shiroyakei
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カードゲーム/ねこ

オロイフ旧ワンドロワンライ
(現ツーウィークドロライ)
第16回『カードゲーム』
第19回『ねこ』

「わ、オロルンとイファだ。珍しいね、モンドにいるの」
「トゥマイニじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ? こんなところで」
「ここにいるってことはこれしかないだろっ」
 旅人の横でふわふわと飛ぶ相棒のパイモンが掲げていたのは、オロルンとイファもテーブルに広げていた七聖召喚のデッキケースだった。
 モンド、キャッツテール。丸いテーブルを囲み、たくさんの人がそれぞれ渾身のデッキを広げては対戦を楽しんでいる午後。
 
 そもそも、オロルンとイファが七聖召喚を始めたきっかけは、集落の子どもたちだった。往診中のイファは、色とりどりのカードを広げて楽しそうに対戦する彼らの様子に目を留め、遊び方を教えてもらったのだ。イファがオロルンに遊び方を教え、ふたりで小競り合いを繰り返しながら、それぞれのやり方で対戦の腕を磨いていった。

 もともと凝り性なふたりだ。対戦を重ね、デッキの精度が上がるにつれて、どちらからでもなく七聖召喚が盛んなモンドに行ってみたいと話が出た。
 そこからの話は早く、イファとオロルンは数日休みを合わせて遠路はるばるナタからモンドまでやってきたというわけだ。
 宿に荷物を置いて早々、旅の目的であったキャッツテールにやってきた。購入したばかりの新しいカードを入れ込んだデッキで試しに対戦していたところ、旅先で見知った顔と再会した。

「オロルン、横で見ていていい?」
「いいよ、じいちゃん。アドバイスがあれば教えてくれると助かるな」
 旅人がオロルンの背後に回ると、イファが眉をひそめた。
「おいおい、それはずるいんじゃないか?」
「いいじゃないか。君には優秀なサポーターのカクークがいるからな」
「ははっ!」
「あのなあ……おいカクーク、あんまり羽ばたかないでくれ、カードが飛んでいっちまう」
「大丈夫だよ、イファ。口出しはしないからね」
「それはそれで緊張するな。お手柔らかに見ていてくれると助かる」
 そういって苦そうに話すオロルンの手札を覗き込もうと身を乗り出したとき、旅人はとあることに気がついた。
オロルンの膝の上に小さな『店員』がいたのだ。スキニーパンツの上で、丸まって気持ちよさそうに眠っている灰色の猫。オロルンが全く気にする様子を見せていなかったせいで、旅人もパイモンも、身を乗り出すまで自由気ままな『接客』に気が付かなかったのだ。
「わ、すっごくめずらしいんだぞ……キャッツテールの猫が、七聖召喚をしている人の膝で寝ちゃってるなんて」
「うん、俺も初めて見た。この子達って警戒心が強いからね」
そして旅人は、意外そうに向かいのイファへ視線を向けた。竜医である彼のほうが、動物に好かれそうなものだが――

「さあ、イファ。続きをしようか。……僕の番だ。さっき君からもらった1ダメージでこのカードの効果が発動する。これで「禁令」が5溜まった。「禁令」を5消費し、相手のランダムな手札1枚に無効化を付与する。」
……相変わらず性格がいいゲーム運びだな、オロルン。」
「ふふ、まだターンは終わってないよ、イファ。清掃作業を装備する。味方の出撃キャラが次に与えるダメージがプラス1される。雷サイコロ3個消費、僕の元素爆発だ。『周りを見張っていてくれ』」
……!」
「君の出撃キャラクターは水が付着しているはずだ。……ふふ」
……ずいぶん痛い攻撃をしてくれるじゃないか、きょうだい」
「でもまだ君は全倒れじゃないな」
……ああ、まだまだ!」



「ああくそ、ツイてない最後の最後で引きが異常に悪かったし、サイコロの出目も悪かった……次はカクークにカードを引いてもらうか
「おいおい、まじかよきょうだい!」
「イファ、次はあのカードを入れてみるのはどうだ」
「ああ、確かに……でもそれだとあのエリアカードとの相性が
 対戦終了後、余韻もそこそこに振り返りをし始めた孫たちふたりを横目に、旅人はオロルンの膝の上を陣取ったままの灰色の猫に視線を落とした。
対戦は白熱していたが、灰色の猫はオロルンの膝の上で眠ったまま、対戦が終わった今でもまだ夢の中にいるようだった。
「ふふっ、その猫、ずいぶんとオロルンに懐いてるみたいだな?」
「パイモン、声が大きいってって、あっ」
 パイモンの声にぴく、と耳を立てた猫。旅人が制止する間もなく、顔を上げた猫は、「ぴゃっ」と驚いたように鳴くと、オロルンの膝から飛び降りて駆けていってしまった。
「あっ、ゴメン!」
「パイモーン
「じいちゃん、パイモン。大丈夫だ。それに僕の膝が気に入ってくれたようならきっとすぐに戻ってくる」
「うう、でも驚かせちゃったんだぞ……
「大丈夫だ。あの子がもし戻ってきたら、ゆっくり落ち着いた優しい声で、あの子のあごの下を撫でてあげるといい。お気に入りの撫でられかたみたいだから」
「一緒に謝るから、あんまり落ち込まないで、パイモン」
 俯くパイモンの背中を撫でる旅人に、すぐにけろっと立ち直ったパイモンがオロルンに問うた。
「でも、なんでオロルンの膝で寝ちゃってたんだ? その~イファのほうが、動物に好かれそうだけど」
「おいおいパイモン、買い被りすぎだ。俺は万物に好かれるわけじゃないぞ」
「イファの近くには聡明な小竜がいるからな、猫たちも見慣れなくて近寄らないんだと思う」
「ははっ!」
 ぱたぱたと空中で一回転したカクークを見て、旅人はなるほど、と相槌を打った。確かに、ナタに住まう動物たちならまだしも、空を飛ぶ小竜だ。モンドの猫たちには見慣れず怖いものもあるだろう。

「カクークだけが理由じゃないだろう。猫が俺よりもお前を気に入る理由なんとなく俺にはわかるな」
 カクークが小さく「くわっ」と鳴いたので、イファはそれに応えるように頭を撫でた。手櫛で毛並みを整えてやったあと、軽くポンポン、と叩いてやる。
「お前は過度にかまいに行かないからな。心地いい距離感ってやつを取るのがうまいんだ。過度に撫でないし、むやみに餌でつったりもしない。でもここぞってところで与えるべきものを恵むから、猫にとってそれが心地いいんだろう」
イファ」
「確かにそうだな! オロルンは猫にとって心地いい距離感を図る天才なんだな!」
「僕のことも買い被りすぎだ、パイモン」
 オロルンが苦く微笑むと、彼の足元に先程の灰色猫がぱたぱたと寄ってきた。それに気が付いたオロルンが、甘く、低くゆっくりと声をかけて手招きをする。
おいで。さっきは驚かせてしまって、ごめん」
 オロルンの優しい手つきに招かれた猫は、少しじっとオロルンを見つめた。パタパタ、と長いしっぽを振ったあと、助走もつけずにトン、とオロルンの膝の上に飛び乗った。飛び乗ったあと、すぐに先程のようにくるりと丸くなる。その様子を見たパイモンが、今度は小声で、声をかける。
「わっすごくかわいいんだぞ……
「思っていたよりも機嫌は損なってないみたいだ。よかったな、パイモン」
「うう、ホントに良かったんだぞ……
 ごろごろ、となる猫の喉を、オロルンが優しく撫でる。パイモンもそっと触れると、猫はさらに嬉しそうに喉を鳴らした。
 それを一歩後ろで見守る旅人に、背後から声がかかった。
「旅人じゃない! 七聖召喚をしに来たのなら、私とも対戦しない?」
 旅人に声をかけたのはモンドの商人の女性だった。旅人はいいよ、やろう。とふたつ返事で了承した後、オロルンとイファに挨拶をしてその場を離れた。もちろんパイモンも旅人についていったので、テーブルには、またオロルンとイファ、カクーク、それに灰色の猫だけが残された。カクークは小休憩を取ろうと、テーブルに着地した。そして猫に負けじと、その場で丸くなる。それを見たオロルンがイファを見つめた。

『心地いい距離感』か。」
「何だよ、掘り返して」
 ふふ、と少し笑ったオロルンが、膝の上で丸くなっている猫の頭を撫でた。
「イファが少しだけ、嫉妬しているように見える」
「はあ? 俺が? 誰に? 猫に好かれるお前に、か?」
「違うな。僕じゃなく、猫に。猫に君が嫉妬している。」
……はあ?」
「図星を突かれると、すぐそうやって誤魔化す」
「誰が誤魔化してるって?」
「イファ」
 名前を呼んで、オロルンがイファの顔をじっと見る。まるでいたずらをする前のように微笑んでいるのに、左右で色が異なるオッドアイがイファを貫いて離さない。
「視線をテーブルに落としているふりをして、さっきからずっと僕の手を見ているだろう。」
 あわててイファが視線をカクークに逃がした。カクークは知らんぷりをして、丸まったままだ。
「ごまかしきれていないぞ、イファ。君のそういうところ、僕は結構好きだけど」
「う、うるさい……
「イファ、顔が真っ赤だ。太陽を浴びて熟したトマトみたいで、かわいいな」
……あんまり外でそういうことをいわないでくれ……ほら、もう一戦やろうぜ、オロルン」
「ふふ、話を逸らしたな」
「うるさい」
 褐色の肌がほんのりとピンクに染まったまま、イファはもうカードを切り始めている。オロルンはくすりと笑って、膝の上の猫を優しく撫でた。