asahito
2026-06-07 20:54:49
4187文字
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XYZ⑤

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

玉造温泉、博物館が行きづらい場所にあって暑かった記憶。

 あの人の存在を知ったのは、幼い頃というには成長はしていたと言える時期。つまり、思春期直前あたりだっただろうか。
 珍しく家族で旅行をしようと忙しい父が言ってくれて。家族で車や飛行機を乗り継ぎ辿り着いたのは大きな蛇や龍が飾られている場所だった。かつて、悪さをして生贄を食べていた大蛇が。泥酔させられ勇敢な神に退治されたという話。勇敢な神は助けた女性を娶り。かの有名な剣がその中から見つけられた。
 それは昔話ではなく神話であると教えてもらい、その末裔も私の血縁であると父には教えられたが。
 何か有名な存在はいつも私の血縁であると言われるのは聞き飽きていたし。酒という飲み物は身を滅ぼすのだと感じたことの方が記憶にある。
 父から語られる話は面白かったけど。妹があの頃は乗り物酔いが酷く、交通機関があまりない地域だという事で車であちこちを巡ったが世話の方が気になって風景は覚えていない。のどかな風景が続く場所だったか。
 とある月に多くの神々がそこに集まり。この地域だけは呼び方が違うそんなことを語っていた。そして見せられた数々の神社や、発掘品に心奪われたことも。
 だけど発掘品を見て古に心を馳せるより。私はこれらが歴史的に価値があると呼ばれる前に、自分の目で道具として活用されていた風景を思い出せることが不可思議だった。
 おかしいな、なんでだろう。私はまだ十数年しか生きておらず。その展示品たちは遥か昔に役目を終え、今は歴史を伝えるだけなのに。
『叔母さんの作る変な人形がある』
 あちこちの展示品を眺めて、妹はとある展示品を指さした。妹にとっては少し退屈だったのと、乗り物酔いで機嫌が悪かったのだろう。
『変な人形なんて失礼でしょ』
 私は諫めた。あの頃は諫められた。確かに間抜けな顔をしているとは思ったけれど。これも古代の人間が何かを求めて作ったのだから展示されているのだ。
 父の年の離れた妹私たちにとっての小さな叔母さんはあの頃、幼かったけれど。
 その頃から芸術での才能が飛びぬけていて造るものは全てその分野で評価されていた。天才だと持て囃されていた。
 年下なのに叔母さんなんて呼ぶのは違和感はあったし。芸術には秀でていても変わった人だから。私は少し距離は置いていたけど、妹は得体の知れない叔母さんを恐れていた。何か失礼な事を言えば護衛の小さな従者が睨みつけて来るし。その従者は武芸に通じている家系の子だったから、妹などすぐにねじ伏せてしまうだろう。
『ここを出たらぜんざいでもアイスでも買ってあげるから我慢なさい』
 父は静かに言って、母と一緒に私達が展示を眺めるのを見ていた。見守ると言うよりも、試されているような気もした。
 妹は剣や銅鐸のような発掘品を面白がることはなく。その博物館の前にある門前町を見たいと思っていたみたいだけど、父はこの一帯も私たちの血縁に関係があるからと教育の為に私達に展示を見せたのだろう。
 血縁は、大事にせねばならないと。その繋がりが会社を大きくして強くしたのだと父は語っており。私もずっとそれを守るべきだと思っていつつも。
 最後は妹に押し付けてユイマンを選んだ。
 展示を見終え、今夜は少し離れた温泉に泊まると父は告げ。博物館の外に待機していた送迎車の前に私達を連れて行った。
 思えば、あの送迎の人はあの人の関係者だったのだろうか。
 車に乗ればまた妹が酔い出すかもしれないと、酔い止めを飲ませて傍で見ていた。父は助手席で送迎の人と何かを話していたけど、ほとんど覚えていない。遠い場所に来たのだと思いつつも、まだ地理関係が学校で学んだ内容と実際が結びつく前の出来事だから。
 その地名の場所に実際に自分がいると言うことが実感できなかった。
『もうすぐ着きますよ』
 送迎の人が私たちに話しかけて来て。車の外を見ると大きな勾玉が見えた。博物館や物語の本で見たことはあったけど、こんな大きなものだったか。
 その大きさに圧倒され自己主張の激しさに驚き。一体こんなものを作るのはどんな人なのだろうと首を傾げる。
……まがたま、だ』
 本で読んだばかりの知識を思わず零してしまい。でも、その言葉を聞いて送迎の人は嬉しそうに口元を緩めたのは覚えている。
 噂通りの聡明な子ですね、と父に話しかけ。聡明な子と愛らしい子が揃っていて羨ましいとお世辞を言った。
 愛らしさは自分にはないと分かっていたし。妹は、成績が悪い方ではなかったけれど姉ほどは賢くないと遠回しに言われた気がしたようで。
 明らかに不機嫌な表情をして俯いていた。
 そうして大きな旅館の前に車を停めると、一族の者を呼んできますとその迎えの人はどこかに行ってしまった。母は今夜はここに泊まるのだと言った。
 温泉という事は裸体を他の人に見られてしまうのかと気が重くなったが。父が、貸し切り風呂の部屋を予約してあると言ってくれた。だんだん自分の躰が他の人より醜く、背中の痣がおかしいと気づき始めた頃だったから。
 旅館の人が荷物を持って行ったが、私達はまだ入れなかったようで。そのうち別の人が私たちの所に迎えに来た。複数人だったが、一番偉い人は年配の人だとすぐにわかり私と妹は姿勢を正しくしその相手を見た。
 血縁の者には一段と礼儀正しくしなさいと言われていたからだ。
『わざわざ遠くからご足労感謝いたします』
 その年配の人は頭を下げ。私たちも礼をしたけれど。それよりも気になったのは、その年配の人の後ろにいた子供であった。同い年か、よくわからなかったが。
 自信満々に後ろで手を組み額を出していたのは印象深かった。この子もこの一族の誰かの子供かな、我儘な子じゃないといいけど。
 父と年配の人が色々挨拶を交わしているのを見ているうちに、その子はつかつかと私と妹の方にやって来て。
『阿梨夜くん!あなたが阿梨夜くんですね!?その隣は……
 私と妹の名前を呼びずっと会いたいと思っていましたと、早口でまくしたてる剣幕に私も妹も気圧され。その人の首にはたくさんの勾玉が掛かっていて。
 色彩豊かな勾玉の中に翡翠の色があり。この中でプレゼントするならユイマンは何色が気に入るだろうと思って。思って





 電車のアナウンスが降りるべき駅名を告げたので、そこで思い出の情報を呼び寄せるのをやめた。
……
 あの人に会える保証もないのにまたこの街に降り立ち。僅かな祈りを込めてあの店主がいる場所を目指す。
 ちゃんと待ち合わせの時間を決めてとどめておけばいいだけの話なのに。ちっとも掴まりやしない人だからこういった非効率的な方法に頼るしかない。
 私が会いたいと思っていても会えないのに。向こうが会いたいと思う時はいきなり現れて、好き勝手して帰っていく。神出鬼没というのはきっとあの人のためにある言葉だ。
 不可視で読めない行動。振り回される身にもなって欲しい。あの人と懇意にしている人間というのは、よほどの人格者か同じくらいの変わり者だろう。
 人混みを縫うように歩き店を目指す。この街に降り立つ時は気を遣うから少し疲れるが、落ち着いた街の住宅街では儲からないのだろう。
 欲や不満がある人間の方が酒を欲しがる。その酒を提供するなら欲しがる奴らが多い方がいい。
 ガラの悪い連中が多く、危険なことや嫌なことも多いと思うのに。どうしてあの店主はあの場所で店を続けられるのか。
 改札を出るまで。ひたすら案内板を見て歩き続ける。迷わないように。目つきが鋭いから、睨みつけたと因縁を付けられやすい目は。
 眼鏡のおかげで少しは柔らかく見えるだろうか。
 事前にパソコンのメールでいいから、連絡しておけばまだあの人に会える可能性は高まるだろうか。
 迂闊だった。会わなければならないと言う気持ちが早まって、来てしまった。
 あの石は価値もなく、私の好きにして良いと言われたため。鞄に少しだけ忍ばせた。
 血のように紅い石、胡散臭い青の丸石、何故か嫌悪感を催す三日月の石。こんな変な石が価値のないものだなんて。
 騙すためのイミテーションを誂える。石の加工なんてお手の物の職人集団なら、可能なのか。
 偽物の宝石を売り、逮捕された悪人だって沢山いる。でもあの人は石をそんなものの為に使うことはないはずだ。
 幼い頃出会った記憶を辿れば。あの人はあちこちの石について夢中になって話してくれた。
 まだ、石の加工はやらせてもらえないけど。柔らかい石なら鑢で磨いて勾玉にできると。
 今は私の方が背が高いけれど、あの頃はまだ同じくらいで。あの人は地元の学校に通いながら職人の見習いのようなこともしていて。
 傷だらけの指は努力の証だろう。それを見て、道を極めることの難しさに驚き。
……あ」
 そこで、何かの見落としに気づく。幼い故の記憶の曖昧さに、違和感を覚える。
 あの人は。あの時私と同じように子供だった筈なのに。何故かその時の姿が今の姿になってしまう。
 おかしいな、確かに言葉を交わしたし。写真も撮りましょうと言ってた筈なのに。
 その時の写真のデータはどこに残っている?
 一度疑い始めたから、出会った記憶すら疑うのか。そこまでは偽ることはできないだろう。
 父はあの職人集団を信用していたから、私と妹を連れてきたのだ。玉造という職人集団がいることはこの国の歴史でも語っているじゃないか。
 道すがら記憶が何処かおかしいと気づくも。私が学芸員になってからも、久しぶりですねと珍しい石を持ってきてくれた。
 どこで聞きつけたかは分からないけど。玉造の方々に父が話したのかもしれないとだけ、思っていた。その後はユイマンを守ることに必死で。
 あの人と会うことは全くなくなり、あの人も来なくなった。だけど、また現れて変な石を託して行った。
 違和感を引き摺りながら道を行く。いつも聞きたいことは沢山あるのに、はぐらかされて意味のわからない言葉ばかり並べられる。
……
 真実はどこにある。私の仕事場にすらないのだから、こんな場所にあるはずがない。
 あるはずがないのに。このドアの先に答えはある。薄く灯りの灯った古風な佇まいのバーの中に。


続く