて、あえて見ないふりをしただけなのかもしれない。
どちらにせよ、その曖昧さに甘えてしまうくらいには、ボクももう平静ではいられなかった。

「ね、どうなの?」
……っ!い、いいから……
日向クンはボクと目を合わせようとせず、顔を背けたまま、耳まで真っ赤に染めて、ほとんど吐き捨てるみたいに言った。
「もう、どうでもいいから。早く……しろよ……
ボクは思わず笑ってしまった。胸の奥がひどく満たされてしまった。
投げ出してくれた一言だけで、世界がひっくり返るくらい浮かれてしまうなんて。
本当に、ボクは救いようがない人間だね。

「あはは!冗談だよ。ほら、一度起きて、こっちに向いて」
「え……な、何……?」
「しっかりして。そんな無理な体勢でベッドに突っ伏したままじゃ、キミの身体を痛めちゃうからね」
日向クンは呆れたように顔を上げた。
その表情は、今さらそんなことを言うのか、と半ば諦めたように物語っていた。

……お前は、本当に、――がないのか」
文句を言いたげに眉をぎゅっと寄せながらも、日向クンはもう抵抗しなかった。
何か言いかけたらしい最後の言葉は、結局、かすれた吐息の中に溶けて、ボクは聞き取れなかった。

完全に観念したように、心地よい重みをボクへと預けてくる日向クンを、ボクは壊れ物を扱うような手つきでゆっくりと引き起こす。
激しい攻防のせいで酷く乱れてしまった互いの衣服を着直す余裕も、赤く火照ってしまった自らの頬を隠す余裕も、今のボクたちにはこれっぽっちも残されていなくて。
相手の温度を貪るように、今度は正面から互いの身体を抱きしめる。

触れ合った場所から伝わってくる熱は、想像していたより何倍も生々しくて、何倍も優しかった。
肌越しに感じる鼓動も、乱れた呼吸も、腕の中にある確かな重みも。
その全部が、どうしようもないくらい気持ちよくて、泣きたくなるほど愛おしい。

ボクの腕の中に収まった日向クンのその顔が、あまりにも悔しそうで、恥ずかしそうで、けれど逃げる気だけはもうどこにもなさそうで。

……ああ。また、だ。一体もう何回目だろう。
曖昧な記憶に引きつられてるように、どうしようもなく、日向クンのことを友愛以上に愛しくと思ってしまった。

……日向クン」
名前を静かに呼ぶと、日向クンは弾かれたように小さく息を呑んだ。
それから諦めたように、けれど子供みたいにどこか拗ねたような顔をして、ボクの肩口に指をかける。
合図はなかったけど、どちらからともなく、引き寄せ合うようにして何度も唇を重ねた。

最初は、互いの熱を確かめ合うような、ほんの触れるだけの優しいキスから始まった。
それからは飢えを凌ぐように、確かめるように、何度も、何度も、深く唇を重ねていく。
そうやって触れ方を変えた瞬間、日向クンの腕が、おずおずとボクの背中へ回った。
その指先が、迷うように服の布地を掴み、ほんの少しだけ、ボクを引き寄せて――
熱く柔らかい舌を、寄せてくれた。

……っ」
ボクの中でまた何かが壊れそうになった、堪えきれずに、より強く彼を腕の中へと抱きしめた。
だって、そうだろう?
いつもならボクみたいなゴミクズの接近に警戒を怠らないはずのあの日向クンが、ついに武装を解いて、自分の意思でボクに触れてくれたんだ。

今のボクにとっては、どうしようもないくらい嬉しい。

ボクの騒がしい鼓動も、熱に乱れた呼吸を、触れ合った唇の隙間からどうしても零れてしまう呼びかけも。
ひとつずつ丁寧に手探りで重ね合わせていくと、日向クンは全部、いちいち優しく返事をしてくれた。

そんな日向クンの底なしの優しさに触れて、ボクの脳はとうに焼き切れてしまいそうだった。
同時に、歪に膨らみ続けていたボクの欲望が、ついに言い訳のきかない形を取って、熱を帯びながらはっきりと存在を主張し始める。
男としてあまりにも生々しいその反応を自覚した瞬間、ボクの身体が硬直した。

――こんなものを突きつけたら、
ボクみたいなゴミの、こんな醜くて身勝手な欲望の塊を見せつけたら、きっと日向クンは今度こそ嫌悪して、逃げ出してしまうに違いない――

……っ、こまえだ、」

ボクのそんな絶望を遮るように、日向クンが小さくボクの名前を呼んだ。
見下ろした先で、日向クンの目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
……!?日、日向ク――
「なんだ……お前、結局こうなっちゃうのか……
その声は震えていた。潤った瞳に宿っているのは、拒絶でも、怒りでもない。

「でも、よかった」
胸が締めつけられるほど温かくて、泣き出しそうなくらい切実な、喜びにも似た光だった。
日向クンは涙で濡れた顔のまま、ボクを安心させるように、ひどく優しく微笑んだ。
「ちゃんと俺を、求めてくれてるんだな……

ボクは息を呑んだ。
違う。
こんなもの、キミに見せたかったわけじゃない。
こんな浅ましい熱で、キミを困らせたかったわけじゃない。
そう言い訳しようとしたのに、声が出なかった。

日向クンはそんなボクの迷いごと包み込むみたいに、そっと両手を伸ばしてきた。震える指先で躊躇うことなくボクのチェック柄のパンツをずらし、その奥の熱の塊へと手を伸ばす。

「ひな、た、クン……っ!?」
ボクが息を呑むのも構わず、その包み込むような手のひらで、ボクの昂りを直接握りしめた。
「ん、ぁ……っ」
その手つきは決して慣れたものではなくて、緊張で少しぎこちなくて、まるで今にも逃げ出してしまいそうなくらい震えていた。
日向クンは自分の手で、ボクの熱を丁寧に、何度も上下に愛撫し始める。
ボクの輪郭を確かめるような、緊張で拙くて、酷く一途なその手のひらの熱。
ボクは目を逸らさなかった。

それだけじゃ足りないとでも言うように。
日向クンはボクの足の間に潜り込み、泣き出しそうな、それでいて嬉しそうな顔で涙を零しながら、今度はその温かい唇をボクの熱へと直接寄せてきた。

「あ、っ……、日向、クン……っ!」
……いいんだ」

制止の声なんて聞こえていないみたいに、日向クンはそっと割り込むように、その不器用な口の中にボクのすべてを迎え入れた。
熱い粘膜が、 舌先が、ボクの最も敏感な輪郭をねっとりと、なぞり上げていく。息を詰まらせ、涙を流しながらも、必死にボクを気持ちよくさせようと夢中で口元を動かす彼の姿に、ボクの頭の中は真っ白になっていく。

「やっぱり俺も……お前に求められるの、嫌じゃないから」

その一言で、口内から伝わる圧倒的な熱のせいで、ボクの中に残っていた最後の理性が、音もなく崩れていく気がした。
甘い痺れが背筋を駆け上がり、とうとう堪えきれなくなったボクは、日向クンののあたたかい口の奥で、情けなく全てを吐き出してしまっていた。
どっと押し寄せた圧倒的な快感と、圧倒的な満たされた気持ちに呑まれながら、ボクの身体から急激に力が抜けていく。
限界を迎えた脳の隙間から、ひどく心地いいのに、抗いようのない強烈な眠気が、ゆっくりとボクを包み込もうとしていた。

……おかしいな。
さっきまであれほど猛り狂っていた感情が、まるで突然シャットダウンされたみたいにすっと遠のいて、あとには鉛のように重たい眠気だけが残っていく。

本当は、今度はボクの方から日向クンがくれたもの以上にいろんなことをしてあげたかった。
本当はボクの腕でそのしなやかな身体を組み敷き、何度も名前を呼ばせて、ボクのせいで泣きそうに潤んでいる日向クンをこの目で見届けたかった。
そうして、溜め込んだ熱い想いを全部ボクのためだけに溢れさせてくれるまで、何度でも深く深く触れてあげたかったんだ。
でも薬の副作用がとうとう現れたかのように、ボクの身体は言うことを聞かず、ただただ鈍くなっていく。

――日向クン、
これもキミのせいなのかな。

そんなことを考えながら見上げると、日向クンはまるでボクの視線の意味を読み解いてしまったみたいに、ひどく優しく微笑んだ。
それを見ていると、なぜだか今度はボクの方まで涙が止まらなくなってしまう。

シーツの上へ倒れ込むボクに、日向クンが縋るように自分の額を寄せてくる。
ボクの首に回された腕に、ぎゅっと力がこもった。潤んだ瞳が、逃げることなくボクをじっと見つめ返している。
日向クンが息はいまだに荒く、その身体にはまだ熱い欲望が残ったままだというのに。
自分のことなんて後回しにするみたいに、ボクの乱れた髪を優しく指先で整えてくれた。

……起きてくれたらさ」
その声は、まるで夢の続きを見せてくれるみたいに優しかった。
「今度は……ちゃんとしてやるから……。だから、……もう休めよ、狛枝」
この先もずっと一緒にいることを、当たり前みたいに肯定してくれる、過分なほど優しい約束だった。

……うん、……約束、だよ……

もう、何も見えない。自分の声がちゃんと形になっているのかさえ、よく分からない。
それくらい、もう限界だったみたいだ。
けれど、最後にどうしても手放したくなくて、隣に横たわる日向クンの手を、手探りでぎゅっと握りしめる。
日向クンは拒むことなく、そのあたたかい指先をボクの指の間に滑り込ませて、しっかりと繋ぎ返してくれた。

夜風が半開きの窓から入り込み、カーテンを揺らす。
遠くで波の音がする。

コテージの扉は相変わらず閉まったままで、鍵もかかったままだ。
でも、不思議ともう閉じ込められている気はしなかった。
それはきっと、日向クンの手と、こうして強く繋がっているのだから。