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2026-06-11 08:30:43
4688文字
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よっぱらいの特権、オレの特等席

RTリクいただいた「お酒に酔った🦁くんが珍しく😈に甘えて、可愛い姿に翻弄される😈🦁」です。
リクにお応え出来ていれば嬉しいです。
お酒の話は読むの好きなんですが、書くのは難しい。

「今日はみんな帰れっ!!!」

 オレは獅子神邸のリビングの中心で叫んだ。
 晨君、礼二君、ユミピコは一瞬キョトンとした後に「貸しだな」と言い置いて、三人で家を後にした。
 助かった、とオレは深々と息を吐く。その背中に、
「かのぉ〜、いっしょに飲むぞ〜」
 アルコール臭を纏った敬一君がのしかかってきた。
 間に合って良かった……オレはさらに安堵のため息をついた。

*

 ことの起こりは、晨君だった。
「はい、獅子神さん」
 差し出したのは琥珀色の液体。ロックグラスにシングルフィンガー分のそれが、普通のウィスキーじゃなかったと分かるのは少し後のこと。
 オレは、受け取った敬一君がグラスを傾ける様子を(あ~、絵になるな)なんてのんきに見てたんだ。
 あんなことになるなんて知らずに――

*
 
 今日はみんなで珍しく酒を飲んでいた。敬一君が「貰い物が溜まってきたから消費を手伝え」とオレたちを呼んだ。酒には勿論、敬一君の美味しいおつまみがつきものだ。一も二も無くオレたち四人は敬一君の家に集まった。
 ワインにウィスキー、日本酒も結構あった。糖質を気にする敬一君は、ワインと日本酒を礼二君とユミピコに押し付け、オレと晨君には甘いカクテルを作ってくれた。そして自分はウィスキーを水割りやハイボールで飲んでいた。炭酸が恋しいオレも、たまにハイボールをもらった。
 バイトでバーテンダーの真似事をしていたという敬一君の作るカクテルは美味しいし、シェイクする姿は絵になっている。
「敬一君カッコいい。オレ、恋に落ちそう」
「オマエ、それ何度目だよ」
「えー、何度だって恋に落ちてイイだろ?」
 呆れ顔で返事する敬一君だけど、差し出してきたカクテルは定番でもある『サイドカー』。
「『いつも二人で』……か。これって、プロポーズか?」
 ニッととびきりの笑顔を向ければ、カクテル言葉なんて知らないと高を括ってたのか、
「なっ……なんで……いや、深い意味なんか……
 ギャンブラーとしては大失格の烙印をいくつも押されるような狼狽えぶりを見せてくれる。
「貴方達、アルコールは感度を高めるが持続力を低下させるぞ」
 眉一つ動かさず言い放つ礼二君に、晨君が「村雨さんの思いやりって面白いよね」と笑った。
 笑ってられない敬一君は「オレも飲む!」と言ってソファにどっかりと腰を下ろした。
「式は神が執り行ってやってイイぞ」
 ユミピコの追い打ちに、敬一君は手にしていたハイボールを一気に呷った。
 オレはカウンターチェアで高みの見物を決め込み、サイドカーをちびちびと口にした。飲み口のいいカクテルだけど、アルコール度数は高い。オレは酔っぱらうわけにいかないのだ。
「僕が作りたい!」
 元気一杯に手を挙げる晨君に、敬一君は一瞬悩んで「じゃあ、ウィスキーのロックな。氷は用意してっから」と立ち上がって、カップボードからロックグラスを渡すと戻ってきた。
「珍しいな、敬一君がロックなんて」
「あいつに余計なもん触らせたくねえだろ」
「さすがにグラスにウィスキーを入れるくらい出来るもんな」
「でもよ、水割りとかロックも奥が深いんだぜ?まあ、ダチと家で飲むときに気取っても仕方ねえからな」
 誇らしげに語る敬一君の姿に、オレも誇らしくなる。なぜなら――
「へえ、オレが飲ませてもらったウィスキーロックは、奥深い方かな?オレと飲むときは気取ってくれてたんだ?」
「ぶはっ!!」
 チェイサーで飲んでいた水を、勢いよく敬一君が噴き出したところで、
「もう、二人とも目を離すとすぐいちゃつくんだから」
 と、晨君がウィスキーロックを手にキッチンからやって来た。
「い、いちゃついてなんか……!」
「「いちゃついていたな」」
 敬一君の無駄な抵抗は、礼二君とユミピコよって完封された。
「はい、獅子神さん」
……サンキュ」
 差し出されたグラスを受け取ると、視線を泳がせて縁に口をつけた。丸いロックアイスの表面が溶けて、グラスと当たると澄んだ高い音が鳴った。
「獅子神、そのウィスキーは……
 敬一君が琥珀色の液体を口に含んだタイミングで、礼二君が声を掛けるが、ウィスキーはそのまま喉を通っていった。
「どうかしたか?礼二君」
「薫りが……あれは、ウィスキーではあるがカスクストレングスではないか?」
「カスクストレングス?」
 聞き慣れない言葉にオレは首を傾げた。
「カスクストレングスは、加水をしていないウィスキーの総称だ。」
「へえ、なんか普通のと違うわけ?」
「水が加わっていない分、薫りが芳醇なのが特徴だな」
 オレの疑問にはユミピコが答える。この二人は、オレたちの中では酒にうるさい方で、二人ともザル……いや、枠だな。
 ふむふむとのんきに頷くオレだが、次の礼二君の言葉に顔色を変えた。
「あとは、アルコール度数が約60度あることだろうか」
「はっ?!60度?!」
 思わずデカい声が出た。
「ちょっ……敬一君!!ストップ!!」
 オレは長過ぎて邪魔だと言われる腕を敬一君の持つグラスへと伸ばした。しかし敬一君の喉はもう一度上下して、グラスの中のウィスキーは半分程減った。
「ストップ!敬一君!!飲むなっ!!」
 これ以上飲ませまいとオレはグラスを取り上げた。
「なにすんだよ、かのぉ」
 あ、ダメだ。
 敬一君は酒に弱い方ではない。でも、強いわけではない。今日の酒量は、オレの見立てでは許容量だったけど、アルコール度数60度は予定外だ。
 そして、敬一君は酔うと――可愛くなる。そんな姿を晒させる気など毛頭ない。

「今日はみんな帰れっ!!!」

*

 そして冒頭のオレの叫びになるというわけだ。
 みんながいなくなった散らかったリビングで、
……敬一君?」
 オレは背中の温もりに声を掛ける。
「んー?」
 垂れ目がとろんとして、色気とあどけなさが入り混じって無防備過ぎるぞ。あー、こんな敬一君がみんなの目に触れなくてホントに良かった。
  ふにゃふにゃとご機嫌な敬一君をソファに座らせると、上半身をすりすりと寄せてきた。オレは柔らかいその髪に指を通して形の良い頭を撫でる。
「今日はもう寝ようか?」
「なんでだ?……まだ、かのうと飲みたい」
 上目遣いで、こてんと首を傾げられる。オレだって、こんな可愛い敬一君が見れるならずっと飲んでいたいさ。だけど、違うんだよな。この状態の敬一君が求めてることは。
 酔っ払った敬一君は、甘えたがりだ。おまけに人肌恋しくなるのか、くっついてくる。昼間にオレが同じことをしたら、問答無用で引っぺがしてくるだろうに。ただ、その二つの根幹は『寂しがりの子ども』だ。二人で夜(とは限らないが)に肌を重ねることを求めて触れ合うこととは明らかに違う。
 だからオレは自分の理性を保つため、なるべく穏便に敬一君を可及的速やかに寝かせてしまいたい。
 そんなオレの気持ちを一ミリも察することなく、敬一君はオレの左腕にしがみついてくる。
「かの〜、一緒に風呂入ろ?」
………………
 ニコニコと笑いかけてくる敬一君にオレは押し黙った。
「敬一君さぁ……
「髪の毛、洗ってくれるか?」
 続けて「おれも、かのうの髪の毛、洗いたい」なんて言ってくる。
 はぁー、とオレは大きく息を吐いた。それから、敬一君を優しく抱き締めた。敬一君もふふっと楽しげな笑い声を上げてオレを抱き締め返してくれる。
「分かった。一緒に入ろう」
「へへっ、ありがとう」
 オレの頬に酒臭いキスが落とされた。

 敬一君の家のデカい風呂のデカいバスタブに、デカい二人で入る。
 敬一君はオレの両足の間で、オレに背を預けて満足そうに湯に浸かっている。オレの目の前には、湯気で湿気を吸った髪の毛が張り付いた項。白い肌を滴が伝う。正面の壁にある鏡に映る敬一君には、今のオレの複雑な胸の内は全く読めていない。
 温めの湯にしたとはいえ、酒を飲んだ後の長湯は危険だ。なんて言い訳を自分にして敬一君に声を掛ける。
「敬一君、そろそろ髪と体を洗うぞ」
「ん……かのう……体も?」
「それはダメ。オレの理性は優秀だけど、そこまで我慢強くない」
 オレの理性が過労死するぞ。
「わかった」と言って、敬一君はバスタブから出ると、自分で体を洗い始めた。シャワーで泡を洗い流すと、こちらを向いて頭を下げた。
「オッケー」
 オレはシャワーを手にして、敬一君の髪の毛を濡らしていく。
 ギュッと目を瞑って、頭を下げて差し出す――信頼がないと取れないポーズだ。
 オレは敬一君に甘えられるだけの信頼を得ている。あんなに臆病者で疑り深い男に。
 じわじわと喜びとなんとも言えないくすぐったさが胸に広がる。
……シャンプーするよ」
「おう」
 返事が普段の敬一君に少しだけ戻ってきた。
「今更照れてもやめてやらないからな」
 オレは丁寧にシャンプーを泡立てて、敬一君の綺麗な金色の髪の毛に撫でるように泡で洗っていく。地肌も指の腹を使ってマッサージするように揉みほぐす。
「おかゆいところはありませんか?」
「サービス満点だな」
 まだご機嫌な声色で敬一君が笑った。
 シャワーで泡を丁寧に洗い流すと、敬一君が顔を上げた。
 アルコールのせいで眦は微かに赤く染まって、皮膚の薄い頬や鎖骨も上気したように薄紅に色を変えている。
 もたげてくる感情を押し殺し、
「満足したか?」
 ニッと笑うと、敬一君が不思議そうに首を傾げた。
……まだ、オマエの髪を洗ってないだろ?」
「あれ?それってまだ生きてる約束なんだ?」
「そうだぞ、ほら」
 促され、オレはバスタブに入ったまま首だけ敬一君の方へ預けた。
 オレも敬一君に首を捧げることに抵抗がない。ただ、その理由は敬一君とは真逆だ。人体の急所の詰まった頭部を、オレは敬一君に無防備に晒せるのだ。

 二人で風呂から上がり、オレは敬一君の髪をドライヤーで乾かしてやる。アウトバストリートメントは、ユミピコが押し付けてきたやつだ。二人揃いの香りが漂う。
 鏡の中の敬一君を見れば、うつらうつらと瞼が重くなっていた。
「そろそろ寝るか?」
「あぁ……かのぉ……一緒に寝るぞ」
 ふあ、と小さなあくびを噛み殺しながらベッドに誘われる。色気も下心もない誘いだけど。
「オレはリビング片付けてから寝るよ」
「そんなの、いいから」
 パジャマの袖を引っ張られ、断れるはずはない。
「明日、文句言わないでよね」
「あぁ、言わない」
 覚えてないかもしれない言質を取って、二人で寝室へ向かう。
 並んでベッドに入ると、敬一君はすでに陥落寸前で一分もあれば寝てしまいそうだ。
 そっと頭を撫でて、優しいオレは警告する。
「こんな風に酔ってちゃダメだぞ」
 敬一君は撫でられて眠気が強まっているのか、もう瞼が開いていない。それでも、うっすらと唇が動く。
……かのうといるときしか、酔わない」
「それがいいよ」
「かのうと……いると……安心……だから……
 最後の方の声は、すうすうと寝息と混ざっていた。
 オレは撫でる手を止め、額にキスを落とした。
「おやすみ、敬一君」

 安心安全なオトコなんてご免だね。 
 次にこんなことになったら、絶対自重しないからな。理性なんて放り投げてやる。
 おやすみのキスをおでこではなく、あどけなく開いた唇にキスできるのは、恋人だけだろう?