望月 鏡翠
2026-06-08 01:47:12
902文字
Public 日課
 

#2115 植物園の骨9

#毎日最低800文字のSSを書く

 令状が降りるとしたら、一族ぐるみで行方不明事件に加担している可能性があるときとくらいだろう。もちろん、そんな可能性はない。
 高齢の家族はもう亡くなっていて、今の管理人は遠方にいた。
 捜査を円滑に進めるために、場に馴染む振る舞いをするのだと考えれば、よくあることだ。あえて関係者を怒らせてもいいことはない。
 今回に関していえば、屋敷の調査は所有者である管理人の合意は取れているわけで、法的にも問題はない。
「本人に持って来させりゃええじゃろ」
「何が手がかりになるのかは、直接見て判断したいんです。全て持ち出すというのも効率が悪いですし」
「まあ、そうじゃろうけどのう。おまえがええんなら、ええわ。わしはまだこっちが終わっとらん。そっちは頼めるか?」
「もちろん。任せてください」
 井伏は、温室で採取してきた枯れたサンプルから、異常が見られないか遺伝子レベルで分析し、見ただけではわからなかった植物の種類を特定する作業を手伝っている。
 並行して枯れた原因やあの場所に他の植物が根付かなかった理由が、病や農薬によるものではないか調べてくれている。
 猪狩と協力して品種の同定の方は順調に進んでいるが、何しろ数が多い。種類がわかっている草本の方もラズベリーやイチゴなど、実のなるものが多いそうだ。
 趣味の庭というよりは、家庭菜園の趣である。それにしても、統一感が欠片もなく食べられるものが片っ端から植えてあるように思われる。
 美しい作りの温室には似つかわしくないといえば似つかわしくなく、オカルトが関わる話にしては、妙に家庭的でもある。
 その辺りの意図が、依頼人の実家にある記録からわかればいいのだが。
「井伏さんにも必要なら作りますけどね」
 薄っぺらいコンサルタントの名刺を振って見せる。
「いらんわ」
 井伏が呆れた顔で手を振って、鑑識の実験室に戻って行った。
「結構いい出来だと思うんですけどね、このおしゃれぶって可読性を無視した文字配列とか逆に安っぽくて」
 比叡も出かける準備をするために着替えた。コンサルタントに見えるように、もう少し小綺麗な格好をしなければならなかった。