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山茶花
2026-06-13 11:07:45
5518文字
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[シルデュ]サイト限定(健全)
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Puppy Love【263SK066】
じゃれ合うような初恋の話/甘い/5200字程度
俺には、好きな子がいる。それはナイトレイブンカレッジに入学して、一年が経ってから出会った子で。
今年の一年生が入って来る入学式の際、すれ違った瞬間から。
きっと、俺はあの子に目を奪われていた。
彼の名前は、デュース・スペード。夜空のような群青の髪を、短く揺らして。いつもどこかに向けて、走り回っている。
俺は、彼と親しくなってみたい、一度話をしてみたいと思っていたところ、星送りの祭りがあって、そこで彼が俺の願い星を回収しに来てくれた。だから、俺は彼といろいろ話してみた。この機会を逃すまい、と思い。
そうすると彼は、俺が勝手に夢想していたよりもずっと、俺の好くような性格をしてくれていることが分かって。
片親で育ったという互いの境遇も似ていることに、親近感を覚えて。
また一緒に過ごしたい、と思って機会を待っていた際。デュース自身から、うちの故郷でやる祭りに来ませんか、と誘われた。
俺はふたつ返事でそれを快諾して。デュースたち一年生と共に、デュースの故郷へと出かけた。
そうして。母君の前で、少しぎこちないながらも快活に過ごすデュースの姿を見て。俺は、この子がやはり好きだと思うに至ったのだ。
そして、そんな特別な行事ごとから、学園生活へと戻ってきた、今。今も、デュースはよく俺に懐いてくれている。
……
だが。デュースの方は、俺のことなど。ただの先輩のひとりくらいにしか思っていないのだろうな、と。
良くて、よく面倒を見てくれる先輩だと思われているくらいなのだろう、と当たりをつけて。この想いは、まだ伝えないでいた。
「シルバー先輩、聞いてください! 今日の小テスト、点数が良かったんです!」
「そうか、良かったな。お前が一生懸命、頑張った成果だ」
頑張っているデュースの報告に、俺は。つい、デュースの頭に手を伸ばし、撫でてしまう。
……
駄目だな、デュースが頑張っているのを見ていると。俺に、懐いてその成果を報告しにきてくれると。
つい、可愛くて。こうして、頭を撫でてしまう。
ああ
……
本当に。撫でられて照れくさそうにへへっと笑う顔も。少しだけ照れて赤く染まる頬も。
可愛いな、俺だけのものになってくれたらいいのに。だが、デュースは真面目なやつだ。
だから、こういうのも。先輩としての俺を、慕ってくれているだけなのだろう。
*
シルバー先輩に、小テストの点数が良かったことを報告した。ら、なんと。
そっと、頭を撫でてもらえた。す、すごく照れくさいし、どきどきする、けど。
……
嫌じゃ、ない。
だって、僕は、だって
……
その
……
。身の程知らずだって、笑うなよ。
シルバー先輩のことが、好きなんだ。特別な、ひとりの男の人として。
でも、分かってる。僕の方は、心臓が壊れそうなくらい、ドキドキして、ドキマギしちまってるけど、なあ。
……
シルバー先輩は。僕のことなんか、ただの後輩だって思って、みんなと同じように可愛がってくれてるに過ぎないって、分かってる、から。
こんな、優しく指先で髪を梳いてくれるような手つきに勘違いして、「好きです」なんて言ってみろ。
きっと驚かせて、困らせて。それで。
……
考えたくもない、よな。
だから、いいんだ。僕は今、こうしてもらえるだけで、じゅうぶんだし、嬉しい、から。
*
また、別の日に。俺が、中庭の木陰で居眠りをしてしまっていると。
いつの間にか、デュースが隣で俺の様子を覗き込んでいて。
ぼうっとしていた俺は、ああ、これも夢だろうか、と思い。それならば、と。ぐい、とデュースを、腕の中に抱き込んだ。
俺よりも少しだけ体温の高いぬくもりが、心地良くて。まどろみの中、うとうとと、また夢の世界に落ちそうになる。
(
……
心地良い。この存在が、好きだ
……
)
そんなことを思いながら、とろんと落ちる目蓋を閉じた。
*
(どっ、どど、どうしよう!? シルバー先輩にハグされちまった
……
!!)
僕は今、パニックでいる。何故なら。寝ぼけたシルバー先輩の腕に、捕まっちまったからだ。
(どっ、どうしよう。どうしたらいい? 抜け出す、にも、なんかすごい、ぎゅーってしてるし、幸せそうに寝てるし、邪魔したら悪い、よな
……
。
……
うう。シルバー先輩、また寝ぼけたんだな。
……
でも、すごくあったかい
……
。こんな風にしてくるなんて、もしかして、シルバー先輩、僕のこと
……
。いや、いやいや。寝ぼけただけだし、誰かと勘違いしてるかもしれないだろ! 実際、聞いてみて勘違いだったら、恥ずかしすぎるし、それに、他の誰かにこんな、したいとか、してるんだとしたら
……
。
……
。こんな、ただの、枕代わりにされてるだけだよな。
……
落ち着けよ、僕
……
)
そのまま、隣で今だけは、って先輩の寝顔と寝息を眺めながら、シルバー先輩が目覚めるのを待っていると。
……
少しだけ頬を赤くしたシルバー先輩が、すまない、本物だったか。おはよう、デュース、って、身体を起こして、目を擦った。
きっとその頬の赤さは、僕を巻き込んでまで居眠りしちゃったことへの恥ずかしさなんだろうな、ただそれだけだよな、って。
僕は、ちゃんと勘違いしないように、思って。気にしないでください、ってだけ、言うのだった。
*
また、別の雨の日。俺は、傘を持っているデュースを追いかけて。すまないが、俺も入れてくれないかと尋ねた。
デュースは、いいですよと笑って頷いてくれて。俺は、ありがとう、とデュースの傘に入れてもらった。
「すまないな。急に降り出したものだから、傘を持っていなくて」
「いえ。大丈夫です、こんなんで良ければ、いつでも声かけてください」
「
……
ありがとう。お前は本当に、優しいな。お前のその、まっすぐなところが、俺は好きだ」
と。わずかに好意の文脈を乗せて、俺はデュースに己の想いを伝えてみる、が。
「あ、ありがとう、ございます。僕も
……
先輩の、おおらかで優しいところ、好き、です
……
」
「そうか。
……
ありがとう。お前にそう思われていることは、嬉しい」
「僕も、嬉しい、です
……
」
デュースは喜んでくれてはいるが。これはきっと、後輩として、褒められて嬉しいという意味合いの言葉なのだろうな、と。
俺は。ただ、切なくほほ笑んだ。
*
好きって、言われた。
……
でも。先輩の言い方を見るに、僕の「好き」とは、違うんだろうな。きっと。
先輩の好き、は。きっと、ただの後輩の僕に対する、好き、でしかなくて。
……
だから、こんな、一言で、ドキドキしたり、動揺したりしてんのは、きっと僕の方だけで。
「先輩
……
、あの、」
「ん、どうした?」
「や、えっと。なんでもない、です」
だから。言わなくていいんだ。僕のこの気持ちは。
って、思ってるのに。思ってた、のに。
「
……
何か、俺に言いたいことがあるのか? 大丈夫だから、言ってみろ」
シルバー先輩は、俯く僕の顔を覗き込むようにして。心配そうに笑いかける。
僕は、それだけで胸がいっぱいになって。いっぱいいっぱいなまま、何も言えなくなって。
「
……
ぎゅうって、します
……
胸の辺りが
……
」
「苦しい、のか?
……
大丈夫か?」
シルバー先輩は、僕の体調を心配してくれる。嬉しい。優しい。でも、そうじゃない。そうじゃなくって。
僕は。傘を落として、シルバー先輩の身体に、ぎゅうと抱き着く。
「
……
ちがい、ます。僕が、苦しい、のは
……
」
そう言って、先輩の肩に顔を埋めると。先輩は、ぽん、と僕の頭を優しく撫で、抱き留めて。
それで。僕の身体を、そっと抱きしめ返した。
「ひょっとすると、俺はずっと
……
大きな勘違いを、していたのかもしれない、な」
シルバー先輩は、僕の耳元でそんなことを囁く。
「どういう、ことですか
……
?」
僕が、真っ赤になって。もう恥ずかしい、どうしよう、逃げ出したいって涙目で、シルバー先輩の顔を見上げ、見つめる。
そうしたら。シルバー先輩は、ああ、やっぱりと笑って。
僕の目元を親指の先で拭い、そして。僕の頬にそっと手を当てた。
「
……
俺の勘違いなら、笑ってくれてかまわない。だが、なあ、デュース。
……
お前も、俺のことが好き、だろう?」
実は俺もなんだ、と。先輩は、僕の目の前でほほ笑む。僕は。
「え、俺も、って、え
……
」
急に告げられた事実に、パニックを起こしかけて。シルバー先輩は、小雨の中、そんな僕をぎゅうと抱きしめる。
いつか、寝ぼけまなこで抱きしめられたときよりも、ずっと強い力で。離さないぞ、って言わんばかりに。
「好きだ、デュース。
……
俺の恋人に、なってはくれないか?」
耳元でささやかれた言葉と、シルバー先輩の身体から伝わる熱い体温に。ドクドク鳴ってる鼓動に。
これ、嘘じゃないんだって。僕、この人のことずっと好きだったのに、先輩も僕のこと好きでいてくれるんだ、って。思って。
「
……
先輩に、ぎゅってされるの、撫でられるの、も。ずっと、ドキドキして、照れくさくて、恥ずかしい、のに、でも、嬉しくて、大好き、でした
……
」
だから、あの、えっと、僕も。
頑張って言葉にしようとするけど、なかなか僕の喉は、その言葉を形にしてくれなくて。
先輩は、それでも優しく、うん、と、僕の言葉を待ってくれていて。
「
……
僕も、好き、です、先輩のこと
……
」
「
……
嬉しい、デュース」
シルバー先輩は、僕のことをぎゅうともう一回、強く抱きしめて。そして。ようやく、一度身体を離した。
「濡らしてしまったな、すまない、デュース」
僕の放った傘を拾って、先輩は僕に差し掛ける。
「い、いえ。元々、僕が放り出した傘ですから
……
」
と。僕がその傘の柄を受け取ろうとすると。傘が差しだされる代わりに、先輩の手が絡められた。
「
……
鏡舎まで、手を繋いで帰ろうか」
「へぁ
……
っ!」
「ふっ、嫌か?」
「い、いやじゃない、です
……
っ!」
「そうか。
……
なら」
風邪を引かない程度に、ゆっくり歩いて帰ろう。今はなんだか、そうしたい気分なんだ、と言って。
シルバー先輩は、ゆっくりと僕の手を引いて、歩き始めた。
僕は。それが、嬉しくて。握った手が、熱くて。僕の手汗かいてないかな、なんて思ったら、その瞬間ぎゅっと手を握られて。
先輩の顔と、繋いだ手を交互に見たら、先輩はすごく、愛おしそうで、幸せそうな優しい目で、僕を見つめていて。
「
……
」
それで、僕は何も言えなくなって。鏡舎までの間、こそばゆくて恥ずかしい、でもすごく幸せな、ふたりの時間を過ごすことになった。
「それじゃあ、帰ったらすぐにシャワーを浴びるんだぞ。約束だ」
「は、はい
……
」
シルバー先輩はそう言って、ハーツラビュル寮に繋がる鏡へと向かう僕を見送る。
僕は。それでも、少しだけ名残惜しくて。
もう一度先輩の元に、振り返って、駆け寄って。その勢いのまま、ぎゅって抱きついてしまって。
「!」
「
……
ゆ、夢じゃない、です、よね。また明日、会えます、よねっ」
って、僕が言ったら。先輩は、ぽん、と僕の髪を撫で下ろして。
「ああ。夢じゃない。
……
現実だ」
だから、淋しがらなくて大丈夫。なんなら夢の中だって、会いに行ってやる、と。
シルバー先輩は言って。僕は、そろそろ帰らなきゃ寮長に叱られる、って分かっていて、それでも。離れがたくていると。
「
……
困った子うさぎだな。可愛らしすぎて、俺も、手放せそうにない」
あまり離れないでいると、このまま俺の部屋までお持ち帰りしてしまうぞ、と言われて。
それはさすがにまだ心の準備が出来てないので、そっと先輩の身体から離れると。
そうか残念だ、と笑われて。
「先輩、なんでそんな余裕そうなんですか
……
っ」
って、僕がむくれると。先輩は、すまない、とまた笑う。
「お前が
……
、こんなに可愛い挙動をしてくれるとは、思っていなかったから。幸せで、仕方ないんだ」
さあ、そろそろ本当に自分のお家へお帰り、と。シルバー先輩は、僕を鏡の方へと向かわせて。
僕が、最後に一度だけ、先輩に振り向くと。先輩は、僕のすぐ後ろにいて。
「
……
明日からも、もっと幸せにしてやるからな」
ちゅ、と僕の額にキスをして。そして、僕の背中をとんと優しく押して、鏡の向こうへと押し込んだ。
*
デュースを、ハーツラビュル寮へと帰して。帰した、あと。俺は。
静かにひとり、鏡舎の中で。ガッツポーズをしていた。
(まさかデュースも、俺のことを好いてくれていたとは
……
)
しかも、なんというか。俺が思っている以上に、俺のことを大好きでいてくれたようで。
淋しがって帰らないのも、何かと俺に抱きついてくるのも、可愛い。可愛くて仕方なくて、甘やかしてしまいそうになる。
(困った、な。
……
まさか、こんな幸せな悩みが、生まれてしまう、とは)
今までは、デュースは俺のことなどただの先輩としてしか見てくれていないのだろうということが悩みの種であったが。
……
まさかその悩みが芽吹き、花開いて。新たに幸福な悩みの種を咲かせてしまうとは、ついぞ思っていなかった。
(とりあえず、親父殿とマレウス様に報告するか)
と。俺は、自分もいい加減濡れた身体を洗い流し、大切な人たちに恋人ができたことをいち早く報告しようと。
ディアソムニア寮へ続く鏡を通り抜けるのだった。
*おしまい
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