いつもより少し早くに目が覚めたリコは、甲板に出て空を見上げた。まだ日の出前で薄暗い空に、太陽とは違う、美しく光る球体が見えた。明けの明星だ。
「きれい……なんだかいいことありそう」
しばらくして陽が昇り、鮮烈な輝きがリコの目に焼きついた。
今日の朝ごはんはなんだろう。船内に戻ったリコは笑顔で想像しながら廊下を歩いていた。ふと靴紐が解けているのに気づいて結んでいると、
「ボォウ!?」
「カアアァイ!?」
「この声、ラウドボーンとタイカイデン? どうしたんだろう」
靴紐を結んだリコはロイの部屋に向かった。ドアは既に開いていて、ルカリオの黄色い尻尾が部屋の外にはみ出ている。
「みんな、どうしたの? ——え!?」
視線の先にいたのは、動き回るロイのシャツ。中で何かがもがくように動いていた。ポケモン?一体どんな?シャツの中にいるのは一体何者なのか。リコはおそるおそる近づいて、シャツを掴んだ。そしてネックを引っ張ると、中にいた者が顔を見せた。
「……ロイ?」
「リコ!」
そう、中にいたのはロイだ。ピンク色の前髪、マゼンタの瞳、間違いなくロイだ。ただし、問題が一つある。
「ち、小さい……」
「え?」
「ほんとだ、僕、小さくなってる……」
スマホの画面に映る自分自身を見て、ロイはようやく自身の身体の変化に気づいた。小さくなったという表現は正確ではない。ロイの姿は幼くなっていた。
「五歳くらいかな……? かわいい……」
「か、かわいい?」
「うん! 小さいロイかわいいよ! この間ロイのコスプレしてた子みたい」
「あ、あんまりかわいいって言われると恥ずかしいよ……キャップの気持ちなんとなく分かっちゃった」
ロイは視線を逸らして頬をかく。リコはそんなロイもかわいいと思ってニコニコと笑っている。
周りを見回して、ロイは相棒たちを見上げる。
「みんなおっきいなあ……」
「普段は見上げることないもんね」
ラウドボーンたちは笑顔でロイを見つめる。最初はいつもと違うロイに困惑していたが、見上げられるのは楽しいようだ。
「でも、なんで僕こんな姿になったんだろう」
「何も覚えてないの?」
「うん……起きたら目の前シャツで真っ白でさ」
「そっか……とりあえず、みんなのところ行こっか。朝ごはん食べよう」
リコとロイは立ち上がった。そして歩こうとしたところ、ロイはぶかぶかのズボンに引っかかって転けた。
「いて」
「ロイ!? 大丈夫?」
「うん……でもこれじゃ歩けないや。脱いだらその……パンツもぶかぶかだから」
「そ、そっか……それなら」
ミーティングルームには既にライジングボルテッカーズの面々が朝食を食べに集合していた。彼らはリコを見るなり、口を大きく開いて固まった。
「みんなおはよう」
「お、おはよう。えっと、リコ、その子は……」
ドットは動揺しながら聞いた。リコが抱える小さな男の子。ロイそっくりだ。
「驚いた? この子はね、ロ——」
「リコ、まさかロイと……」
「いや、だとしてもいつの間に妊娠して……!」
「っていうか成長早すぎない?」
「待って待って!? 違うよ! この子ロイだから!」
顔を真っ赤にしたリコにそう言われて、女性陣は目を丸くした。ロイだというその子どもに目を向けると、呆れた顔で女性陣を見ている。
「え、ほんとに?」
「そうだよ。朝起きたら体が縮んでて……」
「なんで?」
「僕にも分かんないよ……」
ロイは困り顔で返す。するとウルトがにやけ面でロイの前にきた。
「でも抱っこされてるなんて、情けねーなあロイ!」
「仕方ないだろ……服がぶかぶかで歩けないんだよ」
「ウルト、ちっちゃい子をいじめたらダメだよ」
「いやリコ……僕記憶はあるってば……恥ずかしいから撫でるのやめて」
「あ、ごめんね、つい」
リコはロイの頭から手を離して背中に置き直した。なお、抱っこされている間ずっとリコと密着しているので、撫でられなくてもロイは気が気じゃない。
「ま、とりあえずみんな座れ〜。今日はあまいミツたっぷりのパンケーキだぞ〜!」
「やったー!」
それぞれ席について、フォークとナイフを使ってパンケーキを口に運ぶ。ほっぺがこぼれ落ちそうな味わいに、みんな感動だ。しかし、ロイは……
「はい、あーん」
「リコ……僕自分で食べれるよ?」
「でもテーブルちょっと遠いし、この方が食べやすいでしょ? ほら」
「もう……はむ。ん! 美味しい! さすがマードック!」
照れながらもパンケーキを口にした瞬間、ロイは笑顔になった。幼いロイの笑顔に、リコもご満悦だ。
ミミロル印の子ども服ブランド店の試着室。リコはそのカーテンが開くのを心待ちにしている。小さなロイが自分の選んだ服を着る。絶対にかわいい。早く見たくてたまらないのだ。
そして待つこと数分、ついにカーテンが開いた。
「どうかな……?」
ホゲータのほげーっとした顔がプリントされたシャツに、黄色い半ズボン。それから頭には少し懐かしい黒い帽子だ。
「うん、かわいい……写真撮っていい?」
「……いいよ。ホゲータの服は嬉しいし」
「えへへ、だよね! さ、こっち見て!」
お店を後にした二人は商店街の中をはぐれないよう手を繋いで歩いていた。すると、少し離れたところにあるお店から、ガラスを割ってトレーナーとフォクスライが飛び出してきた。扉を開けた店員が強盗だと叫んでいる。その強盗はリコたちの方に向かって走ってくる。
「マスカーニャ、マジカルリーフ!」
前に出たマスカーニャが鮮やかな緑葉を渦巻かせて放つ。しかし強盗とフォクスライはこれをかわし、リコたちに迫る。その時、ロイがリコの体の前に飛び出した。
「ラウドボーン! チャームボイス!」
解き放った歌声は、こうかバツグンとなってフォクスライの動きを止める。
「フォクスライ!?」
「今だよ! リコ!」
「うん! マスカーニャ!この人とフォクスライを縛って!」
「ニャァ!!」
「ぐっ!?」
事件解決。リコとロイは目を合わせて笑った。その後やってきた警察官に強盗は連れていかれた。
飛行船への帰り道、リコはロイにお礼を言った。
「ありがとう、さっき、私のこと守ろうとしてくれたよね」
「体が勝手に動いちゃってさ。この体じゃ頼りないよね」
「ううん、そんなことない。ロイはロイなんだなって安心したよ。カッコよかった!」
「……へへ。ならよかった」
翌日、ロイが目を覚ますと体は元に戻っていた。結局なんだったんだろうと疑問を浮かべながらも、まあいいかと笑い合う二人だった。
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