AmexAmexxx
2026-06-11 19:40:39
2031文字
Public FF14
 

わんこ襲来



 変なヴィエラに懐かれてしまった。

「あっねさーん! 頼まれたこと終わりましたー!」
「ありが、と……待って近い近い」
「今日僕ができることって他に何かないすか!」
「顔近い……ええと、じゃあ、採集お願いしてもいい……?」
「もっちろん!」

 レヴナンツトール、セブンスヘブンにて。
 きらきら目を輝かせるヴィエラに、レインズは引き気味に指示を与える。満面の笑みでこくこくと頷いたヴィエラは、すさまじい勢いで駆け出していった。その後ろ姿を見送って、大きく溜め息。
 チェル=アメスト。
 ソリューションナインからエオルゼアまでついてきた、レインズに一目惚れしたというヴィエラ。レインズ本人は全く覚えていないのだが、ソリューションナインで助けてもらったことがあると言っていた。その後アルカディアの騒ぎでレインズのことを見て、「一目惚れしました! 名前もあねさんリスペクトで名乗ることにしました! よろしくお願いします!」と押しかけてきたのである。
 ソリューションナインにいたときは適当にあしらっておけばいいかと思っていたのだが、正直エオルゼアまで単独でついてくるとは思わなかった。あの場所から出るということは、彼らにとってかなり勇気がいることだと感じていたから。
 一連のやり取りを眺めていたヤ・シュトラが、くすくすと笑う。

「大きな犬ね。あなた、ヴィエラを飼う趣味があったの?」
「人聞き悪くない!? ないよそんな趣味!? 勝手についてきたんだよ……
「追い返すのは諦めたの?」
「人の話聞かないんだもん。うちの家に居着く勢いだったから、ラベンダーベッドのアパルトメントの部屋貸すことにしちゃって……
……自分で墓穴掘ってるじゃないの」

 呆れた顔のヤ・シュトラに、レインズはテーブルに突っ伏した。追い返せるものなら追い返したかったのだが、ミスト・ヴィレッジの自宅までついてきてしまったのだ。さすがに男と二人で家に住むようなことはしたくなかったので、ラベンダーベッドに倉庫代わりとして借りていたアパルトメントの部屋に押し込むことで回避した。結局、エオルゼアに彼の居場所を作ってしまったという点で、墓穴を掘ったことは分かっている。
 ――それでも、レインズにはそうするしかない事情があった。

……これは私の独り言なんだけど」
「あら、何?」
「あの子ずっと距離近いし……なんか……よく分かんないけど……とりあえず一発ヤってもいいなって思ってもらえる男になるって言われた私の気持ち……
「っ……
「いやもう存分に笑ってほしい……思わず鳩尾殴ったら逆に喜ばれるし……
「ん、ふふっ……人気者は大変ねえ」

 笑うヤ・シュトラに、レインズは眉を寄せる。あのままだと居着かれて、そのうち襲われかねないと思ってしまった。さすがに襲われたところで簡単に撃退はできるが、きっとチェルは諦めないだろう。何度でも、レインズのところにやってくる。
 諦めてくれないかな、とは思うものの、当面それは難しそうだ。エオルゼアのことなど何一つ知らないチェルは、毎日知らない世界に目を輝かせている。一緒に過ごしているうちに、気が変わってくれることを祈るしかない。何も知らない大地へ、今までの常識が通じない世界へ、ただレインズについていくという気持ちだけでやってきたチェルの気持ちを、蔑ろにはしたくない。
 
……でも、ちょっとだけ悪くないなってこともあって」
「あら」
「私が英雄扱いされてること、チェルは知らないから。ソリューションナインで自分を助けてくれて、アルカディアで活躍してた冒険者、くらいにしか思ってない。それはちょっと、助かる」
「そうね。……鞍替えするのもありかもしれないわよ」
「ないです」
「あら、そこは即答するのね」
……うるさいな」

 ヤ・シュトラの言葉が、何を指しているのかは分かっている。
 いつか叶えたいわけではない、大切に抱えたままの恋心。その気持ちがあるから、今もずっと立っていられる。だからこの先も手放すことなく、抱え続けるもの。自分が冒険者として、この先に待ち受ける困難に立ち向かうために、大切に持ち続けていたいもの。
 この感情がなくなる日が来るなど、考えられない。

「はー……気分転換に体動かしてこよ……
「そうね、行ってらっしゃい。私もそろそろ出るわ」
「お茶付き合ってくれてありがと、シュトラ」

 頷くシュトラを見て、レインズは席を立つ。戻ってきたチェルが騒ぎそうだが、前にチェルを見かけたタタルが「無料で使える労働力でっすね……」とぼそっと呟いているのを聞いたので、何とかするだろう。気が付いたら暁の血盟に入っていたという結果はついてきそうだが、それはそれだ。
 この先に不安はあるが、なるようにしかならない。下手に考えても疲れるだけだ。さてどこに行こうか、と全く別のことに思考を巡らせたのだった。