イヅナ
2026-06-08 12:43:44
5220文字
Public
 

花婿を汚せ!!

初イベント!初サークル!
ありがとうございました〜

無配ってこれでいいんですか??

微小特異点でパーシヴァルは大地主(女傑)に見初められてしまった。


本日は結婚式である。が、――



「け、汚らわしい……!」

花嫁の一言に、式場の空気は凍った。
誰も言葉を発することができなかった。
パーシヴァル・ド・ゲール。一生涯のうちと英霊の座に召し上げられてからの記録を、端から端まで全て広げて確認しても、そのような過分な評価を受けたことはこの一度きりだった。
良い出会いがあったと今日を楽しみにしていた豪奢に咲き誇る薔薇の美女は、目の前の男の変わりように驚愕する。


——昨日まではあんなに内も外も綺麗だったのに! 何をしたら一晩でこんなことになるの! 


一方、美女に真正面から「汚らわしい」と突きつけられたパーシヴァルは、並の男であればここで心がズタズタになっているが、そんなことには意も介さず昨晩のことを思い出し、少々照れくさそうに笑ったのだ。

参列者としてその場にいたマスターは、いつの間にか隣にいた花の魔術師が、その瞬間に堪え切れずに床に崩れ落ちて痙攣するさまを横目で見ていた。大爆笑である。


※※※


今回一行がレイシフトした先は、砂漠の中に佇むオアシスが幾つかの街を形成している場所だった。
特異点というものは、その地に降り立った途端に明らかな異常とともに攻略すべき事象が確認できるものもあれば、違和感はあるものの一見なんのトラブルもなく捜索に時間がかかるものもある。この特異点は後者だ。
皆で街の喧騒に溶け込みながら聞き込みをすること一週間。「隣の街の大地主様の結婚式には、それはそれは神秘的な盃の宝器を使用するらしい」との情報を得ることができた。
『権力者』『神秘的』『盃』と並べばほぼビンゴだ。
確かめてみる他ない。問題はどのようにして大地主様に近づくかであるが、これは思わぬ形であっという間に叶うこととなる。

街に入った瞬間に「今期の花婿選定式はアチラ!」と大きな横断幕が出迎えてくれたからだ。道理で様々なタイプの男性が街に集っているわけである。
大地主様は定期的に婿をとっているらしく、今回は映えある三十人目の婿になるらしい。つまり屋敷の中までずらりと伸びている行列に並び、婿の資格アリとなれば大地主に近づけるわけだ。
大地主が生命力溢れる薔薇のような美女と聞き、今回の同行サーヴァントであるフェルグスとダビデとクー・フーリンがガッツポーズとともにアップを始めたので、マスターもこのタイプの違う三人であれば一人くらいは婿までは辿り着けずともお近づきになれるかもしれないし、選定中に屋敷内を調べることもできるだろうと考えた。



「気にいった!貴方にするわ」

選ばれたのはパーシヴァルでした。

ただの付き添いだったのに。本人が断固として辞退したので、鎧で顔も隠していたのに。大地主は無情にも絹のような黒髪をさらりと揺らめかせながら、黒蝶貝のように美しく彩られた指を騎士に向けたのだ。
彼女はキラキラとして力強い美しいものが大好きで、人の外側と内側両方を見定める不思議な目を持っていた。パーシヴァルは今回の選出者の中でいっとう美しく輝いていて、薔薇はひと目で彼を気に入った。
彼はダメだと、何とか辞退を申し入れようとするマスターを制止したのは大地主様からのご指名という栄誉を賜ったパーシヴァルだった。屋敷内の解析は思ったように進んでおらず、ならば宝器が確実に確認できる結婚式に賭けるしかない。幸いにして婿側の関係者は式に参列が許される。無闇に争うこともないと、騎士はマスターに言い含めたのだ。


※※※


とはいえ、最善を尽くした行動であっても心中は複雑である。
件の騎士はあてがわれた一室で、窓から皓皓と輝く月を眺めながら今後の立ち回りについて考えていた。その気になればこの屋敷からの脱出はできるだろうが、そうなると大地主が所有している聖杯と思しき宝器の確認は難しくなる。しかし、その場限りだとしても婚姻の契りを交わすということは、パーシヴァルにとって避けたい事態だ。
騎士は婿(仮)として屋敷で丁重にもてなされ、身を清められ、花園が一望できるバルコニーのない2階の部屋に優しく押し込まれ、現在に至る。
世話をする使用人たちはイキイキとしていて、挨拶にやってきた古参の婿を名乗る男性陣も、各々個性のある傑物たちだった。大地主は人を見る目に長けていて、良い為政者なのだと思う。欲しいものは手に入れてみせるという豪胆さも、彼に似ていて好感が持てる。

しかし——

「バーソロミュー……

人の気配が無くなったことで少しばかり緊張感を解いた騎士は、もはや心のうちだけに留めておけないといった様子で、月に乞うように愛おしい人の名を呼んだ。



『どうしたんだ?囚われのプリンスのような顔をして』

その声は、パーシヴァルの眼前の巨木から聞こえた。
正確には、その巨木にちょこんと座っている黒猫からだ。上品に佇むその猫がバーソロミューだと気づいた騎士は、大慌てで窓から手を伸ばす。海賊はその手目掛けてピョンと飛び上がり、トトトと腕と肩と伝って、器用に室内に着地した。

「大丈夫かい!?」
……酔った』
「獣に変じるなど、なんて無茶を」
 
マーリン程になれば、息を吸うくらい簡単に梟に変身して空を滑るものだが、普通人が別の生き物に形を変えるのは、まず真っ直ぐ歩くことすら難しい。
それをこの海賊、極限まで鍛え抜かれた船乗りの三半規管で木までよじ登って恋人の元に降り立ったのだ。酔ったと言いながらへちょりと床に伏せるくらいで済んでいることは、誇るべきことである。
パーシヴァルはすぐに黒猫を抱き上げて天蓋付きのベッドに寝かせ、テーブルの水差しを取りに向かった。

「まさかその姿でここまで?」
『ギリギリまでマーリン殿に運んでもらったとも』

サリサリとリネンを蹴りながら酔いを醒まそうとするバーソロミューの爪の音を聞きながら、カップに水を注ぐと急いでベッドまで戻る。
猫なのにゼイゼイと口で呼吸をしている。体に良くない。
さてどうやって水を飲ませるか?と逡巡する騎士を横目に、黒猫は気怠そうにモソモソとシーツの間にその身を押し入れる。するとモゾモゾと動く塊は、キコリコキリという音と共に徐々に大きくなっていき、暫くするとニュッとシーツから成人男性の腕が生えた。
パーシヴァルはその手を労るように一度握り、水がなみなみと注がれたコップを手渡す。腕はシュッと引っ込んで「っあ゙〜〜〜」というくぐもった声がシーツの中から漏れ出た。

「それで、マスターから何か伝言かな?作戦変更の予定が?」
「いや、大まかな方針に変更はないさ」
「ではなぜ危険を冒してまで」

パーシヴァルが無事挙式を進行して、宝器とやらが聖杯で間違いないか、入手可能かを確認するまでは今の流れで良いはずである。登場人物の心中は置いておいて。
騎士は再びニュッと生えてきた腕から空のコップを受け取りながら、そう問いかけた。

「なぜだって……?恋人のピンチに駆け付けないような酷い男に見えるかい?」

まあ、非道な男ではあるが。とシーツの中から揶揄うような声で、海賊は続ける。

「ことのあらましはマスターから聞いているとも。解決策はマーリン殿から、それに恐れ多くも君の戴く王からの許しも得た」
「バーソロミュー?」

今ひとたび腕が生える。
その手は何かを与えられるのを待つのではなく、明確な意思を持ってパーシヴァルの手を掴んだ。先程までくったりと力なく項垂れていたのが嘘のように強い力で手を引かれ、騎士は勢いよくベッドに乗り上げる。

バーソロミューは綱でも引くようにグイグイとパーシヴァルの上腕を引き上げ、中腰の恋人をシーツの中に引っ張り込んだ。驚いた顔で薄青い目をまんまるにしている騎士に微笑みかけ、絶対に手放してなるものかと再認識する。
こんなに早く横槍が入るだなんて想定外だった。
二人は恋人であったが、交換日記だとか、カップルシートで映画を観るだとか、ドライブをするだとかストローが二つ刺さったドリンクを分けて飲むだとか砂浜に落書きをするだとかお揃いのアクセサリーを買うだとか、そういうイベントが忙しくてまだ一緒に朝を迎えたことがなかったのだ。

そりゃあ新品ピカピカ一点の曇りもなく輝くわけだ。
巫山戯るなよ誰が毎日丹念に磨き上げていると思っている。

「やあパーシィ!私のいっとう輝く宝物!今日も見事なものだ」
「え……と、光栄だよバート」
「私はまぁ、そのままの君でも一向に良かったわけだが。他人に奪われるならばその限りではない」

ニコリと迫力のある笑顔を浮かべる海賊に、騎士はつられるように微笑みを返した。彼は恋人のスラリとした首筋までしか目線を落とせないのだ。猫からヒトも戻ったバーソロミューは、当然のように全裸であるので。しかも未だ耳と尾が戻っていない。
耳はピン!とパーシヴァルの方を向いていて、尾はシーツのカーテンをわさわさと揺らしてご機嫌だった。

「それでは観念したまえ。清き愚か者のパーシヴァル卿」


——まったく一部の隙もないくらい、汚し尽くしてあげよう!


そう決定事項のように言い放ちウエイトのある相手の体を難なく転がした海賊は、先ほどまでヴェールのように二人を包んでいたシーツをお役御免と投げ捨てて、無防備な小鳥に戯れつこうとする猫みたいな表情で騎士に襲いかかった。
ちょうどその時分になると、パーシヴァルにもバーソロミューが何故わざわざここまで出向いてきたのか?などの状況が飲み込めてきたので、口をハクハクさせながら「え?」だとか「あ!」などといった声を漏らしていたが、目の前の月明かりに照らされたなめし革の肌に喉が鳴ってしまったので、勝敗は決してしまった。

騎士ができたことといえば、目を潤ませて花が落ちる前の乙女のような音量で「お手柔らかに」と囁くことくらいである。


※※※


そんなこんなで現在、きっちりと海賊によって隅から隅まで汚されてしまった騎士は、目の前のご婦人から驚愕の表情で3歩後退りされるという貴重な経験を重ねている。
パーシヴァルは、女傑が何をどのようにどこまで視ているのか判断がつきかねたが、昨晩のことは確かにレディには多少、いやそれなりに、大層刺激的であるので、花嫁(仮)に近づくこともせずにその場で別のことに集中していた。
騎士は視界の右側にいつの間にか鎮座していた宝器を見る。自分たちの目的は最初からコレなのだ。


——マスター!!」
「はい!!」

その声は、天からの啓示のように式場内に響いた。途端に会場内の恐ろしく凍結した空気が一掃され、時計の針は進み、人々の喧騒は息を吹き返し、当たり前にカルデア一行は壇上のパーシヴァル含め大地主様を謀った下手人どもとして、近衛兵たちに取り囲まれた。
槍やら剣やら銃やらを向けられながらも、パーシヴァルは気にすることなく主人に報告する。

「コレは、ハズレだ!」
……!わかった!全員退却!!」

聖杯でないならば相手と一戦交える必要もない。マスターの指示は澱みなく、作戦は包囲を崩してこの場から脱出する方針に切り替わった。女傑と謳われる大地主様が鍛え上げた兵とはいえ、一騎当千のサーヴァントたち相手では荷が重い。
式場で大立ち回りをすることになってしまった現代の倫理観を持つマスターは「これほぼ結婚詐欺みたいなものだもんなー!わー!ごめんなさい!」と声を張り上げて謝りながら、的確に守りの薄い箇所から包囲網を突破してみせた。
会場を抜け出して、静かで見晴らしの良い廊下を大急ぎで後にする。屋敷の中を調査していた百貌と耀星のハサンも合流し、一行とは距離があったパーシヴァルも追いついた。

「あ!バーソロミューいない!」

昨日、中ば無理やり追加人員として自身をねじ込み召喚させ、「パーシヴァルと作戦会議をしてくる!」と気合充分にラジオ体操を第二までしっかりとやり終えてから解散した海賊の姿が見えない。
並走する頼もしい騎士に問う。

「パーシヴァル!昨日バーソロミューに会えてるよね?」
「はい!」
「どこか別のところで合流するとか聞いてる?」
「いえ、彼ならば先に退去しかえりました」

思わず目が眩むような笑顔でパーシヴァルは応えた。
これのどこに汚れがあろうかと言わんばかりの、いっぺんの曇りもなく、澱みもなく、シミひとつない晴れ渡る空の笑顔である。
そこそこ長い間を共にしているリツカが見たことのない笑顔だった。内側から輝いてるようにすら見える。



……そっか!!」



よって、彼らの主人はここで考えることをやめのだ。
馬に蹴られるからである。