たくとろ
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#rylkweek2606 Day6「守って、信じて」

事前予告でロイvs恋敵って書いてたけど、そんなにクリーンでもないんだなこれが()

 ある美術館の庭で、青年はキャンバスを見つめていた。敷地を囲む雄大な木々はよいモチーフだが、描き写しても心は踊らない。もう既に何度も描き直している。
 しかしそんな彼の前に、一人の少女が現れた。パートナーのマスカーニャと共に木々を見上げる可憐な少女。青年の心が大きく動いた。
「そこの君たち!」
「え? 私たち?」
「しばらくそこで立っていてくれ!」
「え? は、はい」
 青年は鉛筆を素早く動かして、少女とマスカーニャの輪郭を描いていく。そして筆をとって色を塗り上げていく。迷いのない動き、極限の集中。描き始めてから十五分。マスカーニャがいい加減動きたいと少女の肩に寄りかかり始めたところで、青年の絵は完成した。青年は完成した絵を片手に抱えて少女の元に歩み寄る。
「ありがとう。もう動いてくれて構わないよ」
「はい。あの、私たちを描いてたんですか?」
「ああ。君たちを見た瞬間にインスピレーションが湧いてしまってね。突然すまなかった」
「いえ、大丈夫です。どんな絵か、見せてもらってもいいですか?」
「もちろん」
 青年は少女に絵を手渡した。生い茂る緑の木々の中に佇む少女とマスカーニャ。線は荒いが、塗りによって抽象的に描かれたふたりは、大きな存在感と光を放っている。
「素敵な絵……
 そう呟いて、少女は恍惚とした表情を見せた。青年はその瞳に目を奪われた。また筆を動かしたくなるような、そして、それ以上に大きな感情。
「ありがとうございます。こんな風に描いてもらえて、すごく嬉しいです。ね、マスカーニャ」
「ニャ」
「いや、こちらこそありがとう。ところで、君、お名前は?」
「リコです。こっちは相棒のマスカーニャ。よろしくお願いします」
「そうか。私はロベルだ。よろしく」
 マスカーニャがリコにくっついて甘える。リコも両手でマスカーニャを撫でる愛らしい姿に、ロベルはまた目を離せない。
「君は、絵は好きかい?」
「はい。お父さんが絵本作家で、私も時々描いてて……
「そうか。どんな絵か見せてもらってもいいか?」
「いいですよ。どうぞ、絵日記にしてて」
 リコはスマホロトムを広げて普段描いている絵日記を見せた。デフォルメされたかわいらしいポケモンや人が描かれた絵を、ロベルは一枚一枚じっくりと見る。
「うむ。どれも素敵な絵だ。その日その日の出来事を大切にしているのが伝わってくる」
「ありがとうございます」
「それに、君の絵からは好きという気持ちがよく感じられる。よく観察している証拠だ。ポケモンのことが本当に好きなのだな」
「はい。私、ポケモンのこと大好きです! いつも私に新しい世界を見せてくれるから」
 リコは誇らしげに笑った。その笑顔は、ロベルの心を完全に射抜いた。今すぐに描きたい、いや、今だけでなくずっと、強いインスピレーションが脳内に広がる。
「リコくん……
「はい?」
「私と結婚してくれ!」
「え?」



 部屋で失くしたチケットをようやく見つけたロイは、走って美術館に向かっていた。もうリコは中に入っているだろうか。
 美術館の入場口までやってきたところで、何やら声が聞こえてきた。
「頼む! 結婚してくれ!」
「だから無理です! そんな会ったばかりの人とは……
「絶対後悔はさせない。君を必ず幸せにする」
「そういう問題じゃ……!」
「リコ!」
 ロイはリコの元に駆け寄った。リコは彼の顔を見て、安心したように笑みを向ける。
「どうしたの? 揉め事?」
「ロイ……えっと、この人に結婚してほしいって言われてて……
「結婚!?」
「なんだ、誰だ君は」
「僕はロイ。リコと一緒に冒険してる仲間だよ」
 リコはロイの後ろに隠れて頷く。ロイもまた、リコを守るように両手を自身の腰に当てて仁王立ちする。ロベルは彼の顔を睨みつけ続けて気づいた。さっき見た絵日記にそれなりの頻度で描かれていた少年だと。
「私はロベル、画家志望だ」
「ロベル、リコが困ってるから、結婚は諦めて」
「まだだ! 説明がきちんと終わっていない! まずは話を!」
「ダメだ。これ以上リコを困らせないで」
 ロイは毅然とした態度で、ロベルの求婚を断ち切ろうとする。しかしロベルも引くつもりはない。
「ならば、私とバトルしろ! 私が勝ったら、リコくんには私と結婚してもらう! 私が負ければ手を引こう」
「勝手に決めないで。リコは物じゃないんだ。そんな勝負できない」
「ロイ……
「いいや! 勝負を受けてもらう。でなければ納得できない!」
「もう……いい加減に!」
 ロイが怒りを顕にしたとき、リコが彼の肩を二回触った。振り向いたロイにリコは言う。
「ごめんロイ……バトルお願いしてもいいかな」
「え? リコ、いいの?」
「勝手だけど……ロイなら絶対勝ってくれるって信じてるから……
「分かった。リコがそう言うなら」
 ロイはリコの目を見て優しく微笑むと、ロベルの方に向き直して宣言する。
「バトル、受けるよ。リコは絶対守る」
「いいだろう。こっちだ。バトルコートがある」
 移動を済ませた彼らは、早速コートに立って向き合った。勝負は一対一。どちらかが戦闘不能になった時点で終わりだ。
「出てこい! ランクルス!」
 ロベルのポケモンはぞうふくポケモン、ランクルスだ。高い知能と自慢の腕を併せ持っている。
「ルカリオ! いくぞ!」
 対するロイはルカリオをくり出した。リコを賭けた戦いの始まりだ。
「まずはこっちからだ! ルカリオ、ラスターカノン!」
 ルカリオは素早く光線を放つ。煌めきながらランクルスに勢いよく迫る。
「ほのおのパンチで打ち消せ!」
 ランクルスは右手を握りしめて炎を纏わせ、ラスターカノンを受け止めた。押されながらも拳を前に進めて、光線を消し去った。
「スゴいパワーだ……
「動きを止めるぞ、でんじは!」
「! ルカリオ、かわせ!」
 空中からランクルスが放った電撃を避け、ルカリオはランクルスの懐に入る。
「つばめがえし!」
 右手を振りかぶり、ルカリオはランクルスに二度の打撃を与えた。
「くっ! ランクルス! もう一度でんじは!」
 体を起こしたランクルスは再び電撃を放った。今度はルカリオにも当たり、その体をまひ状態にした。
「今だ! ほのおのパンチ!」
「ルカリオ、受け止めろ!」
 体が痺れながらも、ルカリオは両腕を交差させてランクルスの拳を受けた。地面に打ち付けられてしまったが、なんとかダメージを最小限に抑える。立ち上がったルカリオは自ら痺れを取り払った。
「治ったか。だが、また痺れさせるだけだ。諦めてはどうかね」
「こんなことで諦めたりしないよ。まだまだルカリオはやれる。リコのことは絶対守る」
「ロイ……!」
 ロイはリコとアイコンタクトを交わし、ルカリオにも視線を送った。そして、メガリングを掲げる。
「真なる力を掴んで越えろ! ルカリオ、メガシンカ!」
 絆の光が共鳴し、ルカリオはメガルカリオZへと姿を変えた。波動を高め、高速で移動を開始する。
「な、どこに……!」
「ルカリオ! メタルクロー連撃だ!」
 目にも止まらぬ速さで動きながら、ルカリオはランクルスの体を切りつけていく。一撃一撃が突き刺さり、みるみるうちにランクルスの体力を削る。
「くそ、ランクルス! 回転しながらほのおのパンチ!」
 ランクルスは体を回しながら腕に炎を纏わせ、攻撃を受け止める準備をする。しかし、ロイは口角を上げた。
「ルカリオ! 上からインファイト!」
「なに!? 受け止めろ!」
 跳び上がったルカリオにランクルスは拳を突き出す。しかしルカリオはそれをかわして拳を入れた。一発入ると、一気に速度を上げて激しい拳の連打。反撃の隙も与えず攻撃を続け、最後に大きく波動を込めた一撃でランクルスを吹っ飛ばした。戦闘不能、勝負ありだ。
「やったなルカリオ! スゴかったぞ!」
 勝利に歓喜して話すロイとルカリオの元にリコとマスカーニャが駆け寄ってきた。
「ロイ、ありがとう。やっぱり勝ってくれた」
「へへ、こちらこそ信じてくれてありがとう。おかげでもっと力が湧いてきたよ」
 マスカーニャもルカリオに笑顔で拍手を送り、勝利をみんなで分かち合う。
 そして彼らはロベルの元に向かう。
「負けか……
「約束通り、リコは諦めて」
「ああ。どうやら、私はリコくんに相応しい器じゃなかったようだ……ロイくん、彼女を幸せにな」
「え?」
「それはどういう……
「敗者はただ去るのみ……さらばだ」
 ロベルはバトルコートを出ていった。少し赤くなった二人は顔を合わせてすぐそっぽを向いた。耳まで熱くなってきたところで、ロイはリコの手を掴んだ。
「えっと……美術館、行こう」
……うん……!」
 二人は手を繋いだまま美術館の方へ歩いていく。後ろを歩くマスカーニャはあまり面白くないという顔だが、今日は見守ることに決めたらしい。
 今日の美術館の展示は、世界中の恋のアートを集めている。分かるような、やっぱり分からないような。二人は色んな恋の形を知って、自分の気持ちにも近づいていく。その先に描くのは、幸せな未来。