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【狛日】キミとの友情の証 01

愛島狛日
才能ゆえに友情の証と呼ばれるものへの違和感に気付き始めた狛枝くんのお話

https://x.com/kaname_tp/status/2061174591821861359?s=20
↑かなめちゃんから、この話の素晴らしいイラストをいただきました😭✨

期限五十日の修学旅行。
理由はよく分からないまま始まった五十日間だったけれど、それでも無意味ではなかったと思う。
ボクは確かに、この島で「希望のかけら」を手に入れたのだから。

友情。
信頼。
仲間との繋がり。
目には見えないはずなのに、確かにそこにある温かいもの。

「これが……希望のかけら」
思わず呟く。綺麗だ。
本当に綺麗だと思った。わずかな温かささえ感じるように、手のひらの上で小さく輝くそれは、まるで持ち主の想いまで宿しているみたいだった。

そして、綺麗で温かいものといえば。
なぜか真っ先に思い浮かんだのは日向クンだった。

初対面のはずなのに、まるで昔から知っていたみたいに自然に接してくれた日向クン。
時々、人との距離感が分からなくなるボクを見て困ったように眉を下げる日向クン。
話しかければ呆れながらも最後まで付き合ってくれる日向クン。
真面目で、不器用で、とても......お人好しな日向クン。
不思議だ。
こうして並べてみると、ボクが手に入れた希望のかけらの半分くらいは日向クンから貰ったものな気がする。

そんな日向クンが今、目の前に立っている。
そして彼の手には、ボクの愛用していた灰色のチェック柄のパンツが握られていた。
うん、正しく言うならーー友情の証として受け取ってもらった、ボクのパンツだ。

「ありがとうな、狛枝」
日向クンはいつもの眩しい笑顔でそう言う。
「大切にするよ」
そう言って、何の躊躇いもなくボクのパンツをポケットへしまう。

その瞬間、とんでもない幸福感がボクを飲み込んだ。
ゴミクズのボクが履いていたパンツだよ?
本来なら焼却処分されてもおかしくない代物だ。
それなのに日向クンは受け取ってくれた。大切にするとまで言ってくれた。
もし来世があるなら、今度は日向クンと同じ柄のパンツを履ける存在になりたい。
いや。同じ柄じゃなくてもいい。同じ洗濯機で洗われるだけでも十分だ、なんて烏滸がましいことを考えている。
いや、それすら贅沢かもしれない。いっそ日向クンのパンツに生まれ変われたら――
そこでボクはふと我に返った。

……待って。どうして友情の証がパンツなんだろう?いまさらになって、そんな疑問が頭をもたげる。
ついさっきまで胸いっぱいに広がっていた幸福感が、形を変えてゆっくりと沈殿していく。
ほんの数秒前まで、そんなことは少しも気にならなかったのに。
どうしてボクは疑問すら抱かなかったんだろう。
「友情の証だから」と言われた瞬間、ボクは何の躊躇いもなく差し出していた。
あまりにも自然だった自分自身に、今さら戸惑いを覚える。
そして何よりは、どうして日向クンもあんなに慣れた様子だったんだろう?
驚きもしない。戸惑いもしない。ただ当たり前みたいに受け取って、当たり前のように 「大切にする」と言った。
まるで――ボク以外からも何度となくパンツを受け取ってきた経験があるみたいだった。
そんな馬鹿げた考えが頭をよぎり、ボクは小さく眉をひそめる。
希望のかけらは全部集めたはずだ。なのに、まだ知らない日向クンが次々と出てくる。
気になる。すごく気になる。だけど、一番ひっかかったのは――
「どうして……
思わず呟く。
どうして日向くんは、ボクに彼のパンツをくれないのだろう。
友情の証なんだろう?希望のかけらなんだろう?だったら交換するべきじゃないのかな。
ボクだけが渡して終わりなんて、少し不公平な気がする。
ボクは理由の分からない敗北感を抱えることになった。
そして、その夜。
ボクは日向クンのコテージを訪ねた。


夜の海は静かだ。
昼間はあれほど賑やかだった波音も、今はどこか遠くで規則正しく響いているだけで、島全体が眠りにつこうとしているように感じられる。
コテージの灯りがぽつぽつと並ぶ道を歩きながら、ボクは何度も同じ問いを頭の中で繰り返していた。
どうしてこんなことが気になるんだろう。
友情の証を渡し、日向クンは受け取ってくれた。
それで十分なはずだし、むしろボクみたいな人間が受け取ってもらえただけでも出来すぎなくらいだ。
それなのに胸の奥には小さな棘のような違和感が残っていて、どうしても無視できない。
まるで宿題を一問だけ解き忘れたような、あるいはパズルの最後の一片だけが見つからないような、そんな落ち着かなさがずっと続いている。

だから確認する必要がある。
これは私欲じゃない。決して。少なくともそうであってほしい。本当に、たぶん、おそらく、きっと。そんなふうに自分へ言い聞かせながら歩いているうちに、気づけば日向クンのコテージの前まで来ていた。

軽く息を整えてから、ドアを三回ノックする。
しばらくして扉が開いた。

「狛枝?」
日向クンが目を丸くする。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
どうやらお風呂上がりだったらしい。髪は少し湿っていて、石鹸の匂いが微かに漂ってくる。
別に重要な情報じゃないし、今考えるべきこととも関係ないはずなのに、なぜか妙にはっきりと印象に残った。
「少し確認したいことがあって」
「確認?」
「うん」
ボクは頷いた。
ここまで来たんだ。ちゃんと聞こう。理性的に、論理的に、誤解のないように。感情論じゃなくて、あくまで事実の確認として。
「日向クン」
「なんだよ、あらたまって」
「ボクたちは今日、友情の証を交わしたよね」
ボクは軽く、まるで朝ご飯に何を食べたのか尋ねるみたいな調子で声をかける。
……まあ、そうだな」
「でも、一つだけ分からないことがあるんだ」
その瞬間、日向クンの表情がわずかに警戒へ変わった。どうしてだろう。まだ何もおかしなことは言っていないはずなのに。
「その友情の証って、一方通行なのかな?」
「は?」
「だってボクは渡したのに、キミからはもらっていないよ」
「うん?」
「つまり交換は成立していないよね」

数秒の沈黙が流れる。

日向クンはゆっくり瞬きをしたあと、嫌な予感でもしたのか一歩だけ後ろへ下がった。
その反応の意味がよく分からなくて、ボクは首を傾げる。
……だから何が言いたいんだ」
日向クンの声には明らかな警戒が混じっていた。
ボクは一度深呼吸する。ここが一番大事なところだ。変な誤解をされないように、できるだけ率直に、そして誠実に伝えなければならない。
「日向クン」
……なんだよ」
日向クンの声がわずかに低くなる。嫌な予感がしているのだろうか。
これは早く言わないと、本当に目の前で扉を閉じられてしまいそうだね。

「キミ今着てるパンツを、ぼくにくれないかな?」
言い終えた瞬間、日向クンの表情が固まった。
いや、固まったというより――これまで見たこともないほど露骨な拒絶の色が浮かんでいた。
まるで危険生物でも発見したかのような顔だ。
そんなボクの願いを聞いた日向クンは、無言で扉を閉じようとしている。