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ギムレットの憂鬱(花怜現代AU*バーテンダー兼モデル×作家)
三郎,生日快乐🦋
こちらの花怜現代AU長編
はじまりのXYZ(現代AU/バーテンダー×作家)
のふたり。
時系列的には一番新しいものになります。
「
――
乾杯」
わずかにグラスを持ち上げ、微笑み合い、言葉を交わす。
深夜のバーに、ふたりきり。
鼻腔をくすぐるサンダルウッドの香りが心地よく、ほろ酔いの謝憐はほんのりと頬先を染め、隣に座る三郎の肩にこてんと頭を預けた。
「ふふ。どうしたの?」
「たまにはいいだろ。
……
あ、」
「ん?」
謝憐は静かにグラスをコースターに戻し、指先で三郎の目元をそっと撫でた。
目の下に、うっすらと浮かぶ青白い影。
目を凝らさなければわからないほどの、それ。
「
……
君、肌が白いから目立つんだ。最近忙しいだろ? 疲れてるんじゃないか? 無理してない?」
畳み掛けるように問われ、三郎もグラスを置いた。優しく目元を撫でる手に自分の手を重ね、指を絡めて握り込む。ひんやりした大きな手が、謝憐の体温を移してゆっくりとあたたまってゆく。
「心配してくれるの? ありがとう、でも平気だよ。確かに立て込んでるけど
……
これが終わったら、しばらくあっちの仕事はオフだ。ゆっくり過ごせる」
「
……
そう」
三郎はグラスをひと息で飲み干すと、謝憐の肩にこてんと頭を乗せた。さきほどの謝憐を真似るように。
「飲み過ぎたかも」
「嘘だぁ
……
君、ザルだろ?」
「じゃああなたに酔ったんだ。
……
ねえ、介抱して?」
「んもう、甘えたいだけだろ
……
、っあ
……
」
文句を言う口はジンの香る唇に塞がれ、気づけば深いキスを仕掛けられていた。
唾液をかき混ぜる水音と、吐息と、堪えられない声と。
それをぼんやりと聞きながら、今夜もまた甘い熱に溺れてゆく。
「ん
……
、さんら
……
」
「哥哥
……
」
(ああ
……
また誤魔化された
……
)
類まれな美貌とスタイルをもち、氷のような冷やかさと妖艶さをも持ち合わせた、稀代のモデル。
メディアの露出が増え、本人がインタビューに答えたり、コメントを出すことも多いけれど、今でもまだ『花城』のプライベートは謎に包まれたままだ。そんな謎めいたところも魅力のひとつ、とファンの間では捉えられていて、あえて暴くのは野暮だとさえ言われていたのだが、そんな彼が最近、ひとつだけ公表したことがあった。
“
パートナー
愛するひと
がいる”というものだ。
想いを交わし、同棲を始めて、結婚の約束をしてしばらく経ってからのことだった。それは、誕生日や出身地といった情報より遥かにプライベートに踏み込んでいて、同時に、各方面に向けての明らかなけん制でもあった。
近ごろはますますモデル業が忙しく、その合間を縫ってバーを開くものだから、ゆっくり休む日もないほど。どんな仕事もそつなくこなす三郎も、やはり人間だ。ふとした瞬間に浮かべる疲れた表情に、謝憐はもちろん気づいていた。せめてバーの営業だけでも控えてはどうか、と言ったのだが、彼は好きでやってることだからと首を縦には振らなかったのだ。
六月十日、三郎の誕生日。
この日くらいはふたりで過ごしたいね、と言い合っていたのは、まだ春先のこと。だが、公表していない誕生日など考慮されるはずもなく、仕事は容赦なく舞い込んできた。そして今、アンバサダーを務める新商品のプロモーションイベントで各地を回ることになり、誕生日までの一週間、家を離れることになってしまったのだ。
「
……
はあ
…………
」
外は快晴、暑いほどの陽気だというのに、謝憐の頭上だけは暗く垂れこめた曇天だ。
長旅へと発つ前、自分のことを顧みない彼に積もり積もった心配が爆発し、苛立ちのまま強い言葉をぶつけてしまった。しばらく会えなくなるというのに、気持ちよく笑顔で送り出してやれなかった。それがずっと、心に引っ掛かっている。表情はどんよりとして、口から出るのは言葉よりもため息ばかりだ。
「辛気臭い顔しないでください。疫病神みたいですよ」
「はは
……
」
長年の相棒である編集者は、謝憐にはまるで容赦がない。辛辣な霊文の言葉に、引き攣った笑みが漏れた。
「顔色が悪いですね。作家は身体が資本なんですよ、ちゃんと寝て、食べていますか?」
「
……
」
返す言葉は、ない。
三郎がいなければ空腹を感じたときにしか食べないし、机に向かっている間はコーヒーか茶しか口にしない。悶々と考えごとばかりしていて寝付きが悪く、やっと眠りについても眠りが浅いせいか、嫌な夢ばかり見てしまうのだ。
「
…………
」
眼鏡越しの冷ややかな視線が、鋭く突き刺さる。
彼女には、パートナーができたことも、同棲をしていることも話しているけれど、その相手が誰であるかまでは言っていないのだ。
「
……
彼
・
と喧嘩でもしましたか?」
「え、三郎のこと知って
…………
あ、いやその」
あたふたする謝憐をちらりと一瞥して、しかし霊文はなんでもないように続ける。ほんの少しだけ、申し訳なさそうな苦笑を浮かべて。
「ええ、知ってます。
……
すみません、あなたが言わないつもりのようでしたから、私も知ってるとは言い出せなくて
……
」
「いや、いいんだ
……
うん。
……
誰から、それを?」
「老裴から」
「ああ、裴茗さん。
…………
えっ?」
聞けば裴茗とは同郷の腐れ縁で、彼から事情は聞いているという。“国家機密級の秘密だ”と念を押した上で、彼は霊文に話していたのだ。
――
もちろん、『花城』に了承を取った上でのこと。
彼女であれば口は固いし、いずれ打ち明けなければと思っていたから、謝憐としてはむしろ好都合だ。はは、と今日何度目かの苦笑をもらす。
だが
――
それはそれとして、自分達の関係はマイノリティだ。だからこそオープンにはできないし、同棲していて結婚の約束までしたけれど、それはあくまで形だけのこと。どう思われているのかと、向かいでキーボードを叩く彼女を窺うが、いつも通りの無表情だった。
「いいじゃないですか」
「え、なにが」
「根無し草より、今の方がずっといいですよ、あなた。それに、最近は登場人物にリアルな感情が乗ってきたって評判で、新刊の売り上げも上々です。作品は作者を映す鏡でもありますから」
「
……
あはは」
彼と過ごす日々は幸せだ。
楽しくて、面白くて、刺激的で、たくさん笑い合って、ときには喧嘩もして。思い通りにならないことが腹立たしくて、悔しくて、悲しいときもあるけれど、独りのときよりはるかに感情が動いていると感じるのだ。それが、書くものに表れていることも。
彼と想いを交わし合ってから、初めて経験することもたくさんあった。恋愛だってそうだし、
……
触れ合いも、キスも、
――
その先の快楽も。
「
……
っ、」
最後の夜をつい思い出してしまい、顔が熱くなる。なにかを察したのか、霊文は深いため息をついてノートPCを閉じた。ぱたん、という音につられ、謝憐ははっと顔を上げる。
「
……
あと三日。伸ばしても問題ありませんから、それまでにきっちり仕上げてください」
「え、ああ
……
わかった。ありがとう霊文」
「礼なら完成原稿で結構ですよ。ご武運を」
にこ、と。それは終始無表情だった彼女が、今日初めて見せた満面の笑みだった。
「はは
……
頑張るよ
…………
」
今日は三郎の誕生日。一週間、ずっと各地を転々としていた彼が、ようやく家に帰ってくる日だ。温かい食事を用意して迎えたいけれど、あいにく謝憐は料理が得意ではない。総菜でも買って帰ろうと、出版社を出て百貨店へ向かった。
職業柄、固定の休暇などない謝憐は、曜日感覚が薄い。それでも店内に入った途端、驚いて足を止めてしまった。平日の昼下がりとはにわかに信じがたいほどの人だかり。その大半は、若い女性たちだ。
(
……
何かのイベントかな?)
見回すと、大きなサイネージ広告が目に入った。とあるハイブランドの新作プロモーションで、アンバサダーの『花城』が特設ステージでトークイベントを開催する、というものだ。
(ああ、そっか
……
)
すっかり忘れていた。プロモーションイベントの最後の会場は、ここだったのだ。ユニセックスの高級バッグが売りのブランドである。気軽に買えるような価格帯ではないのに、売れ行きは好調だと聞いていたが、集まった女性たちもそのブランドのバッグやアイテムを身に付けている。それに加え、彼を象徴する赤色や黒色を纏った彼女たちは、『花城』に会いに来たのだろう。
彼が愛されていること、人気が高まってゆくことは、謝憐だってもちろん嬉しい。だがその反面、彼が自分だけのものではないと胸の痛みを感じることも、少なくはないのだ。深く愛し合っている。自分は彼の特別だという自覚もある。けれど、彼がメディアに出るたび、どうしても不安は生まれてしまうのだ。自分が存外嫉妬深いことを、自覚しているがゆえに。
そんな謝憐の複雑な胸中に、察しのよい彼は当然気づいていて、だからこそパートナーがいることを公表し、世間に知らしめたのだ。
ただひとり、特別に想う人がいるのだと。
(
……
特設ステージ)
そのつもりはなかったのに、近くにいると知ってしまえば足は勝手にそちらへ向いてしまう。すみません、と声を掛けながら人だかりを掻き分けると、やがてステージが見えてきた。かすかに聞こえてくるのは、聞き慣れた彼の声だ。
「入場チケットはお持ちですか?」
入り口でスタッフに声を掛けられ、困惑のまま足を止める。そうだ、ふらっと行って見られるはずがない。事前に申し込むとか、商品を購入するとかが必要なはず。そんなことにも思い至らず、恥ずかしさに顔が熱くなってゆく。
「ええと、私
……
」
そんなものはもちろん持っていない。謝って立ち去ろうとすると、聞き覚えのある声が謝憐の足をぴたりと止めさせた。
「ああ、やっと来た」
「
……
裴さん?」
スーツ姿の美丈夫は、よく見知った人物
――
“金曜夜の二人連れ”の片割れであり、『花城』のビジネスパートナーである裴茗だった。彼はスタッフに目配せをして下がらせると、“STAFF”と記されたストラップを謝憐の首に掛けて、腕を引いた。
「あの
……
?」
「待ってたんですよ。もうとっくに始まってるんですから、早く入って。
……
こっちへ」
客席はぎっしり埋まっている。立ち見エリアを抜けた、関係者席の端。ひとつ空いた座席を、裴茗はとんと叩いた。
「
……
?」
「ごゆっくり。帰るときにそれ、返してくださればいいので」
「あ、はい」
小声で囁かれ、反射で頷く。彼は器用に片目を瞑り、音も立てず足早に去っていった。
ステージではトークショーが続いている。
あのときと同じように、あらかじめファンから募集した質問に花城が答えていくというもので、ステージにいるのは彼と、進行役の女性のふたりだけ。バーにあるようなカウンターチェアが置いてあるだけのシンプルなセットだからこそ、彼の類稀なスタイルがいっそう際立ってみえる。
(やっぱりかっこいいんだよなあ
……
)
このブランドはウェアも展開しているからか、着ている衣装はブランドの新作だ。差し色はいつも通りの深い赤と黒で、シルバーのアクセサリーがよく映える。右目は隠してはおらず、露わになった双眸は、どちらも深く澄んだ黒だ。
彼は、次々に投げかけられる質問にすらすらと、ときにはユーモアも交えながら、踏み入った問いかけはさらりと笑顔で躱して答えてゆく。カウンター越しのコミュニケーションに長けた、バーテンダーの会話スキルを遺憾無く発揮している。出会ったばかりのころ、オンライントークショーを観たときより、その話術はさらに上達しているようだ。
見慣れているはずの顔に見惚れ、聞き慣れているはずの甘く深い低音に聴き入っているうちに、トークイベントは終盤を迎えていた。最後の質問はずいぶんと踏み込んだ、大胆なものだった。
『先日、“パートナーがいる”と公表されましたが、どんな人ですか? 言える範囲で教えてください。それから、思う存分
惚気
のろけ
てください!』
花城はわずかに片眉を跳ね上げ、少し考えるそぶりを見せたあと、かすかに笑みを浮かべた。今までの人形じみた
――
もっとも、その違いに気づけるのは謝憐くらいのものだが
――
笑顔ではなく、ほんのりと色づいたような、やわらかな笑みだ。少しざわついていた客席が、一瞬にして静かになった。
「素敵な人です。
……
僕にはもったいないくらいに。ずっと憧れで、いつか胸を張ってその人の前に立ちたくて、そのための努力も苦労も惜しまなかった。
……
今、
彼
・
が隣にいてくれることが幸せで仕方ないんです」
ふわ、と。
彼を取り巻く空気が一気にやわらかく、あたたかくなった。ほんの少し目を細め、口元を綻ばせる。たったそれだけで、場の空気すら変えてしまったのだ。
謝憐は赤らんだ頬を隠すように、両手で覆った。
――
こんな大勢の前で、あんな愛らしい顔を見せるだなんて
……
!
進行役も一瞬、見惚れたかのように動きを止めてしまったが、さすがはプロ。すぐに切り替えてトークを再開する。
「憧れだった方と、晴れて結ばれたというわけですね」
「ええ、そうです。
……
ただ、こんな仕事をしてますから、今回みたいに長く会えないこともあって。連絡は取り合えるけど、直接会えないのはやっぱり寂しいんです。
……
だから、家に帰ったときに部屋が明るくて、“ただいま”って声をかけたら“おかえり”が返ってくるのが、本当に嬉しくて幸せで」
(
…………
三郎)
「今回のプロモツアーも、今日が最終日ですね。その方は家で待ってくれているんでしょうか?」
「そうですね
……
そうだったら嬉しいのですが」
進行役の方を向いて喋っていた花城が、唐突に視線を客席へ向けた。
――
正確には、関係者席にいる、謝憐へと。
(
…………
っ!)
それを認識した瞬間、こみ上げてきたのは苦しいほどの愛おしさ。じわりと目が熱くなり、視界に入る彼の姿が滲んでぼやける。慌てて目元を拭った。
(早く帰ろう)
締めの挨拶を終え、退場してゆく広い背を見送るやいなや、入り口のスタッフにストラップを返し、駅へと小走りで急いだ。裴茗には後日、礼をすればいい。どうせ彼とは、バーでしょっちゅう顔を合わせるのだから。
(
……
私も寂しかったよ
……
ずっと。それに、ちゃんと謝らなくちゃ)
「哥哥、
……
っと!」
三郎が玄関のドアを閉め切る前に、勢いよく飛びつく。どん、と正面からぶつかっても、逞しい身体はびくともしない。三郎はスーツケースを置き、愛しい人を強く抱きしめ返した。
「
……
おかえり!」
「ただいま。
……
哥哥」
一週間ぶりだ。声だけでもない、画面越しでもない、生身の彼。再び視界が滲むのを誤魔化すように、めいっぱい背伸びをして唇をぶつけた。
「んっ
……
!」
勢いあまって歯がぶつかったけれど、その痛みすら感じないくらい、夢中だった。一週間ぶりの彼の味を、もっと味わいたい。三郎はドアに背を預け、熱のこもったキスを全身で受け止める。
耳を打つ艶やかな水音。くぐもった甘い声と、荒い吐息。
すべてが興奮を煽る材料にしかならなくて、ますますキスは深くなってゆく。互いの口内に侵入し、舌を絡めて、甘く噛んで。互いを強く抱きしめる手は、いつしか相手の身体をまさぐるように動いていた。今ここに、愛しい人が存在する、それを確かめるかのように。
唇がじんと痺れるほどのキスを終え、ふたりはようやく唇を離した。名残の銀糸がぷつんと切れ、濡れた唇を優しく拭いながら、三郎は艶やかに笑う。
「
……
こんな熱烈に出迎えてくれるとは思ってなかった」
「だって
……
私も寂しかった。
……
会えなくて」
腰を抱かれたまま、謝憐は背伸びをして三郎の目の下をそっと指先で撫でた。わずかに潤んだ双眸が、猫のようにゆるりと細められる。
「
……
また濃くなってる。メイクしたって、私の目は誤魔化せないんだからな?」
「哥哥こそ顔色が良くないよ。作家は身体が資本だっていつも言ってるのに。
……
ちゃんと寝て、食べてた?」
「
…………
霊文と同じこと言うんだな」
本日二度目の小言だ。心配をかけているのはわかっている。けれど、気にかけてくれる人がいること、それが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
「心配なんだ。
……
あなたが大切だから」
「私もだよ。君が大切だから、つい口うるさく言ってしまう」
大きな身体を抱きしめる。さきほどのぶつかるような勢いはなく、優しく、包み込むように。丸い後頭部をそっと撫で、耳元に唇を寄せた。
「
……
ごめん、発つ前
……
言いすぎた。笑顔で送り出したかったのに」
「いや、哥哥の言うとおりだったよ。謝らなきゃいけないのは俺の方だ。それはわかってるんだけど
……
でもね、」
腕の中からそっと抜け出し、三郎は照れくさそうにはにかむ。
「気にかけてくれるのが嬉しくて、甘やかしてほしくて、つい無茶しちゃうんだ。
……
はは、それであなたを困らせてちゃ意味ないのにね」
「
……
っ、」
お互い、同じことを思っていたなんて。
「
……
そんなこと言われたら、もっと甘やかしたくなっちゃうだろ」
こみ上げる愛おしさが、衝動にかわる。ぎゅうと抱きしめて、艶やかな黒髪をかき混ぜるように頭を撫でる。
「わっ、
……
哥哥!」
「だめ。動かないで、聞いて。
……
三郎、誕生日おめでとう。生まれてきてくれて
……
ありがとう。愛してるよ」
三郎の双眸が、泣きそうに歪んだ。謝憐の肩口にぐりぐりと額を押し付け、声をかすかに震わせて、言う。
「誕生日なんて、特別でもなんでもないんだ。
……
あなたが傍にいてくれることが“特別”だから。でも祝ってくれるなら
……
もっと甘やかして?
……
俺が、あなたで満たされるくらいに、たくさん」
ずっと独りで生きてきた。周りにたくさんの人はいたけれど、こんなにも近くで、自分の生誕を心から祝ってくれる人なんていなかったのだ。
その唯一が、愛してると言ってくれる。
……
これ以上の幸せがあるだろうか?
「君は本当に欲がないね」
「欲張りだよ。哥哥の愛を独り占めしたいんだから」
「いいよ。
……
あげる、全部」
少し赤らんだ高い鼻の先にちゅ、と口づけ、謝憐は大きな手を握り、引いた。ここが玄関だということを、今になってようやく思い出したのだ。
「ほら、入っておいで。ちゃんとご飯食べて、たくさん眠ろう。お互いにね」
「
……
うん」
とっておきの贈り物も、とびきりのごちそうもない、なんでもない日常の延長。その幸せを噛み締めて、ふたりはもう一度、口づけを交わした。
「
……
生日快乐,三郎」
――――――
🍸ギムレット
ジンとライムジュースを使ったショートカクテル。
カクテル言葉は、“遠い人を想う” “長いお別れ”
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