ne🌟
2026-06-12 12:28:25
2133文字
Public 🥷🥚
 

ここだけのはなし 3

高諸 乙女チックな話になった。

同じ題名で全く違う話を書く第三弾。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

高坂さんを見ていると胸が高鳴る。そしてきゅぅっと胸が締めつけられるように痛む。最初は気のせいだと思ってた。

だけど高坂さんが私の名を呼ぶと飛び跳ねるように落ち着かなくなる心臓。私以外に話しかけてるのを見かけてしまえば、一気に落ち込む心。
そのどちらも気のせいでは誤魔化しきれなくなって、なんだか変な病気になっちゃったのかなと不安に思うようになった。

だから、思い切って組頭に相談したのに、ニヤニヤと気持ちが悪い笑みを浮かべるだけで真面目に話を聞いてくれなかった。
こっちは真剣に相談してるのに。怒ってみせたら、組頭はいくつか書物を貸してくれた。

こんなものを読んだところで、病気の原因が分かるとは到底思えない。

だけどその日はちょうど高坂さんが忍務で不在だったのもあって、私は仕方なく借りた書物に手を付けた。
それは年頃の男女の恋物語。
忍術の指南書以外の書物を読んだことのない私は、初めて読む物語に一気に引き込まれた。

心を掴まれたのは、物語に出てくる女子たちの心情。私が高坂さんに対して抱く気持ちを、物語の女子たちも同じように抱いていた。そうなってしまえば、寝る間も惜しんで一気に書物を読み進めていた。

気が付けば、朝。

小鳥のさえずりを聞きながら甘く切なく幸せな恋の結末に、私は胸を高鳴らせながらほぅっと息を吐いた。
巷でこの手の読み物が人気だということは知っていた。まさか自分がこんなにものめり込んで読んでしまうなんて、思ってなかった。
物語の登場人物はまさに自分だった。想い人の行動に一喜一憂して、幸福になったり、傷ついたり、まさにこの数カ月間の自分そのもの。

──あぁそうか、私は、高坂さんに恋をしてたんだ。

認めてしまえば、今までの自分の気持ちに整理がついた。
じわじわとかおが熱くなってくる。恥ずかしいのに、だけど少し嬉しい。
そんな不思議な気持ちを抱えながら、私は本を胸に抱きしめた。



自分の気持ちがわかると、不思議と不安はなくなった。

だって、これは変な病気じゃなくて、誰しもが抱くごく当たり前の感情であるとわかったから。
そうと分かれば不安なんてない。私はいたっていつも通りに振舞うことにした。

ただ一つだけ、高坂さんにときめいたり、期待したり傷ついたりしないように、少しだけ距離を取るようにしている。決してあの人に悟られないように、細心の注意を払って。


だけど、その頑張りはすぐにばれちゃって、私は今、部屋で高坂さんに詰められている。

「最近、お前が私を避けるから、また何かやらかしたんだと思ったんだ」

静かに、淡々と話す高坂さんが怖い。
その口調は怒っているというよりかは、面白がっているような、機嫌がよさそうなもので。
それがかえって恐ろしくて、私は話すどころか、呼吸一つすらままならないほど緊張していた。

「だが、お前は避けるだけで、私にも、組頭や小頭にも打ち明けるそぶりは見せなかった。だから私の方で、お前のことを探らせてもらった」

気づかなかった。
でも、今回に関してはやましいことは何もない。忍務の失敗を隠しているわけでも、高坂さんのおやつを食べたわけでもない。だからきっと、高坂さんはまだ、なにも気づいていないはずだ。

そういえば、高坂さんはいつから私の事を探ってたんだろう。

組頭に借りた本はもう何度か読み返したかったから、まだ返していない。でも高坂さんに見つかるのが嫌で、高坂さんが忍務から帰って来てからは、押し入れの中にある使ってない布団のすき間に隠していた。

一人の時を狙っては隠れて読んでたけど、まさかアレに気づいてしまったなんてことはないだろうか

「それでこれを見つけた」

高坂さんが一冊の本を見せてきた。
薄紅色の和紙の表紙の書物は、まさに私が今しがた思い浮かべていたもの。私は全身から一気に血の気が引いていく感覚を覚えた。

中身もちゃんと読んでしまったみたいで、高坂さんはパラパラページをめくりながら、しっかりあらすじを述べていく。

「これを読んで、私を避けるということは、つまり、そういうことなんだろ?」

ぱたんと書物を閉じる音に身体がびっくりしたように跳ねてしまった。
目の前には、意地悪そうな楽しそうな笑みを浮かべた高坂さんが相変わらず私を見降ろしてくる。

「い、」

その視線がいたたまれなくて、私の顔はどんどん俯いてしまう。

「意地が悪いです。高坂さんは」

今日の高坂さんはなんだか意地悪だ。
もったいぶらないでさっさと現実を突きつけてくれればいいのに。私のこの想いは、物語の女子たちのように成就することはない。それを分かっていたから、少しの間だけ、自覚したばかりの恋心を胸に秘めて過ごそうとしたのに。

「すまん、そうむくれてくれるな」

先ほどとは違う、優しい声。
骨ばった長い指が私の輪郭をなぞるように滑って、視線が自然と上がる。目の前にいる高坂さんの表情は、声と同じく優しく綻んでいた。

「ここだけのはなし、私はお前が恋心自覚してくれたのが嬉しくて仕方ないんだ」

===

この話の一番のミソは恋愛小説を所有している雑さん