望月 鏡翠
2026-06-08 00:00:02
1286文字
Public 日課
 

#2114 植物園の骨8

#毎日最低800文字のSSを書く

 古民家リノベーションコンサルタント 比叡 明治
 出来上がった名刺の胡散臭さを診て、失笑が漏れる。
 詐欺師だと思われるのが関の山ではないだろうか。自分が公務員という外見ではないという自覚がある。コンサルタントという肩書きがとても怪しい。実家のご家族には比叡という人物が訪問する旨を連絡をしておいてくれるから大丈夫だという。
 彼らの親子関係が良好で、息子の発言を信頼してもらえることを期待するしかない。
「なんじゃ、そりゃあ」
 後ろから覗き込んだ井伏が怪訝な顔をした。
「名刺です。あとホームページも作っておきました。検索されると困るので」
 急拵えだから無料ドメインを使っていて、わかる人が見れば偽装であることはすぐにわかる。だが、インターネットに詳しくない人なら、そこまで注目しないはずだ。もし彼のご両親が相応に詳しければ、あの屋敷が幽霊屋敷として話題になっているということにも、すぐに辿りつけてしまう。
 この偽装工作自体が、初めから無意味だ。
「おまえ、今はあの温室の捜査に力入れるんじゃなかったんか」
 仕事中に何を遊んでいるのかという表情を見て、比叡は弁明の必要を感じた。
「あ、違くて。違うんです。資料を回収しに屋敷の所有者の実家に伺うんですけど、刑事だと知られたくないらしいんです」
 最初は民俗学者や郷土史の研究者と行った研究職はどうかと言われたのだが、すぐにバレてしまうと却下した。大抵の研究者は論文とともに所属する大学や名前が公開されているものだ。学会に出ていなくとも何かしらの書籍を出している。
 検索して何もひっかからかったらそれだけでおかしいし、適当な大学をでっち上げたところで、存在しないことはすぐにわかってしまう。勝手に実在の大学名を借りるのも問題があるだろう。
 色々を考えた上で、何をしているのか実態がわからない職業にしてしまうのが、一番ボロが出にくいだろうという結論に至った。
 その結果出てきたのが、古民家リノベーションコンサルタントだ。
 商業施設として売り出すにあたり、あの屋敷にまつわるエピソードを深掘りしたいとかなんとか言って、来歴を聞き出そうという魂胆だ。
「なんじゃそりゃ。人がおらんなっとるんじゃぞ。そんなこと言いよる場合か」
 いなくなった人よりも、自分の利益や見栄を優先する俗物に見えてしまったのかもしれない。いや、実際そうなのかもしれないが、人間などは所詮そんなものだ。
「気持ちはわかりますけど、令状が取れる案件でもないですし。こちらはご協力願うという立場なので、仕方がないですよ」
 オカルトの観点から見れば、異常事態が起こった屋敷の調査をする際に、現場で原因がわからなかったのであれば、その由来から明らかにしようとするのはよくあるアプローチだ。
 だが令状を取るなら、捜査の正当性を問われることになる。
 今回の行方不明事件と、屋敷の持ち主は本当に関係があるのか、どうして過去の持ち主を調査する必要があるのか。それよりも、いなくなった人の痕跡を、もっと調べるべきなのではないかと言われるだろう。