1.好きになったのはどっちが先だと思う?
「待って。松本さんとイチノさんって付き合ってるんですか?」
今日の主役である沢北が二人の薬指に光る指輪に視線を落とし拗ねた素振りで問いかける。自分だけ仲間外れにされていたことが気に入らないようだ。
「ああ」
松本が頷けば間髪入れず「いつから?」とさらに唇を尖らせた。
「高校卒業してから」
それに答えたのは一之倉。
「どっちからです?」
「あ?」
「告白!」
「ん?松本から」
一之倉の口元が微かに緩む。
「えぇ!いつから好きだったんすか?」
沢北は興味は酒の影響か、まだ尽きないようだ。
「それはオレも知らない」
「高二の春。お前にポジション奪われたあと」
懐かしいなと目を細めて笑う。
「
……え、」
あの時、慰めでもなく寄り添いでもなく叱咤激励してくれた一之倉に心ごと持っていかれたのだと。
「そうなんだ」
沢北がとても複雑な表情を浮かべているのを見て思わず笑ってしまった。
「い、イチノさんは?」
「オレ?中三の夏」
「「え?」」
見事にハモった松本と沢北は目を見開き口を開けている。
「ふ、ははっ!お前らそっくりだな」
さすがかつてのダブルエースなどと言いながら一之倉は手酌で酒を飲んだ。
2.相手のどんなところが好き?
「ほら」
熱を帯びた手が背中を叩き、後ろを振り返ることなく駆けていく。その背中がとても広く頼もしく見えたんだ。
「行くよ」
差し出された手を取ることを躊躇っていると、もう!と怒ったように半ば無理やり引っ張っていく。一歩前を歩く一之倉の耳と首が赤くて、きっととても勇気を出してくれたんだと嬉しくなった。
「お疲れ」
帰りが遅くなったときは翌日に残らない軽い夕飯が準備されている。
「あんま無理すんなよ」
リビングでパソコンに向かうオレを後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。
決して言葉数は多くないがいつもどんな時も寄り添ってくれる。だからどれだけ大変なことがあっても乗り越えて来れたんだ。
「聡」
「ん?」
「愛してる」
――
「一之倉のことが好きだ」
「そういうところ、可愛いな」
「聡、愛してる」
稔はいつだってストレートだ。こっちが恥ずかしくなるくらいに。
スキンシップだって外ではダメだって言ってるのに「誰も見てねぇよ」て笑ってオレの肩を抱き寄せる。誰かが見てるとか見てないとかそういう問題じゃなくて、オレの心臓が持たないからやめてほしい。でもそれを口にすれば「やっぱり可愛い」とキスしてくるだろうから黙ってる。なのに
―
チュッと唇に触れたのは稔の唇。
「
……なんで?」
「物欲しそうな表情(かお)してたから」
「なっ
…!」
まさかそんなことあるはずないのに。
「ははっ!聡は可愛いな」
……結局こうなるんだ。
3.相手は自分のどこを好いてくれていると思う?
一之倉は間違いなくオレの〝顔〟が好きだ。確かに昔から男前だと言われて育ったし、カッコいいと言われて嫌な気はしない。が、それが恋人からだと何と複雑なことか。
「この写真の松本めっちゃカッコいいな」
それは廊下に貼り出された修学旅行で撮られた写真だ。
「あ、こっちもいい。オレ松本の横顔好きなんだよね」
「
……それは、どうも」
「買おうっと」
「いや、いらねぇだろ。だいたいそんなもんどうすんだよ」
「部屋に飾る」
「あ?」
「松本に囲まれてんの最高じゃない?」
一之倉の発想はアイドルを追いかけるファンさながらだ。
「一之倉は、オレの顔が好きなのか
…?」
わかってはいるがそれだけではないと思いたかった。
「ん?そうだよ」
「
…………」
言葉を失ってしまったオレに向かって「だってカッコいいでしょ」と上目遣いを向けてくるから可愛くてそれでもいいかと絆されてしまう。
「あ、でも顔だけじゃないからね!」
「そうなのか!?なら
――」
どこが?と訊ねるための言葉は「教えないけど」と意地悪な笑みに遮られた。
――
松本はオレの作る料理が好きだ。
一番初めに作ったのは松本が就職したとき。お祝いしたいと伝えれば「聡の手料理がいい」と言われたんだ。それまで料理なんて肉と野菜炒めてなんたらの素みたいなの
かけて終わり。ぐらいのことしかしたことなかったのに稔が楽しみだなって笑うから必死で練習した。練習の甲斐あって「うおっ!うまっ!!さすが一之倉だな!」と満面の笑みで褒めてくれた。そしてきれいに平らげたあと「気が向いたらでいいからまた作ってくれないか?」なんて遠慮がちに言うから、他の料理は何もできなかったけど「あたりまえじゃん」なんて大きなこと言っちゃったんだ。
それから料理本買ったりネットで調べたりして、ひとりの時に作っては味見して、1ヶ月に1回ほど作るようになった。松本は毎回全部美味しいと、その中でもこれが好きだと言ってくれた。
「一之倉」
「あ、もしかして口に合わなかった?残していいよ」
「いや、そうじゃねぇ」
「どうした?」
「毎日食べたいって言ったら、困る、よな?」
「
……それって」
「あ、いや、すまん!」
「ふふっ、いいよ。でも毎日作りに来るのは大変だからここに住んでいい?」
胃袋を掴むって結構効果絶大だな。
4.愛情を感じるのはどんな時?
「はいどうぞ」
持ち帰った書類に目を通しながら頭を抱えている松本にそっと差し出されたティーカップ。湯気とともに心を解すような優しい香りが松本の鼻腔をくすぐる。
「ありがとう」
カップに口をつけるとほんのり広がる甘い味。まろやかで口当たりがよくほっとする。
「これ、何のお茶だ?」
「カモミールだよ」
「すげぇ落ち着く」
「よかった。あ、おまけにこっちも」
そう言った一之倉は松本の唇に触れるだけのキスをした。
5.付き合い始めてから知った相手の意外な一面は?
買い忘れたものがあるからコンビニへ行ってくると一之倉に声をかけるとオレも行くとスマホを手にした。
「欲しい物があるなら買ってくるが?」
「一緒に行ったらまずい?」
まずいと言えばまずい
…が、それを口にしてしまえば理由を聞かれるだろう。松本は「いや、問題ない」とともに家を出た。
コンビニに入ると一之倉は一番奥の冷蔵コーナーへ進んだ。松本はその間に衛生用品のコーナーから必要な物を手に取り先にレジを済ませ一之倉の元へ向かった。
「何買うんだ?」
「どっちにしようかと思って
…」
一之倉が手にしているのは新発売のシールが貼られたいちごのロールケーキとクリーム今だけ増量と書かれたシュークリーム。
「でもこれも捨てがたいんだよね」
さらに指差したのは生クリームの乗ったプリン。
どれも定番のスイーツではあるが松本は目をぱちくりさせた。
「どうしたの?」
「いや、聡ってそんなに甘い物好きだったか?」
「うん。でも昔女子みたいって言われたことがあったから隠してた。でも稔は彼氏だから隠す必要ないかなって」
ふわりと笑った一之倉があまりに可愛くて、松本は全部まとめてレジへ持っていった。
――
練習が休みになったからデートしようと誘われた。付き合い始めてから丸一日一緒に過ごすのは初めてで一之倉はとても楽しみにしていた。待ち合わせの場所に時間よりも早く着いたことが何よりの証拠だった。
「すまない。待ったか?」
「ううん、今来たとこ」
ドラマや漫画で見るようなお決まりのやり取りにくすぐったくなったのも束の間、「実は行き先決めてねぇんだ。どっか行きたいとこあるか?」という松本の台詞に耳を疑った。
「え?」
「色々考えたんだけどどこがいいかわかんなくて
…」
本当に申し訳ないと頭を掻きながら視線をつま先へ移す。
一之倉が知っている松本はいつでも計画的で準備を怠らない。そんな完璧な人間だった。だが今目の前にいる松本はどうだろう。計画性などまるでなく、頼りなく眉を下げて、何なら今にも泣き出しそうで、いつかのエースを思い起こさせた。
「そっか」
「
……幻滅、したよな
…」
恐る恐る顔を上げた松本に「少しぐらいカッコ悪いとこがあって安心した」と伝えた一之倉は行き先を決めずに歩き出した。松本の左手を右手で攫って。
6.キスはどっちからが多い?
「一之倉」
「ん
…ッ、ちょっと、ダメだって
…」
ベッドをソファ代わりにして座る一之倉を後ろから包み込みその首筋に吸い付いた。一之倉の口から漏れる甘い声が狭い寮室の壁に反響する。
「こっち向いて」
右手を左頬に添えそっとこちらを向かせれば、視線を逸らすようにきゅっと目を閉じた一之倉。
キスしていいって言ってるようなもんじゃねぇか。
松本は一之倉の薄い唇に甘く噛みついた。
「んんっ、
……ぁ、」
何度キスを交わしても初々しい反応を示す一之倉に松本の下半身が熱くなる。
「おい
…っ!」
「すまん」
「
……まぁいいけど」
何だかんだと一之倉も少しは期待しているようだった。
あれから数年。いつ邪魔が入るかわからない狭い寮室ではなく共に暮らす1LDKのキッチンに立っている一之倉。松本はあの頃と変わらず一之倉を後ろから抱きしめキスをする。そんなスキンシップは変わっていない。変わったことがあるとするなら、あの頃よりも大胆になった一之倉がいるということ。
7.目が合うと先にそらすのはどっち?
「一之倉はオレの事が嫌いなのか?」
就寝前の自由時間。突拍子もない質問に瞬きを繰り返す。だが目の前の松本は至って真剣なようで、何がどうなってそうなったのか、一之倉は質問で返した。
「だってすぐに目そらすじゃねぇか」
「あ、いや、それは
…まぁ、そうだけど
…」
まさかそれが理由でそんな風に思われているなんて予想外だった。
「だからオレの事嫌いなんだろうなって」
それを当の本人にストレートに訊ねるあたりが松本らしい。もしそうだと言われたらどうするのだろうか。
「違うけど」
本当の理由は口が裂けても言えないが誤解されたままというのは嫌だった。
「なら、なぜだ?」
真っ直ぐに一之倉の目を見つめる松本の瞳は答えてくれるまで逃さないと言っているようで動けなくなる。
「それは
……」
「それは?」
「
……の
…が
……いい
…ら」
またいつものように逸らしてしまった目線。
だって仕方ないだろ。松本の顔があまりにもカッコいいんだから!
松本は一之倉の小さくなっていく言葉を拾えず眉間に皺を寄せた。
8.日常の中で触りたいと思ったらどこを触る?
最近気づいたことがある。
稔がオレの名前を呼ぶとき、決まってその手が頬に触れる。
静かに、優しく。
そしてゆっくりと距離が縮まり唇が重なる。
オレはその手に手を重ねて指を絡める。
もっと色んなところに触れて。
そう言うように。
すると稔はフッと緩やかに口角を上げて笑うんだ。
9.相手が自分よりも優先しても許せるものは?許せないものは?
ここ最近一之倉の機嫌がすこぶる悪い。その理由がわからないから困っている。本人に聞けば済む話なのだろうが、どうやら避けられているようでふたりきりになれる時間がない。
そんな折、昼休みの終わりを告げるチャイムが響く渡り廊下で実習室へ移動中の一之倉を見つけた。声をかけるより先に身体が動いて一之倉の腕を掴んでいた。
「うわっ!な、なんだよ!?」
「ちょっと話がしたい!」
「は?もう昼休み終わるって!」
「なら、今日の自由時間、空けといてくれ!」
「わ、わかったから離せよ」
何とか約束を取りつけることができたので松本は一之倉を解放した。
「で、何の話?」
約束通り一之倉は時間を作ってくれたが、さすがに談話室でするような話ではなく場所を変えると少し不機嫌が和らいだ気がした。
「一之倉が怒ってる理由がわかんねぇんだ。もしオレが何かしたなら謝りたい」
一之倉は少しの沈黙の後、はぁ〜〜〜〜と長い溜息を吐き口を開いた。
「あのさ、オレたち付き合ってんだよな?」
「もちろんだ」
「お前にとってバスケが一番なのはわかるよ。オレもそうだし。でも自由時間ぐらいはふたりになってもよくない?」
一之倉に言われて自分の行動を顧みた。確かに一之倉の言う通り、ここ最近自由時間はみんなと談話室で過ごしていることが多かった。そこには一之倉もいたから特段気にしていなかったが一之倉は違ったようだった。
「本当にすまない!まさか一之倉がそんな風に思ってるなんて考えてなかった!これから自由時間はふたりでいような」
理由がわかりすっきりした松本は一之倉との距離を一気に詰めるとその身体を長い腕の中に閉じ込めた。
10.ふたりきりきなると雰囲気が変わるのはどっち?
オレの恋人は恥ずかしがり屋だ。だから人目があるところでのスキンシップはことごとく禁止されている。別に誰も見ちゃいないのに。さらに言うなら感情を表に出すこともほとんどない。第三者から見ればクールでカッコいい一之倉だ。
そんな聡だけど違った一面を見せてくれる時がある。ふたりきりになった時だ。
普段はこれでもかというほど距離を取っているくせに、今はオレの肩に頭を預けてテレビを見ている。グルメ番組で紹介された料理が美味しそうだと目を輝かせている。続く旅番組で今人気の若手俳優が訪れた場所を見て今度ここ行こうよと誘ってくる。
ころころと表情を変える聡は可愛くて仕方ない。
だからどこへだって一緒に行くけど、ふたりきりになれる時間はたくさん作りたいんだ。
「どうせなら、露天風呂付きにしねぇか?」
11.交際を始めて自分が変わったと思うところはある?
今日は新人歓迎会があるらしい。ついこの間退職する人の送別会があったところなのに。
どうせなら1回で済ませろよ!と思ったが口にはしなかった。だってそれを言ったところで何も稔が悪いわけじゃないから。それに飲み会でのコミュニケーションが仕事を円滑にすることもわかっている。
今までのオレならちゃんと我慢できたはずなのに。
「行ってきます」
「
…………」
「聡?」
「行くなって言ったらどうする?」
「え?」
稔の首に腕をかけ、軽く背伸びして口づけた。
「うそ。冗談だよ。行ってらっしゃい」
「なるべく早く帰ってくる」
そう言って目尻に皺を刻んだ稔は全部お見通しなのかもしれない。
12.ここは他のカップルに負けないと自負しているところは?
「昨日女の人と肩組んで歩いてたって?」
すうっと目を細めた一之倉が松本に問いかけた。
「語弊がある」
松本はさして焦る様子もなく答えた。
「だろうね」
フッと口元を緩めた一之倉。
昨日は会社の飲み会があり松本は日を跨いでから帰ってきた。どうせ松本を狙った女が酔って絡んだに決まっている。それを放っておくわけにもいかず介抱してやったのだろう。
「でしょ?」
「そうなんだ」
一之倉は松本のことをよく理解しているし、それに対して妬くこともない。どれだけ松本がモテたとしても、松本はオレのことが好きだという揺るぎない確信が一之倉にはあるからだ。
そして松本もまた一之倉が自分を疑うことはないと分かっているし、一之倉を愛しているから他に靡くこともない。
長年ともに歩んできたからこそ多くを語らなくても分かりあえるのだ。
そしてこういうことがあった時、決まって一之倉が「する?しない?」と訊ねてくることを松本は知っていた。
だから今日は一之倉が訊ねてくる前に唇を奪って押し倒した。
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