ゆべし
2026-06-10 22:04:03
3023文字
Public 銀色の夢
  2236903

寄りかかりたい場所

gntk夢
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さくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくら 散々な目にあった。あのあと、地球に戻ったら真選組の方々から丁寧な取り調べを受けて、解放されたのは翌日の夕方だった。私が答えられることは何ひとつないのに、しつこく聞いてくるから途中で寝落ちしてしまうほどだ。心身ともに困憊して、流石に店先へ立つ気持ちも折れてしまう。しばらく休んでいいよというお言葉に甘えて、色々とやりたいこともあったし、ひと月ほどお休みをいただいた。
 家の片付けとか掃除とか、やりたいことはいっぱいある。でも、私がもっともやりたいことは睡眠だ。目を閉じると今にも事切れて寝てしまいそうになる。真選組の屯所から今まで立っていられたのは銀さんがそばに居てくれたからだ。
「どうする? 自分んちに帰るか?」
「ん……
「はい、しばらく万事屋にいること決定〜 けーるぞ」
「はい……
「どうぞ」
 両腕を広げて、どうぞと言われた。吸い込まれるようにその肩へ寄りかかる。甘い匂いと温かさに私の意識はプツリと途切れた。

「高杉のヤローも真選組も、人の女に何してくれてんのかねェ……
 スヤスヤと寝息をたてて眠っているさくらの様子に詰めていた息を吐く。危害を加えることはねぇと思っていたが、関わることによって少なからず疑われることは予想できたはずだ。どいつもこいつも勝手すぎる。ようやく戻ってきた温もりを抱きしめれば、無意識のもとでも抱きしめ返してくれた。


 どうせならこのまま万事屋に住んで、甘味屋も辞めて、俺の手が届く範囲で笑っていてほしい。そんなことをコイツは望んでいないことは分かりきってるが、目を離すと今回みたいになるわけ。
「せめて、住む所だけでもなァ〜」
「ダメですよ、銀さん。さくらさんはさくらさんの生活があるんですから」
「でも、銀ちゃんの女だって知れ渡ってるアルよ? この先、狙われることだって絶対アルネ」
「それはそうなんだけどさ……一度、さくらさんと話してみてくださいね、銀さん」
……
「銀ちゃん? どうしたアルカ」
「いんや、なんでもねーよ」
 確かにコイツらの言うことは正しい。新八の言う通り、さくらの人生を勝手に囲っちまうのはお門違いだ。神楽の言う通り、俺と関わることで増える危険もあるだろう。そばにいない分、護りきれると断言できねェ……そうするべきか、否か。とりあえず、さくらに気を遣わせないために、数日は神楽も新八のとこで世話になるようにした。
 二人きりの万事屋に小さな寝息だけが聞こえる。なんとなく和室にひとりで寝かせるのも心配で、居間のソファーに寝かせた。俺や神楽が何も掛けずにこの辺で寝ちまうからさくらが用意してくれたブランケットを掛けてやる。むにゃむにゃと幸せそうな寝顔をしながら包まっていた。サラサラの黒髪が頬を滑り落ちる様子に、あどけない表情とは裏腹な女の色香を感じる。
 ごくりと喉が鳴る。薄く開いた唇に引き寄せられて、顔が近づくのを止められない。別にキスしたっていい間柄にはなった。それでも、本人の同意なく奪うのはイケナイことをしている感覚になる。でも、触れたい。
……
……ん」
……はぁ、夕飯どうすっかな」


 まだ寝ていたい。温かなブランケットに包まれて、グズグズしていると、大きくて優しい手が頭を撫でてくれた気がした。こんなことを私にしてくれるのはひとりしかいない。ゆっくりと浮上する意識とともに重いまぶたを持ち上げる。
……
「お目覚めか、眠り姫」
……まだ、ねたい、です」
「心苦しいけどよ。こっち帰ってきてから何にも食べてないでしょ? 飯作ったから、ちょっとでも食べてから寝直そうや」
「おなか……すいて、ない」
 言った瞬間にぐ~~と腹ペコ虫が鳴り響く。簡単に食べられるおじやにしたから食べようぜ、そう言って銀さんは台所に消えていく。ほんの数メートル、しかも同じ家の中なのに姿が見えないことが不安で、ぎゅっと手を握った。
 私、こんなにも弱かっただろうか。今までずっとひとりでやってきたはずなのに、銀さんと通じ合ったこと以外には何も変わっていない。こんなんじゃ、心配ばかりかけるだけのお荷物になってしまう。ぎゅっと握っていた手の上にポタポタ落ちる冷たい雫は、瞬きするたびに増えていった。
「できたぞ~って、どうした?!」
「うぅ~~銀さぁぁん!」
「おいおい、擦んじゃねェよ……な?」
「うぅぅ、もう、やだぁ
 ずっとひとりで立ってきた。天人がこの地球に戦争を仕掛けて、気づけば周りには誰もいなくなっていた時から。どんなに朝が眠くてもお店に休まず出勤したし、欲しいと思った反物や帯も極力我慢してきた。明日、何が起こるか分からないから、何が起きてもいいように生きてきた。
 訳も分からず泣きわめく私の背中を何も言わずにさすってくれる銀さんの優しさが沁みる。この人と出会って、私の周りは賑やかになった。辛い時、辛いと言ってもいい。子供みたいに泣きじゃくっても寄り添ってくれる。
 あぁ、私、本当はずっと誰かに寄りかかりたかったんだ。楽しいこと、嬉しいことは一緒に感じて笑いたい。辛いこと、悲しいことも一緒に感じて泣きたい。そう思える相手が銀さんなんだと、ようやく飲み込めたから、甘えてる。
「やっぱり、ここに住むのがいいか」
「え?」
「いやさ、考えてたんだよ。もう俺たちは、その、繋がっちまったわけ。今回みてーなことがもっとあるかもしれない。だから、せめて一緒に住んだらさ……少しは安心できっかなとか」
 考えてたわけなんですよ。最後は言葉が尻すぼみになっていった。銀さんなりに色々考えてくれて、いつその話をしようかタイミングも見ててくれたんだろう。誰かと一緒に住むなんて考えたこともなかった。
 涙は止まり、少し鼻をすする程度まで落ち着いてきた。ちらりと視線を向ければ、真剣な顔つきの銀さんがハッとして、へにゃりと笑ってくれた。そっと肩によりかかれば、しっかりと受け止めてくれる。それだけで、大丈夫。
「なんだか気持ちの変化で芯までグラグラしちゃったみたい」
「俺も、色々と考えさせられたっつーか。今までが考えなさすぎたんだろうな」
「一緒に住もうって言ってくれたのは嬉しい、です。でも、もう少し今のままでもいいですか?」
「オメェがいいなら、いいけどよ」
「それに、ここじゃない場所があったほうが……いいかもしれないですし
……確かに。でも、まァいつでも泊まっていいし、住んでもいいから。俺たちは大歓迎だ」
「ありがとう、銀さん。二人にも心配かけちゃったし、明日はご馳走を用意しなくちゃ」
「いつも通りでいいって。それがアイツらも喜ぶんじゃね?」
「あの、しばらくは泊まっていてもいいですか? まだひとりになるのは、少し、怖くて」
「いいって言ったろ? 家に帰るなら、俺がそっちに泊まってもいいぜ」
「銀さん、優しすぎません?」
さくら限定です〜 ほら、まずは食っちまおうぜ」
 お茶碗によそってもらったおじやはいい匂いで、腹ペコ虫も限界を迎えていた。けど、何となく手が重くて、ジーッと銀さんを見つめてしまう。視線を右往左往と泳がせたあと、頭を搔いてしょうがねぇなと私からお茶碗を受け取ってくれた。
「あー」
「フーフー ほい」
……おいひい」
「そりゃあ、よかった」