ゆいしろ そう
2026-06-13 09:09:12
1702文字
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ベク夢 池袋コラボカフェ編


 入口の扉を開けると、カランカランと音が鳴る。
可愛い足音がこちらへと向かってきて。

「いらっしゃいませー」

 今日も変わらず、真月零くんが出迎えてくれる。
彼は覚えていないと思うが、このカフェに来るのも3回目。
一ヶ月の期間限定カフェなので、あと一週間ほどで終わってしまう。
すごく寂しいな。

「えーっと、お一人様ですね。席までご案内します」

 後ろ姿を見ると、意外と身長は高くて
どことなく男らしさを感じる。真月くんは、椅子を引いて
私を座るように促す。一連の流れにも慣れてきたのか、
以前よりも笑顔がいっぱいに見えた。
 
「ありがとうございます」
「いえいえ! メニューが決まりましたら、またお声がけ――
「あ、あの」
「はいっ」
「決めてきたので、注文しても良いですか」
「よかれと思って」
「ドリンクはマスカレードマジシャン・シャイニングと
プリントラテで、ベースはココアの8番の絵柄。それから」

 注文メニューで、真月くんのファンだとバレてしまいかねないが、
本人は表情一つ変えずに、一生懸命メニューを打ち込んでいる。
そんな姿も可愛くて、ずっと見ていたくなる。

「いつも頼んでくださるメニューですね。今回もありがとうございます。
フードはもちろん、お月見プレートですよね?」
「は、はい……

 どうやら、私のことを覚えているようだ。
というか、真月くんのメニューしか頼んでいないから、当然といえば当然か。

「よかれな話、このメニューには裏がありまして」

 他の人には秘密なのか、耳元で囁かれる。
突然のことで、私の思考は停止する。

「ひゃっ」
「よからぬジャンジャジャーンボお月見プレートがあるのですよ」
「そ、そそっ、そうなんだ!?」
「ちょっとしたサービスがついてくるメニューになりますが、どうします?」
「じゃあ、それで!!」
「ふふっ。ご注文ありがとうございます♪」

 やっと私から体を離してくれた真月くん。助かった、気絶はなんとか回避した。
そういえば、お月見プレートがどうのとか言ってた気がするけど、まあいいか。
今日も食べるのが楽しみだな。

 ****

 しばらくして、こちらに向かって歩いてくる真月くん。
可愛いな、そして私は語彙力がなさすぎる。

「お待たせいたしました! こちらがドリンクで」

 綺麗な青色のドリンクと、温かいココアラテを置いてくれる。
そして、メインのフードが。

「よからぬジャンジャジャーンボお月見プレート、ですっ」

 いつもと変わらないように見えたが、お皿の端っこに
てりやきソースで“よからぬ”と書かれている。誰の字だろ。

「この文字は」
「そちらはキッチンスタッフが書いていますよ。
お料理がとってもお上手で」
「たしかに。毎回盛り付けも味も完璧ですよね」
「よかれと思って、直接ご挨拶したいと」
「え」

 厨房から一人の男性が現れる。髪型は真月くんと同じ、
だけど表情は少し捻くれていて。

「へぇー、なるほど」

 その人は私の上から下までを熟視している。
どこか変なところでもあるだろうか、あるとは思うけど。
あまりにも平凡すぎるから。

「いつも俺の料理を美味そうに食ってくれて、ありがと」
「は、はい」
「これ、俺の連絡先。それじゃ、また」

 本当にいるんだ、紙に書いた連絡先を置いていく人。
唖然としながら真月くんを見ると、頬を膨らませている。
風船だろうか、つつきたくなる。

「真月くん、どうしたの」
「ベクターのこと、ちょっといいなって思ったでしょ」
「いや、そんなつもりは!?」
「僕と会話している時間のが長いのに、酷い」
「真月くんも素敵だよ、自信持って」
「よかれと思って、僕の連絡先も渡しておきますね。
ご連絡お待ちしていますっ」

 そう言ってスキップをしながら、他のお客さんの注文を聞きに行っていた。
どちらかというと、ベクターが好みとは言えないけど。言えないけどね。
食べている姿をベクターに見られているのを知った私は、
いつもより気持ちお上品に食事を済ませた。