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Armd
2026-06-12 06:27:37
3188文字
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糸繰り双子についてメモ #Armdの灯
先見の力はシエンの方が強いものの、フィオにも僅かにある。
2人には、里の未来が見えていた。
特にシエンはそれを理解し、自分に待ち受ける運命も全て受け入れていた。
彼らが数えで15の年。
要の儀式を終えたあとシエンが意識を失ったことで、シエンの力が片割れであるフィオに全て移った。
運命の歯車が僅かにズレた。
完全な先見の力によりシエンを助ける未来を視たフィオは、その方法を実行に移す。
シエンが意識を取り戻した時、フィオはまさに計画の準備をしている所だった。先見の力から、シエンは、フィオが何をしようとしているかを即座に理解する。失ったはずの両足には、金色の脚が付いていた。しかし、繭のようなそれは柔らかく、思うように動かすことができない。
「
……
な、なぁ?フィオ
……
お前、何する気なん
…………
なぁ
…………
」
「おい、止めろやフィオ
……
頼むから、なぁ
……
」
怯え後ずさりながらも、フィオに止めるよう何度も懇願する。しかし彼はそれを意に介さず、黙々と作業を続ける。やがて、彼はシエンの方へ手を伸ばした。
「
…
ッ何すん───」
声を抑えるように口を手で塞がれる。そのまま、身につけていた装飾品を素早く奪われた。両足を断ち切られて弱った身体では、彼に抵抗することも彼から逃れることも出来ない。纏っていた衣装さえ剥ぎ取られたシエンは、為す術なく輸送用の荷箱に押し込められる。その瞳は最早、絶望に染まっていた。
フィオはシエンを安心させるように優しく微笑んで語りかける。
「俺はよぅ、嫌や。堪えられへん。お前が犠牲になるんは」
「俺が、要になる。俺ら、同じ顔やから」
フィオは、シエンが纏っていた後継者の衣装に袖を通す。先程奪い取った装飾品を、一つ一つ身体に纏わせていく。
「脚はな、餞や」
「お前はどこまでも、自由になれ」
石製の荷箱の、重い蓋が閉められる。
数度、箱の外でロープが擦れる音が箱内に響く。
「
……………
嫌や」
「
……
嫌、嫌嫌嫌嫌、嫌や!フィオ!!出して!!」
ほとんど、叫びに近かった。
マンタ笛が鳴ったのを合図に、ゆっくりと箱は動き出す。
「やめてフィオ!戻して!お前が、お前が残る必要はない!俺で良かったんや!なんで
……
」
貨物輸送用のマンタは、引き返すことなく進み続ける。荷箱から漏れる泣き声など気にも止めず。
「
…………
やめてよぉ、フィオ
……
なんでお兄ちゃんの言うこと聞いてくれへんの
…………
」
「
…………
なんで
……
わかってくれへんのや
……
」
「全部、俺で良かったのに
……
しきたりも、足も、ぜんぶ
……
受け入れとったんに
……
今更
……
」
「
…………
今更、一人で
……
お前を生贄にして
……
どう自由になったらええの
……
」
箱の中に、嗚咽が響く。
「
……
視えへんよぅ
……
フィオ
……
」
マンタは風の街道の気流に乗った。
御者は居ない。
行先は風に任せるまま。
______________________
今現在、孤島の蝶々の洞窟が糸繰りたちの拠点になっている。しかし16年前までは、雨林の大空洞に糸繰りの里があった。
糸繰りの里では、月食と日食が起きた年に里に生まれ落ちた子どもを正当後継者「要」とするしきたりがあった。
しかし、その年に生まれ落ちた子どもは双子であった。双子は災厄を呼ぶ存在として忌まれてきたが、進行しつつある現「要」の衰弱も考慮し、双子はシエンとフィオという名を与えられ、跡継ぎ候補として育てられた。
糸繰りの技は、門外不出。そもそも、糸繰りの里自体が閉鎖的な社会であった。
糸繰りを行うのは、正当後継者のみであり、そのほかの里のものは糸繰りに用いる蝶や闇花を育てている。また、一部の者はケープに用いる裏布を織って、草原や峡谷に点在するケープ織り師の元へ輸出している。
糸繰り師が作るのは、「光糸」と呼ばれる特殊な糸だ。高い光エネルギーを練りこんであり、糸自体が光エネルギーの貯蓄と浮遊力の保持を可能とする。また、糸繰り師が仕事を行うのは、魔術の施された洞穴の一室であり、後継者となる者は、儀式の後に「要」と呼ばれるようになる。魔術は、光の生き物がもつ光エネルギーと、光の吸収や貯蓄を行う闇花の性質を過不足なく抽出し織り交ぜるためのものであり、その調整には変圧器(トランス)を必要とする。それこそが「要」であり、文字通り部屋に施された魔術の楔の役割を果たす。
この術式を保持し続けるため、「要」は自分の代の間は部屋から出ることを許されず、生涯糸を作る仕事を遂行し続ける。
双子が生まれた頃から、街道の気流によって闇花の種がまいこんだり、シャードが高頻度で降り注いだりといった災害が増えた。大空洞に施されていた糸繰りの里を守る結界にもヒビが入った。このままでは、材料の養殖や、糸繰りの仕事が立ち行かなくなる。里は大いに荒れた。
幼い双子には、その未来が見えていた。特に、双子の兄であるシエンには弟よりも強い先見の力があり、自分の未来さえも予知していた。
降りかかる不幸とは重なるもので、現「要」の衰弱が顕著となった。里の存続を危惧した人々は、早急に後継の儀を執り行うことを決めた。
しかしそこで双子の忌も重大な問題として取り上げられる。間違いなく後継が「要」の役割を全うできるよう、また、その候補者の身体から忌を落とせるよう、里の人々は厄祓いと継承の儀の双方を執り行う事とした。
シエンはその候補者に自ら名乗りをあげた。
後継の儀とは、「部屋」に施された術式を身体に埋め込むこと。これを行うのは里の術者たちだ。儀式を行ったあとに、厄祓いとして術者たちはシエンの両足を斧で切り落とした。これは、決して逃がさず管理しやすくするという目的も含まれていた。
足を失った痛みと、大量の光が流れ出たショックにより、シエンはしばらく意識を失ってしまう。
時を同じくして、大空洞に通じる街道の口から前例のないほど大量のシャードと闇花の種が舞い込んだ。
そのどさくさに紛れ、フィオはシエンを街道へ逃がす。
成り代わっていたフィオを暴き、術者達がシエンの失踪に気付いた時には、既に遅し。継承の儀の魔法で大空洞内の「部屋」に縛り付けたはずの要が失踪したことで、里の結界はより不安定化していた。糸繰りの術者たちは、遺されたシエンの両足を仮の要として術式の複製の転送を図った上で、土地を封印することに成功する。そうして、糸繰りの里の拠点を雨林の大空洞から蝶々の洞窟へと移した。
災厄を引き起こし続けたとされている双子の片割れである上に、先代の「要」を逃がした大罪人であるフィオの処遇について、術者たちは頭を悩ませた。しかし、コピーした術式を新天地に定着させるまでの時間に、新しい後継を用意する為の猶予は残されていなかった。
折檻の後、厄祓いと断罪を兼ねて、フィオもシエン同様に両足を切り落とすことが決定された。しかしフィオは、折檻の際につけられた傷から流れ出た体液を用いて印を描く。そうして、自らを新しい「部屋」に縛り付ける強力な魔法を発動させ、その両者は必要ないと主張する。フィオが用いたのは一族に伝わる古代魔法(呪い)のひとつだった。呪いには解除方法がなく、その術式下にある術者の邪魔を試みると、呪い返しを受けるという言い伝えがある。
これにより術者たちはフィオの要望を飲まざるを得なくなった。
フィオの希望する通り、彼へ継承の儀を行い、「要」として扱う事とした。
以降、現「要」は糸を作り続けている。
今日も、窓から見えるどこか空の下にいるであろう片割れの自由を願って。
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