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うすねず
2026-06-08 23:59:48
2991文字
Public
殺戮刑事
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ばどやば(野蛮随院さんが生首ばーじょん)
カクヨム掲載時に間に合わせたかったばどやば
もうちょい書き足したい
血飛沫、悲鳴、笑い声。
らしくなく必死な顔をしたバッドリ。
体中を襲う激痛。
視界が暗転する。
野蛮随院の意識が戻ると狂いそうなほど激しかった全身の痛みは消えていた。
痛み?そんなものあっただろうか。
何をしていたのかわからない。
今日は一人で取引先に向かって
……
そうだ、カスタマーハラスメントを行いまくっていたはずだ。
どうにも思考が纏まらない。ふわふわと砂糖菓子を詰めたような頭では、視界に掛かる虹色の靄に疑問を抱くこともできなかった。野幡随院が揺らめく虹をぼんやりと眺めていると、極彩色の世界を割って見知ったものが現れた。
柔らかく輝く銀の髪に天使のような顔に愁いを乗せ、この世の『美しさ』を集めて磨き上げたような存在
――
野蛮随院の相棒、バッドリ惨状だった。
バッドリは悲しげな顔のまま、沈痛な声で何かをささやく。
「
……
あのね、私は誰かに私を覚えていてほしかったけど、それと同じくらい、野蛮随院さんと一緒に居るのがたのしかったみたいなんだ」
ごめんね。と傲慢に、どこまでも美しくバッドリは微笑む。その手にはいつか見せられたクナイが握られていた。
頭がうまく働かない。ただ、とても致命的なことを言われているのは分かった。
「
……
」
野蛮随院はなにか言おうとした。それは文句だったかもしれないし、恨み言だったかもしれない。それともどこか寂し気なバッドリにかける慰めの言葉だろうか?
どんな言葉であったにせよ、それは野蛮随院の口から発される前に意識と共に虹色の霞に溶けていく。
「ああ、眠くなっちゃった?そうだね
……
おやすみ。また、会おうね」
落ちていく意識の中、甘く柔らかな声が聞こえた、気がした。
ふ、と意識が浮上する。
野幡随院がまず認識したのはガタンゴトンと響く音だった。
(
……
電車?)
視界は薄暗く、酷く狭い。閉じ込められているらしい。縛られでもしているのか、体が動かない。
(運ばれてんのか?
……
電車で?)
頭をよぎるのは拉致と拷問の文字。しかし拉致した相手を公共機関で移動させるような阿呆はそういないだろう。
混乱が野蛮随院を襲う。
とにかく状況を把握しようと視線を巡らせると薄暗い視界の中、上方から光がさしこんでいることに気が付く。
どうやらこの空間には隙間があるらしい。目を凝らせば外の様子も見えそうだが、逆光で分からない。
それは最近野蛮随院にとって隣にいるのが当たり前になった人物だ。
バッドリ惨状。野蛮随院が上司の殺害を依頼した相手であり、利害の一致から組んだパートナー。
まさか裏切り?否、そんなはずは。
無い、と言い切れないのがバッドリの恐ろしいところだった。柔らかに微笑みながら人の首筋を掻き斬るような、そんな恐ろしさが彼にはある。
野幡随院とバッドリの利害は相変わらず一致していたし、いつもの喫茶店で甘味を食べる時間は野幡随院にとって安らぎの時間と言って過言ではなく、一蓮托生となったバッドリに対して奇妙な友情のようなものを感じていた。
そして口にしたことこそないが、バッドリもそうであると野幡随院は信じていたのだ。それは根拠の無い空想に過ぎなかったのだろうか。
野蛮随院の心中の広がる疑念など露知らず、バッドリはぱあっと笑みを浮かべると弾むように口を開く。
「あっ、野蛮随院さん!起きたんだね。おはよう!」
「なんで、アンタが」
「
……
あれ、忘れちゃった?えっと
……
よいしょ。ほら、見てみて」
浮遊感と同時に視界が開ける。
眩しさに目を細めた野蛮随院の目に映ったのは何の変哲もない電車内だった。どうやら他に乗客はいないらしい。窓の外は暗い。今は夜中なのだろうか。いや、これはトンネルの中を走っているのだろう。
そして真っ暗な窓ガラスにバッドリと野蛮随院の姿が映っている。電車の長椅子に腰掛けるバッドリ。その口角は緩く持ち上がり、とても嬉しそうだ。
「
……
は?」
問題は、その両手で抱えられている物であった。
すらりとした指が支えているのはよく見慣れたもの。しかし非常に違和感のある
……
訝そうに眉毛を寄せる、頭部だけの野蛮随院だった。
「はあァ?!!!」
「野蛮随院さん、電車ではお静かに」
「あ、ああ、うん、そうだな
……
」
「まあびっくりするよねえ」
「びっくりとかそういうレベルじゃないんだが」
「あ、命の心配とないから安心していいよ、なんと言ってもバッドリ惨状に伝わるそういう感じの毒を使っているからね」
「そうかい
……
」
改めてガラスに映る己の姿をまじまじと見る。
本当に、頭だけだった。通りで体の感覚がないわけだ。あまりにも非現実的な現状に、一周まわって頭が冷静になる。バッドリの殺戮力により急速成長している株式会社デスドラゴンだが、トップが突然頭だけになっても問題無いと言い切れるほどの力を持つまでには至っていなかった。
「で、これからどうする」
「そうだね、しばらく大人しく暮らそうか?」
「仕方ないか
……
最近は殺戮刑事の噂も聞いたしな。しばらく身を潜めるのも悪くねえ」
「それじゃ、よろしくね」
「ああ」
野幡随院の返答に、バッドリは蕩けるように微笑んだ。
「煙草とお風呂どっちが先がいい?」
「なんだその2択」
「野幡随院さんに使った薬って定期摂取しないと効き目が薄れちゃうんだよね」
「薄れたらどうなるのかってのは聞かない方がいいいのか?」
「うーん、死んじゃう」
「
……
」
「本当は注射のほうが効率いいんだけど
……
」
あっさりと放たれた言葉に野幡随院が思わず絶句している間に、バッドリは手慣れた様子で得体のしれない粉末やらなんやらを紙で巻く。
「野蛮随院さん、煙草好きでしょ?はい、どうぞ」
火の着いた紙巻を大人しくし受け入れる。普段野蛮随院の吸う安タバコとは違い、柔らかく重い煙が口中に広がった。どこか高級感のある味は悪くはない。ただ、息を吸うことができないせいか不思議な感覚ではあった。
「おいしい?」
「悪くねえな」
「よかった。じゃあ私も
……
」
言うが早いかバッドリはどこからか取り出した煙管を咥える。美しい瞳が蕩け、ゆらゆらと二筋の煙が天井で混ざり合う。
紙巻が三分の二ほど燃え尽きたあたりでバッドリの白魚のような指が紙巻を引き抜く。
「うん、これくらいで大丈夫。じゃあ、お風呂にしようか」
野蛮随院の答えも待たずに立ち上がり、次に現れた時に手にしていたのは小さな盥だった。半分ほどまで満たされた液体は灰褐色に濁り、所々に泡が浮いている。
「
……
なんだこれ」
「お風呂だよ」
「俺にはドブ川の水を汲んできたようにしか見えないんだが
……
」
「まあまあ、浸かってみたら気持ちいよ」
有無を言わせず抱え上げられ、得体のしれない液体に浸される野蛮随院。
「どう?」
「なんつーか
……
クラクラする、ような」
「じきに慣れるよ。十分くらいは浸かっててね」
「十分か
……
」
その程度ならば酩酊時にも似た目眩も耐えられるだろう。目を瞑り、耐えの姿勢に入った野蛮随院をバッドリは薬物で蕩けた目で見つめる。
「
……
ふーっ」
と、おもむろに吸いさしを置き、野幡随院に息を吹きかけた。
「うっ」
「ふふ、どうかな?今の野幡随院さんなら気に入るんじゃない?」
「
…………
」
「あれ?野幡随院さん?
……
あっ、気絶してる」
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