ローエンの入団を見守る話

※実装前作成のため、口調の捏造などにご注意を

「え……ローエン、なの?」
「よぉ、そこの暇人」

 モンドの街中を適当に散歩していた時、遠目で青い服の人が歩いてるなぁ……と目で追っていたところで思わず二度見した。見慣れない格好の幼馴染が向こう側からやって来たからだ。
 私が声をかけるとローエンは片手をあげて答えた。いつもの冒険者スタイルのラフな格好とは違い、見たことのない制服姿だったのだ。

「そっか、もうすぐ入団だって言ってたね」
「そうなんだよ。この制服、肩っ苦しいよなぁ」
「あはは、慣れないといけないもんね。でも、ローエンに似合ってるよ」
「ふーん? なら、いいか」

 私がローエンを上から下まで眺めた後に褒めると、彼はゲンナリした顔から自信満々な表情へコロリと変える。彼が入団を決めたと聞いた時にはとても驚いたが、その後楽しそうに入団に関する話をする彼を見ていたので、私は特に止めはしなかった。
 ……冒険者協会の依頼を一緒に受けられなくなるのは、少し寂しい気持ちでは、あるのだが。
 
――なぁ、どこが良いとかあるのか?」
「うーん、全部格好良い!」
……ははっ、それじゃ答えになってねぇだろ」
 
 彼はそう言って笑ったが、私は本当に全部だと思ったのでそう答えたのだ。かっちり上まで締めた襟口、動くたびにヒラリと舞うマント、それと――

「ねぇ、それ……ナイフ何本隠してるの?」
「早速バレたか。んー、数えてねぇな」
「制服だって支給されたばかりでしょ……それ。もう改造してるの?」
 ふっと笑ったローエンがペラリと捲ったマントの下には、数えるのが面倒な程さまざまな武器が並んでいた。流石のローエンだった。
…………騎士道精神、とは……
「んなもん、入ってから身に付ければ良いだろ」
…………ぇえ?」

 ……そんなわけなくない?と口に出して、思わず苦笑いをしてしまう。彼の冒険者時代からずっと側で見てきてはいるが、色々な武器を使いこなす彼らしいといえば、彼らしいのかもしれない。
 そんなことをブツブツ呟きながら考えていた私を見た彼は、ふと何かを思い付いたようだ。
「だったら、お前が練習に付き合えよ」
「え、なにそれ。……練習? 何の?」

 ローエンはすぐそこのベンチを指差して「ん、」と、私にそこへ座るようにと示して来た。素直に私が座ると、彼は私の目の前にスッと立つ。
「な、なに?」
「黙ってろよ」
 何が始まるのかも分からないのに、黙ってられる訳なくないか?と、考えていたら、ローエンが背筋を伸ばす。そして、左手を背に回し右手の拳を胸にトンと当てて腕を右下へと振り下ろす。

……どうだ?」
「か、格好良い……騎士団の敬礼だ!」

 思わず目を輝かせながら拍手を送ると、ローエンがふっと小さく笑う。
「ねね、もう一回やってよ」
「ぁあ? 練習とは言ったが……仕方ねぇなぁ」
 ローエンは文句を言いながらもう一度姿勢を正し、左手は背に回して伸ばし揃えた右手指を胸元に当てて軽くお辞儀をする。

――こんにちは、お嬢さん」

 上品な薄い笑みを浮かべたローエンは、私と視線を交差させる。
……! すごい、ローエンが騎士になった⁈」
「ハッ、何言って…………あっ」
「あーあ、すぐ騎士の仮面が剥がれちゃうね」
 クスクス笑う私を見ながら、ローエンは眉を下げてため息を吐き、自身の頭を掻いた。
「はぁ、騎士の真似事って案外難しいもんだな」
「それはそうでしょ。そんなすぐ身につく訳な――

 ローエンと私の目が再び合わさったと思った刹那、視界の隅で何かが光った気がした。
 本能に従い首を少し傾けて頭の位置をスッとずらすと、すぐ横をナイフが通り過ぎて行った。それを目で追いつつも、すぐさま正面の彼へと向き直る。

……こら、ローエン! 人が話してる途中に危ないでしょ⁈」
「ふっ、油断してても流石に避けるか」
「当たり前でしょ。ってか避けなきゃ当たってたじゃん!」
「騎士の仮面を上手く使えれば、こんな油断も誘えるだろう? とは言ってもお前なら避けるだろうと思って投げたし、俺は悪くないぜ」

 何を言ってるんだ、ローエンしか悪くないんだが……
 全く、油断も隙もない。背に回されていたはずの左手から繰り出された彼の投げナイフは、正確に私の頭を狙い、今は私の後方の壁へと突き刺さっていた。
……次やったら、ジンさんに報告しちゃうからねっ」
「おいおい勘弁しろよ、せめてファルカにしとけ?」
「上司になる人を呼び捨てにしないのっ!」
 私がいくら注意したって効果がないんじゃ、効果出そうな人に言い聞かせてもらうしかないじゃない。そんなことを伝えても、ローエンは「あー、はいはい」とか「わかったわかった」とか言うし、全く聞いてくれなさそうだった。

 私の幼馴染がこんな感じのままで、もうすぐ入隊式があるなんて心配するに決まってる。しばらく文句を言っていたら、私が口を開けたタイミングで何かを押し込まれた。
 これは……ガム?もう、またお菓子持ち歩いてる……!しかもこれ口の中で緑になるやつじゃん。
 気づいた時には既に遅いので、大人しくモグモグと味わっていると、ローエンがニヤリと笑う。
……静かになったか?」
……! それが狙いか、こらー‼︎」
 私が腕を振り上げてポカポカ叩いても、ローエンは避けようともせず私を見て笑うだけだった。


「しっかし面倒だな……んじゃ、お前はまだ練習付き合えよな?」
「はいはい、何回でもどうぞ。例えすぐ剥がれそうな仮面だとしても、こんな王子様みたいなローエンを見逃す手はないもんね!」
……まぁお前が楽しんでるなら、もう少しだけ騎士の真似事でも試すか」



『彼が完璧な仮面を身につけるまで、』