サブさぶれ
2026-06-11 21:22:43
4086文字
Public 成長if
 

『話をしようよ』サンプル

スグアオweb再録本「話をしようよ」(成長if 同棲&婚約中 料理中心話) A6/118p/200円
頒布ページ:https://28kiso104.booth.pm/items/6699529
【あらすじ】
恋人、婚約まですべて仲睦まじく順調に過ごしてきたスグリとアオイ。
結婚式まで残り数ヶ月まで迫ったある日、二人は些細なことから喧嘩をしてしまう。
お互いが大好きだから譲れない。けれど仲直りしたい。
似た気持ちを抱く二人は決められた当番に従って料理をする。仲直りしたい下心を込めて。

そういえばサンプルページがなかったと今さら気づきました。誠に申し訳ありません…データ残っててよかった

【プロローグ】

 十七歳。スグリとアオイが出会い、想いを繋げてから二年が経った夏休み。学生最後の思い出にと、スグリは夏休みを丸々使ってパルデア一周旅行をしていた。もちろん、恋人のアオイと一緒に。
 パルデア中の美味しいご飯を食べ、野を駆け空を泳ぎバトルに興じ、はじめて一つのベッドで寝て、自分ですら知らない秘密を教えあって。朝も夜も寄り添い、笑い、大好きを深め合った。
「スグリと毎日一緒にいられるなんて、夢みたい」
 一人用のテントに無理やり二人分の身体を詰め込んで寝そべる。聞かせるつもりのない言葉だったが数センチしか距離が空いていないから丸聞こえだった。スグリが優しく囁く。
「うん。本当に、夢みたい」
 寝袋から出していた手がゆるゆると繋がれる。心地よい体温に瞼がとろんと重くなっていく。まどろみの中、思ったままを口にした。
……このまま、ずっと一緒にいられたらいいのに」
 遠くのような近くのような場所で、愛おしい声に呼ばれた気がした。だが、夢の世界に吸い込まれたアオイは、そのまま眠りについてしまった。
 次の日。ベイクタウンを目指して険しい西一番道路を登る。どこまでも広がる夏の青い海に陽光が一筋輝いている。からりと澄み切った空が一歩一歩近付いてきた。次の洞窟を超えればいよいよベイクタウン、という所でスグリが突然振り返った。
「これからの話、なんだけど」
「ん?」
 てっきりベイクタウンに着いてからの予定だと思ったアオイは何の気なしに彼を見上げた。スグリはひどく真剣な顔でアオイを見つめていた。
「俺、パルデアリーグさ就職しようって考えてんだ」
 パルデアのまっすぐな太陽を受けた黒髪が紫色を透かして艶めく。潮風が二人の間を吹き抜ける。ざわめく気持ちを抑えながら、アオイはぼそりと尋ねた。
「私が、ずっと一緒にいたいって言ったから……?」
「ううん。俺が、アオイとずっと一緒にいたいから。アオイと一緒に。じーちゃんとばーちゃんになりてんだ」
 そんなの、実質プロポーズじゃないか。
 愛おしいとか嬉しいとか幸せだとか、ふわふわした気持ちが身体中を駆け巡る。真っ赤な顔から想いが溢れだす。一人じゃ抱えきれなくて、スグリの胸に飛び込んだ。
「ねぇ、大好き。大好きだよ……。本当に、本当に大好き……
 強く強く、気持ちの分だけ抱き締める。スグリの生きている音の向こうで、波の音が聞こえてきた。林檎と石鹸と蜜の混じった優しい匂いがアオイの肺を満たした。
「俺も。アオイんこと、大好きだ」
 アオイの身体は細くて柔らかくて潰してしまいそうだからと、スグリはちっともギュッと抱きしめてくれない。優しくて臆病な人のハグはいつも物足りなかった。だからその分、アオイがめいっぱいの力を込める。
 互いの腕越しに凪いだ海を眺める。そのままずっと、沢山の時間を惜しみなく使って、空の色が黄金に染まり始めるまで抱擁しあった。
……なぁ、アオイ?」
「なぁに?」
 ほんの少し身体を離したスグリが、アオイの耳に五文字の言葉を落とした。
「あ、——
 それは、いつか自分も彼に伝えたいと思っていた、世界一素敵な言葉だった。すぐ上にあるはずの顔を見ようとする。だが、スグリはアクアジェットの速さで数歩後ろまで離れてしまっていた。
「ベ、ベイクタウンまであと少しだべ? こっからは競走な!」
 スグリは幸せの熱で沸騰寸前なアオイを気にかける事なく、洞窟の方へと駆け出していった。
「ま、待って! ねぇ、私にも言わせてよー! スグリのずるっこー!」
 二人の笑い声が洞窟中にこだました。晴れやかな夏の中、アオイに見える世界のすべてがキラキラ輝いていた。

  *

 その年の冬。誰にも内緒で単身パルデアにやってきたスグリは、たった二日で八つのジムを制覇し、破竹の勢いでチャンピオンランクまで登り詰めた。面接のネタにでもなれば、としか考えていなかったそうだが、彼は案の定オモダカに気に入られ、そのままリーグへの就職が決定した。
 スグリがパルデアに移住して三年目。アオイの専門学校卒業間近、寒さがしつこく残る三月。すっかりスーツ姿が様になったスグリから妙な質問をされることが増えた。
「住み心地さいい街って、どこだと思う?」
「好きな場所とか、好きな時間帯とかってある?」
「アオイん家って、花瓶あったよな? ば、薔薇って……好き?」
「手……つうか、指、触ってもいい? で、できれば、左手の、薬指……とか」
 満月色の瞳をキョロキョロさせて、鞄から住宅情報誌や結婚情報誌をはみ出させ、なのに隠し通せているつもりの人にくすぐったさを覚えた。気付いてない振りをして、全ての質問に丁寧に答え、彼の覚悟が固まるのを静かに待った。モラトリアムの終わりを惜しみながら。
 何もかもが、とんとん拍子に進んでいった。
 それからさらに時は流れて一年後。アオイがアカデミーの教職員として働き始めてもうすぐ一年。——二人が一緒に暮らし始めてもうすぐ一年。
 結婚式まで、あと五ヶ月とちょっと。冬と春の狭間。
 このままずっと、何もかも上手くいくと思っていた。